魔女と植物の世界①~植物に宿る不思議な力と民間伝承~【第7回】
いま、さまざまな方面から注目があつまる「魔女」。現代の魔女文化は宗教や霊性運動であるだけでなく、生き方であり、政治・社会運動や芸術など、さまざまな領域と絡み合いながら広がってきた。そんな奥深すぎる魔女の世界を、現代魔女として活動する円香さんとアーティストの幸洋子さんと一緒に探っていきましょう。
魔女というと、多くの方が森の中の家に住み薬草を扱うおばあさんを思い浮かべますよね。確かに、魔女のイメージには植物が深く結びついています。森の奥で薬草を摘み、大きな鍋で煎じ薬を作る姿は、多くの童話、小説、映画でも描かれてきました。このイメージに憧れて魔女になりたがる人がとても多いのですが、意外に日本語でちゃんと読める資料が無いので彼らの実態についてはぼんやりと語られがちです。
ヨーロッパでは、植物や民間療法を行ってきた人々は「カニングフォーク」として知られています。ヨーロッパには11世紀ごろから存在し、20世紀初頭まで様々な文献で存在が確認されてます。「ペラー」「チャーマー」「ウィザード」「ワイズウーマン」「カニングマン」「ホワイトウィッチ」「ウィッチドクター」など、地域によって異なる名前で呼ばれています。このような民間の医療家、魔術師は世界中に存在し、現在でもインドネシアのバリ島では「バリアン」のような魔術師が活動していますよね。
これらの民間の医療家、魔術師の中には薬草学、民間療法に秀でた人たちもいて、薬草と魔除けを組み合わせて人や家畜を治療し、人々を助けて生計を立てていました。彼らは占いで失せ物探しをしたり、呪詛返し、恋愛成就のまじない、そして中絶を含む産婆術まで、様々なことを行っていたといわれています。
植物やハーブを扱う賢い魔女のイメージはこれらの民間の魔術師のイメージがもとになっています。彼らは決して高度な教育を受けた人々ではありませんでしたが、医学へのアクセスが限られていた庶民にとって、こうした経験のある民間の魔術師、治療家たちからの助言は重宝されていました。この時代は医療といっても瀉血 【註】とかをやっている時代の話ですから、現代人が医療と考えてるものとは全く違う世界です。当時の民間の医療はまじないとの境界線がずっと曖昧でした。
ヨーロッパにおいて、「カニングフォーク」と呼ばれた民間の魔術師たちは、地域社会の民間医療、困りごとなど様々な悩みごとに応える重要な役割を果たしていました。この「賢い女性」が、現代人が憧れ、巷で愛される白い賢い魔女像かもしれませんね。
しかし、彼らは自分たちを「魔女」とは考えていませんでした。彼らが何者であるかについては今回と次回 に渡ってゆっくりお話ししたいと思います。
医療?まじない?芸術?
呪術師たちにとって病気とは、心と身体、魂のバランスが崩れた状態を意味していました。近代医学が発達する以前、魔術と医学、そして今では芸術と考えられる分野は、明確に分離されていませんでした。儀式やまじないは病気の治療手段として、医学と同じ文脈で用いられていたのです。
精神性と身体の両方に働きかけて治療を行うシャーマン的実践は、今も世界中に存在しています。彼らの実践においても、植物は重要な役割を果たしています。まじないと医療、芸術が混在していたという事実は、現代の私たちには想像しにくいかもしれません。しかし、有名なミイラの刺青の例を見てみましょう。
約5300年前の新石器時代後期に生きていた男性「アイスマン」が、氷に閉じ込められたミイラ状態で1991年に発見されました。アイスマンの背中や腰、膝には黒い線状の刺青がありました。これらの刺青は、現代の鍼灸における経穴の位置とほぼ一致しており、刺青が装飾やまじないとしてだけではなく、元来は治療を目的として施されていた可能性が高いと考えられています。つまり、古代から身体の特定部位に印を施す行為は、単なる装飾ではなく、医療的・儀式的な意味を兼ね備えていたのです。
