ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

107 / 225
第97話:メガキャンセラー

「あれ──?」

 

 

 

 メガシンカは起こらなかった。ルカリオも、バンギラスも、全く変化が起こらない。

 彼女の腕には黒いバングルが巻かれていてそれが妖しい光を放っている。

 

「……確かに私は三羽烏の中では最も弱い。だけど……この頭脳は誰にも負けない。負けたことがない」

 

 コンコン、と彼女は自らのこめかみを叩く。それで何が起きたのか、ノオトもキリも理解した。

 あのバングルが、メガシンカを阻害しているのである。

 

「かわらずのいしの力を研究し、開発したメガキャンセラー。貴方たちキャプテンに効果は覿面のはず」

「ッ……やっぱコスい手使ってきたッスね!!」

「……ある意味想定通りと言えば想定通りでござる──ッ!!」

 

 オニドリルが飛翔し、バンギラスを狙って飛び掛かる。

 すぐさま岩の刃を放ってそれを防ぐバンギラスだが、鈍重さが災いして攻撃を当てることができない。

 

「ノオト殿!!」

「ハイッス!!」

 

 しかし──それは、あくまでも囮。

 鋭い岩の剣に、フーディンとオニドリルが気を取られたその一瞬で、キリはバンギラスにボールビームを当て、もう片方の手に忍ばせていたボールを放る。

 

()()()()して、安全に交代させた……!?」

 

「砂は撒いた! 速度で圧倒し、喰らいつくッ!!」

 

 

 

【ルガルガン(まひるのすがた) オオカミポケモン タイプ:岩】

 

 

 

 降り立ったのは首周りから鋭い岩石の突起物が生えた、狼の如き獣。

 それが地面を蹴った時、アルネの視界から消えた。気が付けば、オニドリルは首を噛まれ、叩き伏せられていた。

 

(はっ、速──ッ!!)

 

「凍てつけ──”こおりのキバ”!!」

「ッ……フーディン“しきがみらん──”」

 

 バキバキ、と音を立ててオニドリルの身体は凍っていく。 

 地面・飛行タイプに氷技は4倍弱点。地中に潜ることに適した嘴の先まで凍えていく。

 そしてフーディンが大量のお札を浮かび上がらせようとした瞬間、鉛の如く重く、そして弾丸よりも速い拳が襲い掛かる。

 

「──コルクスクリューのようにぶち抜かれたことは、あるかよ?」

 

 フーディンは攻撃に使うはずだったお札を身代わりにして避けなければ倒れていた。

 それほどまでに強く抉るような、そして音を置き去りにするような一撃だった。

 躱すことこそできたが、アルネは戦慄していた。オニドリルが倒された上に、結局フーディンは何もできなかったのである。

 

「……そう、分かった。その犬のようなポケモン……砂嵐で素早さを増すのね。しかも利口。それ以上近付けば、フーディンの張った罠に掛かって自分が倒されることを分かってる」

「ガルルルル!!」

「此処まで抜け目のない貴殿のような女が、本当に無防備を晒すわけがないでござるからな」

 

 ルガルガンがアルネを狙って首元の岩を弾丸のように飛ばすと──間もなく爆ぜた。 

 そしてはらはら、と地面に燃えカスになったお札が落ちる。

 ドーム状のように、透明な御札がアルネの周囲に浮かんでおり、彼女に危害が加わった瞬間爆ぜるようになっているのだろう。

 

「……どの口が。その犬っころ……前に戦ったドラパルトよりも速い……ッ!」

「そりゃそうッスよ。すなかき発動したルガルガンは、姉貴のドラパルトでも追いつけねえッス」

 

(んでもって、的確に相手の弱点を突く技を覚えてるから……相手は死ぬしかねーッス。キリさん自慢の切り込み隊長ッスよ!)

