ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第90話:祟り岩

「──なあ、アルカ!? こいつらヒャッキのポケモンか!?」

「何あの石……!? 気持ち悪い……!」

 

 アルカが真っ先に感じ取ったのは、ポケモンではなく石から発せられる瘴気だった。

 彼女はヒャッキの民。第六感もこちらの人間より発達している。そのため、メグル達では感じ取れないものを全身で受け取ってしまったのである。

 

「明らかに異常事態でござる。ヤミラミは洞窟からは先ず出てこないポケモン、それが外に出て来るとなると……」

 

 メグル達が寝床にしていた大樹の周りは、既にヤミラミたちによって包囲されてしまっている。

 すぐさまゴーグルの暗視機能を付け、メグルは敵の群れを観察する。確かに1匹1匹の姿は、彼の知るものとは大きく異なる。

 目玉の宝石は、白い石となっている上に同質の石を背中に括りつけられたような見た目になっているのだ。

 だが、不思議なことに腹の中の石はキラキラと光る宝石のままだ。

 

(ヤミラミの身体の石は食ったものが反映されるという。でも、何で目玉と背中の石だけ変わってるんだ? アレがリージョンフォームのポケモンだってんなら、腹の石も全部白くなっててもおかしくねえんだけど……)

 

 ヤミラミたちが甲高い鳴き声を上げて飛び掛かってくる。

 全身筋肉痛だが、メグルはボールを彼ら目掛けて投げ付けた。飛び出したのはニンフィア。全体攻撃なら、これ以上ない適任だ。

 

「お前ら耳ィ塞げーッ!!」

 

 全員は耳に指を突っ込む。

 そして、ニンフィアはにやり、ととびっきり凶悪な笑みを浮かべると最大出力の”ハイパーボイス”を放つ。

 平原中が揺れた。木々も揺れる。

 あまりの音圧に、ヤミラミたちは蜘蛛の子を散らすようにして吹き飛ばされ、次々に逃げていく。

 どんなに姿が変わっても所詮ヤミラミはヤミラミ。1匹1匹の力は大したことは無い。相手がこちらより格上と知るや否や、皆まとめて逃亡してしまうのだった。

 更にルカリオが”てっていこうせん”、メテノが”パワージェム”をぶち込んでいき、他のヤミラミ達も逃げていく。

 

「何とか散らしたか……?」

「ふぃー……!」

 

 しかし、喜んでいる場合では無かった。

 知らぬ姿のポケモンの増殖は、島の──下手をすればサイゴクの生態系を揺るがす危機である。

 ゴマノハの顔は晴れない。一刻も早く原因を調査する必要がある、と彼女は考える。

 だが、当然これは彼女だけで成し遂げられる任務ではない。

 

「あのヤミラミは本来、洞窟で試練の相手を担うポケモンでござる。そして、洞窟の番人でもあるポケモン達でござる」

 

 ぎゅっ、と彼女は拳を握り締める。

 

「そうだったのか……!? じゃあ魔物ってのは、あいつらのボスだったのか」

「左様。しかし、あのように変異した姿、只事ではないでござるよ……」

「あいつらが出てきた原因に何か心当たりはないよな?」

「全く無いでござる。ヒャッキのポケモン……でもおかしくはないでござる」

「でも、ボクは違う気がするんだよね。あっちのポケモンって、もっとおどろおどろしいというか、過酷な環境に適応した姿をしているんだけど。あのヤミラミ達は、環境じゃなくて別の要因で変化したように思えるんだ」

「どういうことだ? アルカ」

「”石”だよ」

 

 彼女はバッサリと言った。

 

「──あいつらの背負ってる石。アレこそが、ヤミラミの変異した理由と言っても良いと思う。すっごく嫌な空気をあの石から感じたんだ」

「石でござるか……石……岩……まさか」

 

 ゴマノハは何かに気付いたように、岩山の方に目を向けた。

 

「岩に纏わる伝承ならひとつ。あるでござるよ」

「教えてくれ! 今は些細な事でも知りたいんだ!」

「で、でも──いや、今は迷っている場合ではござらん」

 

 意を決したように彼女は岩山へ歩を進めた。

 

「ご存じの通り……かつて流島は流刑地だったでござる」

 