演劇と儀式もまた、同じ起源を持っており、鶏と卵のように「どちらが先か」を単純に区別することはできませんが、西洋の美術史においては、演劇の起源を古代ギリシャの儀式に求める説明がなされてきました。
現代では、儀式やまじないが実際に身体に影響を与えることが科学的に示されています。たとえば、儀式を行うことで内因性オピオイドやドーパミンが分泌され、痛みの緩和や幸福感の増加、内面の変化が起こることが測定可能になっています。そのため、かつては迷信として科学の領域とは見なされていなかった儀礼等も、神経科学の方面から研究が進んでいます。
ハーバード大学のキャサリン・ホール博士はプラセボ効果を研究しており、その有効性を示唆しています。プラセボは、偽薬や偽の治療であっても、患者の期待や信念を通じて痛みの緩和などの生理的変化を引き起こすことが知られています。さらに近年では、プラセボ効果を単なる「思い込み」と捉えるのではなく、患者の自己治癒力を引き出す積極的な医療介入として活用すべきだという研究が増えています。特に、患者と医療者の信頼関係や治療環境、つまりセッティングがプラセボ効果を最大化する上で重要であるとされています。プラセボの研究は、患者が治療にどれだけ納得し、医療者を信頼しているかが治療効果に大きく影響するということを明らかにし、心理的要素が医療において果たす役割がいかに重要であるかを示しています。こうなってくると、科学と魔術、医学とまじないの境は、また曖昧になってくるかもしれませんね。
現代魔女術におけるハーブの位置づけ
今から私がお話しするのはハーブの薬効の話ではありません。現代魔女術におけるハーブは、医療的な薬効だけでは考えられません。
薬効についてはハーブ療法を専門でやられているハーバリストの方にお任せいたします。
初めに述べておかないといけないのは、これは人々の特定の信念に基づくものであり、ハーブ療法とは違うもので現代の医学的な治療の代わりになるものではないということです。
20世紀半ばに発展した現代魔女術は、実践者たちが自らを「魔女」と名乗り、民間の魔術師や医療家をロールモデルとしながら、古来から受け継がれた植物の知識を現代的な文脈で再解釈しています。
ウイッカをはじめとする現代魔女たちの実践の中心には生命力に対するアニミズム的な信仰があります。現代の魔女たちは植物の力を彼らの実践に積極的に取り入れています。かつて村の民間の医療家達が担った薬草治療や魔除けの役割は、科学医療が発達した現代では必要性が薄れましたが、現代魔女たちは植物やハーブを単に代替医療や薬効のある医薬品としてではなく、「受け継がれた知恵」や「霊的な力が宿る媒体」として扱っています。
植物は、過去と現在、物質世界と霊的世界をつなぐ架け橋なのです。
植物に宿る不思議な力?
私は小学生の頃、腕のくるぶしの横に、もう一つ骨のようにぽっこりと突き出たふくらみがありました。これは「ガングリオン」と呼ばれる腫瘤で、若い女の子に比較的多く見られるようです。
母にこの腫瘤を見せると、おばあちゃんの家の近くにある「こぶ様」と呼ばれる小さな神社に連れていかれることになりました。その小さな神社には、曲がりくねった大きな大木が立っていて、そのゴツゴツしたこぶを撫でてお祈りをすると、体のイボやこぶが治るという信仰があったのです。
私はお賽銭箱にお金を入れ、木のこぶを撫でたあと、その手で自分の腕の腫瘤を撫でました。
もともとそのガングリオンは対して痛みもなかったので気にもしていなかったのですが、しばらくすると腫瘤は消えていました。
15年以上経ち、大人になって、子供の頃のまじないなどすっかり忘れていたある日。
この「こぶ様」の話を母にしたところ、「あれは病院で治療したじゃないか。おまえは大泣きしてたよ」と言われ、私は衝撃を受けました。私は病院で腫瘤を治療した記憶が全くないのです!
