栄光を踏めるのはただ一人
※サブタイ修正、毎度毎度替え歌でも歌詞を使ったらアウトだと何故忘れるのか
詳細は伏せるけど作者は某所で今話でのサンラクと同じ状態になったことがあります
「流石にトイレまで優待チケット、とはいかないか……」
個室も含めれば百は軽く超えるトイレの全てに平均十人程度の列ができているのは人間がどれだけ科学を洗練させても排泄行為からは逃げられないという物質的生命のカルマを暗示しているようだった。
さて、それはそれとしてトイレはあくまでも寄り道。トイレに首を突っ込んでピクリとも動かない長蛇の列に消えた玲さんを待つとしよう。
二十分後。
「本当に、本当に、もう、あの、お待たせしてすいませんでした……っ!!」
「いや、あー……うん。玲さんが並んだ時の二倍くらいに伸びてるから仕方ないってのは分かるよ……」
苦行に勤しむ修行僧か何か、という雰囲気を漂わせる女性方々からそっと目を逸らしつつ俺は玲さんへと返す。ちょうど昼飯を食べ終わって催してくる頃合いなのだろう、イベント会場ではどれだけ僅かな尿意でもトイレには最優先で行けという言葉の意味が理解できた。
「それで、あの、何処に?」
「ああ、ここだよ」
「スーパーノヴァ……あ、入場する前に、楽郎君が言っていた」
「そうそう、ギャラクシートラベラーってゲームを作ってるところ」
あんなゲームの土台から整形しまくったアプデを見せられては気になってしまうものだ。玲さんを俺の都合で引っ張り回すようで申し訳ないが、見た限りでは玲さんも興味があるようなのでここは経験者である俺が案内していこう。
「ギャラクシートラベラー、プレイヤーは宇宙船の船長になってゴールのない宇宙を旅するゲームなんだよね。アプデ後はやってないから分からないけど、昔は……まぁ、控えめに言って起伏のない感じというか加点方式より減点方式の方が評価が簡単なゲームだった、かな」
「ど、どのようなゲームなんでしょう……?」
「んー、アプデ前の段階ではシミュレーションゲーム寄りだったかな。宇宙人とコミュニケーションを試みたり、未開の惑星をテラフォーミングして資源を得たり……ただ大半は宇宙を彷徨いながらNPCのクルーの好感度調整」
「それは……ええと、好きな人は好きそう、ですね?」
「まさしくそれなんだよ」
「え?」
おそらく俺の推測はそう外れていないだろう、スーパーノヴァ社があの減点方式で赤点を狙えるギャラトラに力を入れているのは他でもない、熱心なスキモノがいたからだ。
「ギャラトラは最近じゃ珍しい課金要素のあるゲームなんだよね、課金タイミングがスタート地点だけだからアレだけど」
昨今サービスが行われているゲームの大半はソフト自体のお値段とユートピア社がVRシステムをオンラインに繋ぐ際の通信料からプレイ時間に応じた割合でメーカー側に金が行くようになっている。寝ても覚めてもゲームをしているプロゲーマーなんかは所謂「通信マウント」も込みで一月に一万は支払うのがデフォ、とカッツォに聞いたことがある。
一昔前のソシャゲで色々あったがためにゲーム内課金が厳しくなった、と武田氏がしんみり語っていたがゲーム内課金そのものが消えたわけではない。
そして、デスペナの関係から課金する意味合いの薄いギャラトラであっても課金そのものが消えることはない。メーカーの儲けになるから? それもあるだろうが最たる理由は「課金システムが今もバリバリ現役で利用されているから」だ。
「ギャラトラのユーザー層はだいたい三種類だ。無課金ユーザー、焼け石に水レベルの微課金ユーザー、そして最低十万はぶっ込んで強くてニューゲームする超重課金ユーザーさ」
そう、それこそがギャラトラ最大の謎。このゲームには力と時間を金で買う……資本主義における強者が異様に多いのだ。
スタート地点である地球から大艦隊が出航しているのがゲーム的背景ではなく百万くらい投入して艦隊を揃えた重課金プレイヤーだった、なんてザラだ。
「このゲームでは艦長が死ぬか、船が撃沈するかでゲームオーバーになる。その場合、デスペナルティとしてそれまでに培ってきた全てがロストする。課金要素も問答無用で白紙に戻る」
「そ、それは………」
「つまり死んだら一億課金してても全部消えるんだよね、だから無理して課金する要素は無いはずなんだけど……」
課金は無くならないんだなぁ……って。
アプデ前から「艦隊宙海戦」を個人間で出来る、と噂されていた連中が果たしてアプデ後はどうなったのやら……それを確かめるためにもブースに行きたいというわけだ。
心なしか優待チケット持ちが多い気がするスーパーノヴァ社のブースに到着、ふと入り口に何やらマシンが置かれていることに気づく。
「シャンフロの所と同じやつか……」
ログイン端末だ、何か特典があるのだろうか……ッハ!?
