目を開けたまま夢を見る
サイバネット・マイニング高過ぎ晋作かよ
「私、気になるゲームが、あるんです」
玲さんがいきなりそんな事を言い出したのは、シャンフロブースを一通り見終わった後の事だった。
「気になるゲーム?」
「はい……とても、気になって、います」
ゲーム廃人とてゲーマーであることに変わりはない。特定のゲームだけを、他のゲームに一切目もくれることなくプレイする人は少数派だろう。だから玲さんに気になるゲームがある、ということに関しては別になんの疑問も違和感もない。
だが、まるで戦場にでも赴くかのような様子は尋常ならざるものだ。一体、どれほどのゲームだと言うのか。俺としては幕末を作ったメーカーという事実だけで「新感覚協力プレイ!」の文字がオブラートより薄く見えるスパルタンメタルの先行デモプレイが気になるが………まぁ何よりも優先するものでもないし。
「そろそろ一般チケットの人達が入ってくるだろうし、急いで行こうか」
「え、あ、はい! この、ARゲームの……」
『『ポラリスターイム!』』
「「!?」」
ポケットから声がしたので何事かと優待チケットを取り出してみれば、なかなかのゲテモノ好き系イメージキャラクターが……って、んん?
「なんか……パーツ増えてね?」
「私のも、ですね……」
二人とも同じ場所に行ったために同じ現象が起きているらしく、二つの優待チケットからバリバリ肉食のイメージキャラクターの声がハモる。
『『ヴィジットボーナスが追加されたよ! いっぱい貯めると最後にいいことがあるかも!!』』
「ヴィジットボーナス……………あっ、スタンプラリーか!」
「……すたんぷ?」
「……え? スタンプラリー……知らない?」
「え、あ、えぅ、知らないと、ダメなものですか……?」
「あ、いや、そういうわけではない! うん、割とマイナーな文化なのかな……と」
そんな事ないよな? 玲さんがちょっとそういうのとは無縁な生活をしてただけだよな? おっ、ブルジョワジーか? 同志コミー君、将来を見据えて握手しとく?
「えーと、スタンプラリーってのは、複数のスポットを巡るイベントとかだと見かけるやつで、専用の用紙とかに判子を押して……」
「成る程………」
六年前くらいに死んでしまった従兄弟のお爺ちゃんだったかが電車マニアでそういうのを集めまくってたんだよなー、一番凄かったのはシベリア大陸横断鉄道スタンプラリー。スタンプっていうか底がスタンプとして使えるショットグラスが壁一面にずらーっと……駅に止まる度にウォッカを一気して貰うらしい。ちなみに今も元気な従兄弟のお婆ちゃんが全部片付けたそうな。
「───つまり、どこかしらのブースでお金を落とせばそこのスタンプが貰えるってことかなこれ」
ただ寄るだけじゃダメ、ってことだな。そうなると……
「玲さん、あと十五分で一般入場者が来るから……玲さんが気になるってゲームはどこにあるの?」
「あぇ、はいっ、ここですっ」
「……トイレだね」
「はぁうぁっ!?」
俺が知らないだけでトイレに何かあるのか? メガフロート・サイトはその広さ故にトイレの数もやたら多い。つまり各所にトイレが配置されている、ここから何か法則性を読み解く事で隠されたスタンプが出現する……?
「違いまっ、ちょ、ちょっと狙いがですね!?」
単純に押しミスだったとさ、チャンチャン。
「こ、ここっ、です!」
「スワローズネスト……ああ、ARゲーム。玲さんそっちもやってるの?」
「え!? えーと、えー……………知的好奇心と言いますか」
「お、おう」
斎賀邸ならガチで個人用のARシステム仕込めそうだし、気になるのもそういう背景が前提にあるからこそなのかもしれない。うーむ、頭の中が赤くなってきそう。
「じゃあ、ここに行くまでにいくつか寄り道して行くってのはどうかな? 何か気になったゲームとかあったらスタンプを貯められるかもしれないし」
「い、いいと思いますっ」
少なくとも確実に地獄絵図となるシャンフロブースを先に潰したのはファインプレーだったかもしれないな……だって、ブース内のスタッフの人達の顔がドンドン悲壮なものになってるんだもの。
モンスターパニックで足止めで残る人達みたいな顔してるじゃん、敬礼でもしておくか?
「とりあえず近場のブースから………」
……
…………
………………
十五分経過。
………………
…………
……
何か、やばい。
「地震……じゃ、ないですよね、これ……!」
「地震は嬉しそうな声は出さないかなぁ……」
何か、やばい。メガフロートが揺れている……この感じ、覚えがあるぞぉ?
アレだよね、水晶群蠍ん家に遊びに行った時とか大体こんな感じで……
「は、走れ玲さん! バスに乗り込むんだッ!!」
「ひ、人の群れが……!!」
一般入場者入場かよ!!?
マジで冗談抜きにメガフロートを揺らしながら迫る一般入場者達の大軍勢にどこか優越感のような余裕を漂わせていた優待入場者達の顔が引き攣り、各ブースのスタッフ達の悲壮な顔に決意が宿る。
「運転手さん! せめてスワローズネストのとこまで走れませんかね!?」
『出発します』
ヒュウ! 完全にまぐれだろうけど愛してるぜオートパイロット!!
さながら大蛇が頭から突っ込むかの様子でシャンフロブースに大群衆が突っ込んだのを尻目に、俺と玲さんは次のブースへと向かう。
優待チケット持ちの先行入場の時とは比べ物にならない量の人の波が途切れる事なく入口から溢れ、四方八方へと広がっていくのがメガフロート・サイト内の移動用バスの中でもはっきり分かる。
何が恐ろしいって当然スワローズネストブースへ最初に行こうとする人もいるわけで、そういう人達の視線というか「圧」みたいなものがバスに、ひいてはその中にいる俺達にも向けられている気がしてならない。
「ちまちま回ってて良かったかも、これはスタンプラリーとかそれどころじゃないぞ……」
「そ、そうですね……」
徒歩とバスとを比べればバスの方が当然速いわけで、数十メートル後ろへ一般入場者達を置いて俺達はスワローズネスト社のブースへとたどり着く。
ここらへんはシャンフロブースがあった場所とは違って主にAR関係のゲームブースが置かれているエリアだ。だから全体的に一つ一つのブースに割り振られたスペースが大きい。
目立つところだとARホログラムを使ったカードゲームメーカーのブースに、プレイヤー本人が駒になるすごろくメーカーのブース……そして、ARシステムにおいて最近その名前を見ることが多くなってきたスワローズネスト社のブース。
「おぉー、本格的だ」
あれ、ホログラムを自前で展開できるオブジェクトブロックだよな? あれだけでクソ高いやつ。それがいくつもある………総額いくらするんだろ。
「ようこそスワローズネストブースへ! 我が社が自信を持ってリリースするスクラップ・ガンマンの先行プレイは如何ですか?」
「玲さんが気になってたのってこれ?」
「は、はいっ! その、これ、二人プレイ、なんですけれども………」
へぇ、要するにゾンビシューティングって感じかな?
「構わないよ、ハイスコア目指しちゃう?」
「ハイッ!」
今のダジャレ? それとも俺の脳みそがアホなだけ?
AR界隈は主にトレーディングカードゲームやリアル系スポーツゲームが注目している
特にトレカ系はVRだと紙の方が売れなくなるので割と死活問題だったのだが、スワローズネスト社が最近やけに技術力を上げてるお陰でARソフトを作れるようになったりしてる
やったぜスワローズネスト! 今年の社員旅行はラスベガスだ!!