スタンバイメイン、何かありますか?
ヒロインちゃん「ちょっと考えます」
岩巻(無言のシャカパチ)
シャカパチはカードを痛めるからやめようね!!
◇
玲にとって、二十四時間をこうも長く短く感じた事は人生でも初めての事だった。あるいは人生の中で更新された瞬間だった。
「ふ、服は……髪は………あああ、け、化粧道具は……」
『落ち着きなさい玲ちゃん、貴女の体感時間がどれだけ加速遅延したところで地球の一分は六十秒のままなのよ』
「じ、実は六秒で一分になってるかも……」
『ならない。いいから、落ち着いて、息を、吸いなさい』
「で、でもあと一日しかなくて……」
いくら準備を整えたとて、ふと見直せば何もかもが足りないように思える。この手の話題では母や姉は爪の端ほども役に立たないため、電話をかけた岩巻にすら諌められる程に浮き足立っている事は玲自身も自覚していた。
たった一日、されど一日。寝て起きたらデート(確信)である、どれだけ深呼吸をしても早鐘を打つ心臓は大人しくなりそうにもなかった。
『いいこと? 事態は私にすら予想外の展開だけれど、繰り上げと考えればリカバリは可能よ。まず髪は切らなくていいしメイクも普段より丁寧にやる程度でいいわ』
「……もっと質を高めるべきでは」
『あのね玲ちゃん、年の差にせよ身分の差にせよデートというものはある程度両者が釣り合っていないと一気に崩壊するの。仮に楽郎君が上から下まで完全新調したって三万行けばいいトコ、あのゲーム脳がわざわざ靴や髪まで整えるとは思えないから一万くらいかしら? はい玲ちゃん通販に頼もうとしてる物品の総額は?』
「……十二万です」
『じゅっ…………!?』
しばし携帯端末から岩巻の声が途絶える。
「真奈さん?」
『……キャンセルなさい、舞踏会に行くわけじゃないんだから』
「で、でも……」
『玲ちゃん貴女だって人並みにオシャレくらいするでしょう? 無理に全身を新品にしたって人混みの中で汚れてしまうだけなのよ、ちょっと映像通話に切り替えるから手持ちの服を見せてくれるかしら?』
「は、はい………」
がらりと襖が開いた。
「玲、今しがた調べたのですが最近のホテルはちゃんと避にん」
がらりと無言で閉じた。
『……? 今何か言った?』
「気にしないでください、座敷童です」
『座敷童!?』
「玲、私からも母とお祖父様に言っておきますから一泊くらいしてもよいのですよ」
『……随分と下世話な座敷童ね』
「悪くはないけど色味の薄い青春を送ったから妹二人には刺激的な青春を送って欲しいとかで……」
『……真っ赤に刺激的すぎてもロクなもんじゃないわよ』
岩巻は自身の過去を話さない、だが時折見せる表情や声は何かに失望しているようで。さりとてそれを問い詰めるような事はしない、そんな事をしなくとも玲が岩巻に寄せる信頼は大きく揺るぎないからだ。
『取り敢えず買うなら上着か鞄ね、優待チケットにしてもJGEだから動きやすさ重点にした方がいいわね』
「……そんなに混雑するんですか?」
『去年は地獄だった、と聞いているわ』
なにせシャンフロという彗星の如く現れてそのまま地表に激突した超ビッグタイトルである、ユートピア社のブースはそれこそ逆グラウンド・ゼロ、他ブースのモニターすら中継に切り替わる程の混雑であった。
今年は会場を変え、AR事業において頭角を現しているスワローズネストの全面協力によって会場全体にARシステムが配備されているが根本的な混雑まで解決するには至らないだろう。
『言っとくけど、貴女達にあげた優待チケットはそんな混雑を大幅に緩和する魔法のチケットなんだからね?』
「具体的に、どう楽になるんですか?」
『列に並ばなくていい、物販は優待者用に取り置きされてる、座席も良いところが先に選べる』
「それは凄い……」
『そんなことはどうでもいいの、いい玲ちゃんよーく聞きなさい? 既にフェーズは二段階ほど先に到達してる、だから自動的にノルマも変わっているのよ』
「ノ、ノルマ………」
『スワローズネストがARスタジオ向けのコンテンツで新しくゲームを出すのは知ってる?』
「いえ………」
『スクラップ・ガンマンってゲームね、これの体験会を楽郎君と一緒にプレイすること』
「……? それだけ、ですか?」
『ええ、それだけよ。ただし二人協力プレイでね』
「…………」
何か、とても嫌な予感がした。あの岩巻がわざわざマルチプレイを指定していることに猛烈な違和感を感じた玲は通話を続けつつも「スクラップ・ガンマン」について検索し………
「キョウリョク、プレイデスカ」
『ええ………協力プレイよ?』
スワローズネストが自信を持ってお送りする最新コンテンツ「スクラップ・ガンマン」……相棒との密接な連携が鍵となるARガンシューティングと紹介されているサイトには、声を掛け合い、時に並び、時に背を預けるといったそれはもう密接な画像が添付されていた。
「…………っ」
『玲ちゃん?』
「ご無体な……っ」
『そんな身内を斬れとか命じてるわけじゃないんだから………』
◆一方その頃
「フハハハハハハハ!! 馬鹿が、この地で信頼なんてものはなぁ! 障子の糊よか薄っぺらで脆いんだよ天誅ァ!!」
「あり得ない、何故僕を斬る、味方……だぞ……!!」
「完璧に辞世ってる時点で平和主義系主人公の皮を被ったガチガチの幕末志士じゃねえか! 三枚おろしで無縁仏に沈めぇ!!」
「せめて刀は質屋にぃぃぃぃ!!!」
◇
「ご無体な……そんな、ご無体な………」
『砂より脆い奥手メンタルも年季が積もれば岩より硬くなるのねぇ………』
「荷が重すぎます……」
『ええいその程度でうじうじしない! 珍しく真人間ぶっただけで楽郎君なんて普段は脳みそにクソゲーのカセットが突き刺さってるアホなんだから向こうはそんな大層に思いつめないわよ!!』
あんまりな言い草だが、万感の想いが込められた言葉に玲は通話越しでありながら気圧され、顔がひきつる。
『いい、ゲーム脳人間がどこまで真人間かを推し量る斥候の時期は終わったのよ玲ちゃん。ここからは本陣を動かすターン……立てたフラグを折るなんて天地神明、上は神仏下は地獄の十王が許してもこの私が許さない! 貴女も理屈で見ている時間は終わり、恋を手に取るのよ! 恋は剣! 恋は礫! 恋は銃!!』
何やら雲行きが怪しくなってきた。
「あの、岩巻さん?」
『何やこのボトル! 不良品!? なくなるの早すぎでしょ!!』
「え、あの、もしかして飲みながら……?!」
『恋なんてものはねぇ! 三年も四年も寝かすようなもんじゃないのよ! 何が十年ものよ! 胃袋に入れたら半日で終わりじゃないのよーっ!!』
「岩巻さん! ワインじゃなくてお水飲みましょう! ね!? ああ、コルク抜きから手を離して!!」
『恋は火よりも速く全身を巡るのよーっ!』
「巡ってるのはアルコールです!!」
幕末は命で取引する資本主義なのでみんな仲良くみたいなコミーは成り立たないんだよなぁ……
作者の私事ですが蠍+エナジードリンクとかいう宿命を感じずにはいられないエナドリを見かけたので飲んでみました
もう少し甘さ控えめで炭酸強くしてカフェインのエグ味を増やすべきでは???(純真無垢な眼差し)(また買う)(舌が赤牛に飼い慣らされてる)