ツバメの理想から見る懐かしき旧友
この小説を読んでいる聡明な決闘者諸君は当然ストラク選挙でシャドールに投票しましたよね?? しようね???
津羽目 風矢は己が至極真っ当な人間性をしていると確信している。
少なくとも現実で誰かに発砲したいと衝動的に考える事はあるがそれ以上の理性でモラルもルールも遵守しているし、鯖癌が繋いだ奇妙な縁によって父から受け継いだ会社は過去最高の盛り上がりを見せている。ついこの間も父に孝行として世界一周旅行をプレゼントしたところだ、お陰でスクラップ・ガンマンの開発は随分と快適に進んだ。
「盛り上がりはどう?」
「あ、社長! 見てくださいよ、大盛況です!」
「いいねぇ、来年の社員旅行はどこにしようか」
「気が早いですよ〜……私個人としてはマカオですかね」
「……君、この前のベガスでいくらスってたっけ?」
「百万円です」
部下のあまりに瞬間的過ぎるギャンブル癖に不安感を覚える、ほら真っ当な人間性。
……少なくとも本当に真っ当な人間は自分の正常性を一々確認しない、ということについては風矢は考えない。
スクラップ・ガンマンは風矢の中で消えることなく燻り続ける望郷と懐古の感情を全て注ぎ込んだ渾身の一作だ。サバイバル・ガンマンに登場した全ての銃器を網羅し、ユートピア社の「支援者」による全面的バックアップを受けたことで、風矢自身が記憶する発砲、リロード、取り回しのあらゆる感触を忠実に再現した新型のARコントローラーも含めて既に予約注文の電話が殺到している。
あるいはハイ・テクノロジーの最前線を常に走り続け、滅多に他企業と関わらないユートピア社との取引を行なっているスワローズネスト社そのものへの投資かもしれないが……二代目とて経営者、商機を嗅ぎつける嗅覚は父から受け継いでいる。
「さて、クリアは出てくれるかな?」
何組か優待チケットで先行入場した入場者の中でスクラップ・ガンマンに挑んだ者はいたが、今の所クリアした者は一人もいない。
それは単純に難易度が高めに設定されているというのもあるが、何より……
「今は……うん、高校生のカップルかな?」
「凄いですよ、彼らもうシステムに慣れてます。まだ一機も落としてないですからね」
「へぇ」
今回のデモプレイでは難易度を上げつつ、プレイヤー自身は残機制を採用している。故に風矢が理想とする難易度を堪能してもらいつつも、すぐに終わらないようにという配慮なのだが……成る程、確かに今プレイしている二人は多少のダメージこそあるが残機が減っている様子はない。
今回の難易度は製品版におけるハードに設定されている。つまり風矢が割と手心を加えた程度、という事だ。少なくともギリシャ文字サーバーを経験した者でなければクリア不可能なレベルで「本気」で設定した難易度サバイバーとは異なり、難易度ハードは社内でも運動神経の良い者でなおかつスクラップ・ガンマンに慣れている社員ならクリアできる難易度だ。
だが、現在プレイしている二人は随分と対照的だった。
「女の子の方は何かスポーツをしているのかな? 動きがスムーズだ」
「分かるんですか?」
「サッカーに陸上、珍しいところじゃムエタイの経験があるテスターとして見てきたじゃないか」
「……社長が大声で褒めるもんだから私のあだ名暫く「ムエタイ」になったの今でも許してませんからね」
「ラスベガスの件で今のあだ名は「一点張り」じゃないか」
役割分担をしているのか、雑魚スクラッドを迎撃している少女は全体的に動きに途切れがない。恐らく武術かなにかをやっているのだろう、動作の一つ一つを一本の線で結ぶ、という動作は日常生活ではあまり身につかないからだ。それに仮にVRか何かでセンスを培っていたとしても、リアルもそれに応えられるコンディションを何の経験もなく保持しているとは考えづらい。
「じゃああっちの彼氏さんの方は?」
「あれは………」
分からないわけではない、あれは彼女なのだろう少女とは真逆のタイプだ。即ち数多のゲームをクリアしてきた事にによって蓄積された「多分ここにこのタイミングで敵を配置するだろう」という経験則で点と点とを繋げている。
