エピローグ タンホイザーゲートよりの帰還者
本来は一つの章でまとめるつもりだったけどGH:C編をねじ込んだので前後編です
矢車さん、石仮面とか使いました?
「ふむ………」
手元に置かれた真理書を読み終えたキョージュは眉間に寄った皺をほぐしながらため息をつく。
若々しい見た目ではあるが中身は現役よりも老後の方が長くなってくる年齢だ、実際に目を酷使しているわけではないとしても日頃の癖で反射的に行ってしまう。
「冥響のオルケストラクリアおめでとう、まずは祝わせてもらうよミレィ君」
「はぁ、どうも」
「ふふ……あまり嬉しそうではないね」
ミレィやキョージュだけではない、アナウンスと共に凱旋したミレィが齎した真理書を読んだ者達は皆一様に似たような顔をしていた。
ユニークモンスターを倒し、ユニークシナリオEXをクリアすればワールドストーリーの進行と共に、そのユニークモンスターについて記述された真理書がドロップする。
これまで明らかになっている真理書は墓守編、深淵編、天覇編の三冊……そしてこの度、ミレィが最終楽章をクリアした事で四冊目の真理書「冥響編」が手に入った……
だが、その冥響編が問題だった。
「真理書「冥響編」………偽典、とはね」
「いやぁ、予想出来そうなモンでしたけどねぇ……まさかこうもはっきり分岐させてくるとは」
そう、ミレィが持ち帰った真理書は完全な攻略本でも設定集でもなく……「偽典」と、そう名付けられていた。
偽典、偽物というわけではないだろう。ミレィが目を通した限りでは自身の体験したオルケストラ戦から外れたものではなかったし、オルケストラの「正体」にも言及されていた。
成る程、前知識無しでこれを見ていたのならば、キョージュであったとしても素直に受け取っただろう。だが、彼ら【ライブラリ】の面々は【旅狼】との盟約、自身らの攻略などで他の真理書を知っているからこそ……「偽典」たる意味を正しく理解できていた。
「これ書いた奴、相当性格悪いだろ」
「一見すると何も問題ない風に見えるのがタチ悪いな」
「やっぱこれサンラク氏が正典ルートってことじゃないですかー!!」
「やはりシャンフロのツチノコは伊達ではないのね……」
「この程度の設定で考察厨を満腹にさせられるとでも?」
「せいぜいオードブルですな」
「でもオルケストラでこれ以上調べられる事あるか? ミレィだけの調べとはいえ劇場内にさらなるギミックがあるとか?」
「いやいや、何のためのリヴァイアサンだよ」
「ミニ勇魚ちゃん相手のギャルゲー再開か……」
「愛想いい風に見えて基本的に好感度固定なのつれぇんだよ」
「ギャルゲー畑の奴らが匙投げかけてるの相当よね……」
「征服人形達が何か隠してるとか?」
「いやー、その線は無い寄りだと思うけどなー……要するに原始人に核を持たせないよう活動してるんだろ? オルケストラにここへいてもらう為にプロトコルを設定した感じだし」
「……音楽プレーヤーに足でも生えるのかしら」
「変形して小型ロボットになる、とかの方がまだ納得できそう」
偽典にはオルケストラの「正体」は書かれていた、だがそれは考察にやり甲斐を感じる者達からすれば非常に大雑把なものであるし、何より……
「正体は雑、起源も過程も書かれていない……速さ重視の突貫工事で作られた攻略本みたいないい加減さですね〜」
「それ、君の世代から随分前の……というか私世代くらいのネタではないかね?」
「古きを掘り起こす学問のセンセーが何言ってるんですかねぇ……」
オルケストラの正体が音楽プレーヤーである事など、真理書を見なくても分かることだ。そしてそこで解説が止まっている時点で、【ライブラリ】プレイヤー達の方針は決定していた。
「我々ライブラリの目的は先陣を切る事にはない、先行く者達を後押し、拓かれた道を調べ尽くす事にこそある」
