ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「進化した……のか、オドシシが……!?」
それは、メグルが知るアヤシシの姿とは大きく異なる。
体高は2.5メートル近くにまで高くなり、角の大きさも威容を示すかの如く大きく成長した。
黒いふさふさの体毛が首元を包み、蹄の周りも、角の宝珠も青白い鬼火に包まれている。
そして、死して尚消えない忠義を表すかのように、その目は鋭くヤミラミ達を睨んでいた。
「アヤシシ……だよな……!?」
メグルは思わず図鑑でスキャンする。
【霊気を身に纏い、音も無く地平の先まで走り続ける。角の宝珠は縁起物とされるが、濫りに触れると祟られる。】
タイプはノーマルタイプに加えてゴーストタイプ。
ヒスイ地方のゾロアークしか持たない珍しい複合だ。
それに加えて、ゴーストに進化したことで、身体も半分霊体と化している。
アルカを背負ったまま、彼は荒っぽく鼻を鳴らすと地面を蹴る。
音は鳴らない。しかし、蹴った場所はゴリッと音を立てて抉れるのが見えた。
(ゴーストの身体……! 霊脈の力で生き返ったっていうのか……!? 確かにユイのヤツ、進化事例はとても少ないって言ってたけど……! アヤシシ本来の条件に加えて、リージョン特有の場所進化だったから見つからなかったって事か!?)
図鑑を調べても、アヤシシのデータは少なく、タイプすら表記されていなかったことを思い出す。目撃事例も少ない上に、飼育下での進化事例も無かったからだ。
(にしたってとんでもない威圧感……! 原種とは真逆の荒々しさ、俺は鹿じゃなくて猛牛でも見てるんじゃねえか……!?)
「ブル・トゥゥゥーム!!」
咆哮が大空洞全てを揺らす。
構わず飛び掛かるヤミラミ達だが、すぐさま彼らは見えない障壁に阻まれ、空中で止まり──地面に叩き落とされてしまう。
これは技ですらない。アヤシシの持つ基本技能だ。しかし、それを叩き壊し、再び皆でアルカを狙う。
「”あやしいひかり”!!」
しかし、メグルの声と共にヤミラミ達を襲ったのは思考を狂わせ惑わせる光。
アヤシシの目、そして角の宝珠が光ると共に、タイムラグ無しでヤミラミ達をまとめて混乱させる。
(あやしいひかりって、こんな技だっけか……!?)
そればかりか、アヤシシの目に灯る炎がゆらゆらと揺らめく度にヤミラミ達は同士討ちを始め、互いの身体を鋭い爪で切り裂き始める。
だが、混乱による自傷は一定確率でしか起こらない。
2匹のヤミラミがアヤシシに飛び掛かる。アヤシシを最大の脅威と認定したのだ。
「──”さいみんじゅつ”!!」
だが、爪はもう届かない。アヤシシの宝珠が光ると共に、ヤミラミ達が地面に叩き伏せられる。
今までは宝珠を付けた角を目玉に見立てて使用していた”さいみんじゅつ”が、宝珠そのものの妖力で相手を昏倒させるものへと進化したのである。
(す、すごい、思った通りだ……!! 技が当たるまでのラグが明らかに速くなってる……!! 進化してゴーストタイプが付いたから、変化技を扱う技能が上がったのか……!!)
「ブルトゥ……ッ!!」
取り巻き達を一歩も動かずに変化技だけで自滅させたアヤシシの視線は”魔物”に向いた。
アヤシシの邪なもの全てを払い除ける威容が、死をも克服してみせた魂の脈動が、死に屈した霊の集まりを畏れさせる。
「ウ、ウラミィ……ッ!!」
即座に”じゅばくがん”を使うも、ゴーストタイプにバインドは通用しない。
すぐさまアヤシシが宝珠を光らせると、呪いは跳ね除けられてしまった。
「ウ、ウラミィィィ……!」
次に放とうとするのは──渾身のオオワザ。
がばぁ、と祟り岩が口のように開き、そこから魂魄が溢れ出す。
だが、その瞬間をメグルもシャリタツも見逃すはずがなかった。
オオワザは強力だが、撃つまでの間が隙となる。故に、その隙を突けるようにノオトによって基礎的な訓練を徹底的に仕込まれたのだ。
【ヤミラミの──】
「シャリタツ飛び出せ!! あのデカ口の中に”みずのはどう”!!」
ヘイラッシャの大口が開き、そこからシャリタツが飛び出して”みずのはどう”を放つ。
大好きな子分の苦しみは口の中からでも伝わって来た。それが彼女の力を覚醒させる起爆剤となる。
”魔物”はよりによって竜の逆鱗を踏んでしまったのだ。
「スゥシィィィーッ!!」
水のエネルギー弾は、怒りで濁りに濁った水の塊と化す。
「な、なんか、デカくねえ……!? 姐さん怒ってらっしゃる……!?」
水の塊はどんどん大きくなっていき、爆ぜた。
溢れ出した水が祟り岩に襲い掛かる。
エネルギーは逆流して爆発。”魔物”は祟り岩諸共転げていく。オオワザは解除され、不発となった。
「ッ……これって──”だくりゅう”!?」
”だくりゅう”は威力90の強力な水タイプの技だ。
しかし、同時に味方をも巻き込む技。メグルとアヤシシにも濁った水が向かい──シャリタツは思わずぎょっとして振り返る。
我を忘れて最大火力を出してしまったことを彼女は後悔した。しかし、メグルは慌てなかった。隣にはアヤシシがいる。
「ブルルルゥ!!」
メグル、そしてアヤシシの眼前に壁が現れる。
濁った水の流れは味方にぶつかることなく押しとどめられるのだった。それを見てシャリタツはほっと安堵の溜息。
「た、助かった……やっぱドラゴンは怒らせちゃいけねーな……だけど、シャリタツまで新しい技を覚えるなんて……!」
オオワザが阻止されたことで”魔物”は祟り岩の上で倒れ伏せる。オオワザは強力だが反動も大きい。
攻め込むならば、このタイミングしかない。
「アヤシシ!! 俺の知ってるメガヤミラミと、あいつが同じ特性なら……お前の変化技は通用しない!! だから──ヘイラッシャと息を合わせて、一気に仕留めるぞ!!」
(リージョンなら特性が変わっててもおかしくない、だけど……リスクが大きすぎる!)
