あなたの為のオーケストラ 其の十二
朝活団とかち合った時の「あ、こいつらとは死ぬまで殴り合わないとダメだな……」的な絶望感
平成最後の古戦場はやっぱつ令和……
彷徨う大疫青、サイズは普通の馬……よりもむしろ小さいくらいだ。お前、本当はポニーとかなんじゃないのか?
だが遠距離から狙うには難易度の上がる小ささも、今からやろうとしている検証ではありがたい要素だ。
「凄いねぇ、ああいうとりあえず死んでみよう! って人、シャンフロだと少ない部類だから検証勢的にありがたいですねーウサちゃん」
「エムルですわ!!」
「んーそうだねー、ほっぺやわらかー」
「ぐっ、ぐいぐい来るですわこの人ーっ!!」
自分のリズムを相手に押し付けるタイプ、つまりノッてる時のシルヴィア・ゴールドバーグに似た手合いって事だ。スケープゴートならぬスケープラビット頼むぞエムル。
「あの馬ってさ、近付くほどHPを上限ごと削ってきてさらに近付くと別のデバフが「発症」するわけだろ?」
「ですねー、ちなみに色々試したけど呼吸感染の線が濃厚です。しかもガスマスク的装備貫通してきます」
「なんつーバイオテロ……いや、それを聞いて心強くなったわ」
「安心できる要素あったかなぁ?」
安心感の塊だぜ、なにせ呼吸を経由して感染というプロセスが分かっただけでもありがたいのに呼吸感染という時点で笑みすら溢れる。
「えー、はい、じゃあ検証「真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす」の概要を説明しまーす」
「やんややんやー」
「真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす、以上」
理論上の最高速度は面倒なのでちょっと無理だが、まぁ軽く………
封雷の撃鉄・災、藍色の聖杯でLUCをVITに変換、前方よーし、右見て左見てもっかい右見て……
「あ、そこの魔法使いちょっと退いてくれー」
「え?」
退いたな? よし行こう。
「あ、実験録画風にしてるけどなんかコメント入れる?」
「実験記録、○月○日……この実験が成功すれば、人類はさらなるステージへと歩を進めるだろう……」
「それ八割がた失敗する導入ではー?」
やたら再生力が高いモンスターが生まれるパターンな、アクション系のホラーゲーだと定番のやつ。
「必要プロセスは三つ……ステータス強化、ルート確保、そして……」
ためらう事なく死にに行く勇気!!
「検証! 追突事故を起こした場合彷徨う大疫青はどんな挙動をするのかァーっ!!」
「ひゅーっ! いい画が撮れそーう!!」
臨界速起動! 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!!
普段は地上を走ると高確率で地面か壁のシミになるため空中ジャンプを絡めた立体起動で使うスキルだが、今回に限っては障害物目掛けてノンストップで加速していく。
地上で纏雷状態のまま臨界速を使うのは結構リスキーだ、何せ挙動をミスると地面をおろし金に俺おろしが出来てしまうからな。だから厳密には坂道を登るように僅かずつだが上方向きで駆けていく。
「くっ」
距離が足りない、仕方ない失敗確率が増えるが一気に踏み込みを刻んでいく!!
臨界速は一歩毎に速度が加算されていくムカデ砲のような加速スキルだ、踏み込んだ向きに加速が働くため、使いようによっては加速を加速で打ち消して安全に着地というテクニックもある。
では短いスパンで連続踏み込みをした場合どうなるのか。
「へぶるっ!?」
こうなる。
バランスを崩して錐揉み回転しながら吹っ飛んだ俺の身体が下手くその投げた紙飛行機のように宙を舞う。いや違うな、連続で踏み込んだ三歩分の加速が見当違いの場所に吹っ飛ぶことを許さない。
基本的に走る、というアクションは右足と左足を交互に前へと出す動作だ。それをアホみたいな加速倍率で、しかも瞬間的にやった場合、普段は平衡感覚で保っているバランスが一瞬で崩れるのだ。例えるなら左右にシェイクされる感じ。
だが侮ったな大疫青。もとよりHPなぞ1残っていれば上等、呼吸感染なら吸い込む前に俺が着弾する───!!
「食らってくたばれ弾丸プランチャ・スイシべりゅっ!!!」
「Brrrrrrrrooaaaa!!?」
舌を噛んだ、そして痩せ馬の胴体に横向きに吹っ飛んだ俺の身体、その腹が命中してゆるい「く」の字になって運動エネルギーが炸裂する。
近付くほどデバフがかけられる? そうだね致命傷になる前に肉薄できるだけの速さを用意してみよう。
魔法に干渉してくる? あいにく俺という生肉は純物理なのだ。
それじゃ答え合わせだ、最大速度が繰り出した横向きプランチャ・スイシーダを食らった目を持たない異形の痩せ馬はどうなるのか?
