ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第99話:潰滅

 ※※※

 

 

 

 爆風に吹き飛ばされた二人は──勢いよく遠くまで跳ね飛ばされていた。

 空中を舞いながら、必死にノオトはキリの手を掴む。

 ぐったりとしていて意識が無い。飛び降りた際に爆風と熱気からノオトを庇った所為で、大きくダメージを受けてしまっている。

 

(クソッ!! ぜってー、助けるッスよキリさん……ッ!!)

 

 ふわりと舞い上がっていた二人だったが、後は落ちるだけ。このまま地面に叩きつけられれば命は無い。

 すぐさまノオトは空中でカラミンゴを繰り出し、羽ばたくその背中に掴まった。

 

「くえっくえっ!?」

「カラミンゴ、気張るッスよ!! 羽ばたいて、勢いを殺すッス!!」

 

 とはいえ、人間ふたりを負ぶいながら羽ばたくのはカラミンゴにとっても苦行そのものだった。単純に重い。

 それでも力自慢な格闘タイプとしての意地が、カラミンゴにもある。負けず嫌いは主人に似た。必死に羽ばたき、風に乗る。しかし──その後ろから迫ってくる影。

 

「カァーッ!! カァーッ!!」

「げっ、アーマーガア!?」

 

【アーマーガア わるがらすポケモン タイプ:悪/飛行】

 

 それもヒャッキの姿の個体だ。タマズサの個体よりは明らかに小さいが、それでも2メートルを超える高さの持ち主。それが飛行中に迫ってくる様は、カラミンゴにとって恐怖以外の何物でもない。

 そのまま硬い鋼の翼を苦無のように飛ばし、カラミンゴを狙い撃つ。それを躱すものの、速度が落ちてしまい、カラミンゴはアーマーガアに追いつかれてしまう。しかし。

 

「パーモット!! 雷パンチでブチ落とすッス!!」

 

 すぐさま宙に向かってノオトはボールを放り投げた。そこから飛び出したパーモットが、右腕をブンブンと振り回し──アーマーガアの顔面に痛烈な殴打を加えるのだった。

 雷光が弾け、アーマーガアの身体がよろめく。そのまま、地面へと墜落していくのが見えた。

 落ちて来たパーモットを抱きとめ、ボールに戻すノオト。しかし、アーマーガアが落ちてきた場所から出来るだけ離れなければ、また襲われる可能性がある。

 だが、カラミンゴも限界だった。人間2人、今度はポケモン一匹が乗っかった状態だ。どんどん高度が落ちていく。

 

「ヤバイヤバイヤバイ!! カラミンゴ、ファイトッスよ!!」

「く、くえぇぇぇ……」

 

 とはいえ、流石にそこは鍛えに鍛えただけはある。

 ふらふらと落ちていくカラミンゴは、辛うじて砂地へと着地し、投げ出されるようにしてノオトはキリを負ぶったまま倒れるのだった。

 

「ぱもぉ?」

「へ、へーきッスよ、パーモット……カラミンゴもお疲れちゃんッス……」

 

(た、助かった……マージで今回ばっかりは死ぬかと思ったッス……)

 

 現在進行形で意識不明でぐったりしているキリを寝かせて、ノオトはカラミンゴを引っ込める。かなり無理のある姿勢で飛行した所為か、疲弊しきっていた。

 周囲を見回すが、大分遠くまで飛んだようで、カバルドンが遠くに見える。今の所、フーディンが追いかけてくる気配はない。 

 となると、目下解決せねばならないのはキリの容態だ。

 

(忍者達に引き渡す……? いや、そんな悠長な事してる場合じゃねえッスね。ポケモンのオオワザを食らった以上、一刻も早くキリさんを手当しないと……ッ!)

 

 ノオトはキリの仮面に手を伸ばす。

 不思議と、これを開けるのに強い罪悪感を感じた。彼はいつも仮面を取らず、誰にも見せなかった。取るのは悪い、と思ってしまったのだ。

 先に忍装束の胸元を開ける。

 その下には、多重構造の防弾チョッキが仕込まれていた。金属性のプレートが表面を覆っており、これも脱がせないと危険だとノオトは判断する。

 というのも、応急処置に用いるのはノオトの手持ちの一匹であるパーモット。キリが負った爆破による熱傷と、衝撃によるダメージを回復させるついでに意識を取り戻させるため、パーモットの”さいきのいのり”を使うのである。