メグルの知る原種のメガヤミラミの特性はマジックミラー。変化技を跳ね返すというものだ。
アヤシシの使う”さいみんじゅつ”も”あやしいひかり”も、あまりにも強力過ぎる。使うのにリスクが大きい。
それを彼も直感で理解したのか、こくりと頷く。
「──メタルバーストを使われる前に倒す!! ヘイラッシャ、アクアブレイクッ!!」
突貫するヘイラッシャ。再び口の中にシャリタツが戻った事で火力は最大限。尻尾で”魔物”を薙ぎ払うが、それは祟り岩によって受け止められてしまう。
だが、ピキピキッと音を立てて祟り岩に罅が入った。そこから、霊気が漏れていくのがメグルにも見えた。
堅牢極まりない祟り岩に──初めて、亀裂が生まれたのである。
「アアアアアアアアアアーッ!?」
痛みをこらえるような悲鳴が大空洞の中に響き渡る。祟り岩は亡霊たちの意思そのもの。ヤミラミ本体よりも重要なものなのだろう。
【効果は抜群だ!!】
「よっし、流石の火力だヘイラッシャ!!」
「ラッシャーセェェェ……ッ!!」
”じゅばくがん”を受け、疲弊しきっていたヘイラッシャ。
しかし、口の中にいる親分を守るためならばこの程度の苦痛は何てことは無かった。
タイミングも、当たり所も、全てが完璧なアクアブレイクだ。
「後はアヤシシに任せてくれ、ヘイラッシャ!!」
「ブルトゥゥゥーム!!」
勇ましく吼えるアヤシシ。ゴーグルに手を掛け、トドメをメグルは命じた。
「テメェらがどんな恨みを抱えてるか知ったこっちゃねーけど……関係ないヤツに、八つ当たりしてんじゃねえ!! さっさとまとめて成仏しやがれ!! ”シャドーボール”!!」
宝珠が妖しく光り輝き、巨大な影の弾が祟り岩目掛けて迫る。
「──ブル・ファン・トゥゥゥーム!!」
【アヤシシの シャドーボール!!】
すぐさま”メタルバースト”で反撃の態勢を取る”魔物”だったが、抑え込めない。
祟り岩に罅が入ってしまった今、アヤシシが全力を出して解き放ったシャドーボールを受け止められる道理などなかった。
めきめきと音を立て、祟り岩には更に深い亀裂が入っていくどころか、シャドーボールが触れた場所から消えるように抉られていく。刻まれた魂までもが浄化されていく。
最後にそれは爆ぜ──ばらばらに砕け散り、後には倒れた巨大なヤミラミが残るのみだった。
周囲に居たヤミラミ達も一瞬ビクビクと痙攣したかと思うと、そのまま地面に倒れ伏せていく。
祟り岩の呪いは、今此処に終わりを迎えるのだった。
※※※
「あ、あれ……ボク、一体……!」
アルカは目を覚まし、辺りを振り向く。もう、纏わりつくような悪夢はやってこなかった。
そして──自分が乗っていた背が大きくなっていたことに気付き、驚く。
「わ、わわわわわぁ!? オドシシ──じゃない!?」
アヤシシは脚を折り畳んで座り込んでいたので、彼女が落ちることはなかった。
それでも、全高2.5メートルの巨体は伊達ではない。いきなり大きくなったオドシシ改めアヤシシに、アルカは目を白黒させていた。
「進化したんだ、土壇場でお前を守る為にな。俺なんかよりよっぽど活躍してたぜ、コイツ」
「ブルトゥーム」
「……ア、アヤシシ……おめでとう! 進化したんだ! 本当にありがと!」
ぎゅっ、と彼女はアヤシシの首を抱く。
戦いのときとは打って変わって穏やかに彼は嘶いた。
アヤシシから降り、彼女は長い前髪に隠れた目をパチパチと瞬かせる。
体が軽い。もう悪いものも何も見えないようだ。余程”じゅばくがん”の力が強かったのだろう。
「それにしても良かったぁ……助かりました……本当に……」
メグルは何を見せられたのかは敢えて聞かないことにした。相手は祟りの霊。どのようなものかは凡そ想像がつくし、思い出させるのも可哀想だった。
「忘れちまおうぜ、傍迷惑な悪霊の見せた夢なんてな。これからの楽しい旅の事だけ考えようや」
