苦難を前に試練の時
かわいいエドモンド本田は草しか生えない
水エドモンド本田は持ってないです(真顔)
端的に言えば、俺はシャンフロを投げた。辞めたわけではないが……匙は投げた。
どれだけやりこんだゲームだって投げたい時くらいはある、MMO一本と心中するほど俺は一途ではないし何よりあのクソ妨害イベント敗北強制で俺の中の何かがブチっと切れた。
「おのれ天地 律ゥ……」
やっぱりクソゲーの使徒じゃねーか。ふざけんなよマジで………意地でもオルケストラはクリアしてやるから覚悟しておけ。故にこれは逃亡ではない、一時的撤退だ。
腹いせにシャンフロのパッケージをクソゲー棚に放り込んで、俺はキッチンへと降りていく。冷蔵庫を開けて何か食えそうなものを物色しつつ作り置きされていた麦茶をコップに注いで一息に飲み干す。
「カテキンが身体に染み込む……」
どこだ? どこでルート選択をミスった? 冷静に考えても腹が立ってくるのが困りものだが少なくともイベント戦闘ってわけじゃないだろう、恐らく何か解き明かしていないギミックがあると見た。しかしながら多少冷静さを取り戻し、カテキンを摂取した今の俺ですら何を間違えているのかさっぱり分からない。
少なくともオルケストラは会話に持ち込めるようなユニークモンスターじゃない、それこそ一昔前の音楽プレーヤーだ。再生ボタンを押したら最後、聴き終わるまで何を言ったって無駄でしかない。もしや音楽プレーヤーの停止ボタンを押したらクリアとか? そんなしょっぱいユニークシナリオEXだったら別方面でクソゲーだなぁ……
………分からん、タイトルだけでオチを予測させられている気分だ。とはいえ武田氏曰く、連綿と地の底に根の連なりを繋げてきたクソゲーの歴史の中にはタイトルでゲームシナリオの八割がオチてるクソゲーもあったらしいが。
いやだが真面目に考えてみよう、恐らく劇場内で起きたイベントそのものはそのまで重要ではないはずだ。いや攻略的意味合いはあるがユニークシナリオ=特定のキャラにフォーカスを当てたサブシナリオの方程式はオルケストラにも当てはまるはずだ。つまり外側……キャラ方面からの考察だ。
「誰の「シナリオ」なのか……登場キャラは誰だ?」
まずオルケストラ、これは確定だ。壁に埋まった音楽プレーヤー、あるいはあれの持ち主こそがオルケストラであるとか?
怪しいのは「歌姫」か……エリンギ? エリンギ・ジッパーホールみたいな名前が音楽プレーヤーには表示されていた。評価されたアーティスト名と再生される音楽が違います、なんてことはないだろう。つまり歌姫=エリンギさんの方程式が基礎になる。
仮説1、オルケストラとはエリンギさんの妄念が染み込んだアイテムであり、それが不思議パワーで動いている。炙ったらいい匂いしそうだな、いや普通に壊れるか。
「寒っ、部屋戻ろ……」
次に征服人形。端的に言えば奴らはオルケストラを収納している部屋の持ち主だ、無関係とは言いづらい。何か知っている可能性はあるだろう……が、正直この線は薄い気がしている。
仮説2、実は征服人形がオルケストラに干渉していた。オルケストラを倒されると都合が悪いから妨害した。だがこれは自分で否定できる。
まず最初に俺は強い、アイアムストロンゲスト。
だが不死身ではないし、多分レベルの低いプレイヤーでも単純な頑丈さで比べれば俺を上回ってるプレイヤーもいるはずだ。簡単に言えば袋叩きにされたら死ぬ。
そりゃタダで死ぬつもりはないが、損害度外視で突っ込まれたら俺と言えど制圧されるだろう。だがそれをやってどうする? 征服人形はNPCだが二号人類の性質については理解している様子だった、つまり一度や二度殺したところで意味がない。
まず俺なら確実に報復も兼ねてオルケストラに挑みまくるだろう、【ライブラリ】辺りも焚き付けて逆に制圧してもいいだろう。
俺もそんなことはしたくないが、苦渋の決断とは本人の意思でノーを選べないから苦渋なんだ。だから笑顔でイエスを連打しようねとはペンシルゴンの言葉だ。俺は善良だから一回しか押しません、一回あれば事足りる。
そもそも攻略されたくないならオルケストラの「招待状」を破り捨てればいい。オルケストラを程良く接待したいならオルケストラに直接干渉するのは悪手でしかない。
つまり征服人形がことオルケストラ戦にプレイヤーへの悪意を持ち込むメリットがない、そしてそもそも奴らにそんな意思はない……はず。
困った、俺程度の脳みそじゃこれ以上の考察は無理だぞ。さてどうする? ちょっと休憩するか。
「……………Zzzz」
……
…………
………………
「朝じゃん」
俺としたことが寝落ちしてしまうとは……くっ、ていうか麦茶にはカテキン入ってねぇじゃねーか! そりゃ何も浮かばねぇよ!!
