ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
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「一騎打ち試練に於いて重要な事。それをメグルさんは忘れてるッス」
「……忘れてる? 何を」
「基本的にヌシのオオワザは、オーライズしたポケモンのオオワザよりも強いッス。特にアケノヤイバとヨイノマガンのそれは1000年間磨き上げられた技ッスから」
「しかしあんなビーム光線みてーな技、どうにかできるとは到底思えねーんだけど。……まさか、解除する方法があるのか?」
「そのまさかッスよ。オオワザは発動までに一定の時間を要するものが殆どッス。その間に、解除を行う事でヌシは大きな隙を晒すんス」
そして、それは今までメグルがオーライズを手にする前にやってきたことでもある。
人間、便利なものを手にすると基本を忘れてしまいがちになるのだ。オオワザのぶつけ合いでは、メグルのポケモンに勝ち目は無い。
しかし、オオワザ発動前の隙を逆手にとって、解除することでメグル達は一気に闘いを楽に進められるはずだ、とノオトは主張する。
「──でも、タネが分かったところでそれを実行できるだけの地力がねーと、意味ねえッス。その意味、分かるッスよね?」
「……一度基礎に立ち帰れ、か」
「そのために今、ポケモン達の底上げをやってるわけッスよ」
「で、俺も鍛える意味はあるのか?」
「あるッスね」
──ノオトの訓練は徹底的に基本に忠実だ。
イッコン式スーパートレーニング・通称スパトレ。
ノオトが考案した、ポケモンの能力を効率的に伸ばすための基礎トレーニングプログラムだ。
各ポケモンの強みを理解した上で、それぞれのポケモンの得意分野を伸ばす訓練を行うというもの。
ニンフィアは体力と特攻を。バサギリは攻撃と素早さを、と言った具合に。
体力を鍛えるために走り込みを繰り返すトレーニング。
攻撃や特攻を鍛える為に、岩や樹木に技をぶつけ、精度と威力を上げていくトレーニング。
防御や特防を鍛える為に、身体に負荷を掛ける筋力トレーニングや、長時間の瞑想を行うトレーニング。
素早さを鍛えるために、ルカリオの放つ弾幕を躱すトレーニング。
イッコンのおやしろでやっていた事と、やる事自体は変わらない。ただ、場所が変わっただけだ。
「ポケモンを鍛えるには、最高の場所ッスね、此処は!」
「こ、このトレーニング馬鹿……」
「ふぃー……!」
問題は、トレーナーもこの訓練に否が応でも付き合わされることである。
ポケモンの苦楽はトレーナーも分かち合うべし。これがノオトのモットーだ。
とはいえ彼は古典的な根性論者ではない。鍛える者の体力や運動能力を計算したメニューを組むことが出来るのはイッコンでの修行で見せた通り。
だがそれは逆に言えば鍛える側からすれば、倒れないギリギリの負荷をずっとかけられることになるわけで。メグルも例外ではない。
「お、お前、生き地獄の体現者か……?」
メグルは既に目が死んでいた。
「倒れちゃあトレーニングにならねーッスから。徹底的にそこは管理してるッスよ。そして、この負荷が明日の自分を作るッス」
「悪魔か……?」
「此処で一旦休憩ッスね」
そう言っているノオトは、メグルの倍近くの負荷を掛けたノルマを自らに課している。
最年少でありながら肉体・精神共に強靭そのもの。イッコンのキャプテンは伊達ではないのである。
そんな光景を見つめながら──アルカはふふっ、と微笑む。
「……やっぱ、兄弟みたいだ。あの二人」
「ノオト殿……拙者の知らない間に……あんなに立派になって」
「キャプテンらしいよね。頑張ってる」
「……ノオト殿は人一倍努力家でござるから」
「そうだね。おにーさんも、あれで結構素直で真っ直ぐなところあるからさ。似た者同士なのかも」
「……お二方のおかげでござるよ」
ゴマノハは言った。
「ノオト殿は繊細なお方でござるから……お二方と仲良くしている所を見ると、ほっとしたでござるよ」
「ゴマノハちゃんって、ノオトとはどれくらいの付き合いなの?」
「つっ、付き合ってはないでござる!! 畏れ多い!!」
「そう言う意味じゃないよ!?」
顔を真っ赤にしたゴマノハは、木の洞に隠れてしまった。
そして、己の誤解を悟り、更に「あう」と声を漏らし、引っ込んでしまう。
「……初めて顔合わせしたのは……ノオト殿がキャプテンになった時でござった。それ以来、度々顔を合わせているでござるよ」
「そうなんだ」
「”さじんの屋敷”に泊まりに来るのも一回や二回ではないでござるから」
(これから何回も顔を合わせる相手なんス。仲良くなりてーのは当然っしょ?)
