ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第93話:霊脈と進化

 ※※※

 

 

 

「──ゴローニャ、”じならし”!!」

 

 

 

 通路が揺れ、震動と共にヤミラミ達が床から飛び出していくのが見えた。

 隠れている彼らを一網打尽にするなら、先に地面技を撃ってしまうのが一番だとメグルは判断したのだ。

 案の定、通路、そして天井から驚いたヤミラミが湧きだしてきて、そのまま穴の中へと逃げていく。

 ゴローニャは元々メグルのポケモン。久々に元の主の指示で戦えて、何処か嬉しそうだった。

 

「よっし……良い感じだ」

「ゴロロロローン!!」

「こういう時はやっぱ範囲攻撃だよなあ」

 

 一通り片付け終わった後はアブソルに先導させ、再び分かれ道を進んでいく。

 その間、アルカはずっとオドシシの首に手を回し、ぐったりとしていた。ちらちら、と彼女の様子を見ていたメグルだったが、やはり時間が経つ程に弱っていっているようだった。

 

「人が……人が何人も……死んで……おねがい、おにーさん……死なないで……」

「大丈夫だアルカ。俺は死んだりしねーよ」

 

 その度に安心させるために彼女の手を、両の手で握り締める。此処にいる、離れない、と教えてやるために。

 

「──ふるっ!?」

 

 その時だった。 

 アブソルがいきなり後ろを向いて驚いたように身構える。

 そして「ふるるるる!!」と甲高く鳴き、急げと言わんばかりに走り出した。

 

「どうした!? 逃げろってことか!?」

「ふるーる!!」

 

 メグルも、そしてオドシシも走り出す。

 そうして10秒程しただろうか。物凄い音を立てて後ろから何かが迫ってくるようだった。

 振り向くと、巨大な鋼の顔が甲高い金属音を鳴らしながら追いかけてくる。ハガネールだ。

 

「ウソォ!? 何でェ!?」

 

 その顔面には、ヤミラミ1匹が「ウィィィーッ!!」とハイテンションで鳴きながら乗っかっているのが見えた。

 ハガネールの目は明らかに正気ではなく、赤く妖しく輝いている。ヤミラミが”じゅばくがん”の力で操っているのだ。

 そのままメグルを目掛けてハガネールは巨大な頭を何度も何度も打ち付ける。

 幸い、ぎりぎりで躱してはいるものの、洞窟が崩れることなどお構いなしにハガネールは迫りくる。

 

「ヤバイヤバイヤバイ!! オドシシ”さいみんじゅつ”!!」

 

 振り返ったオドシシの角が光る。

 突っ込んで来るハガネールは、まともにそれを見つめてしまい──そのまま、ゆっくりと停止していくのだった。

 上に乗っかっているヤミラミがカツンカツン、と殴りつけるが鋼の皮膚は硬すぎて、とても鉄蛇を起こすには足りない。

 そして──ヤミラミは気付く。

 鬼のような表情をしたメグルが迫ってくることに。

 

「オメーが祟り岩の所為でそうなってんのは分かるぜ。よーく分かる……でも、やって良い事と悪い事があるよな?」

「ウ、ウィィィーッス……」

「オドシシ”あやしいひかり”、シャリタツ”みずのはどう”」

 

 あやしいひかりで混乱したところに、ハガネールを起こさないようにヤミラミの顔面目掛けてシャリタツが”みずのはどう”を接射。

 これ以上ないコンボであった。

 流石のヤミラミも倒れてしまい、ハガネールの頭の上で目を回しているのだった。

 

「ったく、とんでもない奴らだ……”祟り岩”とやら、マジで性根が終わってやがるぜ……」

 

 これ以上悪さをされないように、メグルはボールを投げ付ける。

 あっさりとヤミラミはその中に吸い込まれていき、捕獲されたのだった。

 ボールを回収し、ついでにハガネールも捕獲──と考えたその時。

 

「──キュオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 眠っていたハガネールが目を醒ます。そして、大声量を上げる。

 メグルはシャリタツをアブソルに投げ渡して再びダッシュ。

 自らの縄張りに侵入した者を、この鉄蛇は決して逃がしはしない。大口を開けながら、再びメグルの追跡を始めたのだった。

 

「オドシシ飛ばせ! アルカは何が何でも守れ! 俺は平気だから!」

「ブルルルルゥ!」

「良いから早く行け!!」

 

 先導するアブソル。それに追随するオドシシ。そして、後ろから追いかけるメグル。

 洞窟内は何処にヤミラミが罠を張っているか分からないので、極力ライドポケモンを使いたくなかったのだが、やむを得ず、メグルはアルカから拝借したボールの1つを目の前に放る。

