恋心ジョルトカウンター
ザシアンに「シフ」って名付けようとしたそこのあなた、いい趣味してますね
作者は「ドギラゴン」か「ドギバス」ですね、需要的にシールド買った方がいいんですかねぇ
◇
ガシャン、とカウンターの奥に置かれたアーロンチェアに踏ん反り返るように腰を下ろした岩巻が肘掛に立てた腕で傾けた頭を支える。
「……で?」
「ち、違うんです……その、シチュエーションとして、ここをですね?」
「ほぉーん?」
半目で睨む岩巻から逃げるように後退しつつも、玲がチケットを渡す場としてここを選んだのは事実である。
ただ渡すだけでは玲の精神が保たない、あくまでも「ゲームに関して」という名文を掲げて自然な流れでチケットを……
「岩巻さんJGEにダックゲームスがブース出すってマジ?」
「じぇいじぇ!?」
「はい!!?」
びくぅ!!!! と震えながら突然の奇声を上げた玲に何事かと視線を向ける楽郎であったが、ああいつもの発作かと軽く流して岩巻へと視線を向ける。
「ダックゲームスって結構な老舗じゃん? この前も派手にやらかしたみたいだし……これ正気?」
「ティタハーは酷かったねぇ……なんか共同開発でゲーム出すのと平行で作ってたから、って噂は聞いたけど」
「まだ買ってないんスよね……最近は結構シャンフロメインだったから遭難ゲーは露骨に時間食われそうで……」
「ギャラトラとかやってたし向いてるんじゃないの?」
「ギャラトラはあれはあれでやり込みというかスキモノですけど、こっちはガチの虚無って話じゃないスか」
「マップ引き伸ばし説、ほぼ確定らしいものねぇ。巨人世界って言い訳してるけど」
なにやら玲の知らない話題で盛り上がる岩巻と楽郎を他所に脳内シミュレーションが十八通り目のシミュレートを開始していた玲であったが、ちらりと送られた岩巻からのアイコンタクトにここがチャンスであるのだと気づく。
「あ、あのっ!」
「ん?」
「あー、そういえば忘れてたわー。実は楽郎君にも渡すよう玲ちゃんに頼んだものがあったんだわー」
ある程度武道を嗜んでいると、会心の瞬間を感じ取ることがある。そしてそれを今感じ取った。
「じ、実はですねっ!! 岩、岩巻さんからこれを、預かってまして!」
「んー? ……マジかよ噂をすればシャドウ?」
「ほら私その日は新作を最速クリアするつもりだから持て余しちゃって」
「リングタイプじゃないってことは……うわマジかよ優待チケット? 転売したら100k確実の奴じゃん」
「ペイとバイに関わる人間の前で堂々と転売宣言とかいい度胸じゃないの」
「失敬ブラックジョークです、転売厨滅ぶべし!!」
「よろしい」
玲にはよく分からない話題に逸れかけたが、今こそ畳み掛ける時だろう。遅々として貯まらなかった勇気のゲージを未来から前借りする勢いで覚悟を決めた玲はその心情を表すかのように一歩前へと踏み出して口を開く。
「そ、そのです、ね……よければ、一緒に……い、行きませんか?」
「え? あぁ、シャンフロのブースもあるのか……」
会話を続けつつもなにやら携帯端末を操作していた楽郎は、玲の言葉に謎の納得をした様子だった。そして僅かな沈黙…………時間にすれば数秒だが、玲にとっては数時間のようで。
「うん、まぁ俺は構わないよ」
その瞬間、玲の人生はハイライトを迎えた(当人比)
「ただ………」
「へ?」
「なんかこれデートみたいになるけど斎賀さんは問題ない?」
「んひゅっ」
人生のハイライトが三回転半して上限をぶち抜いたあと爆発した。
「……っ! …………!!」
「斎賀さん?」
「あー………赤面差分は不意打ち死ねるわよねぇ………」
「は? なんの話です?」
