第28話: 悲哀こもごもダンジョン風味

※ 残虐な描写あり、注意要


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 ──人類史上初めてとなる、大規模な石油消失によって発生した世界の混乱は未だ解決の糸口すら見付けられていない。



 そんな中で、激減した仕事と、新たに増えた仕事……すなわち、明暗がくっきりしてしまった仕事がある。


 明の方は、なんと言っても一次産業……その中でも、食料生産に携わる仕事だろう。


 石油消失が起こって間もなく、農家などには自衛隊や警官たちが派遣され、24時間体制での警備がなされるようになっていた。


 理由は考えるまでもなく、食料盗難に対する処置である。


 皮肉な話だが、もはや国は法律の建前を守る余裕などなくなっていた。なにせ、配給すらまともに行えていないのだ。


 これみよがしに反対意見を述べて、なんの役にも立たない正論で妨害しようとした一部野党議員が、河川敷に解体された状態で発見されたことで、この処置はスムーズに通された。



 ……解体、とはって? 



 文字通り、解体である。


 遺体は78個に解体され、糞便に塗れた状態で河川敷に放置されていた。筋肉組織が約2kgほど見つからないままだったが、事はそれだけでは終わらなかった。


 その議員の家族もまた連絡が取れなくなり……同じような状態で発見されたのである。



 しかも、ただ見つかったわけではない。



 検死の結果、遺体からは人間のモノと思われる噛み跡がいくつも確認され、噛みちぎったと思われる痕跡もあった。


 そのうえ、傷口の状態や歯型からして、まだ生きているうちに噛まれたと思われ、最低でも10人分の歯形が確認された。


 その議員の家族全員分を合わせると、その数は30人近くにも膨れ上がり、中には頭を割られて掻き出されていたのもあった。


 つまり、最低でも30人がこの事件に関与し、議員を始めとして家族は凌辱の後に生きたまま身体を食われ、解体され、子供の玩具のようにぐちゃぐちゃになっていた、というわけだ。


 これに対して、当然ながら同じ政党の野党議員は『犯人許すまじ』と声明を出したが……その議員も、10日後に同様の遺体となって発見されたことで、誰もコレに触れようとはしなくなった。



 ……警察は動かなかったのかって? 



 はっきり言うなれば、警察も調べるフリをするだけで、深くは調べようとはしなかった。


 理由は、相手があまりにも狂人過ぎたから。


 警察とて、人間である。


 人間を生きたまま……それも、30人規模が同時に動いて殺しに掛かる組織……いや、おそらくそれは、組織ではない。


 たまたま激情に駆られた者たちが集まって、狂気的な惨劇を行った……つまり、その時は確実に正気ではないのだ。


 以前とは違って監視カメラが起動しているところは非常に少なくなっているうえに、電力を維持出来なくなっているので、以前のようにSNSも使えなくなっている。


 すなわち、民間からの情報提供(主に、記録映像)も期待できなくなっているわけで。


 下手に藪を突いて自分たちが同じ目に遭う可能性は否定出来ない。


 今は我に返っているにしても、既にタガを外して一線を超えてしまった者が最低でも30人。


 いくら訓練しているとはいえ、パトカーや無線も以前に比べて使えない状況で、そんな者たちに10人単位で囲まれたら……ゆえに、警察も及び腰になったわけである。


 ただでさえ治安維持に人手が足りていない中で、選挙アピールのために馬鹿をやった者に対して……親身になって動く者は、内外問わず皆無であった。



 ……さて、話を戻すが、以前より食料生産関連の警備ははるかに厳重になった。



 比喩とかではなく、盗もうとした者は暴力による制裁である。


 既に刑務所はいっぱいなので、犯人は見つかり次第、制裁である。サスマタを振り被って、脳天へと叩き落とすわけだ。


 冗談抜きで戦前の畑泥棒=全身ボコボコリンチであり、警備している者たちも溜め込んでいるうっ憤を晴らす意味もあって、制裁は酷いモノになっていた。



 ……そして、暗の部分は、主に安定した電気や物資、ネットワークが維持されたうえでの職業の人たちだろうか。



 なにせ、SNSはおろか、ネット通信もままならなくなっている。


 いわゆる、プログラマーと呼ばれる職業に就いている者たちの9割以上が職を失ったし、同様に、デザイナーと呼ばれる者たちも8割以上が3ヵ月以上仕事の依頼が0になっていた。


 良くも悪くも、現代は豊富なエネルギーを前提にした仕事がそれだけあったという事であり、その前提が崩れてしまえば、とてもではないが、それだけの職を維持できないわけで。