そう言って、襖越しでもノオトはゴマノハと話をしようとしてくれた。
当初、ぐいぐいと来る彼に、ゴマノハは引き気味で何度も逃げてしまったが、ノオトはめげずに何度も向き合ってくれたのだという。
彼が根っからの陽キャで、誰にでもそのようなアプローチをする(女性相手ならば特に情熱的に)と知ったのであるが、不思議とゴマノハはショックを受けなかった。
「裏表がないのでござるよ、ノオト殿は」
それが彼女から見たノオトの人物評だった。
「初めて会った時、ノオト殿からは、悪意やウラのようなものを全く感じなかったでござるから。いつの間にか話せるようになってたでござる」
「……そうなんだ。でも、他の人と話すのはやっぱりハードルが高い?」
「正直……そうでござるな。でも、お二方はノオト殿の旅仲間でござる。あの人の仲間だから……拙者は安心できたでござるよ」
「良かった! ボクももっと、ゴマノハちゃんと仲良くなりたいからさ!」
「アルカ殿……」
「ボクね、こんなに友達が増えるなんてちょっと前は考えられなかったから。嬉しいんだよね!」
「……拙者も、そう思うでござるよ。でも、拙者と居たら気を遣わせてしまうでござる」
「人と顔を合わせるのが怖いのなんて、大したことじゃないよ。気を遣うだなんて、思わなくて良い。ボクがそうしたいんだ」
「うう……やっぱりアルカ殿も、ノオト殿と似てるでござるよ……」
陰キャには、陽の光はあまりにもまぶしすぎる。日の当たった吸血鬼のように砂になってしまいそうになるゴマノハだった。
※※※
「ずがー……ずごごー……」
「くー……くー……」
「すぅ……」
並んで寝るメグルとアルカ、そしてゴマノハ。
夜の島はその日、いやに静かだった。
木の洞に近付いてくるポケモンは香草のおかげで居なかった。
だがしかし、寝ずの番で唯一ノオトだけが木の洞の前で──ルカリオを相手にスパーリングを繰り返している。
鉄板と綿入りのプロテクターを腕と胴に装着し、ルカリオ側は”技”を封じているものの、ポケモンの放つ神速の打撃を掴み、いなし、そして切り返すノオトの動きはサイゴク最強クラスの格闘使いと呼んでも差し支えないものだった。
ルカリオの蹴りがノオトのプロテクターを打つと、その場に衝撃が響き渡り、眠っていた鳥ポケモンが木の上から逃げていく。
「……気が立ってるんスか? ルカリオ」
「……ガルルル」
「奇遇っスね。オレっちもッスよ。全然物足りねえッス!!」
「無理は──お身体に障るでござるよ、ノオト殿」
その声でノオトとルカリオは手を止めた。
振り返ると、ゴマノハが心配そうな顔で見つめていた。
ノオト相手であれば、段ボール箱を被らなくても喋れる彼女は呆れたように近付いていく。
「……いやー、身体を動かさねえと落ち着かねえんスよ。そっちこそ寝ないと」
「雑魚寝は……ちょっと落ち着かなかったでござるよ」
「はぁ、んじゃあオレっち達似た者同士ッスね」
ルカリオをボールに戻すと、ノオトは木の幹に寄りかかる。
今日はいやに月が綺麗だった。
「……ノオト殿は本当に努力家でござるな」
「努力しねえと、どんどん引き離されちまうッスから。姉貴にも、キリさんにも」
「そう言って貰えれば、キャプテンもきっと喜んでいるでござるよ」
「……そうッスかねえ」
