禁断の解放
ハバキリ神速種実装マジ? というか、あの、バイティングエッジ……テコ入れ、無し……? 嘘だよね? 薙刀モードのスタミナ消費軽減くらいなら……あ、無い?
悲しみの更新
Xデー当日。からりと晴れた空模様に冷たさを増した風が吹く。
「そろそろ本格的に防寒の季節か……」
無断で行くと下手すれば帰宅中にネットオークションに出品された俺のVRシステムを見つけてしまいかねない、流石に「テレビ出演してくるわ!」とはちょっと言いづらいのでネットで知り合った友達に会いに出かける、ということにした。
なんだか既視感を感じるリニアの中で、携帯端末を使って調べるのはおそらく対戦相手になるだろうアメリア・サリヴァンの情報………ではなく、ちょっと前からお気に入り登録している動画サイトだ。
「あー、そういう動きか……」
視覚と聴覚は動画に向けつつ、思考の何割かはやはりアメリア・サリヴァンについて考える。
アメリア・サリヴァン。
「ダイナスカルの猛禽」なんて物騒なあだ名で呼ばれる全米二位のプロゲーマー、女性以前に人として結構なビッグスケールという話だがそれは関係ない。ゲーマーとしての彼女は重量級キャラを好みながらも驚く程に技巧派だ。
重量級キャラというものは、まぁ先入観やら創作におけるセオリーやらのせいで「鈍重で高火力」ってのが一般的だ。そしてそういう性能をしたキャラは得てして粗雑な性格、またはバトルスタイルだったりする。だが格ゲーに関しては自分よりも速度面で格上の相手が多い関係上、むしろ冷静な頭から要求される。
アメリア・サリヴァンはそういうテクニカルなプレイヤースキルを限界まで突き詰めた人物だ。少なくとも参考で見たシルヴィアとの対戦動画を見る限り、3ラウンド目でさらに加速したシルヴィア・ゴールドバーグを相手に重量級キャラで結構な時間耐久を成立させるなど俺には出来ない。
いつだったか、俺やカッツォをリズムを作る持ってるで区別した事があったが……アメリア・サリヴァンはそのどちらにも該当しない。奴は敵のリズムに対応した上でそれを崩すタイプだ。いや、もっと厳密に言えば──────
「どちらにせよアマチュアが勝つ負けるを考えてる事自体烏滸がましい気がするけどな」
今の俺を動かすのは勝ち負けじゃないんだなぁこれが。
だからこそカッツォのやつにあんな「提案」をするし、数日前からやってたとはいえ詰め込みの付け焼き刃で「お遊び」の練習をしてたりな。
今の俺は結構いい感じのテンションを維持している、エンジンをちょっとだけ温めてる感じだな。
隠し球もあることだし、今の俺にできることと言ったら……アメコミを読み込むくらいか、動画を見て暇つぶしするくらいか。
◆
なんか思っていた八倍くらいすんなり入れた。
こう、警備員とかに呼び止められるんじゃないか……と不安もあったのだが、どうもヒューマンパワーは機械に取って代わられたらしく、TV局の中に入る諸々の手続きは全て機械的に進行した。
人間的温もりがなくなり、冷たい機械が普及するってのは一抹の寂しさを感じさせるものだ……はー暖房あったけー。知らない場所でもナビゲートしてくれる地図アプリ超便利ぃ……。
さて、油を売ってる場合じゃないな。トイレは……こっちか、ちゃっちゃと済ませますか。
……
…………
………………
ガチャ、と個室トイレの扉が開かれる。
丁度男子トイレに入ってきた男性が俺の顔を見てギョッとした顔で目を見開くが、ここで下手なリアクションを取っているうちは二流だ。
「あ、どうも」
「え? は? あ、うん……どうも?」
そう、慌てるから不審者感が増すのだ。機械によって入場が許可されている以上、堂々たる態度でいればいい。
俺の記憶力がピンボケしていなけれれば最近バラエティ番組への露出が多くなってきた結構有名な俳優の方になんでもないかのように挨拶すると俺はトイレの外へと足を踏み出した……。
「控え室……こっちか」
なんだろうね、何故俺はこんな場違いな場所で地図片手に歩いているんだろう。人間というものは自分を客観視しだすと哲学的な世界に思考が飛ぶ傾向があるが、俺もその例に漏れなかったらしい。
本来であれば態々意識して早起きなんかせず、気分のままに起きて遅めのブランチなんて洒落込んで、ゲームして夕飯食ってゲームして……それが俺の平穏だったはずなのに……今の俺は、何故公共電波の発信源たるTV局をコスプレみたいな格好で歩いているんだろう……なんかの大会で好成績残してた芸人コンビと思しき人達からの視線が痛いです。
「……ここか」
もうやだぁ……"顔隠し"様控え室って……入りたくねぇ……この部屋に俺が入ったという事実をこの世界に残したくない………ええい、南無三!!