 

「モトトカゲ、乗せてくれ!!」

「アギャァス!!」

 

 ライドギア教習のおかげで、モトトカゲの乗り方は熟知している。

 そのまま跨ると、自分の足のように駆り、岩を飛ばしながら迫るハガネールの追跡を躱していく。

 そうしているうちに目の前に光が差す。

 

「あれ? 何か明るい!? 出口か!?」

「ふるるる!」

「よし、出る直前に速度を落とす!! 出たらそのまま曲がるぞ!!」

 

 間もなくメグル達はトンネルを抜け──そのまま旋回。

 ブレーキを掛けて、左右に散開したのだった。

 そして、ハガネールは勢いよく洞窟から出て来るものの、その長く巨大な身体では急に曲がることなど不可能。

 ましてやその重量の巨体をいきなり止めることなど出来るはずもない。

 そのまま数メートル程滑るように突っ込んだかと思うと、目の前の崖下に勢いよく落ちていくのだった。

 

 

 

「キュオオオオオオオオン──!?」

 

 

 

「はぁ、はぁ……心臓幾つあっても足りねえよこんなの……」

「アギャ……」

「……なんか、すっごい揺れたしうるさかったけど……大丈夫なんですか……?」

「安心しろ、お前には指一本触れさせねーよ」

 

 洞窟を抜けた先は、ごつごつとした岩肌がメグル達を待ち受けていた。

 そして、山の頂上をアブソルが睨んでおり唸っている。”魔物”は山の上の方に逃げたのだろう。

 ゴマノハから貰った地図によれば、岩山の外周部を駆けあがった先にまた洞窟があるという。

 外はとっくに夜が明けており、ヤミラミ達の姿は無かった。 

 流石の彼らも、昼の明るさにはまだ不慣れなのだろう。

 だが、その代わり──頂上付近の洞窟からは溢れんばかりの邪気が漏れていた。

 

「オドシシ、ありがとう。こっから危なくなると思うけど──アルカのこと、頼むわ」

「ブルルゥ!」

「ま、お前に任せておけば何にも心配はないけどな」

 

 オドシシは誇らしげに鳴いてみせる。アルカは背中で魘されながら眠っている。

 本当ならメグルがずっと背負っておきたいくらいなのだが、これから戦闘をする以上はそういうわけにもいかない。

 万が一の時にバリアーラッシュで障壁を張れるオドシシを、メグルは信頼しているのだ。

 

「……この先か」

 

 辿り着いたメグル達は息を呑む。

 一歩踏み入れ、メグルは再びゴローニャに”じならし”を指示した。

 案の定、床下にはヤミラミが擬態して潜んでおり、ぼこぼこと音を立てて地面に穴が開いていく。

 本当に油断も隙も無い連中であった。

 そして、通路を抜けた先には──鍾乳石が連なる大部屋が待ち受けていた。

 ──渡りの空洞。

 獄死した咎人を祀るための小さな祭壇が備えられている場所なのだという。

 そして、その場所に──”魔物”は立っていた。

 祭壇はとっくに、叩き壊されていた。

 

「──ウラミィ……ッ!!」

「……よぉ、首洗って待ってたかよ!!」

 

 祟り岩を背負った”魔物”が吼えると共に取り巻きのヤミラミ達が次々に現れる。

 数は5匹。もっと居そうなものだが、先のゴローニャの”じならし”で皆恐れをなして逃げてしまったのである。

 

「ゴローニャ!! ”じならし”で一気に取り巻きを片付けろ!!」

 

 足を強く踏み鳴らし、地面が裂ける。

 それがヤミラミ達を一気に吹き飛ばし、壁に叩きつけた。

 

「ウラミィ……ッ!!」

 

 

 

【ヤミラミの ”じゅばくがん”!!】

 

 

 

 ギィン、と”魔物”の目が光る。

 思わず目を伏せるメグルだが、ゴローニャはそれを回避する事が出来ず、ぐらり、と身体を揺らし、唸りながら転げまわる。

 ボールに戻そうとするメグルだが、ビームが弾かれてしまった。

 その時点で逃がすことが出来ない”バインド”状態にあることに気付く。

 

(──あの技……”くろいまなざし”にスリップダメージが付いたような技か……!)