「悪霊……って呼んでいいんでしょうか。あの中には無実の罪で捕えられた人もいて──助けてあげたいって思ってしまって……」
咎人達の最期を見せられ続けたことで、アルカは感傷的になっていた。彼らの最期はいずれも悲惨そのもの。故に同情してしまうのは無理もなかった。
しかし、メグルは彼女にそれを引きずってほしくないと考える。数百年以上も前に終わったことで、今此処に生きている自分達にどうにかできる問題ではないからだ。
最初から手の届かない場所に居る相手には、どんなに手を伸ばしても届かないものなのである。
「そのことでアルカが悩む必要はないと思うけどな」
「……そうでしょうか?」
「そもそも考えてみろよ。前世がどんなに悲惨でも、関係の無い人様に迷惑掛けたら立派な悪霊だぜ」
「あっ……確かに」
「前にも言ったろ。お前はもう少し、自分のされたことで怒って良いと思うぜ。俺は少なくとも怒ったけどな」
今助けられないものの事を考えても、それはただの哀れみでしかない。哀れみでは何も救えない。
祟り岩が壊れ、ヤミラミ達の凶暴性も収まった。姿は戻っていないものの、元の臆病な洞窟の住人に戻った。アルカも”じゅばくがん”から解放された。
これで霊も全て解き放たれ、あるべき場所へと戻る。きっとこれで良かったのだ、とメグルは信じることにした。
「だから、忘れるのが一番だ。これから、まだまだ俺達の旅は続くんだぜ。こんな事上書きして、さっさとメガストーン探しに戻ろうや。それを楽しみにしてたんだろが」
「じゃあ……早速上書きしてくれますか? おにーさん」
ずい、と彼女は一歩踏み出す。
拒む間もなく、アルカはメグルに向かって両の腕を開き──思いっきり抱き着いた。
彼女の体温と柔らかさが伝わってきて、メグルの胸が跳ねたのも束の間。
アルカもメグルの体温を感じ取り、安心してしまい、心の中でつっかえていたものが決壊したように──叫ぶ。
「──怖かった!! 本当に……怖かったです、おにーさん……ッ!! 頭の中ぐるぐるで、ずっと人が死んでて……おにーさんは、居なくならないですよね……!?」
「何言ってんだよ、俺はちゃあんと、此処にいるから」
アルカはメグルに体重を掛け、そのまま押し倒してしまう。余程彼にくっついているのが安心するのか、そのまま頭を擦りつけるのだった。
「……はは、これじゃあポケモンが1匹増えたみたいだ」
「なっ、酷いです、おにーさんっ! やっぱりやっぱり意地悪です!!」
「それだけ元気なら、もう大丈夫そうだな」
「ッ……い、いえ。もう少し、もう少しだけこのままで」
彼女も少しは素直になったらしい。ストレートに誰かに頼り、甘えることができるようになったようだった。
(これで……一件落着かなあ)
「──イ、イギィェ……」
メグルが全て終わったと思った時だった。
後ろの方から、濁ったような声が聞こえてくる。
今の今まで目に見えないくらい小さくなって気絶していた”魔物”が、元の大きさに戻り、むくりと起き上がったのである。
他のヤミラミ達が姿こそ戻っていないものの大人しくなったのに対し、巨大なこちらの個体は元より島をシメるボス。襲い掛かってきてもおかしくない。
「ま、まだやるの、もしかして……!?」
(いや……にしちゃあ大人しいな。弱ってるのもあるんだろうけど、戦うならとっくに技撃ってるだろコイツ)
ナカヌチャンの入ったボールを構えるアルカ。
しかし──襲ってくる素振りは全くと言って良い程見せず”魔物”はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「イギィ」
がばぁ、と大きな口を開けた”魔物”はそこに自分の右腕を突っ込んだ。
そしてしばらくすると、何かを掌に乗せてメグル達に見せる。
キラキラと輝くビー玉のような丸い宝石が山盛だ。中央には特徴的なマークが刻まれていた。
「……これって、メガストーン!?」
今日の12時頃に第五章最終話をアップします。乞うご期待!