【ライブラリ】は情報を即座に公開する事はない。彼らとて人間、他より先んじて情報を愛でる快感を完全に捨て切る事はできない……が、情報を明かす時は迅速だ。
「旅狼の首領殿とは既に談合済みだ、オルケストラのシナリオ発生条件の発表を行う! 広報担当、宜しく頼むよ」
「了解っすキョージュ!!」
「そして我々は暫定「正典候補」であるプレイヤー:サンラクのサポートにもを行う! 異論はあるかね?」
沈黙は賛成の意思表示である。無音の面々を見渡したキョージュは一つ満足劇に頷き、それを合図に考察クラン【ライブラリ】が本格的に動き出した。
……
…………
………………
それから一週間後、即ちサンラクが最後にログアウトしてから十日後。
「よう似非幼女………帰ってきたぜ、宇宙の旅からな……!!」
「おや、随分と…………なんて?」
「気にするな、タンホイザーゲゲートを見た事はあるか? コズミック・パワーは未来から過去を見る」
「…………?」
「過去は線、現在は点、そして未来が面なんだ。過去は記憶であり、現在は意思、そして未来は認識だ……」
「哲学かね?」
やけにギラギラとしたサンラクの言葉にキョージュが怪訝な顔をする中、そのログインに気づいたミレィが近づく。
「そう、つまり宇宙は広い」
「それっぽいこと言って小学生並の結論に至りましたねぇ〜」
「ようミレィ、聞いたぜオルケストラクリアおめでとう」
「ありゃ、知ってましたかぁ……てっきり、嫌味的なものを言われるのかと」
「もう気づいてるんだろ? 俺とお前とじゃルートが違うってな」
少なくとも現在もオルケストラ前を臨時の拠点としている【ライブラリ】のメンバーが誰もサンラクのログインを確認していない以上、余程の偶然でもなければサンラクはシャンフロにログインしていない筈だ。
だが既に【ライブラリ】はオルケストラの攻略情報をある程度公開しているし、外部手段でそれを知っていたとしてもおかしくはないだろう。
「ふむ、それなら話は早───」
「おっと待ちな、悪いがイニシアチブは俺が貰う。艦内戦闘は拙速を尊ぶからな」
「???」
話が通じているようで全く噛み合っていない、何か別の世界の住民と話しているような……やけにハイテンションなサンラクであったが、インベントリから取り出したのだろうアイテム、【ライブラリ】からすれば馴染みの深いものであるスクリーンショット用のアイテムが表示した写し絵にキョージュを含めた皆の視線が集まる。
「これは………」
「……あれ? これ………え、マジでぇ?」
キョージュは画像の左側から見ていたからこそ、わずかに気づくのが遅れた。だからこそ画像を右側から見ていたミレィが先に気づいた。
ニヤリ、とどこか吹っ切れた様子のサンラクが【ライブラリ】の面々を睥睨する。
その姿に、キョージュはふと厄介なお得意様である一人の女性の言葉を思い出す。
曰く、自分と残り二人の関係は単純に決められるものではない。殴り合いをしてでも主導権を奪い合い、負けた者が頭を張るのだと。
「報酬はこの世界の全貌と……一週間後の祭りに参加する為のファストパスでどうだ? 代金は俺があの野郎をクリアするまでの全面協力だ」
悪く言えば、幾度となくオルケストラに敗北したその男は、堂々たる宣言と垂涎の情報を携えてシャングリラ・フロンティアへと戻ってきたのだった。
偽典真理書は補遺のないSCP記事みたいなもん、概要は説明してるが謎が謎のまま残っている
ちょっと設定を吐くとするなら
オルケストラは三つの意思によって成り立つ複合存在意義で動くユニークモンスターです
一つ、エリーゼ・ジッタードールによる「私の歌を聴いてほしい」という意思
二つ、アンドリュー・ジッタードールによる「神代の文化を知ってほしい」という意思
三つ、それは───