 

【じゅばくがん タイプ:いわ 変化 相手は逃げられなくなる。毎ターン、HPの8分の1のダメージを与える。ノーマルタイプには4分の1のダメージを与える。】

 

「出来るだけダメージを与えるんだ、ゴローニャ!! ”じならし”!!」

 

 強烈な悪寒、そして亡者の声に襲われるも、それでも足を踏み鳴らすゴローニャ。

 しかし、その振動波を前にヤミラミは巨大な鋼の壁を繰り出す。

 そして、壁は震動波全てをゴローニャにまとめて跳ね返した。

 

 

 

【ヤミラミの メタルバースト!!】

 

 

 

 物凄い勢いでゴローニャの身体が吹き飛び、岩壁に叩きつけられ、地面に転がる。目を回してしまっており、戦闘不能。瀕死のダメージだ。

 メタルバーストは受けたダメージを増幅して跳ね返すカウンター技。それが物理でも特殊でも関係ないのである。

 

「ッ……メタバまで……ゴローニャ、戻ってくれ!」

 

 ──分かったことは、あの目の技と、メタバがあることだ。とはいえ、ダメージはそれなりに受けているはず。押し切れば勝てる……ッ!!

 

【ヤミラミの じこさいせい!!】

 

 ──……問題はヤミラミが自己再生覚える事だけど……。

 

 やむを得ず、メグルが繰り出すのはシャリタツとヘイラッシャ。

 ヘイラッシャの中にシャリタツが入り込み、”しれいとう”が発動する。

 相手の目を見てはいけない、倒すならば一撃で倒さなければならない、など幾つもの制約が課されたような苦しいバトルだが、これで相手の技4つは割れた。

 ”くろいまなざし”、”メタルバースト”、”じゅばくがん”、”じこさいせい”の4つである。こちらをまともに攻撃する技は覚えていない。

 仮に覚えていたところで、ヤミラミの貧弱な種族値ではヘイラッシャにさしたるダメージは与えられない。

 

(メタバと自己再生は遺伝技だけど……あいつだけ格上の個体っぽいし、最初から覚えててもおかしくねーのかも……!)

 

「シャリタツ!! ヘイラッシャがあいつの目を見ないように指示!! ヘイラッシャは──アクアブレイクで一撃でトドメを刺せ!!」

 

 ヘイラッシャがヤミラミ目掛けて飛び上がる。

 そして水を纏って尻尾を叩きつけた。この態勢ならば相手と目は合わない。

 口内のシャリタツの指示により、凡そ完璧な姿勢でヘイラッシャはヤミラミに攻撃を叩きこむことに成功した──しかし。

 

「ウラァァァミィィィーッ!!」

 

 ヘイラッシャの尾で叩き伏せられたかと思われたヤミラミだったが、すぐさまそれを押しのけてしまう。

 ヤミラミとは思えない程の想像以上の馬力にメグルは戸惑った。

 祟り岩から、恐ろしい勢いでエネルギーが溢れ出ている。

 そして、それがヤミラミの腹の中に取り込まれた石の一つと反応した──

 

 

 

「ニクラシヤ……クチオシヤ……ッ!!」

 

【ヤミラミナイトと 祟り岩が反応した──ッ!!】

 

 

 

 ──絆、と言う言葉で何を連想するだろうか。

 大抵その単語は、人と人、あるいは人と動物の友情、パートナーシップを示す言葉と想像されやすい。

 しかし、絆とは本来動物を繋ぐ紐から転じて、断ち切れない程に強固な繋がりを示す言葉だ。

 それが良縁であれ、悪縁であれ、関係なく使われるのである。

 たとえそれが、人による呪縛の類であっても──”絆”は”絆”と呼んで差し支えないのだ。

 従って”魔物”が飲み込んでいたメガストーンとキーストーンが、祟り岩と反応したことで急速的進化を身体に促したとしても何らおかしくはないのである。

 何故ならば祟り岩に込められているのは、人のもたらした()いであり、ポケモンの意識さえも()るものなのだから。

 

 

 

「ウラァァァミィィィーッ!!」

 

 

 

【メガヤミラミ(サイゴクのすがた) いしがみポケモン タイプ:岩/フェアリー】

 

 

 

 しめ縄が何重にも巻かれた祟り岩は大きく膨れ上がり、ヤミラミ本体はその頂上に這いつくばってこちらを睨んでいる。

 メグルの知るメガヤミラミとは全く違う進化である。

 

「メ、メガシンカしたのか……!? 何でだ……!? トレーナーも無しに……!?」

 

 当然、この辺りの原理を知る由も無いメグルは驚きを隠せない。

 だが祟り岩の呪力は余計に強まっていき、アルカが苦しむ声がこちらまで聞こえてくる。

 

【ヤミラミの ムーンフォース!!】

 