 この技は大きなダメージを負ったポケモンや人間に使えば復活させられるという代物なのである。パーモットの場合は、祈りを込めた掌を患者に直接叩き込み、生命エネルギーを流し込むのだ。

 しかし、そのためには、できるだけ体と掌を遮るものが無い方がよい。衣服を身に纏わないポケモンならばともかく、人間相手の場合はそれを取り除かねばならない。 

 更に、この技はパーモットの生体電流を生命エネルギーに変えて放つので、使う際に少なからずパーモットは発電する。その際、相手が金属製のものを身に纏っていると、そこから電気が伝い、感電する可能性がある。

 肌着まで取っ払う必要はないが、このすながくれ忍軍共通のチョッキと、仮面がとにかく邪魔なのだ。

 

(ま、男同士だしそんな気にする必要はねーッスね)

 

 キリを抱き起こす。想像以上に華奢で軽い身体を不思議に思いながら忍装束を脱がせ、防弾チョッキも外す。

 現れたのは──柔らかく白い肌、そして薄い肌着。そして、女子特有の丸みと膨らみだった。

 

(……ま、まあまあまあ!! そう言えばキリさんの性別って分からなかったッスからね!! 勝手にオレっち達が男って思いこんでただけっしょ! うん!)

 

 知ってはいけない秘密を知ってしまったような気分だった。この場に姉が居なくて良かった、と強く強く思うノオトだった。彼女は、キリの事を年上の頼れる自分よりも強い男だと思い込んでいる。世間としても、キリの事は男だという声が圧倒的多数だったし、ひぐれのおやしろ側も否定していなかった。

 しかし事実は違っていた。それだけの話である。性別など些事、今更何を気にする必要があろうか、とノオトは仮面に手を掛けた。顔を覆うのは金属製のプレート。

 彼──改め彼女の安全の為にも、ノオトがそれを取っ払おうとしたその時だった。

 

 

 

「しゃらんしゃらんしゃらん!」

 

 

 

 勝手に、キリの腰のボールからメテノが飛び出す。ごろんごろん、と転がったメテノは抗議するように強く鳴き、ノオトとパーモットの前に現れた。

 

「ど、どうしたんスか!?」

「しゃらんしゃらん!!」

「な、まさか仮面を取るのがダメって──そんな事言ってる場合じゃねえんスよ! キリさんがヤバいの、あんたなら分かるっしょ!?」

「パモパモ!!」

「しゃらん……」

 

 ごろん、と転がったメテノは心配そうに鳴いた。キリとメテノは、彼女が小さい頃からの付き合いだ、とノオトは聞いた。メテノは宇宙から降ってくる塵がポケモンとなった存在。野生では長く生きられない。故に家族意識は薄いが、生かしてくれているトレーナーへの忠義は厚いのだろう。

 

「……メテノ。これはキリさんを助けるためなんス。大丈夫、キリさんの仮面の下はオレっちとパーモットが墓場の下まで持っていくッスから」

「しゃらら……」

「男の約束ッスよ! あんたに性別ねーッスけど!」

「ぱもお!」

 

 パーモットが「心配するな」と言わんばかりにメテノの外殻を叩いた。

 メテノはしゅん、と落ち込んだ様子で主人の顔を覗き込む。

 

「パーモット、充電開始ッスよ。メテノも離れてるッス」

「しゃら……」

「キリさん済まねえッス。オレっち、この下はちゃあんと忘れるッスから」

 

 ノオトは布と鉄製のプレート、そしてスコープを取り外していく。変な汗が背中から噴き出していた。

 何故か、それを取ってはいけないような気がした。治療の為に必要な事なのに。

 

(へっ、何ビビってんスかオレっち! 後でたっぷりと貸しを付けて踏んだくってやるッスよ……!)