 それは、罪を犯したものへの罰として。ある時は、敗戦者への罰として。

 彼らは何の頼りの無い無人島へと流され、そして野生ポケモンの餌食になって死んでいった。

 たとえ餌食にならずとも、待ち受けているのは確実な餓死である。

 そんな彼らは、どうにもならないという諦めと共に怨みを抱き、全てのものを呪った。

 

「──海岸には昔、白い大岩があったという。その岩は何故か年が経つごとに大きくなっていったという」

「何でそんな事が分かるんだ?」

「同じものが船渡しをしていたからでござるよ。まあ、皆与太話と言って……信じなかったでござるが」

 

 しかし、そのような目立つ大岩があれば、考えることは皆同じ。

 流された者達は、岩に自らの名前を刻んだのだという。

 誰が始めたのかは分からない。しかし、後のものも刻まれた名前を見て、自分も真似ようと後に続く。

 悔しさと怨みを込めて、流れ着いた釘を使って岩に名前を刻んでいく。

 そうしていくうちに、岩には多くの人間の呪いが籠っていった。

 

「その名も祟り岩! 間もなくクワゾメを飢饉や流行り病が襲ったという。すながくれ忍軍は、祟り岩を全ての原因と断じ、供養して島の奥底に封じ込めた」

「とんでもない呪物じゃねえか……!」

「じゃあ、祟り岩がヤミラミに影響を与えたってこと?」

「……それにしても、昔の人は何で祟り岩が原因って分かったんスかねえ」

「簡単でござる。祟り岩の周囲に、物の怪が集まっていたから……でござるよ。それらは皆、呪いにあてられておかしくなっていたとか」

 

 ゴマノハは思い返す。

 巻物に描かれていた物の怪の姿は──ヤミラミ達に酷似していた、と。

 

「じゃあ、あのヤミラミたちは……」

「祟り岩が目覚めたことで変異したのでござる……ッ!! 昔も今も全く同じでござるよ!」

「祟り岩由来で変異したリージョンフォーム……それがあのヤミラミ達って事ッスか!」

「放っておけないよね。祟り岩が目覚めてるままだと、いずれまたクワゾメに悪いものを運ぶんでしょ?」

 

 ゴマノハは頷いた。

 伝承が本当ならば、災いがクワゾメに降りかかる。

 祟り岩に込められた怨みはそれほどに大きなものだったのである。

 なんせ流島は流刑地。流されて命を落とした大罪人の数はあまりにも多すぎる。その中には無実の罪で投獄されたものも居るらしいのだから、始末に負えない。

 

(しかし、何故祟り岩が目覚めたでござるか……!? やはり先日の”赤い月”が……!?)

 

 そう考えていた矢先、ゴマノハは、この島の地下にもサイゴクの霊脈が貫いていることを思い出す。

 ”祟り岩”の事件があったのは500年前の厄災前であった。

 

(やはり霊脈は……この世にあってはいけないものなのではないか……ッ!?)

 

「それじゃあ早速岩山に急ごうぜ」

「ゴマノハさん……平気ッスか」

「──最早一刻を争うでござる。後に続くでござるよ」

 

 たっ、とゴマノハはいの一番に駆けだした。

 メグルとアルカもライドポケモンを繰り出す。

 アルカのモトトカゲは身体が大きいので、ノオトを後ろに乗せることも可能だ。

 

「ゴマノハさん、ライドポケモンは──」

「不要でござる。自分の足の方が速いでござるから!」

 

 しゅん、しゅん、と風を切るような音を立ててゴマノハは枝と枝の間を飛び移っていく。

 それをオドシシとモトトカゲが追いかけているような状態だ。

 

(生身であれだけの速度を……! やっぱ忍者すげぇ!)

(ってか、ゴマノハちゃん、人が変わったみたい……まるで、キャプテンみたいだ……!)

