福岡県、佐賀県において採取したカゼトゲタナゴ×アブラボテ、バラタナゴ×アブラボテの交雑個体の報告
※ボテジャコ28号に投稿しようと以前書いた文書です。素人が趣味でそれっぽいことを書いているだけです。話半分で読んでください。
初めに
タナゴ類は比較的種間交雑を作りやすいとされており、人工授精の方法も確立されていることから、飼育下において様々な組み合わせが確認されている[i]。自然下においても種間交雑個体は度々確認されており、特に、SNS(X:旧TwitterやInstagram)やブログなど、愛好家によって採取された種間交雑個体が度々報告されている。
基本的に種間交雑個体は狙って取れるものではなく、その魚類学的形態や生息地の環境などを報告するだけでも学術的な価値はあると思われる。一方で、地方の自然史研究会や書籍、報文、論文などの媒体で発表された、自然下における交雑個体に関する報告はあまり多くない。例えば、今回報告するカゼトゲタナゴ×アブラボテの交雑個体の報告は、私の知る限り佐賀自然史研究会の1報のみである[ii]。
そこで、約3年分の釣りの記録から、2種類の交雑個体(カゼボテ、バラボテ)についてデータを整理したため報告する。なお、生意地保護の観点から詳細な生息地の掲載は行わない。
記録について
今回の報告は、私自身が作成した釣りノートおよび撮影した写真を基に行う。釣りノートは2021年3月ごろから作成しており、釣りをした日時、場所、釣れたタナゴの種類、数、気温などを記録しているが(図1)、私のモチベーション維持の観点から、タナゴが釣れなかった場所や外道(タナゴ類以外)については記録していない。
報告内容およびデータの整理方法
今回は次の4点を軸に報告を行う。すなわち、①交雑個体と判断した特徴②交雑個体の釣れた生息環境③交雑個体の出現割合④交雑個体の外部形態及び親種との比較である。
③の交雑個体の出現割合は、釣り針のサイズやえさの種類など釣りの条件によって変化してしまう。例えば、カネヒラを1号の秋田狐で狙っていたとして、同所にいるニッポンバラタナゴが釣れることはほとんどない(釣りバリが大きすぎるため)。そこで、交雑個体は親にあたる種類と生息環境や体サイズ、餌の趣向性が似ると仮定して、「親にあたる2種が釣れた数に対する交雑個体の釣れた数」を出現割合とした。釣りによる選択圧を小さくして、実際に存在する交雑個体の割合を比較的正確に計算できると考えた。
④の交雑個体の外部形態及び親種との比較については、保存している写真から体長/体高比、背ビレ分枝軟条数、尻ビレ分枝軟条数を計測し、同地域で釣れた他のタナゴ類とその数値を比較した。体長/体高比の測定には、観察ケースを用いて真横から魚体を撮影した写真、あるいは撮影皿を用いて真上から魚体を撮影した写真を使用し、体長は吻端から下尾骨後端まで、体高は腹ビレの付け根から背縁までを測定して算出した。できるだけデータ数を増やすため、計測に耐えうる写真はすべて測定を行った。ただし、同一個体の写真が複数ある場合は最も真横、あるいは真上から撮影できている写真を代表に選んで測定を行った。なお、今回使用した写真の少なくない割合を、婚姻色の出た体格のある個体が占めているため、提出するデータには性別や生存年数に偏りがあると思われる。素人の集めたデータのため、あくまで参考程度に見ていただきたい。
交雑個体の報告
① カゼトゲタナゴ×アブラボテ(カゼボテ)
これまで釣獲した6匹のカゼトゲタナゴ×アブラボテの交雑固体について紹介する。以後、この交雑の組み合わせをカゼボテと呼ぶ。カゼボテらしき個体が釣れた時の判別ポイントとして以下の点を考にしている。
