ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第92話:徹底抗戦

【メガフシギバナ たねポケモン タイプ:草/毒】

 

 

 

 ──毒タイプのメガシンカポケモンはたったの3種類。

 そのうちの1体がフシギバナのメガシンカ。花弁は更に大きく成長し、脂肪は分厚く硬くなる。

 そして、見た目に反するその素早さから戦場を飛び跳ね回り、眠り粉をばら撒きながらルカリオに迫る。

 先程の戦いで粉によって自身が痺れさせられたことから、既にノオト自身は布で口元を覆っているが、気休めでしかない。 

 まともに浴びせられれば眠ることは避けられない。

 一方、ルカリオも粉へ警戒を強めているからか、高速で動き回り、粉塵を吸わないように立ち回る。

 

「ゴマノハさん、手出しは無用! 此処はオレっちに任せてほしいッス! ……コイツは、オレっちが倒す!」

「し、しかし──」

「眠れば無抵抗! さあ、フシギバナを前にどう戦う!?」

「近距離戦は不利──ッスね!!」

 

 口元を手で覆いながら、ノオトはルカリオに下がるよう指示し、距離を取らせる。

 近付けば眠り粉の餌食。ならば、遠距離から戦うまで。

 

「──こっち来ンじゃねえッスよ!! ”サイコキネシス”!!」

 

 巨体が持ち上がった。

 そのまま、ドクグモの方目掛けてフシギバナは物理法則を無視して吹き飛ばされていく。

 土煙が上がり、敵の姿が見えなくなるが、毒にエスパー技は効果抜群。

 メガフシギバナでさえも大ダメージは避けられない──とノオトは考えていた。

 しかし。

 

「”だいちのちから”」

 

 ──直後、ルカリオの足元が赤く熱され、爆発する。

 弱点の地面技を受けたことで崩れ落ちるルカリオ。

 ノオトは思わず土煙の方を睨んだ。メガフシギバナは、大したダメージを受けた様子が見られない。

 

「──メガフシギバナの特性は”あついしぼう”……それによって弱点はエスパーと飛行のみになる」

「ッ……で、でも、弱点は突いたはず……!」

「尤も、弱点を突かれたところで簡単に倒れるフシギバナではないがな。さて、そちらのルカリオはどうだ?」

「ぐッ──!」

 

 次は無い。

 ルカリオは紙装甲よりはマシ程度の耐久力しか持たない。

 フシギバナのように弱点技を何度も耐えることは出来ないのである。

 どのようにしてこの要塞を落とすか、とノオトが思案を巡らせる中、ゴマノハが叫んだ。

 

「メテノ、”パワージェム”でござる!!」

「ッ……!? 手出しは無用と──」

 

 だが、遅れて爆音が洞窟の壁側から響き渡る。

 メテノが狙ったのはフシギバナではない。

 岩陰に隠れていたアリアドスだ。パワージェムを食らったものの、一撃では沈まないアリアドスは、そのままメテノに向かって糸を吐きかける。それをメテノが躱し、戦闘が始まった。

 

「さ、差し合いじゃなかったんスか……!?」

「……流石だな、クワゾメの忍者よ。一方、お前は甘すぎるな……イッコンのキャプテン。相手が正道で戦う保証など何処にある?」

「──くぅっ……!」

「ノオト殿! 邪魔者はこちらで片付けるでござる! ……負けちゃダメでござるよ」

 

 ぎりっ、とノオトは歯を食いしばった。

 ドクグモとの戦いに気を取られ、奇襲を仕掛けようとしていたアリアドスに気付かなかった。

 そればかりか、ゴマノハに気を遣わせてしまった。姉ならばきっと、ドクグモの策も一瞬で気付いていたはずだ、と己を責める。

 

(こんなんで、本当に勝てるのか、フシギバナに……!!)

 

 彼が目を伏せたその時だった。

 いきなり、彼の頭は吹き飛ばされた。殴られたのだ。

 思いっきり身体は吹っ飛び、地面に叩きつけられる。

 何が起こったか分からない、といった様子で彼は起き上がると──怒った顔でルカリオが睨んでいた。

 

「ガルルルルル……ッ!!」

「ル、カリオ……?」

 

 頬を摩りながら──ノオトは気付く。自分はルカリオに殴られたのだ、と。

 彼は波動を通じて彼の心を読み取ることができる。故に感じ取ったのだ。ノオトの弱気を。

 

「……わりぃ、ちょっとヘラってたッス」

「ガォン」

「オレっちがこんなんだったら、オマエは一体誰を信じて戦わなきゃいけねーんだって話ッスよね」

 

 ルカリオは頷く。

 

「……ルカリオ。気持ち切り替えるッスよ!!」

 

 ゴマノハが繋いだチャンスを無駄にする方が彼女への侮辱となる。

 ノオトは叫ぶ。「サイコキネシス!!」と。

 フシギバナの身体は再び浮かび上がり、地面へ叩きつけられた。

 しかしそれでも尚、要塞が沈黙する様子はない。

 すぐさま持ち前の素早さでルカリオに突貫していく。

 

(目つきが変わったな小童……!)