 

 よあけのおやしろはヌシのタイプの都合上、岩タイプのエキスパートの集まりと思われがちだ。

 しかし、実際には鋼、地面、岩と砂嵐の下でダメージを受けないタイプの使い手達が揃っている。

 彼らは岩使いではなく、砂使いが正しく、そこから更に戦い方が個々人で派生していく。先代のウルイは岩タイプに特化していたのに対し、キリの戦術の軸は”砂”だ。

 天候を操り、砂嵐を撒くことで恩恵を受けるポケモンで手持ちが固められているのである。

 

「でも……それで勝てると思ってるなら──」

 

 その時だった。

 フーディンの周囲の空気が一気に変わる。

 

 

 

【フーディンの にほんばれ!】

 

【ひざしが つよくなった!】

 

 

 

「──三羽烏、()()()()

 

 砂嵐はぴたりと止み、曇天の切れ間から陽の光が差し込んだ。

 ルガルガンに纏わりついていた砂は一気に霧散し、その素早さは一気に失われる。

 

「これで一気に戦況は覆った」

「……ならば、先制技で落とすでござるよ! アクセルロック!」 

「追従するッス!! ルカリオ、バレットパンチッス!」

 

 ルガルガンが突貫し、フーディンに喰らいつく。

 しかし喰らいついた身体はバラバラになり、無数の御札となってしまう。偽者だ。

 更にはらりはらりと宙に舞った御札が連鎖的に爆発して、ルガルガンは勿論、後続のルカリオをも巻き込んで焼いていく。以前よりも、御札の爆発の威力が格段に上がっている。

 すぐさま起き上がるも、2匹の身体は青い炎が纏わりついていた。火傷状態だ。

 

「クソッ、聞いてはいたが、本体の場所が全く分からないでござる──!」

「ハズレ。本物はこっち」

 

 キリとノオトはその声で振り向いた。

 既にフーディンは彼らの後ろを取っていたのである。

 既にルガルガンの素早さの優位性は失われた。この戦場を支配するのは、フーディンだ。

 

「……遊びはおしまい」

 

 アルネは数珠を取り出し、オージュエルを指でなぞる。

 フーディンは赤い炎に包まれていき、九つの尾を持つ、白き仙狐の如き姿へと変貌した。

 

 

 

「──ギガオーライズ”ワカツミタマ”」

 

 

 

【フーディン(ギガオーライズ) おんみょうポケモン タイプ:炎/フェアリー】

 

 

 

「この猛る灼熱、紛れもなく炎タイプか──ルガルガン、アクセルロック!!」

 

 ルガルガンの姿が再び消えた。

 そのままギガオーライズしたフーディンを仕留めるべく高速で突貫する。

 しかし、その身体を襲うのは、爆発。

 動こうとしたルガルガンの足元が大きく爆ぜ、吹き飛ばしてしまった。

 

「あ、足元も!?」

「──気を付けた方が良い。ギガオーライズしたフーディンが操るのは”発火”。何も無い場所でも、すぐに火を付けたり爆破できる」

「自然発火ということでござるか……!」

「ッ……これじゃあ、手の出しようがねぇッス……!」

 

 そうこう言ってる間に、ノオト達の足元も妖しく光る。

 すぐさま彼らが飛び退くと、立っていた場所が爆ぜるのが見えた。

 ルガルガンを再び粉塵が包み込み爆発が巻き起こる。あまりの威力の高さに、耐えられず、ルガルガンは倒れてしまうのだった。

 加えてルカリオも、何が起きたのかも分からないまま膝を突いてしまう。

 切札的存在を瀕死にさせるわけにはいかないので、ノオトは彼をボールに戻す。

 

「どうなってるんスか!?」

「前触れに、火の粉が集まっていくのが見える。何処が爆発するかはそれで分かるでござるが──」

「避けられるかどうかは別問題っしょ!?」

「ッ……炎技なら日差しを先ず何とかせねば! バンギラス──」

 

 再びバンギラスを繰り出そうとした矢先だった。

 キリの周りを火の粉が包み込む。

 

「危ないッ!!」

 

 思わず、勢いよくノオトがキリを突き飛ばした。

 次の瞬間、火の粉が凝縮して勢いよく爆発した。

 

「かたじけないでござる、ノオト殿……!」

「やべーッスよ、コレ……! 幾ら何でも前触れ無く人やポケモンを焼けるわけじゃねーみたいッスけど……!」

 