「……いや、流石に扉を開けた瞬間パパラッチに撮影される、なんてことはないだろうけどさ」
流石にGGCの時に宿泊したホテル程の豪華さではないが、バラエティ番組なんかで時折見る事ができるTV局の控え室そのまんまって感じだ。
ただ一つ異常な点があるとすれば、部屋のど真ん中にでん、と小型冷蔵庫が置かれている事くらいか。
「………」
ガチャ。
お、おぉ……ライオットブラッドが全種類入ってる………なんだ、それなら持ってくる必要はなかったかも。
「ん?」
なんか缶と缶の隙間にカードが挿さってる?
「"顔隠し"様へ、ガトリングドラム日本支社より…………い、いや、テレビだもんな、うん」
なにか脳の片隅で叫ぶものがあったが、目を瞑れ、口を閉じるんだ俺の一般常識! 俺はまだインスタント味噌汁をライオットブラッドで作るくらいのヘビーユーザーには堕ちたくない!! スポンサー的なアレだよ! そうに違いない!! 信じる思いが力になる!
「つーかこんなに会っても飲まないし……」
日に三本以上摂取したユーザーは合法堕ちする、というのはライオットブラッドユーザーの中では常識だ。無論合法なので何か法に触れるわけではないが……いや、だが、うーん、全米二位…………やるか? 合法的飲料を合法的、ただし裏技的に摂取する事で強大な力を得る闇の摂取法。
何故かライオットブラッドをスポーツドリンクと混ぜて飲む事で瞬間的にカフェインを潤動させる「アクセル」
何故かライオットブラッドを酒と混ぜて飲む事で泥酔の状態異常を無効化する「レジスト」
何故かライオットブラッド三種類を混ぜた物を缶一本分だけ飲む事で「ヤバい」以外の語彙力が失われる代わりに尋常ではないレベルでキマる「タブー」
それら三つに並ぶ四つ目の飲法……「ジョイント」。闇の服用四天王と呼ばれるそれらはあまりに危険とされながら、どう足掻いても合法という……それ故にユーザーのモラルが真の意味で問われるのだ。
「おお偉大なるライオットブラッドユーザーの先達よ……合法の海に堕ちた英霊達よ……俺にカフェインのご加護を……!」
いざ南無三!!
……
…………
………………
「あー、"顔隠し"さん時間で………うおっ!?」
「あぁ……うん、知ってます知ってます。時間が押してるのでささっと行きましょう」
エナジードリンクはRTAに似ている……綿密な時間管理が理想的チャートには必要不可欠なのさ……
・合法堕ち
ライオットブラッドは当然合法的飲料なので極論を言えば何本飲んだところで法的に規制されるわけではない。しかしながら一日に三本以上の摂取を敢行した場合、高確率でライオットブラッドの熱心なユーザーになる。
むしろ熱心過ぎて日常生活における飲料水をライオットブラッドで代用しようとしたり、狂ったようにライオットブラッドを使った料理をネットに上げ続けたり、果てには謎の技術で燃料化したライオットブラッドを燃焼して気化させることで室内全域で摂取するなどなど……
あまりに常識を逸した奇行、しかしながらいずれも合法的ラインを遵守していることから「詳細と事実は秘するがライオットブラッドを一日に三本以上キメると合法堕ちする」と語られるようになった。
だが、合法の海(あるいは沼)に堕ちる寸前で踏ん張りながらも、その深淵よりライオットブラッドの狂騒を汲み上げんとする者がいるのもまた事実。
そうして生まれたのがライオットブラッド闇の服用法と呼ばれるものであり、その中でも「アクセル」「レジスト」「タブー」「ジョイント」の四つは合法の海に半身浴するレベルとされており、特にジョイントとタブーの開発者は合法堕ちした曰く付きのテクニックである。