果たして「こぶ様」が治してくれたのでしょうか。それとも、ガングリオンの治療がショックすぎて、ただ単に記憶が全て消えてしまったのでしょうか…。私は母親の記憶力もかなり疑っているので真相がわからなくなってしまいました。私にとってはとても不思議な体験です。
現代魔女の話に戻りましょう。
現代魔女たちの植物やハーブの利用は人間の大地との関わり方、特に精神性や霊性との繋がりに焦点が当てられ、植物と人の文化的な結びつきと深く関係しています。魔女たちの世界では、植物は固有の霊的な力を持ち、特定の意図やエネルギーを導く媒体と考えられています。魔女に限らず、人は古代より植物が特別な力を持ったり霊性を宿したりすると考え、植物を通して、目に見えない世界、霊的な神秘に繋がろうとしてきました。
私が幼い頃に体験した不思議な「こぶ様」のエピソードを紹介しましたが、皆さんの身の回りにもきっとこのような植物にまつわる民間伝承がありますよね。
例えば神社に行けば古木や御神木にしめ縄がしめてあり、大切に祀られているのを見かけます。日本では木に霊が宿り、神聖であるという考え方は広く信じられていますし、お正月の飾りに用いられる松・竹・菊は長寿の象徴とされ、邪気や災いを遠ざけ、家に福を呼び込むと信じられています。神社の鳥居の脇に生えているナナカマドの果実は放射状に5本の筋があり、これが五芒星に見えるので魔除けになると考えられているようですね。お盆の時にはご先祖様が胡瓜の馬と茄子の牛に乗ってこちらの世界にやって来ます。
このような民間伝承が正確にはいつ、どこから生まれたのかを特定することは難しいですが、「植物に不思議な力が宿る」という考え方自体はとても一般的で実は私たちの生活に溶け込んでいます。あまりにも空気のように溶け込んでいるので季節の行事の飾りのように思われるかもしれません。でもそれぞれにちゃんと魔術的な意味があったりするので調べてみると楽しいかもしれません。
おばあちゃんが教えてくれるような素朴なまじないや、地域に伝わる民間伝承は、世界中に数えきれないほど存在します。実は、こうした民間伝承こそが現代魔女術に大きなインスピレーションを与えてきました。正統な魔術の伝統や権威とは無縁で、単なる「言い伝え」にすぎないように見えますが、ここにこそ「高等魔術」や「儀式魔術」と、いわゆる「低級魔術」との違いが現れており、現代魔女術を現代魔女術たらしめている要素とも言えます。
現代魔女術は、儀式魔術の体系的な要素を取り入れながらも、民間伝承や日常的な実践を重視する点が、他の近代魔術復興運動とは一線を画しています。高等魔術が追求する複雑な体系や秘教的な知識よりも、むしろ土着的で身近な実践を大切にする。それが現代魔女術の特徴といえるでしょう。
高等魔術が体系的な知識や精神的修養を重視するのに対し、低級魔術は実利的で結果重視です。体系的な理論もなければ、「霊的な成長を目指して階段を上る」といった発想も重視されません。そこにあるのは「コブができたから、コブを治したい」といった、直接的で生活に根ざした祈りなのです。
こうした民間の知恵や言い伝えは、元々は親から子へ、子から孫へと受け継がれてきました。例えば西洋では、イングランドに伝わるイボを豆や肉片、石などに擦りつけ、それを土に埋めたり、道端にすてたり、川に流したりすることで病を治すまじないや、ドイツの「病を木に移す」風習などがあります。これらの庶民の実践が集積され、民俗学の対象ともなりながら、現代魔女術にとりこまれ、彼らの実践を形づくってきたのです。
植物を育てるという実践
植物を育てる行為はたくさんのことを教えてくれます。日々植物の成長を見守り、毎日の水やり、土の様子を観察すること、新芽が顔を出す瞬間に立ち会うこと――これらの実践そのものが深い瞑想的な体験となります。朝露に濡れた葉が朝日を受けて輝く様子を眺めながら、季節の移ろいや、大地と空、そして目に見えない無数の生き物たちとの繋がりを感じることができます。
しかし、植物を育てるということは、決して楽しいだけの営みではありません。ある朝、育ててきたハーブにびっしりと群がるアブラムシを発見することがあります。殺すしかありません。知恵のある魔女ならオーガニックな石鹸水を噴霧したり、テントウムシを味方につけたりと様々な策を講じるのかもしれませんが、結局のところ、植物をケアするということは、害虫を排除し、命を奪うことをも含んでいるのです。これは綺麗事では済まされません。
そうした苦労の果てに、ようやく収穫の時が訪れます。自分の手で育てたハーブを摘み取り、その香りを嗅ぐとき、ローズマリーの小枝を料理や儀式に使うとき、それを得るために必要だった労苦を噛みしめながら誇らしい気持ちにもなります。
ハーブや野菜を育てる実践を通して、私たちはままならなさを身をもって知ります。どんなに手を尽くしても枯れてしまう子もいれば、ほとんど放置していても平気な奴もいる。努力が実を結ぶとは限りません。そしてその生と死が絶え間なく循環するサイクルの中に、単なる観察者としてではなく、能動的に手入れをする存在として組み込まれていることを強く実感するのです。