 

 虚勢だった。

 額には雫が伝っていたし、喉はからっからに乾いていた。

 思い切って眼を覆い隠すスコープを剥ぎ取り、頭を覆う布を外す。

 

「え?」

 

 露になったのは──綺麗に後ろで纏められたブロンドの髪。長いまつ毛。しかし、幼さを残す顔立ち。見間違うはずもなかった。

 幾度となく目にし、共に修行までした相手が目を瞑っている。

 その事実も、そして不思議と点と点が線で繋がっていく感覚も受け入れられず──ただただ目の前の事実を確かめるように、ノオトはその名前を呼んだ。

 

 

 

「ゴマノハ……さん?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

【フーディン<ギガオーライズ・フェーズ2> タイプ:炎/フェアリー】

 

 

 ──仙狐・ワカツミタマ。

 ヒャッキ地方のキュウビの国に伝わる伝説のポケモンであり、ヒャッキに生息するフーディン系統のルーツとも言える大妖怪。 

 その姿形は、現存するヒャッキフーディンのそれとも大きく異なり、半ば獣の如き四肢と身体。そして、九つに別たれた尾には勾玉が括りつけられている。

 フーディン特有の髭は長く、そして大きく伸びており、その姿は──仙狐と呼ぶのが相応しい。

 ギガオーライズのフェーズ2は、最早ポケモンのオーラを纏うに留まらない。ポケモンの身体を依代にして、伝説のポケモンを()()()()()()に等しい所業だった。

 

「三羽烏が降りて来た!! 拘束しろッ!!」

「身の程知らず──」

 

 青い火の粉が周囲に充満し、そして大きく爆ぜる。

 忍者達も、そしてポケモン達も爆風に吹き飛ばされ、爆炎にその身を焼かれていく。

 そればかりか、忍者達の身体はふわりと浮かび上がり、次々に吹き飛ばされる。

 

「──想像以上、良い意味で計算外。これだけの力があれば、もうイヌハギにも負けない──ふ、ふふっ、脚二本を犠牲にしたおつりは返って来た──ッ!!」

「ッさっっっせるかァァァーッ!!」

 

 だがそこに切り込んだのはバサギリ。

 岩の斧を振り回し、思いっきりフーディンを切り付ける。

 しかし、フーディンの念動力でぶつかる直前で止められてしまう。

 だが、その攻撃は囮だ。すぐさまフーディンの足元から幾つもの影の爪が突き刺される。

 

「ッ……これは、アケノヤイバの──!」

 

 取り囲むようにしてアブソルがカバルドンの影からぬぅと姿を現した。

 メガシンカはできないが、ギガオーライズならばできる。アケノヤイバの力を得たアブソルがフーディンを影に縫い付けている。

 だが、見た事の無いフーディンの姿にメグルは戸惑っていた。放たれている邪気が、イッコンで交戦した時とは比べ物にならない。

 

(何だ、どうなってんだ……!? 何があったんだ──!? ギガオーライズ、だよな──!?)

 

「メグル、って言ったっけ」

 

 ぽつり、とフーディンの背に乗るアルネが呟き、メグルの方を睨む。

 

「……貴方が。貴方が姉さんを誑かした──」

「誑かしたァ!? お前らが滅茶苦茶やるから、愛想尽かされて出てっただけだろーが!! テメーの自業自得を俺に押し付けんな!!」

「貴方が居る限り、姉さんは戻って来ない」

 

 フーディンの眼が不気味に光り、影の中に潜んでいたアブソルも、バサギリも一気に浮かび上がり、砂の上に叩きつけられる。

 その一撃で二匹ともダウンしてしまい、起き上がらない。

 

(なんて威力だ……今の、サイコキネシスか……!?)

 

「……丁度良い。まとめて潰す」

 

 次の瞬間だった。アルネとフーディンが宙高く浮き上がり、ぱっ、とカバルドンの巨体が消失する。

 そして、再び忍者達が目を開けた時には、全高20メートル、全長40メートルの質量爆弾が──空の上に浮いていた。

 

「な、何をするつもりだ……!?」

「”サイコキネシス”」

 

 恐ろしい勢いでカバルドンが投下される。

 忍者達が集まっている場所目掛けて。

 それを見たヨイノマガンは起き上がって跳び、カバルドンを背中で受け止めた。

 3万トンは下らない巨体をサイコパワーで押さえつけ、極力勢いを殺し、忍者達を庇うヨイノマガン。

 しかし、その重量に耐えきれるはずもなく、ビキビキと音を立ててその身体に罅が入っていく。

 だが、忍者達が逃げる時間を稼ぐには十二分だった。

 

「ヨ、ヨイノマガンが……ッ!!」

「退避!! 退避ーッ!! ヌシ様の厚意を無駄にするなーッ!!」

 

 間もなく、ズドォンと重い音と砂煙を巻き上げて、カバルドンにヨイノマガンは押し潰され、沈黙した。

 砂と岩でできた羽根は崩れ、身体も割れてしまっている。

 

