アステール・スカイ
厨二病は理性じゃなく本能なので英語からギリシャ語にしちゃっても恥ずかしくない()
徐々にゼノセルグスへと傾きつつあった天秤に待ったをかけたのは、部外者故に軽く追い払われるだけに留まっていた「戦乙女」であった。
「銃拳」による一撃を受け怯んでいたそれは弾丸を食らった左頬の亀裂を内側からさらに広げていく。
自壊する機巧の乙女は、一定時間が経過するとある特殊行動が追加される。
ギ、ギギギ、ガヂヂヂヂッ!!
「!!!」
追い詰められた俺が見た先……ひとりでに、かつ不自然に捻じ曲がり内側から膨張し始めた「戦乙女」の右腕を見た俺の脳裏に電光の如く情報と、思考と、結論が駆け巡る。
「う、おぉおおおおお!!」
いつの間に条件を満たしたのか、再び硬質な身体へと変化したゼノセルグスが繰り出す掴みから抜けつつ俺は全速のダッシュで「戦乙女」へと肉薄。
「熱烈なハグを受け取りなぁ!!」
奴の左手が握る突撃槍を蹴り飛ばし、総重量を軽くした「戦乙女」をゼノセルグス目掛けて蹴り飛ばす!!
「な……っく、馬鹿が! 目くらましにもなりゃしねェだろうが!!」
「行動と肉体は別物だろうがよ……!!」
起爆。「戦乙女」の限定行動「部位暴発」、言うなれば段階的にパーツを失う代わりに高火力の爆発を起こす自滅技だ。
だが今のゼノセルグスは無敵モード、当然ダメージなど無いだろうし、むしろ俺の方が残り少ない体力をさらに減らしている有様だが……
「プリズンブレイカーの膂力検証を知ってるか?」
「ぐ、何ィ……!?」
見様見真似相撲式タックル! スーパーアーマーは強力だが無条件に全てを防ぐわけじゃない。そう、例えば……ゼノセルグスの巨体すらをも投げ飛ばすSTRがあれば、如何に頑丈だろうとビルの外へと投げ飛ばせる!!
「落ち───」
残り十五秒! よう猛禽類。
「この空が誰のものか知ってるか!?」
「何を……………今なんつった?」
へぇ、心当たりがあるのか。なら話は早い。
「すまんな再現限界だ。「昇天」抜きで「墜天」「荒天」の二重接続で行くぜ!!」
猛練習の成果、見せてやるぜ!!!
◇
ウルトクリスタルの争奪、「戦乙女」の暴発、そしてゼノセルグスの落下を発端とするプリズンブレイカーの「動き」………その正体に気づいたマスクド・シルバーは言葉すら忘れて思わず立ち上がる。
「……統天」
ポツリと、その口からこぼれた単語に慧の眉が驚愕と困惑の混じった形に吊り上がる。
「……マジで?」
「昇天抜き、墜天と荒天の二つで繋げるならあっちだけど……」
「えと、ちょ、説明! 説明お願いします!!」
その言葉を発した数秒後、エイトはそれどころではない事に気づく。
画面の先、そこには空中で天地逆さに身を投げ出したプリズンブレイカーが虚空を蹴って真下へと加速する光景が映る。
一瞬で自由落下速度で落ちるゼノセルグスへと追い付いたプリズンブレイカーは膝を突き出したポーズのままゼノセルグスへと激突。
「ニードロップが入った! このまま地面に……え、違う?」
「完全再現は無理……いや、だからビルの壁が必要なのか」
「空中ジャンプでビルの壁面に戻って、ゼノセルグスに並ぶよう駆け下りながら跳躍、攻撃して、戻って……あの、これって!」
「墜天、上から下へ落ちるまでにヒットさせる二十連続打撃……」
「それって一体……あ、コメ欄になにか……「マスタースカイ伝説」?」
Justice Versusというゲームがかつて存在した。
そのゲームはゼロからキャラメイクが出来るだけではなく特殊能力やゲージ技、果ては「必殺技」までもプレイヤーの手で創り出すことができるというものだった。
そのゲームが世に流通し、全盛期を迎えた頃……一人のプレイヤーが現れた。
そのプレイヤーの名は「Master Sky」、そして彼あるいは彼女が作り出したキャラクターに由来するある種の「伝説」が存在する。
その名はプレイヤー「Master Sky」が考案作成した二つの技の名前と、とある必殺技の名前から全ての空を統べる一撃「統天」と呼ばれる複合必殺技である。
まず第一に掴み技を起点として自身諸共に敵を空高くへ吹き飛ばす「昇天」
