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小説:ballad.(バラード)②

    僕が自己PRが苦手だと気づいたのは、小学五年生の終わり頃だった。

何が好きとか、何が嫌いとか、その時々で好きも嫌いも変わった。だからよく周りからは「健人くんってよくわかんないね。」と言われることが多かった。

今でも変わらない。「くん」から「さん」に変わっただけだ。幼い頃からそう言われてきたり、避けられてきたことに関しては慣れてたし、小学三年生の頃には人付き合いは諦めていた。別に語れなくても良くない?と当時の僕は想ってたのもある。

人間なんてどうでも良かったし、宿題もテストも高得点取れば親もうるさく言ってくる回数は減る。だから勉強をして良い成績を取ることが僕にとっての存在意義だったし、誰にも止められることがない、たったひとつの大切な物だった。

    今は東京で暮らしているけれど、実家は東京都と神奈川県を多摩川で結んでいる川崎市で、高校生卒業するまでは実家で暮らしていた。

今日は休日で、家族に用事を頼まれていたため実家に戻り、久しぶりに自分の部屋に入る。

部屋の中は、母の趣味である生け花をするための場所に様変わりしていて、僕の私物は部屋の隅か押し入れに追いやられていた。窓からの光はカーテンで遮られていたし、ホコリの小さな粒が舞っている。

僕は部屋に足を踏み入れて、迷うことなく――最後に触れて片付けた場所だからだ――押し入れの前に立ち、襖を開いて中学時代のアルバムを引っ張り出し、実家に来る時に背負ってきたバッグに入れた。

母と僕が買ってきたショートケーキをつつきながら談笑し、用件も済ませたわけだから、そろそろ自宅に帰ろうかと考えてみたものも、唐突に多摩川の河原から二子玉川に向かって歩きたくなった。今に始まった衝動じゃない。中学生の頃もあてもなく散策をするのが好きで、よく河原やら街やら歩いていたなと思い出したからだ。

    河原を歩いてみると、建物や花壇の手入れとかはあちこち変わっていても、川の広さや流れはあまり変わっていないなと思う。

ジョギングしている人、親子連れで自転車を漕いでる人。砂利石が広がる所ではフリスビーをしている若い男の集団もいる。キッチンカーが建ち並び、なにかお祭りらしきものを開催しているのかな?地元の野球キッズの集団も屯していた。

今は冬で、木の葉は抜け落ちて丸裸にはなっている桜並木は、春にはまたつぼみが着いて花開くんだろうな。何当たり前なことで感傷に浸っているんだ。僕は。

   家に着き、一通り家の事は済ませ、リビングでお酒をちびりながら、アルバムをめくる。

   僕が中学一年に成り立ての4月半ば。親から勉強以外のことでめちゃくちゃ怒られたのが不快で、学校をサボりたくなって、初めてズル休みをしたっけ。

ゲーセン行ってみたり、補導しようとする警察から走って逃げたり、夕方の多摩川の河川敷が綺麗で見とれていた。桜はとっくに満開済みで、桜の花びらも落ち始めていたのを思い出しながら、目の奥がアルコールで脈打つのを感じながら、窓から見える雪景色が、桜の花びらに変わっていくような浮ついた気持ちになっている。

心地が良くて僕が草むらに寝転んでいたら、やつが来た。星野悠星だ。僕を見つけた第一声が「サボリ?」だと。星野がおかしく聞くのが気に入らなかった。僕は質問には答えなかった。ダンマリを決め込むと、星野は僕の横に座って、聞いてもいないことを勝手に喋っては時々静かになるを繰り返した。

星野は遠慮がないから嫌いだった。

ついてくるなと言うとついてくるし、
何も言わなくてもいつもべったりだ。

人の触れてほしくない内面にずかずかと入り込んでくるとことかも嫌だった。

誰にだって一人の時間は必要なのに、
星野にはその概念がないんだ。

そう認識して接していた。

だから、星野なりの「コミュニケーションの取り方」かもしれなかったことに今更気づいたとて、過去の僕が星野が嫌いだったことは変えることは絶対にできない。

「健人ってあんま笑わないよな。」
「は?おれ?」星野が唐突に話しかけてきた。

星野マジで嫌。言葉が漏れる。
まじ息すんなよ。タバコくさ。

「なに?」「だから――」星野はしばらく考える。そのしばらくの間、オレは気まずさ故に自分の指を見つめた。爪を噛んだり、指の皮もむしってボロボロで汚いけど、すぐに感じたことは無関心に変わる。川では鴨の親子が泳いでいる。人の話し声とか、チャリンコの音とか。

「あのさ、だから、どした?」オレが痺れを切らして急かしてみると、星野はにっこりした。なんだこいつ。

「笑いたい時は笑ってみたら?」星野は呆気からんと言い切ると、足元にあった石ころを拾った。そして鴨が泳いでる方角に向かって石を飛ばした。いち、に。ぼちゃん。

「ザコかよお前。」
思わず星野に野次を飛ばす。

「…なに?」星野はニコニコしてる。

「そういう感じでも良いぜ。笑顔出してけ?」

「な?」オレは思わず手のひらで唇を隠す。笑うなんてオレにもできたのかと思った。

星野は益々きめえ笑みを見せてくる。あーなんかよくわかんねえけど、バカにしてんだな?「笑うな きしょい!!」オレは腕で星野を払い除けようとしてみたが、ビクともせん。まじムカつく。ゲラゲラ笑う。まじムカつく。

あの時、「どうして笑うのか」
聞けたらよかった。

もっと星野の言葉に耳を傾ければ良かった。
もっと星野に言葉をかけれたら良かった。
もっと星野のことを知れば良かった。

写真の中のアイツは笑っている。

集合写真に星野がいても、
オレの姿はどこにもない。

当たり前だ。

そう考えながらオレは星野の顔写真を
あの頃よりもずっと綺麗になった指で、
そっと触れた。

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