(……このまま何事もなく森ン中抜けられたら良いんスけど)

 

 森の中は慌ただしかった。

 周囲を見ると、ヤミラミ達が野生ポケモンに飛び掛かっている光景が見える。

 ただし、余程さっきの”ハイパーボイス”が効いたのだろう。

 メグル達に襲ってくる様子はなかった。ヤミラミという種族は単体では非力で臆病だ。

 喧嘩を売る相手を選ぶくらいには小賢しいのである。

 さて、森の中の行軍は特に危なげなく進んだ。先陣を切るゴマノハにメグル達は縦一列でついていく。

 途中何度かワナイダーのトラップに出くわしたものの、先んじてゴマノハがクナイで糸を切り裂き、的確に解除していったのでメグル達は一切罠にかかることなく進むことが出来たのだった。

 そして、彼らは岩山へとたどり着く。

 流島中央に座す牢獄山。かつて、重罪人は手錠を掛けられて、直にこの岩山の洞窟へ放り投げられたのだという。

 

「妙でござるな……道中、野生ポケモン達がこちらに向かって襲ってくる気配が無かった……!」

「皆、ヤミラミに気を取られてるのかな」

「恐らくはそうッスね。下手したら夜が明ける頃には皆、住処を追われてるかもしれねーッスよ。洞窟から出て来るって事は、昼の光も克服している可能性が高いッス」

 

 ヤミラミという種族は昼間を好まず、闇夜を好む。

 そのため、ずっと薄暗い洞窟の中に居るのが定石だ。

 しかし、外に出てきたということは、昼の光を嫌う性質そのものが変異した可能性が高い、とノオトは分析する。

 夜が明ければ外が明るくなることなど、本能で彼らは理解しているはずだからだ。

 加えて、祟り岩の怨念は彼らを目的無き憎悪に駆り立てる。その様を見て、メグルは言い知れぬ恐怖に襲われた。ヤミラミ達は自分が自分でなくなってしまったことにも気付いていない。

 

(カジッチュの前例があるものの、いざこうして目にするとイヤなモンだな……! 経緯が経緯なだけに……!)

 

 洞窟に入ると、穴だらけの部屋が彼らを歓迎した。

 採掘洞だけではなく、ポケモンが自力で掘り進めた穴なのだという。

 そのため、中は枝分かれしている。

 

「ヤミラミ達の暴走を止める方法は……もっと言えば、祟り岩の暴走を止める方法ってあるんスか?」

「分からない、先ずは辿り着いてみないことには……」

「キャプテンなら何か知ってたのかなあ……」

「……祟り岩の話など、昔話程度にしか思っていなかったでござるよ……あ、キャプテンもきっと同じでござる」

「ゴマノハさんは祟り岩を見た事あるんスか?」

「洞窟の最奥に、祟り岩はかつて清められて封じられたとされていると聞いただけでござる。わざわざ探しにいったことはないでござるが──」

「へっ、探し物ならコイツの出番だろ!」

 

 メグルはボールを放る。

 中からは、災いの気配を感じ取って険しい顔を浮かべたアブソルが飛び出した。

 

「アブソル! この洞窟で一際ヤバい気配がする場所を教えてくれ!」

「ふるーる!」

 

 飛び出した彼女は、メグル達を先導し始めた。

 しばらく、何もポケモンと出会うこともなく、彼らは進んでいく。

 しかし、アブソルの表情はずっと険しい。何か危険なものが纏わりついているのを察しているかのようだ。

 そして、数十分程経っただろうか。メグル達が緊張で身を強張らせながら洞窟を進んでいる中、漸くアブソルが足を止めた。

 

「ガルルルルル……!」

 

 アブソルは振り向き、天井を睨んだ。

 メグルはそれで全てを察する。敵は天井に居る、と。

 

「下がれ!!」

 

 メグルの声で全員は引き下がった。未来予知は忍者の察知よりも遥かに速く危機を知らせる。

 そして間もなく、ごろごろと音を立てて、敵が岩と共に降ってくる。

 ヤミラミ達だ。皆、背中に白い祟り岩を背負っている。

 

「これが……サイゴクのアブソルの未来予知でござるか……天井からは全く気配を感じなかったでござる……!」

「ボ、ボクもだよ……! 祟り岩の邪悪な気配が、今になって漂ってくる……!」

「ヤミラミは闇の住人。洞窟の暗闇に自分の気配を隠せるんスよ」

 

