あなたの為のオーケストラ 其の二十一
書きたいところまでがあまりに遠い
蠍はボーナスタイム、蜘蛛は若干苦戦、そして蠍(帝晶)でボーナスタイム再び。
「懐かしいツラが出てきた……が、面倒なことになってきたぞ……!!」
劇場の床に突き立った毒剣が爆ぜる。毒色の爆炎が劇場を侵し、わずかでもそれに触れてしまえば瞬く間に体力が削れ始めるだろう。
おお懐かしき元ツチノコの方のゴルドゥニーネ、多分お前の姉には世話になったしお前の姉をお世話してます。
こいつ自体の対処は別にいいんだ、こいつを倒した時に使った金照と冥輝は現物があるから成分結晶を集めて「疾風」で叩き斬る、以上。
だから、今俺が直面している「面倒ごと」は俺自身の問題でも、再現ツチノコニーネでもなく………
「バグってないでせめて動け! サイナ!!!」
「わ、当機は………演算、精査、処理、中断、再開……中断、演算、演算……き、拒否……」
「くっ……ポンコツがマジでポンコツになってどうすんだよ……!!」
舐めんな蛇女! 片手間でもてめーくらいぶっ飛ばせるんだよ!!
三連結同調「千剣の盟」起動、二連結同調「風火二輪」起動、リミットオーバー・アクセル起動!
肉質抵抗軽減、立体的機動、機動力強化の三つが付与された俺の身体が毒双剣を潜り抜けてツチノコニーネへと一気に肉薄する。
「面白いものを見せてやるよ……!!」
パラベラム・ルーティーン起動。このスキルはプレイヤーがよく行う動作を「ルーティーン」として設定、動作を達成することで強化効果を付与するスキルだ。
そしてゲーム側が俺に提示してきたルーティーンは………「右親指を左胸に叩きつける」というもの。まぁそりゃ確かに常日頃の移動手段とかでも使いまくってたけどさぁ!!
意図せぬ動作の連結、パラベラム・ルーティーンの条件と封雷の撃鉄・災の発動条件が同一であるが故に、二つの効果が同時に起動し俺の身体が過剰なまでの稲妻によってさらに加速する。
「鐚一文まで賭け皿に載せてやるよ」
こいつは見た限りでは微妙スキル、だが使ってみれば最高に楽しいスキルだ。いくぜクリティカル・レイズ!!
龍王の残滓を纏った蒼と金の混ざった冥輝の刃がツチノコニーネを切り裂く……しかしその攻撃は確かに奴の身体を裂いたはずが、傷一つ付いていない。だがそれはスキルの効果によるものだ、クリティカルの攻撃がヒットした事でこの攻撃は賭けのチップとしてレイズされたのだ。
「ギャンブルは好きか!?」
二重の黄金がツチノコニーネの身体に深い傷を刻む、クリティカルの手応え。本来であれば、その火力が二倍になって叩き込まれる……筈だった。
だが二撃目もまた、スカ。1ダメージも与えていない攻撃にツチノコニーネは脅威ではないと判断したのか多少の攻撃は許容するつもりか、無防備な攻撃偏重で毒剣を振り下ろした。
「悪いな、「愚者」だからさらにレイズだ」
神秘「愚者」の能力はいくつかのデメリットを背負うことでスキル及び魔法のリキャストを半減させる、というものだ。そしてここでシャンフロにおけるゲームシステム的スキル判定が悪さした。
どうもこのゲーム、スキルによってリキャストタイムが発生するタイミングが違う。例えばウツロウミカガミなんかは虚像が消えた時点でリキャストタイムが発生するし、ほとんどの強化スキルは効果時間の終了と同時だ。
ではこのクリティカル・レイズ……いつリキャストタイムが発生するのか?
答えは「一撃目の攻撃のダメージがゼロの判定になった瞬間」だ。この判定に気づいた瞬間、俺の中でこのスキルの凶悪度が五段階くらい上昇した。
「さらにレイズ!!」
要するにこのスキル……二倍になった攻撃をさらに同スキルでレイズできる。蠍や蜘蛛で試した限りでは恐らくレイズを重ねるほどクリティカルの成功率が下がるっぽいが…………その程度で対策とは、甘いよなぁ?
「さぁ! さぁ!! これで三十二倍火力だっ!!」
五十倍辺りから露骨にクリティカルの成功率が下がり始める。普段なら確定でクリティカルだろう攻撃ですら外れ始める……だが、クリティカル・レイズの元々のリキャストタイムは5秒! 「愚者」の効果で半減してぇ……2.5秒毎の無限倍プッシュ!!
「覚悟はいいか、出来てなくても殴るがな!!」
真界観測眼、 星幽界導線起動!
裸眼で見る世界に二つの世界が重なって、三つ重ねた世界が俺の眼へと映し出される。
上下から襲い来る攻撃の「波」を潜り抜け、迷いない弧を描いてツチノコニーネの脇腹へと伸びたラインの上に金照の鋒を乗せて滑らせるように振り抜く。
「クリィーン……ヒットォ!!」
豆腐に包丁を入れるかのようにあっさりと黄金の水晶刃がツチノコニーネの脇腹を通り過ぎ、これまでとは違うなかったことには出来ない増幅されたダメージが爆ぜるように叩きつけられた。
『───輝きを、束ねて、放つ、風』
「言われんでも分かってるっつーの!!」
金照、冥輝……合体!
巨大な鞘付きの太刀となった蒼耀月を携えながら、大きく吹き飛んで悶えるツチノコニーネを他所に俺は未だバグっているサイナの許へと駆け寄る。
「おいどうしたサイナ! インテリジェンスにカビでも生えたか!?」
「……契約者」
「戦えるのか、戦えないのか! どっちだろうと責めやしねーよ、せめてそこをハッキリしろ!」
「当機は……征服人形は、オルケストラ・プロトコルへの積極的、介入を……想定して、おらず……ああ、でも、当機は……演算した仮定を、それでも………」
なんだ、何が起きてる? 征服人形をオルケストラ戦に参加させるとバグるのか?だがオルケストラから何か干渉を受けてるというより、これは……
『──恐れ、怒り、憎悪、嫉妬……踏み越えて、切り拓いて……!!』
「知ってる! 輝塗蒼耀!」
頭にひどくへばりついた疑問や違和感を振り払い、振り向いた先のツチノコニーネを睨みつけて蒼耀月を構える。
リキャストは既に終わっている……風火二輪、リミットオーバー・アクセル起動。
あの日は魔法の補助を加味して踏み込んだ距離を地力のみで詰める。
晴天流「疾風」、そして蒼耀月固有スキル「致命の月蝕」による二段加速抜刀が最適など知った事かと、最短最速の軌道で虚空を走る。
「あの日は首を切るだけだが……今日は首を断てたか?」
「カ………!?」
ちとやり過ぎたが、脚色という事で一つ頼むわ。
さて………「俺」が出てくるまで少し間がある。その間に準備を済ませて覚悟を決めろ、バージョンアップしたのは俺だけじゃない。
演算「できない」ではなく演算「したくない」なのがミソ