「ぐべあっ!!?」
「Brrrrrrr!!?」
後も先も考えていない自爆タックルに巻き込まれた大疫青が勢いよく進んできた道を逆方向に吹っ飛んでいく、ついでに俺も吹っ飛んでいる。
ぐしゃあっ! と一頭と一人が地面に叩きつけられ、そのままゴロゴロと転がっていく。当然だが俺の体力は上限削りも合わせてゼロになったのでそろそろ死ぬわけだが、死ぬ前に首から地面にイッた大疫青がちらりと視界に入った。
「あん?」
なんか背中に……変な亀裂入ってね? がくっ
◆
「いい画撮れた?」
「クソ面白いから動画サイトに上げていいです?」
「タイトルは?」
「んー、「馬にルチャ決めたったwww」とか?」
「なんか脱皮しそうだぞあいつ」
「その話詳しく」
流石は【ライブラリ】と言うべきか、一瞬で考察厨の顔になったぞこいつ。
「背中に妙な亀裂があった、自傷にしては変だし多分俺が突っ込む前からあった傷だ」
「単なるデザインでは?」
「貪る大赤依は四、五形態あったぞ」
「ふーん………やっぱ大赤依倒したのって、ふーん」
俺の口はトリプルアクセルでもしてんのか、滑りすぎだろまぁいいや。どうせ後続が出てくるのが当然のコンテンツだ。
「ジークヴルム戦の時点で隠すつもりもねーよ、ただ後続の方々には苦しんでほしいので攻略法は明かさない」
「いけずー」
話を戻そう、俺と違って存命中の彷徨う大疫青は突然のハシビロコウ・ルチャドールに警戒しているようで一時的だろうがその動きを止めている。
その機を逃すのは不味い、と初心者でも分かるのかまばらに存在していたプレイヤー達がわぁわぁと近づいていくが、やはり高レベルプレイヤーにとってはつらい相手である事に変わりはなく、チラホラと大疫青に辿り着く前に倒れるプレイヤーも見えた。
「快挙ですよサンラクさん、大疫青が立ち止まるだけならまだしも、露骨に警戒してるのは初めて見ましたね」
「投石機が最適解じゃねーのこれ」
「投石機……NPCの協力不可欠系ですかね?」
「そもそも作れるかどうかも知らないよ俺は」
少なくとも五十メートル以下ならインベントリアには入るから可能性はゼロではなさそうだ。
大質量で吹っ飛ばすのが最適解っぽいし、俺みたいな肉弾特攻じゃなくてもそれなりの質量を遠距離からぶつける手段があれば有利に立ち回れそうではある……なお第二形態疑惑は考えないものとして、だが。
「あと十回くらい同じことすればサードレマから大きく距離をとらせることができそうだね」
「じゃ、俺は新大陸に行くから……」
「そういえば、なんでこっちに来てたんで?」
「修行、行くぞーエムル」
「はいなっ!」
◇
「いやー、面白いもの見れましたねーああも思いっきり死ねるならシャンフロで鬼行軍できるの納得」
「あれについてくのはだりぃわー……」
「全くですねー、【旅狼】が手綱を離してる感じがするのも納得。あれは確かにほっといた方が凄いことやってくれそう」
「…………」
「んー、ウチが調べた限りじゃ現時点で結構カッ飛んでるのに「修行」ね……タイムリーなとこだとオルケストラ関連かな?」
「ゴルドゥニーネじゃねーの…?」
「あー、そっちかも。でも私的にはオルケストラ関連だといいなぁ、って感じ」
「……まぁ苦労するのは当機じゃねーし」
「ミレィさん! 交代です!!」
「運が悪かったですねー、今さっきめちゃくちゃ面白い事が起きてたのに」
「どうせ録画してるんでしょう?」
「おーあたりー、じゃあ私達もそろそろ新大陸に……オルケストラんとこに行きますか、レミィちゃーん」
「了解:なるはやで頼むわ」
「効率厨に怠惰キャラつけるのキャラメイク的に感心しちゃうなー……どうせなら新大陸行く前にデートしますかレミィちゃん、パフェ食べよーぜパフェ!」
「勘弁してくださいよミレィさん……ディプスロさん帰っちゃいますよ?」
「テイクアウトすれば問題はないですね、はい論破」
「賛成:」
「なんつー執着心だこの人………」
そりゃ【ライブラリ】にもいますよね、攻略検証班
さーて残るはシンシアさんだけか……このまま独身ルートでいいかな……