「楽郎ー! 学校遅れるわよー!!」
「もう起きてる!!」
おのれオルケストラ、リアルにまで波及させてくるとは! ええい俺に力を貸してくれエナドリーっ!!
◇
仮に対象Aと対象Bがいるとしよう。
この対象Aはある特定分野において対象Bの数段上、数段先を行く存在である。
即ちその特定分野においてのみその力関係は覆しようのない不等号で定義される。即ち、見方と言い方によっては対象BにとってAは神である……ということになる。
古来より、神話というものが生まれた頃より人が神より何かを受け取るというシチュエーションは多く語られている。
言葉であれば神託、物品であれば神器、能力であれば加護あるいは恩寵……
「う、うぅ………」
そして、人がしなければならない課題を「試練」と言うのだ。
二日ほど前。
「玲ちゃん、貴女にこれを授けましょう……」
「これは……?」
「JGEの優待チケットよ」
JGE……正式名称はジャパン・ゲーミング・エキスポ。
グローバル・ゲーム・コンペティションが世界規模のゲームイベントだとすればこれは日本規模のイベントである。
GGCはあくまでも開催地が日本だった、というだけであり本来は特定の国によるイベントというわけではない。だがこちらは日本のゲームを日本人向けに紹介する展覧会である。
「あの、これ………どうやって?」
「岩巻さんには特別なコネがあるのよ」
これは事実である。
真奈の夫、岩巻 境……約二名の「今更木兎夜枝以外の呼び方とか慣れない」という理由でビジネス時の名前として木兎夜枝を名乗っている男は、今や日本のゲーム史に燦然とその名を輝かすシャングリラ・フロンティアというゲームにおける宣伝部長を始めとする対外的な対応全てを任された重要な役職に就いている。
そして愛妻家という言葉すら生ぬるい愛を岩巻 真奈に捧げている境の力を以てすれば、二人分の優待チケットを用意することはあまりに容易い。建前上は全てのゲーム企業が平等ではあるが、今やVRゲーム業界の頂点にして最先端を行き、ビッグタイトルであるシャンフロを抱えるユートピア社に通せぬ融通など存在しないのだから。
「ここに優待チケットが二つ……言いたいことは、分かるわね?」
「………………ぅ」
硬質なカードのようなチケットを指でつまんでひらひら動かしながら、半目で告げる岩巻に玲は冷や汗を一つ流しながら一歩後ずさる。
言わんとしていることは理解できている、そしてこれを受け取った以上拒否権など存在しないということも……
「玲ちゃん、ちょっと将来の話をしましょうか」
「……え?」
「あのね玲ちゃん………キャンパスライフは、モテるわよ」
「!?」
ヒロインちゃん、始動(特性:スロースターター)
つまりヒロインちゃんはレジギガス