ノオトは──不機嫌そうに口を尖らせた。
「ノオト殿なら……ヒメノ殿にもいつか勝てるでござる。うちのキャプテンにもいつか──」
「──現実はそこまで甘くねーッスよ」
「えっ……」
ぴしゃり、とドライにノオトは言った。
「……努力した凡人は
ぽつり、と弱音を漏らすようにノオトは言った。
「強さの序列は絶対。リュウグウさんが20年以上もの間、サイゴクのキャプテンで一番強かった理由が分かるッスか?」
「それは……」
「……強者が強者たる理由はシンプルッス。
彼の強さへの理念は非常に、そして非情にシビアだ。
ヒメノと比較しても持たざる側である人間であるが故のストイックさだった。
持たないが故に、持つ者に必死で食らいついて来た、それが今までの彼の人生だった。
しかしそれでも現実は揺らがない。未だにノオトはヒメノに本当の意味で勝てたことがない。
そればかりか、他のキャプテンとの実力比べでも最底辺。常に周囲との壁を感じてきたからこそ出した結論だった。
「努力の天才、だなんて言葉、オレっちは信じねえッス。成功してる人間は皆、努力の天才ッス。その上で更に別の才能があるんス。オレっちみてーな何も無い凡人は……理屈と理論で戦うしかねーんスよ」
「何でそんな……悲しいことを言うのでござるか……」
「勘違いすんなッス。投げやりになってるわけじゃねえッスよ。倍努力しねえといけねえってだけッス。それも、効率的にやらねーと……ダメなんス」
(ま、それでも……身体が勝手に動いちまうんスけどね。本当はダメって分かってても)
若さゆえに。一刻も早くその先の段階へ進みたいという欲求をノオトは抑えきれない。
だからこそ、この年齢でありながら既に頭抜けた実力のポケモントレーナーになっているのだ。彼の不幸は、周りの人間がそれ以上に優秀だったことである。
ハズシはレーサー経験を積んでおり、多くの仕事を掛け持ちする超人。更に人の域ではない視力を最大の武器としている。
ヒメノは霊感を持ち、ゴーストポケモンの生態を理解し尽くし、更に並外れた第六感も武器とする。
キリはその立ち振る舞いから、相手に自らの情報も思考も一切悟らせない。ヒメノの戦術眼が通用せず、ノオトが唯一性別を判別できない人物だ。
そしてリュウグウは──20年もの間、キャプテンの中で最も強い人物としての地位を死守しており、長年の経験と知識、勝負勘で他の追随を許さない。
故人ではあるものの、今のキャプテン代理・ユイの父であるショウブは、相手の動きから一瞬で急所を見極め、自分のポケモンに的確に狙撃させる絶技を持っていた。無論、本人も狙撃の
それに比べてしまえばノオトが”凡人”と自らを断じてしまうのも無理はない相手ばかりである。
「……ノオト殿のようにストイックになれる人はそうそう居ないと思うでござるよ。皆ノオト殿みたいに頑張る前に挫折するでござる」
「キャプテンに努力に対して真っ直ぐになれない人なんて居ねえッスよ」
「そ、それは……」
「だからオレっちは……その上を行きたい……姉貴や、テング団もだけど……キリさんにも負けたくねーッスんよ、オレっち」
ノオトは掌で草を毟る。
「オレっち……あの人の事は尊敬してるッス。でも……それ以上にマジで腹が立つんス」
「えっ……」
(そ、そんな風に思ってたでござるか……!?)