植物を育てる実践は、生かすこと、成長を見守ること、枯れゆくものを諦めること、育てる喜び、そして時に殺めること――様々な局面に直面します。運命の糸を切るクローンのように、萎れた枝を断ち切り、あきらめるべきものをあきらめ、決断を下していきます。
小さな庭やベランダのプランターをDIYで整え、キッチンの生ゴミでコンポストを作ることに挑戦し、土を触りながら、ミミズや微生物たちの営みを観察する。こうした植物を育てる実践を通して、私たちは生命のプロセスそのものを学んでいきます。
植物を育てることは、植物との対話であり、本からは学ぶことができない生きることへの根源的な気づきを与えてくれるかもしれません。
免責:ここに記載された情報は、口頭伝承や魔術的な用途に関するものであり、医学的アドバイスに代わるものではありません。ハーブを薬用として使用する場合は、必ず専門家にご相談ください。また、妊娠中の方、特定の疾患をお持ちの方、アレルギー体質の方は、使用前に十分な注意が必要です。
註:瀉血
瀉血(しゃけつ)は、病気の治療のために患者の血を意図的に抜き取る医療行為で、古代から19世紀まで西洋医学の主要な治療法だった。当時の医学では、体内に「四つの体液」(血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁)があり、これらのバランスが崩れると病気になると考えられていた。特に血液が過剰になると発熱や炎症が起こるとされ、メスで静脈を切開したり、ヒルに血を吸わせたりして「悪い血」を抜き取れば病気が治ると信じられていた。しかし、実際には感染症や失血による体力低下を招き、患者の命を危険にさらすことも多かった。初代米国大統領ワシントンも、風邪の治療で過度の瀉血を受けて死亡したとされる。
参考文献:
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Éva Pócs. Between the Living and the Dead: A Perspective on Witches and Seers in the Early Modern Age. Translated by Szilvia Rédey and Michael Webb. Central European University Press, 1999.
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Nicola A. Ring, Nessa M. McHugh, Bethany B. Reed, Rachel Davidson-Welch, Leslie S. Dodd. "Healers and midwives accused of witchcraft (1563–1736) - What secondary analysis of the Scottish survey of witchcraft can contribute to the teaching of nursing and midwifery history." Nurse Education Today, 2024.
カルロ・ギンズブルグ『ベナンダンティ 16-17世紀における悪魔崇拝と農耕儀礼』(竹山博英訳、せりか書房、1986年)
キース・トマス『宗教と魔術の衰退』(荒木正純訳、法政大学出版局、1993年)
マーガレット・マレー『魔女の神』(西村稔訳、人文書院、1995年)
吉田集而「鍼灸の起源を考える」(全日本鍼灸学会雑誌、2000年)
スコット・カニンガム『願いを叶える魔法のハーブ事典』(木村正典監修、塩野未佳訳、パンローリング、2014年)
バーバラ・エーレンライク、ディアドリー・イングリッシュ『増補改訂版 魔女・産婆・看護婦 女性医療家の歴史』(長瀬久子訳、法政大学出版局、2015年)
ディミトリス・クシガラタス『RITUAL(リチュアル): 人類を幸福に導く「最古の科学」』(田中恵理香訳、晶文社、2024年)
◎著者プロフィール
文:円香(まどか)
現代魔女。アーティスト。留学先のLAでスターホークの共同設立したリクレイミングの魔女達に出会い、クラフトを本格的に学びはじめる。現在はモダンウィッチクラフトの歴史や文化を日本に紹介している。未来魔女会議主宰。『文藝』『エトセトラ』『ムー』『Vogue』『WIRED』などに現代魔女に関するインタビューや記事を掲載。2023年から逆卷しとねとキメラ化し、まどかしとね名義でZINE『サイボーグ魔女宣言』を発売。
漫画・イラスト:幸洋子(ゆきようこ)
アーティスト。日々感じたことをもとに、こねこねこねくり回しながら主にアニメーションフィルムを制作している。趣味は太極拳。自身の絵日記からインスピレーションを受け制作した最新作「ミニミニポッケの大きな庭で」は第75回ロカルノ映画祭にてプレミア上映後、第40回サンダンス映画祭など国内外の映画祭にて公式セレクション。



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