あなたの為のオーケストラ 其の二十
iPad miniでぺふぺふ書いてます
「これに関して、我々は無学と言っていい。だが幸運なことにその情報を知る者が二人もこの場にいることは実に幸運であると言えよう。まずは……そうだね、引き続きミレィ君に」
「はいはいご了解で御座いますよ〜。とりあえず、第四楽章をクリアした時点で最終楽章に移行しました。割とギリギリの戦いだった上に本当にするっと最終楽章に入ったので台詞ははっきり聞き取れませんでした、ゴメンネ」
ああそうだ、確かあの時もオルケストラが独白を始めたっけか。
「聞き取れる限りじゃ確か自身が歌う理由みたいなものを言ってた気がします、それと口述する「最終楽章」に登場する敵についての描写も」
俺の時は的…確か、「遠く、根無しの旅人。数多の世界を見つめる眼。貴方は「渡り鳥」みたいな感じの台詞だったかな。イマイチうろ覚えなのはその後の展開に脳みそ使いすぎてそれどころじゃないからだ。
「あーちょっと待って、IQ120の脳みそが思い出しますよ〜……ああそう、確か立ち塞がるは「ローレライ」でしたかねぇ……」
「……ん?」
何か違和感、いやだがこのゲームで台詞の使い回しをするとも思えないし。
「オルケストラの独白と同時、彼女の背後にいた貌のない演奏団達に変化が起きましたねぇ。数に変動が起きてその後に最後の敵が現れました……君の方も大体そんな感じなんじゃないかなぁ?」
「……そう、だな。俺の時もそうだった」
いや、待て……成る程、そういう狙いか。だったら乗ってやるぜ?
「そしてその後に現れた最終楽章の敵は流石の俺も初見の時はビビったね、お前もそうだろう?」
「……」
僅かな沈黙、この野郎自分の説明で俺の反応を見て自分の体験と比べようとしてやがるな……?
だが残念だったな、見抜いたからには自称IQ125の俺が逆にてめーの秘密を暴いてやる。
「そうですねぇ〜……まさか私の武器とかバトルスタイルをコピーしてくるとは思いませんでしたねぇ」
「む」
一緒? てっきりすかしっぺみたいなボスが出てきたから俺の方が先に進んでいるとでも考えたのかと思ったが……聞く限りでは俺のケースとそう大差があるとは思えない。
背後の楽団の数が変動し、その後に最後の敵が現れる。俺の性能を「完全コピー」したそいつはまさしくトレースAIと言うべき存在で……
「こちらの手の内を完全に読み切ってる感じでしたよねぇ」
「ん、そうだな」
……やはり同質か? 向こうも拍子抜け、みたいな顔をしている。違いがあると考えてカマをかけたがマジで一緒だった、ってところか。
「つーか順番で説明するんじゃなかったのかよ……まぁいいや、お恥ずかしながら俺は完敗したよ。こっちの動きを完全に読み切ってる上に武器の性能まで完全コピーされてた」
「私も似たような感じでしたねぇ、私のメイン武器とわざわざデザインまで似せてきた徹底ぶりでしたから……性能もですよ、ボスキャラの癖に自己強化は反則でしょう」
いやまぁ探せばその手のボスは腐るほどいると思うけどな、俺の場合は洒落にならないんだけど。
「いくら人型だからって一々こっちの上位互換を出してくるんだから参るね」
「そうですねぇ、規模が違うんですよねぇ……」
と、ここで聞きに徹していた【ライブラリ】の一人が手を挙げる。
「戦闘面での考察は倒してからじゃないとはっきりしないだろう? だったら設定面の考察を優先した方が良くないか?」
「一理あるね。では二人とも、戦闘面とは別に何か戦闘中に気づいたことは?」
戦闘中に戦闘以外のことに気付けるわけないだろ……
「そんなの考える暇すらないっての……ああでも、最終楽章が単純に敵を倒せばいいのかってのは俺の中で引っかかってるかな」
「と、言うと?」
「ユニークシナリオだからな、単純に勝ち抜きで終わるのかって話だ」
「そうだねぇ……でもそうなると、最終楽章で終わらない、なーんて詐欺みたいなことになりませんかねぇ……?」
「アンコールを発生させないと倒せない、ってパターンかもしれないだろ?」
ウェザエモンであれ、クターニッドであれ、ジークヴルムであれ、そのシナリオの終わりには納得があった。終わったという実感があった。
だがオルケストラはそれが薄い、EXシナリオっつーか「征服人形のドキドキ☆チャレンジ」とかの方が納得できてしまいそうなくらいオルケストラ自身のことが分からない。
「いい着眼点ですねぇ、皆さんはどう思います?」
「可能性としてはあり得そうだ」
「だがクラシックタイプのオーケストラでアンコールなんてやるか?」
「名前はオーケストラだが中身はオペラだろ? アリア再唱って意味ならあり得るんじゃないか?」
「そもそも土台が定まってない気がする、道をまっすぐ進んでるだけで他の扉を開けてない感じ」
「オルケストラとの戦闘中に何かを見出すのではなく、ここに来るまでに何かを見出す必要があると?」
「じゃあリヴァイアサンか?」
「リヴァイアサンは今詰まってるからなぁ……」
「第一、第二殻層は単純な迷路だけど第三から謎解きというか鍵探しが絡むからねぇ」
「三つ目が明らかに人間の身体能力じゃ無理なんだよなぁ……」
しれっとリヴァイアサンについてネタバレされた悲しみを今吐露するのは場違いだろうか、それとも考察厨の巣窟で耳をすませていた俺が悪いのか?