・尻ビレが外側から黒、橙、透明になっており、アブラボテの尻ビレの特徴と類似している。
・体に青の縦線が存在しており、カゼトゲタナゴの特徴と類似している。
・背ビレの分枝軟条数がアブラボテ(8~9本)とカゼトゲタナゴ(9~11本)の本数のいずれかに当てはまる
なお、カゼボテにおける縦線はカゼトゲタナゴのそれと比べて、細く、短く、バラタナゴのような印象を受けるため、バラタナゴ×アブラボテのような交雑個体と一瞬迷うが、こちらは青の縦線がほぼ存在しないため、見分ける重要なポイントの1つだと考えている。釣獲個体はすべて筑後川水系で3地点6匹であった。以下に紹介する。
地点A(筑後川水系)
この場所は3面コンクリで、幅2 mほどの小さな用水路である。底穴タイプの用水路で、底穴の部分は多少の水草と、多くのタナゴ類やハヤが存在する。また、時期によって底穴のない三面護岸水路部分でもタナゴ類を見かけることから、季節によって縦横無尽に水路を移動していると思われる。
表1にアブラボテおよびカゼトゲタナゴ、カゼボテの出現割合、図2にタナゴ類の累計釣獲数を示した。期間中の釣行回数は4回で、釣れたことのある魚種は、釣獲数順にアブラボテ>ヤリタナゴ>カネヒラ=ヤリボテ=カゼボテであった。三面コンクリで一定の流速があるため、比較的流れに強い種類が優先しているのだと考えられる。カゼボテを釣りあげてから、意識して周辺地域でカゼトゲタナゴを捜索したが、カゼトゲタナゴ(およびバラタナゴ)は釣れたことがなく、このカゼボテがどこから来たのかは不明である。また、親にあたるアブラボテ及びカゼトゲタナゴに対するカゼボテの出現率は0.5%であった。
図3に採取したカゼボテの写真を示した。カゼボテの体長は採取時5 cm弱、1年半飼育時点で6 cm強であった。背ビレ分校較条数は9本、尻ビレ分技軟条数は10本、保存している写真は画質が悪く、側線を明確に確認できなかった。飼育開始2年で亡くなったが、採取した時点で一年ほど生きていたと仮定すると約3年生きていたと思われ、タナゴ類としては比較的長く生きたのではないかと思う。また、背ビレが大きく伸長し、通年婚姻色と追星を出して、水槽内のカゼトゲタナゴやバラタナゴを追い回していた。気象の荒さはアブラボテ譲りだと思われる。
地点B(筑後川水系)
地点Aから1 kmほど下流に移動した場所で、水門の前に縦2 m、横4 m、水深1.5 mほどのスペースがあり、年中水が溜まっている。周辺水路の深さが50 cm程度なため、非常に水深がある。また、水量も年中安定しているため、小さめの鯉やフナ、モロコ類なども生息している。タナゴ類は年中釣ることができるが、水路の水が減ってくる晩秋になると越冬のためか、大量のタナゴ類を確認できる。
表2にアブラボテおよびカゼトゲタナゴ、カゼボテの出現割合、図4にタナゴ類の累計釣獲数を示した。期間中の釣行回数は22回で、釣れたことのある魚種は、釣獲数順にアブラボテ>ヤリタナゴ>カネヒラ>ヤリボテ>カゼボテであった。地点Aと魚種に変化はなく、カゼトゲタナゴ(およびバラタナゴ)が釣れたことはないため、このカゼボテがどこから来たのかは不明である。また、親にあたるアブラボテ及びカゼトゲタナゴに対するカゼボテの出現率は0.3%であった。
図5に採取したカゼボテの写真を示した。カゼボテの体長は約5 cmであった。背ビレ分校較条数は9本、尻ビレ分技軟条数は10本、側線は地点Aの個体と同様の理由で明確に確認できなかった。
地点C(筑後川水系)
地点A及び地点Bは上流下流の関係にあったが、地点CはA,Bとは離れた地域にある。中規模河川から水を引いており、下流はクリークへつながっている1面コンクリートの水路である。年中水量が安定しており、タナゴ類以外にオイカワ、カワムツ、ナマズなどが生息している。
