インタリュード 誰が歌う、誰が奏でる
生前どんな罪を犯したらこんな地獄に……(過去最悪クラスの古戦場)
近接射程距離、互いに同じ手を持ち合わせている以上はここで取れる手は互いに三つ。
一つ、防御を捨てて確実に殺す一撃を叩き込む。
二つ、相手の攻撃を誘発してカウンターで仕留める。
三つ、鍔迫り合いから戦況をフラットに戻して早撃ち勝負。
たが俺と「俺」では優勢劣勢の違いがある。同じ選択肢だとしても実際の結果には大きな違いが出る!!
だからお前は後手に回るしかないよなぁ!?
ここで決まる、ここで取る行動が全てを決める。ところで「俺」、じゃんけんの必勝法を知ってるか?
最初はグーで相手をノックアウトすれば相手は勝負の「手」を出すことができずKO不戦勝になる。俺はこれでカッツォを三回ノックアウトしたことがある。
「死に曝せっ! 【超過機構】「賦活醒」!!!」
百足式8-0.5の超過機構の効果は常時MPを消費するコストがある。
本来の想定としては防具によるアシストを入れて長時間の戦闘を行う訳だが、そんな時間はない。それにワンスイング叩き込める時間さえあればそれで事足りる。
そして、三つの選択肢を自由に選ぶ権利は先手を取った俺にだけ許された権利! 後手に回った時点で「俺」は俺の行動に対する対処を選ぶことしかできない!!
剣を出すか? 拳を出すか? 白旗上げたって容赦しねぇ、これでくたばれ───!!
「獲った!!」
Q.詰みです、どうすればここから勝てますか?
A.横槍を入れます
「な…………」
俺というプレイヤーがどんなキャラをしているのか、それは俺自身が最もよく知っている。
基本的に俺は物理アタッカーだ、魔法みたいなことが出来る武器も多いがその根本はMPに依存しないダメージソースを多く持つ九……いや七割物理特化型。
基本的にアクションは物理的な攻撃手段に限られているし、魔法みたいな事をするにしても結構な手間をかけたり水面下でバタ足するような苦労がかかる。
そして俺は、一から十まで完璧に覚えているわけではないがインベントリアの中に何を突っ込んだのかはある程度把握している。だからこそ断言できる、そんなものを入れた覚えはないし……そのような使い方が出来るスキルも魔法も覚えちゃいない……!!
「まさか…………」
まさか。
渾身の振り下ろしによって叩きつけられんとして百足式8-0.5から「俺」を庇うように真紅の床から明らかに物理現象ではない挙動で出現した大量の楽器群が何を意味するのか。
「ふざっ───」
理解は出来た、だが納得できるかどうかは別問題だ。そしてこのクソみたいな横槍に対して俺は一切納得できていない。
「ふざけんな!!!?」
スクラップと化して、それでも「俺」を守りきった楽器の残骸から百足式8-0.5を引き抜いて再度振りかぶる。この、千載一遇の、チャンスを…………
「く、あ……!!」
だが、ここでタイムリミット。スイングされた百足式8-0.5の超過機構のコストを支払うだけのリソースを持っていない事で展開された紫紺の刃が斧槍の機構が閉じられていくのに連動して消失する。
そして、歌姫の寵愛をこれ以上なく受けた「俺」がその仮面に違わぬ猛禽の如き勢いで跳ね起きる。
その手に握られているのは炎を吐き出す漆黒の刃……対処は間に合わない、どう足掻いたって渡さなきゃいけないターンもある。
「がっ!!?」
痺れと熱と、それらを感じる直前にだけ感じ取れる寒気が腰から脇を通過する。
だが、
「ナイスクリティカル……」
スキル「フェイタルゲイン」、ギリギリで起動が間に合った。
死の淵ギリギリで踏み堪えた状態で、諦めかけた意識を殴り飛ばしてもう一度足に力を込める。
勝てない、実力とかダメージとかではなく「ギミック」が勝利への道を塞いでいる。何かおかしいとは思っていたんだ、ウェザエモンのEXシナリオが割とシンプルだったからそういうものだろうと思っていたがオルケストラのEXシナリオはあまりにも短過ぎる、単調過ぎる。
どこで間違えた? 何を見落とした? 今考えたところで遅いし、仮に何かを見出したとしても遅い。
だから、これは単なる八つ当たりだ。
「っ!!!」
インベントリから取り出したアラドヴァルを投擲の構えで「歌姫」へと突きつける。よくも水を差しやがったな、剣を刺してやる。
「死───」
だが、ありったけのフラストレーションを込めた投擲は「歌姫」へと届く事はなく。
「…………」
それくらいはお見通しだと言わんばかりに軌道上に割り込んだ「俺」が投げ放たれたアラドヴァルをキャッチ、さながら「忘れ物ですよ」とでも言わんばかりに……俺の胸へと投げ返した。
「ごっ………丁寧に、どうも…………」
アラドヴァルに串刺しにされ、今度こそ身体から力が抜けて、視界が黒くなって………
「あ………」
なんだサイナ、たかだか負けて死ぬだけだってのに……何故そんな泣きそうな顔をする。
何か、見えそうな…………ぐべぇ。
◇
「……………」
「おやサンラク君、随分と健闘したよう………何かあったのかね?」
「……………」
つかつかと無言で歩き去っていくサンラクの姿に、キョージュすらもが呼び止めることができない。
表面上は静かな、だが一度扉を開けてしまえば爆炎が噴き出してきそうな不吉すぎる静けさを纏ったサンラクが進む。
「あ、サンラクサン。事後報告でごめんですわ、ちょっとおとーちゃん……じゃなくてカシラからのお使いを済ませてたですわ」
「………」
てこてこと警戒心のカケラもない様子で近づいてきたヴォーパルバニーを拾い上げ、頭に乗せそれでも無言のままサンラクは化学仕掛けの基地の中を進む。
そして征服人形達の拠点のある大樹海……つまり、外に出たサンラクは無言でストレッチをして、身体を解して、息を吸い込んで………
「クソゲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
「ほびょおっ!!?!?」
大樹海に萌ゆる全ての枝葉を震わせんばりの、荒ぶる魂の大絶叫が一匹のヴォーパルバニーの鼓膜に大ダメージを与えながら響き、消えていった。
この三日後、一人のプレイヤーによってオルケストラ攻略のアナウンスがシャングリラ・フロンティアのゲームワールド全体に報せられる事になる。
Q.倒されそうになったら楽器介入とかクソ過ぎない?
A.闘技場じゃねーんだぞ質問に答えろ