だが僅かな言葉からも仮説考察を展開していく光景は流石【ライブラリ】と言うべきだろう。これが【旅狼】なら「さぁ?」で終わる可能性があるからな。
「それに関しては以前から指摘されてはいた、ウェザエモンの真理書を見る限り……このゲームにおいておおよそ全ては一度きりのチャンスだ。結末の分岐は十分にあり得る……だからこそ検証パターンを増やしたくもあり、攻略を止めたくもあり……いやはや、現在進行形の考察とは中々どうして老骨の心も沸くというものだね」
「人生楽しそうっすね」
「全くだ。時にミレィ君、そろそろ種明かしを……」
半分くらいは嫌味混じりの言葉だったのだが、多分気づいた上でこの対応ができるあたり年季の強さを感じる。と、その時だった。
「緊急事態:契約者、可及的速やかなインベントリアへの収納を要請します」
「うおっ、なんだいきなり!?」
「ミオン=031 は先んじて離脱したため、非常に不本意ですが当機が殿を務める状況となって……時間がありません」
よ、よく分からないがとりあえずサイナをインベントリアに格納。一体何が……
「エルマ=317の反応消失……精査開始、発見次第撃滅、撃滅………」
おい誰だよ暴走ロボットを放し飼いにしてるのは。
「ちょっ……貧乏くじじゃねーか!?」
くっ、そもそもエムルどこ行った!? 転移スクロールをちょうど切らしてるタイミングで……ええい!!
「実地調査だ、ちょっと行ってくるわ!!」
「あ、」
止めてくれるな! いい加減ちょっと考察ばかりしてないで身体を動かしたかったからちょうどいいとか思ってないです!! いざ出撃!!
◇
「行ってしまったか……」
「行っちゃいましたねぇ」
「全く……君の悪癖を説明する前に行ってしまったね。あと君、確かIQ127とか言ってなかったかい?」
「いやぁ申し訳ないですね〜……あと最近130になりました……取ってみて分かったけどIQマウントは取りづらいのが難点ですねぇ」
「我々ならともかく、他クランのプレイヤーにまで要点を勿体ぶる癖はなんとかした方がいいと老婆心ながら改めて忠告させてもらうよ。で? 我々はあくまでも聞き手でしかないのだから、君の意見を聞かせてもらおうかな」
「そうですねえ……又聞きですけど彼、結構なジャイアントキラーなんですよねぇ?」
「そうだね、クターニッドにジークヴルム、リュカオーンに先程言及していた巨大モンスター……比喩ではなく文字通りのジャイアントキリングを繰り返しているようだね」
「私が彼と会ったのはサードレマでした、単純に火力が欲しいならわざわざサードレマに戻る理由なんてないですよねぇ……職業の変更って線もありましたけど〜、だったら「修行」と言うのはちょっとおかしいですよねぇ」
「悪癖」
「あ……いやぁ、すいません。まぁ要点だけ先に言うとですねぇ……」
「多分彼が戦ってる最終楽章は「人型」ですよねぇ……私が戦った最終楽章、全長3メートルくらいある化け物人魚だったんですけどぉ……これ、既に分岐しているってことですよねぇ」
ミレィさんは自分の中で出した結論を勿体ぶるタイプの人