少なくとも、この法治国家日本において一般人が銃器に精通することは困難だ。だがVRゲームの中であればその制限は大幅に取り払われる。恐らくあの青年はゾンビパニックやFPSに相当詳しいのだろう。リロードや強化のタイミングの取り方が非常に上手い。
「どうかしたんですか?」
「いや、ちょっと気になって………」
だが、それだけではない。
サバイバル・ガンマン……あの孤島での摂理を可能な限り忠実に再現したスクラップ・ガンマンは、意図的に銃器のリコイルや弾道にクセが仕込まれている。簡単に言うと真っ直ぐ飛んでいるように見えるがミリ単位でランダムで狙いにズレが仕込まれている。それにARというゲームの性質もあるが、銃の射程も短いしマスケットを実装できなかった腹いせにアサルトライフルの強化は上昇幅が若干少なくなっている。
風矢完全監修であるスクラップ・ガンマンは………厳密には、今回のデモプレイで遊ぶことができる一面の最適解はリロードと強化のタイミングを完全にミスしない前提で初期状態のピストルと特殊弾丸「スラッグ」で突破する、だ。
だが、それだけで済まさないのが鯖癌クオリティ。今回のデモプレイではプレイヤーの心理を突いたちょっとした「引っ掛け」が存在する。果たしてそれまで保つか否か………と、
「っ!」
「わ、凄いですね彼、もう気づきましたよ」
そうだが、そうではない。
このゲームは銃というコントローラーと吸い寄せアクションで忘れがちだが、当然拳や蹴りなどによる物理的にアクションもまた攻撃足りうる。これに気付くか気付かないかで難易度は大きく変わってくる………のだが、風矢を驚嘆せしめたのはそちらではない。
スクラップ・ガンマンはかつてアトバードと名乗った男が、狭いようで広い日本に向けて放ったメッセージである。
もうあの孤島で会うことはできないが、それでもあそこが終点ではないのだと。孤島の風は確かに今も続いているのだと──────
と、調子の良いことを言っているが要約すると鯖癌経験者発見器である。
別にあの孤島で殺し合った連中のリアルをつまびらかにしたいとかそういう訳ではなく、単純に「あ、こいつやってたな」とプレイ動画を見てニヤニヤしたい、という極めて私的な動機がスクラップ・ガンマン製作の根本を支えている。
「マジか、こんな爆釣あり得る?」
「社長?」
「ハハハ、見なよ多摩さん。あんな綱渡りの接射出来る奴がそうそういるもんか」
知っている、かつての津羽目風矢も今の津羽目風矢も知っている。
先程までのお行儀の良いプレイングは何処へやら、今やARで再現された装甲車の荷台に取り付いたスクラッドを踏みつけ、殴り飛ばし、銃口を装甲の隙間に捩じ込んで発砲……ARとて一種のリアリティだ、造形に手抜きのないスクラッドに対して一切の躊躇いなく戦う様が風矢の記憶を揺さぶっていく。
人が相手だろうと巨獣が相手だろうと、躊躇いなく懐に飛び込む小さな姿。あらゆる銃器カテゴリを制覇したγサーバーのアトバードをして「あんなのがいるんじゃμサーバーもこうなるわ」と思わずにはいられない、人の意識の間隙に即死の楔を撃ち込む静かな暗殺者、μの島をホラーゲーの渦に叩き込んだ幼女。
「え、もしかしてお知り合い?」
「どうだろうなぁ、リアルじゃ初対面だし」
「……場合によっちゃ事案ですよそれ、ボーナス出すまで問題起こさないでくださいよ」
特設スペースの中、ゴーグルで塞がれていない口元に浮かぶ笑みが風矢の記憶に今尚焼き付いた血みどろの幼子のそれと完全に一致した。
ちなみに鯖癌経験者で犯罪者はあまりいない、殺し殺されが常態化し過ぎてリアルでやってもなぁ……みたいなドス黒い悟りを開いているため
そして鯖癌というイかれた経験を基に今の仕事へ活かしているという人も多い。
やたらリアリティなバトロワ物を書く漫画家とか、刃物を持った暴漢鎮圧の手際が良過ぎる警官とか、違法ドーピングしたボクサーをボッッコボコにした自称格闘家とか