 なんともまあ、皮肉な話ではあるけれども。


 それだけの職を奪ったのが『ダンジョン』ならば、必然的に、あるいは、生存を維持するために、そういった者たちの受け皿となったのもまた、『ダンジョン』であった。






 ……そんな感じで、だ。



 日本のみならず、人類社会全体の空気が荒み始めている最中。


 まるで、逆境こそ攻め時、ピンチはチャンス、七転び八起きの精神で、なんと新装開店したリサイクルショップがあった。


 新装開店とだけあって、店内はピカピカである。何から何まで新品の気配が満ちている、ただし、商品を除いて。


 なにせ、リサイクルショップ。


 新品を売ったらそれは、リサイクルではない。中古品を売るからこそ、リサイクルショップなのである。


 オーナーと店長と店員を兼任しているが、店内には真新しい商品が並び、確かな目利きによって集められているのが一目で分かった。



『──さて、今日も一日頑張りましょう、私です』



 そんな店で、唯一の人物(?)である、背中に翼を生やして6本腕でなんか上半身裸でありながら、欠片も寒そうにしていない……時々BIGになる、謎のお姉さん店員は、グッとガッツポーズを取っていた。


 なんで、謎のお姉さんがそんな店を開いているのか……別に、そこまで深い意味はない。


 なんか思っていたより人間が駄目になりそうな気配がしていたのと、あまり大々的に手を貸していると堕落一直線なので、その折衷案としてこの店を開いたのである。



 だから、なんでリサイクルショップなのか? 