「どうし、ましたか?」
「…………いや、成る程ね」
「……?」
疑問符を浮かべる玲さんを他所に、俺はログイン端末の一つへと近づく。それに気づいたのか、他の端末の前で動かない者達がじろりとこちらに視線を向けた。
「あの……」
「玲さん、あそこを見てみなよ」
「ええと……何か、カウンターが回ってます、ね?」
そう、そして恐らくアレはこのブースに来て端末でログインした人数だ。今は……49912から猛スピードでカウンターが回っている、そう遠くないうちに50000人に届くだろう。
「これが古典的競技、キリ番ゲッターか……」
武田氏の交友関係は嘘がなければ石油王からご隠居まで多岐に渡る。その中でもあの武田氏をして聞いたことしかないという、キリの良い番号を己のものとするためにコンマ以下の世界での駆け引きを行う21世紀初頭の電脳競技「キリバンゲット」……成る程、この緊張感は悪くない。
「キリ、ばん?」
「ここにいる人達は自分が五万人目になるのを狙ってるんだよ、多分キリ番は何か報酬があるんだと思う」
でなきゃ敏腕若社長といった様子のお兄さんから盆栽育ててそうなおじいちゃんまで飢えた獣のような目をしている筈がない。すげぇなギャラトラ、プレイする年齢層が幅広すぎる。
「一般の方のマシンは大体二分で次の人に代わる、全部で三十台あって優待チケット側は十五台……」
49950を超えた、次のサイクルで勝負が決まる。
「きゅ、49970を超えました……!」
「───ここだ!」
優待チケット側の端末にスタンバイするギャラトラユーザー達が一斉にログインパスワードを入れ始めた! ああっ! 隣のおじさんが多分パスワードを押し間違えて膝から崩れ落ちた!!
「若者のタイピング速度をナメるな……っ!!」
この端末、規格がシャンフロの所にあった奴と同じだから気づくことが出来た。この端末は十秒以上同じ画面のままだとトップ画面に戻される、だからタイミングを先読みした上でトップ画面に戻されるギリギリの瞬間に………ログイン!!!
「結果は!!」
『貴方は49999人目の入場者です!』
「だぁーーーーーーーーっ!!!」
膝から崩れ落ちた。
・ギャラクシートラベラー
その真の姿はブルジョワジー達による札束での殴り合いである。
人を顎で使う事に慣れきった財閥の会長(武田氏の知り合い)や、歴史の資料に先祖の名前が載ってるような一族のご隠居(武田氏の知り合い)達が駄菓子感覚で100kとか叩き込んで巨大戦艦を建造、大船団で宇宙を開拓している。
何処かの社長がどハマりしたのを話の種として武田氏が色んな人に話した結果、何故かゲームとは無縁そうな方々がどハマりの連鎖をしていった。