表3にアブラボテおよびカゼトゲタナゴ、カゼボテの出現割合、図6にタナゴ類の累計釣獲数を示した。釣れたことのある魚種は、釣獲数順にアブラボテ>カネヒラ>カゼボテ>カゼトゲタナゴ=ニッポンバラタナゴである。アブラボテは年中安定した数とサイズを確認している。また、カネヒラは釣獲数の約7割を8~11月に釣っており、他の季節ではほとんど見かけないことから、産卵の時期のみ遡上してきていると考えている。バラタナゴおよびカゼトゲタナゴはほとんど釣れておらず、下流のクリークでよく見かけることから、メインの生息環境はもっと下流側と思われる。水量、流速が安定しており、ヤリタナゴの生息に適していそうだが、この地域一帯ではヤリタナゴを見たことがない。
釣れたカゼボテは全部で4匹であり、うち3匹は尻ビレの形(後述)と体長から同一個体だと考えている。また、これら4匹とは別に友人が1匹カゼボテを釣っている。釣行回数は30回で、親子体であるアブラボテ及びカゼトゲタナゴに対するカゼボテの出現率は0.7%であった。
図7に採取したカゼボテの写真を示した。また、表4に地点Cで釣れたカゼボテの体長および分子軟条数をまとめた。便宜的に釣れた個体順にC-1,C-2,,,と呼ぶことにする。まず、C-1だが、観察ケースで真横から撮影した写真がなかったため、正確な体長は不明であるが、写真から5 cm程度だと思われたため、()付けで表している。その他、写真が不鮮明で読み取れなかった部分は「不明」としている。また、前述したように3匹は尻ビレの形と体長から同一個体だと考えており、C-2~C4がそれに該当する。
側線鱗(らしきもの)はC-1個体で8枚確認できた。その他は写真が不鮮明で分からなかった。地点A及びBの個体は尻ビレ分枝軟条数が10だったのでその点は異なる。
カゼボテの体長/体高比の比較
上が地点A及び地点Bをまとめたて示したもの。下が地点Cを示したもの。カゼトゲタナゴはどちらの地点でもほとんど釣れてないため、筑紫平野全体で釣った個体のデータを使用している。
図8に地点A及び地点Bと地点Cにおけるカゼボテの体長/体高比の比較を示した。地点A及び地点Bは同一水路の上流下流にあたるため、まとめて示した。アブラボテのデータは各地点で釣れた個体のデータを使用している。カゼトゲタナゴはどちらの地点でもほとんど釣れてないため、筑紫平野全体で釣った個体のデータを使用している。地点A及びBにおける体長/体高比の平均値はアブラボテが2.78、カゼボテが2.74だった。地点Cではアブラボテが2.71、カゼボテは2.78であった。また、筑紫平野全体のカゼトゲタナゴの平均値は2.71であった。
地点A及びBの方が3面コンクリの水路で流速があるためか、アブラボテの体形がより流線形に近い(=体長/体高比が大きい)傾向にあることが分かる。また、カゼボテの体長/体高比はアブラボテとカゼトゲタナゴの中間であり、種間交雑としての特徴が現れていると考えられる。
一方で、地点Cではカゼボテの体長/体高比がアブラボテ及びカゼトゲタナゴの平均値を上回っていた。図8では筑紫平野全体のカゼトゲタナゴのデータを使用しているため分かりにくいが、地点Cと同じ市町村内のカゼトゲタナゴ(n=7)の体長/体高比の平均を算出したところ、2.77だったため、カゼボテの値はカゼトゲタナゴに近い値になっているのだと考えられる。なお、地点Cの地域以外の地域のカゼトゲタナゴの場合、平均値はn=14で2.68だった。地点Cの地域では流線形の傾向が強いと思われる。
②バラタナゴ×アブラボテ(バラボテ)