 発動時には必ず、火の粉が現れる。

 その場を動かなければ、対象は炎に包まれて爆破に巻き込まれる。

 ラグこそあるが、いきなり爆発が起きるのは脅威そのもの。二人は動き続けて、ポケモンを出すチャンスを狙うが、モンスターボールを出す手に火の粉が纏わりついたので飛び退くとすぐに爆発したり、着地した場所に火の粉が現れたので走って爆発から逃れたり、と息吐く暇もない。

 普通の人間ならば、とっくに爆炎に包まれているところである。一発一発の爆発は然程強くなくとも、足を止めたが最期何度も爆発に巻き込まれ、命は無い。

 以前のアルネは、ギガオーライズ後のオオワザに気を取られ、フーディンの性質変化を正しく理解していなかった。呪術はあくまでも副次的な要素に過ぎず、ワカツミタマが齎す真の災禍は()()()()だったのである。

 

「タマズサに負けて、あれから修行して強くなったつもりなんだろうけど……まさか、私があれから寝てたと思ってる?」

「ッ……メガシンカ封じておいて、ポケモン出すのも邪魔しておいて、イキり散らかしてんじゃねーッスよ!!」

「ウィークポイントは潰すもの。改善点は改善するもの。科学者として当然のことをやっているまで」

「開き直ってんじゃねー!!」

「……そろそろウザいし、片付けるかな」

 

 アルネと同時に、空気中に大量の火の粉が充満する。それが意味するのは、辺り一帯全ての爆破。

 確実な死を察知し、ノオトもキリもその場から走り出した。

 

「こんなのアリッスか!? あいつも吹き飛ぶっスよ!?」

「最早なりふり構ってられないでござる!! 飛び降りるでござるよ!!」

 

 当然、自らも爆発に巻き込まれるリスクに晒されるアルネだが、彼女を守るようにして御札が周囲を取り囲み、”守”の文字が現れる。

 

「対爆破防御完了……()()()()()()()、起爆して」

 

 火の粉が凝縮した。熱がその場に満ち満ちる。

 

 

 

【フーディンの ばくえんあらし!!】

 

 

 

 間もなく、爆発が巻き起こる。

 ギリギリで皿の上から飛び降りた二人を──容赦なく熱の突風が吹き飛ばした。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 キャプテン二人とアルネの交戦が確認された時点で、作戦は開始された。

 先遣隊がカバルドンの脚を爆破した後、キョウ達がカバルドンに接近して弱体化を図る。

 幾ら巨大と言えど、ポケモンはポケモンでしかない。技を使えば、幾らでも能力を下げる事はできるし、状態異常にもなる。

 忍者達の乗るハガネールが、カバルドンに向かって甲高い金属音や、嫌な音を浴びせかける。

 全高20メートルと巨大なカバルドンだが、ハガネールも全高9メートル以上と巨大な部類なポケモンだ。ぎりぎり、その音を怪物の耳に届かせることに成功した。

 通常種と比べて青い目がぎゅっ、と不快感で瞑られる。効果はあるようだ。

 そして、そのままハガネールたちは、怪物を足止めするべく身体全部で足にぶつかっていくのだった。流石に馬力が違うのか、押し切られてしまっているが、巨体の動きは止まっていく。

 

「──モルフォン、アシッドボム!!」

 

 フシギバナの上に乗っていたキョウは、モルフォンに指示し、強酸性の毒の爆弾をカバルドンの顔面にぶつける。

 すぐさま呻き、足を止めるカバルドン。ダメージは殆ど入っていないものの、その特殊防御力は先の金属音も合わせて、かなり下がっている。

 

(それにしても……さっきからメガシンカを試みているが、フシギバナの姿に何も変化が起きない。何かが起きてるな……!)

 

 キョウがメガリングに触れても、フシギバナはメガシンカしない。

 巨大な敵相手に、耐久性を確保したかったキョウだったが、何度か試みた後にそれが三羽烏の策によるものであることを察する。

 こちらの作戦に大きな支障はないが、気掛かりなのはノオトとキリの二人だ。幾らキャプテンと言えど、メガシンカが無ければ三羽烏の相手は厳しいものとなることは想像に容易い。

 

(……今は、カバルドンの弱体化が最優先だが……どうか無事であってくれ!)