落ちていく最中に実に七十八種類ものモーションをバグを絡めて連結した二十連撃空中殺法「墜天」
最後に上記二つのトリックで稼いだゲージを使って体力を削り切るデフォルト必殺技「荒天」
無制限ルール限定とはいえ、記録に残っている中ではJVで唯一の開幕十割を達成した「統天」は、実に三百五十二ものモーションによって構築されている。
その規格外の緻密さ、ジャスティス・バーサスの全てを組み上げエフェクトにまで妥協なく作り上げられた光景は「芸術」とまで讃えられた。
後に実用的な性能へとダウングレードされた「撃天」や逆に見た目性能全振りにした「威天」、意図的に昇天を省いて空中からの発生に重きを置いた「嵐天」などの派生形が多く生まれることとなるこの技は、しかしあまりに複雑すぎる動きからジャスティス・バーサス以外での再現は不可能とされていた……
少なくとも今日この日までは。
GH:C全キャラの中でもトップクラスの機動力を誇るミーティアスの完全上位互換たるプリズンブレイカーの採用。
ビルの壁面を足場として跳躍と着地を繰り返しながら敵と並走しつつ攻撃を加える擬似「堕天」。
後は飛び蹴りの必殺技「荒天」を当てれば再現は完了───
だが、地上まで残り十数メートル。
「違う、飛び蹴りじゃない!」
プリズンブレイカーが見せる動きは、さらに異なる変則を見せる。
◆◆◆
ノーダメ! ノーダメ! ノーダメ!
クソッタレの無敵モードめ! お陰でストレスとテンションが臨界点を突破したぜ!!
「だがっ!!」
ここでさらなるアレンジ! 本来は荒天で〆るところを……変える!
齧った知識だが、この一連の即死コンボを考案した人物であるマスタースカイはコンボ動画を投稿する以外では殆ど世間に声を出すことのない人物だったというが……少しだけ、ほんの呟きのようなコメントがいくつか残っている。
「統天」の情報をラーニングするがてら調べていた時に見つけたそのコメント……「統天は妥協案」というその言葉、バグを駆使しても尚搭載することができなかったという本来の「決め技」、十年を経て今ここで! 俺とプリズンブレイカーが実現する!!
「一秒! 一秒足りねェんだよそれは!!」
「だろうな!!」
その通り、荒天ではダメだ。クソほど練習したから分かる、最短の直線で蹴り込んでもゼノセルグスの「超細胞」の効果時間内に間に合ってしまう。
ならば!!
「真の決め技は……銀河の一撃!!」
その技の名前は「ユニバース・テイル」! JVでは地上投げ技から発生する必殺技であったが故に空中殺法である「墜天」から繋げられなかったそれを、ビルの壁と空中ジャンプで無理やり再現する!!
「とくと味わえ」
空中を落ちるゼノセルグスの足首を掴み、ビルの壁と虚空を踏んで受け手と掛け手で輪を描く。そしてその勢いのままにゼノセルグスを地面に投げ飛ばし、壁蹴り空蹴り最後の加速!!
やっぱりゲームは最高だ、物理法則に夢がある。
「統天改め!」
空中で前方宙返り、加速した落下エネルギーを踵一点に集中させて、何が何だか分からない視界の中で確かに見えたエフェクトの消えた肉達磨の姿。
「俺式再現……「星天」!!」
着弾した。
伏線って威張れる程のものじゃないけど雑ピを煽る前に見てたのが統天の動画
唐突な設定げろげろ
・物理エンジン
古典力学的な法則をシミュレーションするコンピュータのソフトウェアである物理エンジンは当然シャングリラ・フロンティアにも搭載されている。
そしてさらに当然だが創世さんが自作したものなのだが、意図的に出力される物理的現象に脚色が入っている。
例えば爆発を食らったMobがやたら派手に吹っ飛んだり、球技大会のボールにされた人間がやたら美しい軌道でラリーされたり、空中での姿勢制御が現実よりもやりやすかったり……これは「試作品」で検証した際に現実に忠実すぎると逆につまらない、と創世が判断したためである。
そして莫大な金を注ぎ込んで製作されたGH:Cサーバーにも同様の物理エンジンが搭載されているため、サンラクはなんか気持ち悪い動きで壁をバウンドしながら相手の足を掴んで大車輪して投げつつ踵落とし、なんて最高に気持ち悪い動きを実現することができた……多分蠍達のボールにされた経験とかが活きてる。