 

「──毒技は効かぬが……これは効くだろう! ”やどりぎのタネ”!!」

 

 ぽんっ、と音を立てて花弁から大きな種が飛び出し、ルカリオを狙う。

 そこから蔓が生えてきて、ルカリオの身体を絡め取り、壁に貼り付けた。

 

「さあ、どう避ける? ”だいちのちから”!!」

「ルカリオ、足元に”はどうだん”!!」

 

 ルカリオは脚を上げると、そのまま赤熱した床に”はどうだん”をぶつける。

 技と技は相殺し合い、爆発する。

 何とか致命的な一撃を避けることこそできたが、ルカリオは未だに壁に縛り付けられたまま、そしてやどりぎは彼の体力を奪い続ける。 

 

「壁に向かって”はどうだん”をブッ放すッス!!」

 

 今度はルカリオは壁に掌を当て──エネルギーを爆発させる。

 その勢いでやどりぎの蔓は千切れ、ルカリオは地面に降り立った。

 だが、再び足元が赤く熱され、爆ぜる。今度は直撃を受ける前にルカリオは天井へと貼りついたが、このままでは消耗する一方であった。

 

「──成程。良い技の使い方だ! しかし……もうまともに戦う体力も残っていまい!」

「サイゴクのキャプテンを──ナメるなッ!! ルカリオ、天井を思いっきり蹴ってサイコキネシス!!」

 

 ノオトの目を見て、その意図を理解したのか、ルカリオは思いっきり天井を蹴り飛ばし、フシギバナ目掛けて突貫するが避けられてしまう。

 だがそこでドクグモは気付いた。砕けた天井の破片が落ちて来ない事に。

 フシギバナが移動した先に──鋭利な刃物と化した岩の破片が、物凄い勢いで降り注ぐ。

 それはフシギバナの身体ではなく、技を放つ上で重要な器官となる花弁の中央に突き刺さったのだった。

 当然そこには神経が通っており、フシギバナは痛みで悲鳴を上げる──

 

「フシギバナの花は回復にも攻撃にも使う! 言わば、第二の()とも言える場所ッス!」

「ほう──”サイコキネシス”で動かしたのはフシギバナではなく、岩の破片かッ! 良い技の使い方だ!」

 

 その一瞬が隙となる。怯んでしまえばこちらのもの。

 専門タイプではないルカリオは、強力な念動力を連発することが出来ない。

 故に、最後の攻撃は彼が最も得意とし、最も威力を出せる技を指示するしかなかった。

 だがそれでもこの時、ノオトはルカリオを信じ、ルカリオもまたノオトを信じていた。

 

「これで最後ッス!!」

 

 ルカリオの両掌が鋼色に染まる。

 そこに、光が集まっていくと共に、一瞬でフシギバナに距離を詰める。

 

 

 

「──”てっていこうせん”!!」

 

 

 

 苦悶に満ちた顔面に、短時間で限界までチャージされた光の波動が叩き込まれた。ルカリオの肉体の限界さえも超越する必殺の一撃。

 間もなく大爆発が起き、岩が、そして砂煙が巻き起こる。巨体はぐらりと揺れて──その場に倒れ込んだ。

 アリアドスに集中していたゴマノハも、爆音で思わず振り返る。

 フシギバナのメガシンカは解除され、そのまま白目を剥いて昏倒してしまっていた。

 

「……やはり、若い者の力は面白い」

 

 砂煙が晴れた。

 ルカリオはフシギバナの前に立っていた。

 しかし間もなく、ぐらりと身体が揺れると、地面に倒れてしまう。

 それをノオトはボールに戻す。

 そして、ほぼ同じタイミングでメテノが”パワージェム”の狙撃でアリアドスの急所を撃ち抜いたのだった。

 

「……相討ち──でござるか……!」

「……よくやったッス、ルカリオ」

 