 ……まあ、アレだ。



 なんかツッコまれても、『それは……リサイクル品なんでぇ……何も知らないんでぇ……』と誤魔化せるかなっていう。


 今さらそんな事を気にするのかっていう話だが、とにかく、そういう誤魔化しを考えて、店を開いたわけである。


 ちなみに、店に置いてある商品は全て、この謎のお姉さん店員が、倒産して倉庫に放置されていた商品をぽっけナイナイしたモノである。


 なので、特にコレといった目利きをしてから商品を掻き集めたわけではない。


 むしろ、何を置いたっけ……てな感じで。


 なんか客から質問されても、その場の思い付きで適当にそれっぽい言葉を並べているだけだったりする。


 だって、商品の値段すらまともに決めていないし……まあ、決める必要などないのだ、だってお金なんて有っても意味ないし。


 この店は、あくまでも謎のお姉さん店員が、行き当たりばったりで動かしている店に過ぎないのだから……で、だ。



「……??」

『──いらっしゃい、少年。また会いましたね』

「……ん? ん? ん?」

『──おっと、さすがにけっこう本気で誤魔化すと、少年でも違和感を覚えるだけに留まるのですか』

「え?」

『いえ、こっちの話です。それで、何をお求めですか?』



 昨日まで無かった店が今日になって出現しているがゆえに、必然的に冷やかし客が多かったわけだが……どうやら、その中には小山内ハチも含まれていた。


 もちろん、何の理由もなくこの店には入れない。


 有るかどうかは別として、この店は、何かしらの商品(少なくとも、リサイクルショップにあるかも……みたいな)を求めている人だけが入れるようになっている。


 なので、この店にハチが入って来た時点で、何かしらの商品を求めて来たわけだが……で、話を聞いた謎のお姉さん店員は、頷いた。



『御所望の石油ストーブはありますけど、電池は持っているのですか?』

「え?」

『電池が無いと使えませんよ。または、マッチやライターなどで直接点火も可能ですが、あいにく、電池もライターもマッチも店内には置いてないのです』

「あ~、そっか、そうなんだ。でも、火を点けられるやつってどこの店でもとっくに売り切れて、いつ店に入ってくるか誰も分からないって……」

『なるほど、ではコンセント式にしましょう』

「え?」

『こうして、くっつければOKです、そのようにしましたから。しかし、そうなると電源の確保が必要になりますが……用意は出来ていますか?』

「え……え~っと、それはまだだけど……」

『なるほど、ではそこのポータブル電源もセットで買いましょう。とりあえず、一台あれば何かと便利ですよ』

「そ、それじゃあ……おいくらですか?」

『いくらなのでしょうか?』

「はい?」

『とりあえず、両方合わせて5000円で良いですよ。なんかほら、節約とかそんな客が売りに来たやつ(大嘘)で、場所取るので……どうでしょうか?』

「5000円でこの二つは有り難いのですけど……えっと、ううん? なんか、変な気分に……???」

『おや、このままだと私に気付きそうですね。それでは、また……』



 そうして、華麗な接客テクニックで小山内ハチを送り出した謎のお姉さん店員は。



『……我ながら見事な接客、世が世なら、エリートとして名を馳せていたかもしれませんね』



 なんか、人知れず自画自賛をしつつ。



『……新たに作ったダンジョンも大盛況のようですし、これは買ったな、寝る……いや、止めましょう。タップリ寝ましたしね、しばらく起きていましょうか』



 チラリと、三つのダンジョンがある方へと順々に視線を向けたのであった。






 ……。


 ……。


 …………一方、その頃。



 謎のお姉さん店員のみならず、日本全国の注目を一身に浴びていると言っても過言ではない、例の三つのダンジョンだが……皆が予見していたとおり、大変な混み具合であった。


 なにせ、『石油ダンジョン』とは違い、引火性の高いガスが満ちているわけでもなければ、危険なモンスターが居るわけでもない。


 さすがに食物が多数あるから冷蔵庫の中みたいに低い気温に保たれているが、それでもせいぜいが、冷蔵庫の中、ぐらい。


 具体的には、2,3℃ぐらいだ。


 そして、出現するモンスター……たとえば『肉ダンジョン』だが、もはや、モンスターを気にする理由はない。


 何故ならば、生きているモンスターを確認するよりも前に、そのモンスターが死んでいて『肉』に変わっているからだ。


 文字通り、空気に晒されるだけで死んでいるのではってぐらい、弱い。


 だから、どのような形のモンスターが出現しているのかすら、誰も知らない。


 しかも、出現するのは地面だけではない。


 地面もそうだが、壁や天井にも、下手したらダンジョン内部から出現しているのか、次から次に肉がボコッと飛び出してくる感じだ。


 あまりにも簡単に手に入るから、先を争う必要がない。


 そしてそれは、他の二つもダンジョンでも同じだ。


 天井から壁から地面から、あるいは、宝箱みたいなモノが置かれていて、蓋を開けたら中から明らかに収まりきらない量の食糧が溢れ出たとかいう話も報告された。


 あの、空に浮かぶビッグ謎のお姉さんの言葉通り、本当に取っても取っても底が一切感じられないぐらいに豊富に手に入る。


 おまけに、石油ダンジョンとは違うので、普通に厚着をしても問題はないし、靴だって履いてOK。


 むしろ、身体の保護のためにしっかりと着込んでから行うようにと政府からテレビを通じて伝えられたぐらいである。


 だからこそ、石油ダンジョンの時にはあった、警戒心ゆえに近付かなかった者たちも、次から次に押し寄せる事態になっていた。


 まあ、それは、あの時よりも状況が悪化して、とにかく食えるモノをって人が増えたからなのかもしれないが……で、だ。


 そんなわけで、この三つのダンジョンはとにかく朝から晩まで盛況で、久しぶりの嬉しい出来事に、誰も彼もが笑顔を見せていた。



 ……が、しかし。



 人が多く集まるということは、その分だけ事故も起きるというもので……やはり、必然的にそういう状況に陥った者が現れていた。


 具体的には、ダンジョン内での遭難である。


 この三つのダンジョンは、とにかく大勢の人達が入れるようにと、とにかくアリの巣のように枝分かれしながら長く広大に広がっている。


 だから、混雑していても次の場所へ、あるいは隣の通路を行けば良いわけで、場所取りを原因とした喧嘩が起こることもなかった。


 そのうえ、奥に行けば行くほど、より美味しいモノが手に入るわけだ。


 それこそ、手前の部分は旬の時期を外してポソポソとした舌触りのジャガイモも、奥の方だとブランドじゃがいものように良品質な食材が手に入るわけで。


 どうせタダで手に入るならと、より奥の方の食材を求める者が続出した……わけなのだが、それが実は危険であった。



 ──結論から言えば、通ってきた道が、天井から崩れ落ちてきた食材で塞がれてしまうのである。



 なにせ、毎日10万人が押し寄せても問題ないぐらいの膨大な量の食材が絶えず生み出されているのだ。


 そして、通路や部屋もそれに合わせて枝分かれし続け、空間がねじ曲がっているので、奥行きは無限に等しいぐらいに広大で。


 見方を変えたら、出入りする人が増えようが減ろうが、それだけの食材が無限に供給され続けるわけで。


 内部で発生した食材の重みに耐えきれず、わずかに生じた亀裂から噴き出し……通路を一つ塞いでしまうぐらい容易いことでしかなかった。


 その結果、その人はさらに奥へと進み、どこかで引き返そうと道を探すわけだが……大変なのは、その先だ。


 奥に行けば行くほど人の出入りが少ないわけで……必然的に、同様に道が塞がっていたり、通路が狭くなったり、景色がまったく変わらないから方向感覚を見失うわけで。


 そして、体力が尽きて休んでいても、生産される食糧が止まることはなく。


 膨大な食材によって進む事も戻る事もできなくなったその人は……半狂乱になってリュックに入れた食材を投げつけても、迫ってくるソレを止めることはできず。


 最終的にはいっさい身動きが取れなくなって、押し寄せてくる食材に押し潰され、そのままダンジョンの中に呑み込まれてしまうのであった。




 ……。


 ……。


 …………その危険性に政府が気付き、『深入りするのは入念に準備をしてから』とアナウンスが出るのは、この三つのダンジョンが出来てから、しばらく経ってからのことだった。






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切れば良いのだ、何事も! 葛城2号 @KATSURAGI2GOU

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