 

「今だ! ヤツの動きを完全に止めよ!」

 

 インカムにキョウは指示を出す。

 それを受けて飛び出したのはモトトカゲに乗ったアルカだった。

 巨体を前に、息を詰まらせる彼女だったが、臆せずにボールを投げ込む。

 飛び出したのは流島で捕獲したポケモン、ジャローダだった。

 この場で彼女に命じられた大きな役割、それは──

 

 

 

「──”へびにらみ”!!」

 

 

 

 ──カバルドンを麻痺させて、進軍を止めてしまうことである。

 ギィン、と赤く鋭い目がカバルドンを睨み付ける。

 支配者の魔眼と目があったことで、カバルドンの巨体は痙攣し──そのままがくり、と動きが止まってしまうのだった。

 当初、カバルドンを毒状態にするか麻痺状態にするかは意見が割れたが、あの巨体では毒を盛ったところでなかなか倒れはせず、戦況には影響しないと判断されたのである。

 そして麻痺は自然に回復することはない。これで、半恒久的にカバルドンの動きは封じられた。

 

「よ、よっし! 麻痺した! 成功だ!」

「キィーイ!」

 

 嬉しそうにジャローダは甲高く鳴く。

 しかし、喜んでいたのも束の間。今の今まで大人しく攻撃を受けるだけだったカバルドンが──遂に動き出した。

 麻痺してしまったため、その動きは鈍重そのもの。しかし、ひとたび吼えただけで周囲にはいきなり水が溢れ出す。

 

【カバルドンの──】

 

 

 

「退避!! 全員退避!!」

 

 

 

【──だくりゅう!!】

 

 

 

 反撃を予期していた全員は予め離れていたが、大洪水が引き起こされ、周囲の砂地を水の中に飲み込んでいく。

 すぐさまオトシドリによって空中に逃げ込んだアルカも、思わず声を漏らす。

 水に巻き込まれたハガネールたちが力無くぐったりと倒れていくのが見えた。忍者達は、すぐさまエアームドに乗って、倒れた手持ちを引っ込めて逃げていく。

 

(やっぱりとんでもないヤツだ!! あんなのが町で暴れてなくて良かった!!)

 

 もう少し遅ければ、自分はあの中に沈められていたかもしれない、とアルカは恐怖を感じるのだった。

 

(よ、よくこんなヤツ相手に戦ったよ、ボク……いや、麻痺を入れただけなんだけどさ……マージでちびるかと思った……)

 

 ばくばくばく、と未だに心臓は鳴り続けている。

 ともあれ、弱体化班は第一の仕事を終えた。

 カバルドンの弱体化には成功。その分厚い皮膚による防御力は軟化し、更に麻痺状態に。

 だが同時に、全員はカバルドンの引き起こす技が並みのポケモンのオオワザ以上の災害を齎すものであることを目の当たりにすることになった。

 そもそも、幾ら元の威力が低いとはいえ、特防が下がっている上に効果抜群であるモルフォンのアシッドボムですら、カバルドンはダメージを受けている素振りを見せなかった。

 巨大であること、単純にそれに伴う防御力の高さは、この場に居る全員の想像を優に超えており、徹底的に弱体化させて、漸くまともに戦えるかどうか分からないレベルだ。

 

(──後は頼んだよ、おにーさん……!)

 

 臨時拠点に戻っていく中で、アルカはあの怪物と真っ向から戦うメグルにある種の同情を禁じ得ないのだった。

 カバルドンは未だに外敵を振り払う為に、口から水を吐き出し続けており、近付くこともままならない。

 しかし、麻痺したことが響いているのか、そして弱体化技による不快感が想像以上に大きいのか、しばらくすると技を止め、再び進軍を始める。

 その時だった。

 

 

 

 ──ドッガァァァァァァァン!!

 

 

 

 爆音が鳴り響く。

 硝煙の匂いがこちらまで漂ってくる。

 カバルドンの皿が──爆発したのである。

 当の怪物も驚いたのか、ぴったりと動きを止めてしまった。しかし、頭部で起きたことなので成す術がないようであった。

 それよりも当然アルカが心配になったのは、カバルドンの頭の上で戦っていたはずのノオトである。

 

(え、ええええ……!? ノオト……死んでないよねぇ!?)




※ちなみに、オトシドリと入れ替えとなったのはゴローニャです。草も水も4倍だから仕方ないね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。