 だが、目を逸らした瞬間に”魔物”の目が光り、月のように白いエネルギー弾がヘイラッシャ目掛けて飛ぶ。

 速度を上げてそれを回避するヘイラッシャだが、ムーンフォースの誘導性能は口内で指揮を執るシャリタツの想像以上。

 強力な一撃を受けて地面に転がされてしまう。

 とはいえ、ヤミラミの火力自体はそこまで高くない。ヘイラッシャもすぐさま立て直そうと尻尾で地面を叩いたが、その瞬間にヤミラミと目が合ってしまった。

 

 

 

【ヤミラミの じゅばくがん!!】

 

 

 

 ぴたり、とヘイラッシャの動きが硬直し、そのまま悪夢に魘されたように苦しみ始めた。

 呪縛の目は、受けたものが最も見たくない光景を映し出し、相手に見せつけ続ける。

 

「マズい、このままじゃ……!!」

 

 アブソルを繰り出そうとしたが、メグルは思いとどまる。タイプ相性上でフェアリータイプ相手に格闘タイプは不利。ムーンフォースの一撃で倒されかねない。

 そうしている間に”魔物”が再び吼える。

 そして、それにこたえるようにして天井から何匹もヤミラミが降り落ちてきた。

 彼らの狙いはヘイラッシャやメグルではない。後ろの方でオドシシに乗ったままぐったりしているアルカを取り囲んでいる。

 さっき仕留め損なった獲物を今度こそ仕留めるべく”魔物”は配下を差し向けたのである。

 

「いけないッ!! オドシシ、バリアーラッシュ!!」

 

 オドシシが吼え、周囲に障壁を展開しようとする。

 だが、ヤミラミ達の数も力も先程のそれを明らかに上回っている。

 アルカの息の根を止めるべく、彼らはまとめてオドシシの角に掴みかかり、尻尾を握り締め、引っ掻き、そして切り裂かんとばかりに鉤爪を振り上げた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 あの日打ち負かされた時から、彼に付き従うと決めていた。

 彼の命令こそが喜び。彼の成長を見届けることこそが喜び。

 日に日に逞しくなっていく彼を背に乗せることが、どれほど誇らしかったか。

 それに見合う背中になれるだろうか。否、ならねばなるまい。

 主人よ。守りたいものがあるならば、私はそれをも守れる大きな盾になろう。

 邪なものを全て跳ね除ける破魔の盾に私はなりたい。

 

 

 ──オドシシ。お前に任せておけば、何にも心配はないけどな。

 

 

 

 ……任されましたとも、私めが命に替えてでもお守りします。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「オドシシ……!?」

 

 

 ヤミラミの鉤爪がオドシシの喉笛を捉えた。

 深く深くそれは突き刺さり、鮮血が周囲にぶちまけられる。

 メグルは言葉を失った。

 何が起こったのか分からなかった。

 アルカを守るべく、オドシシは一瞬身体をよじらせたのだ。

 その結果──祟り岩の力で鋭利に研がれた爪が致命傷をオドシシに負わせた。

 

「おい、オドシシッ!!」

 

 メグルに落ち度は一切なかった。

 ただただ、運が悪かったとしか良いようがなかった。

 ヤミラミ達の力は、先程までとは比べ物にならない程に強くなっていたのである。

 あまりにもあっさりと、忠臣は声を上げることなく、足を折り、その場に倒れ──

 

 

 

 

「ブルトゥゥゥ……ッ!!」

 

 

 

 

 ──なかった。

 折れた脚が地面で強く強く踏み込まれる。

 目からは青い炎が灯り、その身体は黒く染まっていく。

 黒い靄がオドシシを包み込んでいき、爆ぜてヤミラミ達を吹き飛ばす。

 メグルも、”魔物”も、ヘイラッシャもシャリタツも、その様を見つめるしかなかった。

 かつてヒスイ地方の霊脈が、オドシシの進化に強く働いたとするならば、サイゴクの霊脈もまた、オドシシの進化に強く働かぬ道理はない。

 サイゴクでの進化事例が少ない理由はただ一つ。ヒスイのオドシシの進化と、サイゴクのオドシシの進化は、そもそもメカニズムが異なるのである。だから、バリアーラッシュを何度使っても、オドシシは進化することがなかった。

 重要なのは霊脈の力。死んでも死にきれない程の強い忠義を命を張って示したことがトリガーとなり、オドシシを()()()()()()()()()()()()()()、その精神は肉体から解放された。

 

 

 

「ブゥルトゥゥゥム!!」

 

 

 

【アヤシシ(サイゴクのすがた) おおツノポケモン タイプ:ノーマル/ゴースト】




【TIPS:オドシシの進化条件】
バリアーラッシュを20回以上使わせたオドシシを、サイゴク山脈または流島でレベルアップさせる。
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