 ”てっていこうせん”は反動でダメージを受ける技。

 ルカリオの残り少ない体力では耐えられなかったようだった。ノオトにはもう、戦えるポケモンは残っていない。

 

「……また、負けたッスね」

「いや──メガシンカしたフシギバナを、メガシンカせずに倒す──この時点で十二分に貴様はキャプテンたる素質を持っている! ファ! ファ! ファ!」

 

 何処か満足した様子でドクグモはフシギバナをボールに戻した。

 そして、豪快に笑い飛ばすのだった。

 

「……これだから、若い芽の成長を見るのは楽しくて仕方がない! カントーからわざわざ遠出してきた甲斐があったというもの!」

「……カントー? インディー系忍の里”どくがくれ”出身じゃ──」

「いや、よくよく考えても忍の里にインディー系とかないでござるよ!? どくがくれとか拙者も知らないでござる!?」

 

 ゴマノハが慌てふためく。

 となればやはり、これまで語った彼自身の経歴は全てウソ、出鱈目。

 

「あんた、本当に何者ッスか!? 初めて会った時だってやろうと思えばオレっち達二人を殺せたッスよね!?」

「フッ。まだまだ、拙者の技も衰えていないということだな」

 

 そう言って、ドクグモは仮面を外す。

 その顔を見て──ゴマノハも、ノオトも目を見開いた。

 仮面の下は、白髪交じりの不敵な笑みを携えた初老の男性だった。

 

 

 

「改めて──お初にお目にかかる。拙者はキョウ! ポケモンリーグ本部・四天王の一人だ」

 

 

 

 ある程度の実力を持つポケモントレーナーで、その名前を聞いたことがない者は居ない。

 サイゴクと地続きになるカントー地方のポケモンリーグ本部は、ポケモントレーナーにとって最高峰とも言える場所。目指すべき頂点だ。

 そこで挑戦者を待つ4人の番人、それが四天王である。メディアでも強者として取り上げられることが多く、サイゴクでも彼の名と顔を知る者は多い。

 田舎のサイゴク民からすれば、彼は都会の有名人であった。

 

「な、ななななななな!? 四天王ォ!? マジの!?」

「ぴっ……!?」

 

 ゴマノハはすぐさまノオトの後ろに隠れてしまう。

 

「ど、どうしたんスか、ゴマノハさん!?」

「しょ、初対面の人と目、目が合うと、恥ずかしいでござる……」

「すいませんキョウさん、この人仮面があった方が喋れたらしいッス」

「ファ! ファ! ファ! 先程までは勇ましかったのに、聞きしに勝る照れ屋のようだな! 先代のキャプテンから聞いていた通りだ」

「先代──って、ウルイさんッスよね。知り合いだったんスか!?」

 

 ──クワゾメタウン先代キャプテン・ウルイ。

 キリの父親にして、岩使いのプロフェッショナルだ。

 岩ポケモンは鈍重であるというイメージからはかけ離れた高速戦闘を得意としていた。しかし、病によって3年前に急逝。その後、彼の子供であるキリがヨイノマガンに選ばれたことで後任となったのである。

 

「かつて修業時代に何度か戦ったが、素晴らしい岩使いであった。かつては岩の如き堅物だったが……最後に会った時には立派な親バカになっていて驚愕だったわ!」

 

 まあ人の事は言えんのだがな、とキョウは続ける。

 目を瞑ると、今でも彼の事を思い出すかのようだった。

 

(……せめて、もう一度会いたかったが……お前の意志を継いだ結晶、確かに実っていたようだな)

 

「んで、その四天王が何でこんなところに……!? オレっち達を、試したんスよね……!?」

「そうなるな。()()()()()()()を鍛えてやってくれ、と頼まれたのだ」

 

 ぱちり、とキョウはゴマノハの方に向かって茶目っ気のあるウインクをしてみせる。

 それで彼女は全てを察し、恨むような顔を浮かべたのだった。

 

「……あいつらぁ……帰ったら覚えとくでござる……」

「ゴ、ゴマノハさん、すっげー怖い顔してるッスよ?」

「何でもないでござる……! 何でも……!」

「拙者も年を取ったが──やはりまだまだ老けている場合ではないな。久々に気勢のある若者に出会えてよかった」

「きょ、恐縮ッス!! こっちこそカントーの四天王に稽古を付けて貰えたなんて、光栄ッス! いつか、本気でバトルしてもらえるよう、オレっち精進するッス!」

「ファ! ファ! ファ! ……どうやら()()()()()()しておいた方が良さそうだな」

「……ぬぐぅ」

 