次にバラタナゴ×アブラボテの組み合わせを紹介する。以後、この交雑固体をバラボテと呼ぶ。バラボテらしき個体が釣れた時の判別ポイントとして次の2点が挙げられる。
・尻ビレが外側から黒、程、黒の順番で黒色の帯が2重になっており、アブラボテの尻ビレの特徴と類似している。
・背ビレの分枝軟条数がアブラボテ(8~9本)とニッポンバラタナゴ(10~11本)の中間である。
よく似たカゼボテと見分けるポイントの一つとして、青の縦線の有無が挙げられる。カゼボテには縦線が存在するがバラボテには存在しない。嘉瀬川水系で1匹のみ釣獲したことがあるため報告する。
地点D(嘉瀬川水系)
この場所は住宅街に流れる用水路の一部である。上流は中規模河川から水を引いており、水量は比較的安定していると思われる。二面コンクリートの水路で、タナゴ類4種とオイカワ、フナ、手長エビなどを確認している。また、バラボテの親であるバラタナゴはまだ確認していない。大阪に引っ越す直前に見つけたポイントのため、3回の釣行しかできておらず、季節も3~5月に偏っており、そもそも狙っていないため釣れていないだけだと思われる。
表5にアブラボテおよびニッポンバラタナゴ、バラボテの出現割合、図9にタナゴ類の累計釣獲数を示した。釣れたことのある魚種は、釣獲数順にアブラボテ>ヤリタナゴ>カゼトゲタナゴ=カネヒラ>ヤリボテ>バラボテである。釣行回数は3回で、親であるバラタナゴ及びアブラボテに対するバラボテの出現率は1.2%であった。今後釣行回数を重ねればもっと低下していくと思われる。
図10に採取したバラボテの写真を示した。採取したバラボテの体長は5.5 cmであった。背ビレ分校較条数は10本、尻ビレ分技軟条数は11本、側線鱗数(らしきもの)は7枚確認できた。
バラボテの体長/体高比の比較
図11に地点Dにおけるバラボテの体長/体高比の比較を示した。アブラボテはこの地点で釣れた個体のデータを使用しているが、バラタナゴはここでは釣れてないため、筑紫平野全体で釣った、ニッポンバラタナゴと思われる個体のデータを使用している。
体長/体高比の平均値はアブラボテが2.80、バラタナゴが2.54、バラボテが2.43だった。カゼボテと異なり、体長/体高比がアブラボテとバラタナゴの中間になっていない。バラタナゴの体形は生息環境に左右される傾向が強いと個人的には思っており、実際、バラタナゴの体長/体高比は最小値=2.15、最大値=2.90と値域が広い。バラボテの親になったバラタナゴの体高が比較的低かった、生息環境的に体高が高くなりやすかったなどが考えられる。
まとめ
今回、タナゴ類における交雑個体の内、カゼボテとバラボテについて生息環境や体長/体高比などのデータと共に採取の報告を行った。私はタナゴ釣りを始めてから3年半の新参者だが、SNSで活動する日本淡水魚愛好家たちとの交流や魚類自然史研究会への参加は、タナゴ類の保全や取り巻く環境を考えるうえで非常に良い刺激となっている。今回の報告は他の愛好家への刺激のお返しと、タナゴ類の保全に少しでも何か役に立てば嬉しいとの思いで作成した。お邪魔じゃなければ次回以降のボテジャコにもヤリボテや突然変異個体について同様の報告を行いたい。
謝辞
本文を作成するにあたって、添削・相談にご協力いただきました、友人のY君及びsakanazukiさんに感謝申し上げます。
[i] 伊藤忠彦編. 2020. 釣り・飼育・繁殖完全ガイド 新訂版 タナゴのすべて. エムピージェー. p49~53
[ii] 佐賀自然史研究編集委員会編. 2021. 佐賀自然史研究会 第27号 2021年11月. p10


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