「ヌ、ヌシ様が……!」

 

 忍者の一人が声を上げた。ヨイノマガンの身体は破損し、欠けて、もう戦えるような状態ではない。

 確かにエスパータイプは念動力によって物体を移動させることができる。

 しかし、その質量には当然限界が存在する。体高20メートル、全長40メートル、推定体重3万トン以上の怪物を浮かび上がらせることなど、伝説のポケモンでなければ不可能だ。

 この時点で忍者達は、あの仙狐に勝ち目など無いと察してしまった。

 

 

 

「なら──出来ない事なんて、何も無さそう」

 

 

 

 ──再び、カバルドンの巨体が消え失せる。

 忍者達は再び真上を見上げたが、そこには何も無い。

 そして──おやしろの方を指差して誰かが言った。

 

「オイ見ろ、あれを──ッ!!」

 

 質量爆弾は──おやしろの直上に浮かび上がっていた。

 それを間髪入れず、そして情けも容赦もなく、アルネは残酷に命じる。

 

 

 

 

「──落としちゃえ、フーディン」

 

 

 

 

 カバルドンの身体が真上から、ひぐれのおやしろの御殿を叩き潰す。

 その様を、全員が唖然とした様子で眺めるしかなかった。

 当のメグルは膝を突いてしまった。

 自分達のやってきたことは、持っている力は、それを前にしてあまりにも──無意味で、無駄で、あまりにもか細く頼りなく。

 めきめきめき、と砂に埋もれた木造のおやしろはあっさりと潰されてしまうのだった。

 

(何だよ、これ……こんな事、あって良いのかよ……!?)

 

 再び、カバルドンは元居た場所へと瞬間移動する。流石に念動力で2度も落とされたことで白目を剥いてしまって泡を噴き出していたが、それでもまだ息がある。 

 それだけ弱ってしまったので、アルネが瓢箪を向けるとあっさりと吸い込まれてしまう。やはりどんなに巨大でもポケモンはポケモンなのだった。

 一連の行動でフーディンも力を使い果たしてしまい、ギガオーライズは解除され、元の姿へと戻ってしまったものの、まだ余力があるようだった。

 

「……実験完了。想像以上。これが……ワカツミタマの真の力。念動力、呪術、そして爆炎……全部フェーズ1よりも格段に強くなってる」

 

 おやしろの破壊、そしてヌシの無力化。

 その両方は達成され、完全に彼女はクワゾメでの役割を終えた。

 完全なる敗北。そして、圧倒的な力の差を見せつけられた忍者達がアルネとフーディンに手を出すことなど出来はしなかった。

 無理もない。特大質量を念動力で玩具のように振り回せるポケモンが、自分達の精神的支柱を破壊する様を目の当たりにしたのだから。

 尤も、仮に追えた者が居たとして、フーディンに勝てるかどうかはまた別問題であるが──

 

「……さあて。姉さんは何処にいるのかな」

「ッ……言うわけねえだろ!」

「そんなに怯えた顔をしないで。私はイヌハギと違って尋問は得意じゃない」

 

 アルネは、メグルに近付くと冷酷に告げる。ひゅっ、と彼の体温が下がった。撫でただけで人を殺せそうな気迫を彼女は放っていた。

 

 

 

「姉さんを……アルカ姉さんを1時間以内に、壊れたおやしろの前に差し出して。さもなきゃ今度は、クワゾメにカバルドンを落とす」

 

 

 

 そう言い残し、アルネはフーディンに負ぶわれたまま、その場を立ち去る。

 あまりにもあっけなく、そして絶望的な決着。

 忍者達は項垂れ、膝を突くしかなかった。

 だが、戦意を喪失している場合ではない。組織としての命を果たしたアルネが次に狙っているのは、姉のアルカだ。

 すぐさま、すながくれ忍軍全員に作戦の失敗が通達される。そして、まだ三羽烏がクワゾメに留まっていることも通達される。

 間もなくメグルのスマホロトムにアルカからの電話が掛かってくるのだった。

 

「ねえ、おにーさん!? 何があったんですか!? おやしろが壊れたって……! ねえ、おにーさん!?」

「ッ……」

「大丈夫なんですよね……おにーさん、聞こえてますか?」

「あ、ああ……大丈夫、だ」

 

 その後に続く「俺がアルネを倒してやる」の一言がメグルには言えなかった。

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