 決まりが悪そうにゴマノハは目を逸らす。

 さて、話を聞いていくと、キョウは報酬のついでで流島のメガストーンを採集する許可を得ていたらしく、この数日間洞窟に籠っていたらしい。

 しかし、その最中にやはりノオト達同様”異変”に遭遇したのだという。

 

「ヤミラミ達の様子がおかしくなったのは”赤い月”の後だ。異なる姿……あれが音に聞くリージョンフォームというものか」

「”赤い月”で”祟り岩”が目覚めたのでござる。……古のサイゴクに生きていたヤミラミと同じ姿になってしまったと」

 

 祟り岩によって、ヤミラミ達の行動は”赤い月”以前よりも凶悪化している。その行動原理は、”祟り岩”に封じ込められた怨念に従い、人への恨みを晴らし続けるというもの。

 

「ふむ。つまり、あの部屋に封じられていたのが祟り岩、だったか」

「部屋!? キョウ殿は最奥に辿り着いていたのでござるか!?」

「拙者が辿り着いた時には蛻の殻だったぞ。何なら、場所も覚えている。帰り道に比較的安全なルートを把握していたので、ついてくるか?」

「お願いします!! オレっち達、ヤミラミ達に落とされちゃって……」

「かたじけないでござるぅ……」

 

 こうして、無事にノオト達は坑道から脱することが出来たのだった。

 変異したヤミラミ達は毒を嫌うらしく、キョウのモルフォンが居ると近寄ってこなくなった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」

 

 

 

 時間が経つ程にアルカの容態は悪くなっていった。

 前髪で隠れた目は隈ができており、寝ていても時折過呼吸を起こしてしまう。

 その時の彼女は悪い夢でも見たかのように、酷く落ち込んでいるのだった。

 

「おい、大丈夫か……」

「ヒッ──」

 

 だが、この時になるともう酷かった。

 メグルの顔を見ただけで、顔を庇うようにして腕を振り上げる。

 そして、そこまでして漸く目の前に居るのがメグルだと判別出来たのか、落ち着いたように肩を落とすのだった。

 

「はぁ、はぁ……おにーさん、おにーさんか……よかった……」

「お前、まさか……」

「──大丈夫、大丈夫ですから……慣れて、ますから」

 

 それでメグルは全てを察した。

 あのヤミラミの精神攻撃は、時が経つにつれて相手を蝕んでいくものなのだ、と。

 咎人達の数は無数。その最期が繰り返し繰り返し襲ってくるのである。

 

「バカ、大丈夫なヤツはそんな顔してねーんだよ!」

「い、良いんです。ほ、ほら、ノオトも心配だし、そろそろ……」

「……いや、ノオトはきっとゴマノハちゃんがどうにかしてくれるだろ」

 

 メグルの中では既に心は決まっていた。

 ノオトのしぶとさ、そしてゴマノハの力を今は信じるしかない。

 何より、アブソルに穴の向こうを覗かせたが、彼女は怒ったような表情を浮かべて唸っている。

 きっと、壁にもヤミラミ達が貼り付いているのだろう。

 

「アブソル。ノオトとゴマノハちゃんの気配はこの先からするか?」

「──ふるる」

 

 彼女は首を横に振った。

 

「……死んでるってことはねえよな」

「ふるる?」

 

 それも彼女は首を傾げる。まだ誰かの死に直面したことがないので、全く実感が湧かないのだろう、とメグルは判断した。

 そして同時にノオトの言っていたことを思い出す。

 ゴーストタイプのアブソルは、死の臭いを誰よりも敏感に感じ取る。そして、もし知っている者が死んだなら、たとえ遠くでも真っ先に反応するだろう──と。

 

(あいつらなら、大丈夫だ)

 

「……おにーさん?」

「”魔物”をぶっ倒しに行くぞ」

「え」

 

 メグルはオドシシを出すと、アルカの右手に手を差し伸べる。

 

(こうなったのがアイツの技によるものなら”魔物”を倒すしか治す方法はねぇよな)

 

「で、でも──」

「オドシシの背中に乗っててくれ」

 

 メグルは精一杯、彼女に笑みを投げかける。彼女をできるだけ安心させてやるために。

 だが、心境は穏やかではない。

 

(出会った時は、コイツ相手にこんな気持ちになるなんて思わなかったけど)

 

 メグルが見ていたいのは、いつもの天真爛漫なアルカだ。辛さを耐えている彼女ではない。 

 

 

 

(……好きな子を目の前で傷つけられて、黙っていられるほどオトナじゃねーよ!!)

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