 ヤミラミは総出でアブソルに、そしてメグル達に飛び掛かる。 

 だが、未来予知でそれを察知している彼女に不意打ちは通用しない。

 すぐさま”シャドークロー”を地面から放ち、敵を皆突き刺すのだった。

 しかし、技を使うのにはそれなりに力が必要である。ましてや、複数体が相手ならば、猶更の事。

 故にアブソルはその間、未来予知を行う事が出来ない。後ろに居るノオトに災厄が迫っていることを予期することが出来なかった。

 

「よーし、こっちもルカリオで援護を──」

 

 そう言いだしたノオトの身体ががくん、と崩れる。

 無い。

 何も無いのだ。足元に。

 広がっているのは虚空。今まで歩いていた床など無かったと言わんばかりにぽっかりと穴が広がっている。

 

 

 

「──ッ!?」

 

 

 

 突然の出来事に全員対応出来なかった。

 ノオトの身体が消えたのだ。もっと言えば、いきなりノオトの足元が奈落の落とし穴と化し、彼の身体はそこへ吸い込まれていったのである。

 

「ノオト殿!!」

 

 すぐさま飛び出したのはゴマノハだった。しかし、手を掴むことは叶わず、彼女も落とし穴の中へと落ちていく。

 穴は想像以上に深く、2人の姿はすぐに見えなくなった。そして、周囲では祟り岩を背負ったヤミラミ達がケタケタと笑い声を立てている。

 彼らは祟り岩の化身。背中に背負った岩は擬態の為の道具でもある。

 崩れて穴が開いている場所で床に擬態し、足を乗せた獲物がやってくるなり擬態を解除して突き落とすことを平然と行えるのだ。

 その目的は、獲物を捕らえるためですらなく、ただただ対象に危害を加えるため。言ってしまえば悪戯でしかなかった。

 

(あそこに足場なんて最初っから無かった!! ずっと穴が開いてたんだ!! それを奴等──!!)

 

 擬態している間、ヤミラミは一切の気配を消せる。天井のヤミラミは最初から囮でしかなかったのである。

 

「うっ、ウソでしょ!? 落ちちゃった!? ノオト!? ゴマノハちゃん!?」

 

 いきなり後方が奈落の大穴と化したことに、アルカは困惑と恐怖を隠せなかった。

 仲間が二人、穴に落ちてしまい、消えてしまったのである。その衝撃は余りあるものであった。

 

「フルルルル……!!」

 

 漸く押さえつけていたヤミラミ達を昏倒させたアブソルが、穴の周りで笑っているヤミラミ達を”シャドークロー”で一刺し。

 だが、彼らを倒しても、落下したノオトとゴマノハが戻ってくることはない。

 

「おーっっっい!! 大丈夫かーっ!?」

「聞こえるーっ!? ねえ、返事してよーッ!?」

 

 メグルとアルカは大穴に向かって叫ぶ。

 しかし、二人の声が聞こえてくることは無かった。

 

「ま、まさか……!」

「……バカ言え!! ノオトの奴が、これしきでくたばる訳ねえだろ!!」

 

 メグルも口では言っているが、心臓はバクバクだった。

 一瞬の出来事に、誰も対応することが出来なかったものの、仲間をもし失ってしまったら、と思うと気が気でなかった。

 

「俺達も降りよう」

「オトシドリに乗れば、何とか……!」

「よし、ライドギアなら俺が使える。俺が運転する」

 

 アブソルをボールに戻し、代わりにアルカがオトシドリを繰り出した。

 このサイズならば二人共乗ることが出来る。

 

「にしてもなんつーポケモンだ……! 床の岩に擬態して、相手を落とすだなんて……!」

 

 そう言ってメグルが穴を覗き込んだその時だった。

 彼の脳裏に──突然、黒く大きな目が過る。

 

【──の くろいまなざし!!】

 

 身の毛のよだつ気配と共に、2人は思わず振り向く。

 それは最初から居たかのようにメグル達を背後から覗き込んでいた。

 オトシドリは怯えながら震え、アルカは突如現れた()()に声一つ出すことも出来なかった。

 

「まさか、コイツが……”魔物”──!?」

 

 ──全長3メートル。

 腹に大量の宝石が浮かび上がったヤミラミが、舌なめずりしながらメグル達を見下ろしていた。

 

 

 

【──メグル達は 逃げられない!!】

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