「何でもないわよー、プレイヤーじゃなくてプライヤーになりそう」
聴覚が何かを聞き取っているが、もはや玲はそれどころではない。形容できない感情が渦を巻いてシェイクされ、分裂と合体を繰り返している中ではかろうじて平衡感覚を保つのが精一杯で。
楽郎が「デート」という概念を意識していたのが衝撃だったのか、実際その通りの状況に自分が当事者である事実への衝撃なのか、それすらも分からないまま……だが残った理性を掻き集めて脆く薄っぺらな仮面を作り上げた玲は極めて普段通りの笑みを浮かべる。
「問題ないから問題ないれす」
「そ、そう? ならいいけど……俺はそろそろ帰るけど、」
「私はもう少ひ岩巻さんとお話ししていきましゅね」
「そっか、じゃあお先に失礼」
「ひゃあい」
一分経過。
「…………」
二分経過。
「………う、く、ふぐぅ!!」
「よーしよし、よく耐えた!よく頑張った玲ちゃん! よくボロを出さなかった! 今夜はクリュッグよ!!」
勢いよく膝から崩れ落ちた玲を岩巻が受け止める。玲を見つめる眼差しは慈悲と同情が綯い交ぜになっていた。
「わ、私、何を、何を着ていけば……」
「大丈夫! 偉大なる前進よ!! 岩巻さんが何でも手伝ってあげるからね!!」
「ひ、陽務くんが、陽務くんが……!!」
「そうよね分かる、分かるわよ玲ちゃん! クソゲー脳に人間性が残ってるとは思わないわよね!! うんうん、私も想定外だった!!」
結局、玲が立ち直るまでに一時間かかったのだった。そしてロックロールは異様に早く閉店した。
なお突然の最高級シャンパンに木兎夜枝の疲弊した胃が驚いて盛大に苦しむ事になるまであと四時間。
◆
「んー……」
「珍しい、お兄ちゃんがゲーム記事以外を見てるとか……え、何? ファッションに目覚めたの? バイトする?」
「自然な流れで金の浪費を確定させんな、ちょっと外出用の服が要り用でなー」
「ふーん……あ、これバイト先でお裾分けしてもらったプロシュート」
「プロシュートって生ハム………え? 未カット状態? 原木??」
「うん、試作で作りすぎたからって」
「最低でも15kくらいするやつじゃん……お前のツテ怖いわ……」
鈍器じゃん、完全にこれ人撲殺できる奴じゃん。何をどうバイトしたらこんなのお裾分けで貰えるの? 父さんがお土産でもらった鰹節(塊)もまだ使いきれてないんですよ?
「なんか適当にマネキン買いでもすっかなぁ……」
「うーわ、ファッションナメてんの? マネキン買いは見た目良くてもハートがダサいよ?」
「メンタリティの美しさは求めてねぇよ」
我が家は妹を除いて大半がファッションに無頓着なため、我が家唯一のお洒落スケバンこと瑠美的に思考停止マネキン買いは看過できないらしい。
俺の手から携帯端末を抜き取ると、手早く操作していく。何やら自前の携帯端末も取り出して並行して操作しているようだが……
「んー、スキニーは黒でいいか……上は黒だとダサいし……お兄ちゃんコートで何か要望ある?」
「インバネスコート」
「名前の格好良さだけで覚えてたでしょ、却下。チェスターコートね」
何それかっこいい。
「はい、こんなもんでいいでしょ」
「おー、ありが…………ハウマッチ?」
「お洒落に妥協の二文字はあってはならないんだよ兄上殿」
「俺の財布が素寒貧になります妹よ」
「クールビズだね!!」
靴もマフラーもいらねぇよ!!
なお作者はファッションセンスにパラメータ無振りなので適当です
陽務家ファッションセンス
父:大体スーツか釣り用の服
母:養蜂用の防護服をポチった
長男:ジャージis最強
長女:お前は今までに買った服の枚数を覚えているのか?