袋小路の欧州、対中認識の甘さが悲劇生む
- 欧州が内燃機関車巡り方針転換-35年からの新車販売禁止を撤回
- 中国による供給過剰の裏にあるのは、欧州市場の需要の弱さ
欧州連合(EU)が内燃機関(エンジン)車の新車販売を2035年から禁じる措置を撤回し、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)など域内の自動車メーカーの願いがかなった。禁止は実現が難しくコストもかかる上、 政府からの補助金を背景に電気自動車(EV)で先行する中国メーカーにとって追い風になると受け止められていた。
中国勢は、欧州市場で7%のシェアを獲得している。気候変動対策で主導権を握るか、雇用を守るかの選択を迫られたEUは、後者を選んだ。
この禁止措置が欧州で真のEVブームを引き起こすことに失敗したのは確かだが、方針転換だけでは業界の将来を守るには全くもって不十分だ。
中国勢との競争が決着するわけでもない。むしろ、禁止撤回は自動車メーカーに投資加速を緩めてもよいという誤ったシグナルを送ることにもなる。それは、完全に逆効果だ。
今回の悲劇の背景には、官僚主義の行き過ぎというより、輸出力と先端技術で世界をリードしようとする中国の動きに対して、欧州が産業面でも地政学的にも無防備だったことがある。
中国の対EU貿易黒字は今年、3000億ドル(約47兆円)近くに膨らんでいる。かつてはドイツが中国へ自動車や機械を大量に輸出していたが、新型コロナ禍が終わると流れが逆転。ドイツの中国向け自動車輸出は2022-24年に70%減少した。自動車メーカーの利益は落ち込み、雇用削減も進んでいる。VWは本国で初めて工場を閉鎖した。
市場を席巻
中国の自動車生産、今やEUの2倍超
Source: 欧州自動車工業会(ACEA)
こうした不均衡を是正したいのであれば、その要因を直視する必要がある。中国の比亜迪(BYD)の中核には確かなイノベーション(技術革新)があり、同社は米テスラを抜いて世界最大のEVメーカーとなった。
BYDの「ドルフィンサーフ」は欧州市場で2万3000ユーロ(約420万円)未満で売られている。しかし中国勢の欧州での成功は、補助金や過剰生産、人民元安に支えられている側面も大きい。
中国がEVよりもガソリン車を多く輸出していることも、今回の問題がEUの細かく定められたルールだけでは説明できないことを示している。アジアソサエティー政策研究所のリジー・リー氏は最近、「中国は世界が受け入れることができる以上に製造している」と指摘した。
過信
中国による供給過剰の裏にあるのは、欧州需要の弱さだ。米国が関税を引き上げ、中国がEUからの輸入を締め出す中で、欧州市場の脆弱(ぜいじゃく)さが浮かび上がる。
景気の低迷や価格の高止まり、代替交通手段の普及に加え、充電インフラの不十分さやエネルギー高がEV普及を妨げた。今年1-6月の自動車生産は欧州で2.6%減少した一方、中国では12.3%増加した。35年実施の禁止措置への批判は本質的な議論から目をそらすためだったと言える。
欧州当局に求められるのは、より深い構造問題への対応だ。方針転換や嘆きではない。中国からの供給を抑える他の手段を検討しなければならない。
EV関税の導入は遅過ぎ、ハイブリッド車が対象から外れるなど不十分だ。関税の強化が必要となる可能性がある。ヘッジファンドを運用しているスティーブン・ジェン氏が持続可能ではない状況で不利益を被ると見込む人民元安に対応するため、EUは中国に圧力を加える同盟国を探す必要もある。
赤字拡大
EU、中国からの輸入に依存
Source: ブルームバーグ
Note: 純貿易は輸出から輸入を差し引いた値
EUは同時に域内需要の底上げにも力を注ぐべきだ。欧州改革センターは、欧州製EVへの需要を誘導するため補助金を拡大するよう提言し、低排出のサプライチェーンを優遇することで中国製をふるい落とすよう促している。
さらに、域内民間部門の活動は低迷しており、ドイツの製造業景況感も12月に予想外に悪化した。欧州中央銀行(ECB)は利上げに言及するより、追加利下げに前向きな姿勢を示す必要がある。
EVは今後も市場から消えることはない。ブルームバーグNEF(BNEF)は、26年の世界EV販売が16%増え2540万台になると予測している。
欧州がもし、中国も米国も従わないルールの下で自らの自動車産業を変革できると過信していたのだとすれば、そうした発想を変えない限り、禁止措置の見直しも大きな意味はない。
(リオネル・ローラン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、マネーと欧州の未来について執筆しています。以前はロイターとフォーブスの記者をしていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Europe’s Naivety About the China Shock Is Tragic: Lionel Laurent (抜粋)
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