ゴマノハは驚いたような顔を浮かべ、そして目を伏せた。
そんな彼女を他所に──ノオトは渾身の怒りを今この場に居ないキリにぶつけていく。
「許せねえッスよ。だって──だって!! 今までオレっちをフッた女の子皆、何て言ったか分かるッスか!?」
「……ん?」
そこでゴマノハは──あまりこれが深刻な話ではない事に気付いた。いや、ノオトにとっては深刻な話ではあったのだが、あんまり真剣に聞かなくて良い話であることに気付いた。
「”やっぱりクワゾメのキャプテン・キリさんみたいなクールで格好いい男の人が良いわ”って!! 揃って皆言うんスよ!!」
「あ、あのー、ノオト殿?」
「オレっちがキャプテンなのを知ってて!! 当てつけみてーに皆言うんス!! わ……ぁっ……涙出てきた……何でだろ!! 月が綺麗だからかな!!」
「泣いちゃった!!」
【特性:ライトメンタル】
ゴマノハは頭を抱えた。この少年、これはこれで悩んでいそうなのが逆に突っ込みづらい。コミュ障の彼女には非常に触れづらい問題だった。
「え、えーと、つまるところ、さ、逆恨みでござろう……? うちのキャプテン、何にも悪くないでござるよな……?」
「そうッスよ!! 逆恨み!! あの人は何にも悪くねーッス!!」
「ええ……認めちゃったらお終いでござるよ、色々と……」
「でも、やってられねーんスよ! 姉貴までキリさんにベタ惚れ! しかも、キリさんって【サイゴク版女子人気トレーナーTOP10】にここ3年ずっと入ってるんスよ! 姉貴が惚れるのもやむなし……!」
因みにノオトの名前は勿論入ったことがない。だからイマイチなんだぞ、と突っ込んでくれるメグルとアルカは今残念ながら寝ている。
「だからオレっち、キリさん見ると無性に腹が立って仕方ねえんス!! いっつも表には出さないけど!! 平気な顔してるけど!! でも、完璧過ぎて、非の打ちどころがないんスよあの人!! 悔しーッ!!」
「そんな事ないと思うでござるよ……? きっと、無理してるんでござるよ、案外アレで」
「もしも姉貴とキリさんが結婚したら……オレっち、ショックで寝込むかも……げほっ」
全くゴマノハの話を聞いていないノオトは勝手に想像し──そして喀血した。
「ノオト殿ォ!? 血!! 血が!!」
「す、すまねえッス。今のはあらぬ想像で胃に過負荷が掛かって出血しただけッス」
「想像だけで!?」
【特性:ライトメンタル】
「だってぇ、姉貴が結婚だなんてぇ、まだ早ェッスよ!!」
「安心するでござるよノオト殿!! 多分うちのキャプテン、ヒメノ殿と結婚する気は更々ないと思うでござる!! だってあの子怖いし!!」
「あーッ!! 考えてたら悔しくて走り込みしたくなってきたッス!! マジで許せねえええええッ!! キリさんんんんんッ!!」
そう叫び、ノオトはその場から逃げるようにダッシュしていき、見えなくなった。嵐のような少年である。
そんな彼を──ゴマノハはずっと見つめていた。
(……全く、肝心なところで締まらない人でござる。でも、ノオト殿らしいでござるよ)
そして、くすくすと笑みが漏れた。
どんな理由でも良い。彼が──キャプテン・キリに立ち向かう理由になるのなら。彼が戦い、強くなる理由になるのなら。
それにゴマノハは知っている。ふざけているようでいて、ノオトが誰よりも強くなることに真剣であることを。
真面目な話を長く続けていると、自分で耐えられなくなってしまうようなシャイな面も持っていることを。
彼女は──ちゃんと今まで見てきたし、知っている。
(……拙者なら、ノオト殿にあんな顔させたりしないのに)
おどけていたが、会話の中で彼の顔にはやりきれなさ、悔しさが度々滲み出ていた。
(……本当のことを言ったら……多分、嫌われちゃうでござるな)
彼女が目を伏せたその時だった。ぞわり、とゴマノハは全身に悪寒を感じ取る。
「何っ……この気配!?」
辺りを見回した。平原は静かだ。しかし──遠くから叫び声が聞こえてくる。
「ウィィィィィィィーッ!!」
「ぎゃあああああ!! 殺されるッスー!?」
ノオトが、走りながら戻ってくるのが見えた。
その顔は恐怖に引きつっていた。
そしてその後ろには、無数の黒い影のようなポケモンが這いながら彼を追いかけていた。
否、ノオトだけではない。この大樹の幹を取り囲むようにして、全方位から黒いポケモンが迫ってくる。
「ルカリオ──ッ!! あくのはどう、ッス!!」
爆音が鳴り響き、黒い影のようなポケモンが巻き上がって吹き飛んだ。
それでもまだ彼を追いかけて来るのであるが。
「な、何事でござるーッ!?」
「ゴマノハさんんんッ!! 緊急事態ッス!! 全員起こしてくれッス!! スクランブルッス!!」
とてもではないがルカリオ1匹で食い止められる数ではない。
先にゴマノハはメテノを繰り出し、全方位をパワージェムで爆撃していく。
「何故……!? 何故、ヤミラミが外に……!?」
突如現れた無数のポケモンの姿をゴマノハは捉えた。
白い岩をしめ縄で括りつけられ、目も石で出来た黒い小人のようなポケモンだ。
(しかし、我らの知るものとは姿が違うでござる……!?)
【ヤミラミ(???のすがた) いしがみポケモン タイプ:岩/フェアリー】