ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第87話:忍の技

「忍者が自分で名乗っちまったよ」

「どうせ偽名ッスよ」

「ファ! ファ! ファ! 左様、忍の名前に意味等無いわ! 逆にそちらは……イッコンタウンのキャプテン・ノオトとお見受けする」

 

 ノオトは目を見開いた。この男は自分の事を知っている。何処の所属か分からないが、彼は自らのカンを信じた。恐らく相手はすながくれ忍軍の者ではない。彼らが試練の為に一芝居打っている線は薄いと感じたのだ。

 何故ならばこの忍者の男、少なくともキリに並ぶ実力者ではないか、と彼の中のツワモノセンサーが言っているのである。そして、このカンが外れたことは、ノオトの人生で一度もない。

 彼には霊感こそないが、積み上げた経験と観察力、そして洞察力による”カン”は研ぎ澄まされたものとなっている。ただし、美女を前にするとセンサーは全て死ぬ。無情なり。

 

「何処の里の者ッスか!!」

「どくがくれ忍軍、とでも言っておこう」

 

 木の上に立つ男達からは皆、同じ声が聞こえてくる。皆、ドクグモの分身なのだろう、とメグルは判断した。

 

「NARUTOでも聞いた事ねーぞ、どくがくれとか……」

「インディー系の忍の里なんスよ、きっと」

「インディー系とかあるの!? 忍の里に!?」

「そう、まさにその──いんでぃー系である」

「なワケねーだろ!! パチこいてんじゃねえぞ!!」

「ファ! ファ! ファ! まさにこれが煙に巻く、ということである。良いのか? 拙者に構っている間に戦況はどんどん悪くなっていく一方だぞ!」

 

 ドクグモが口笛を吹く。

 同時に、派手な警戒色をした蜘蛛がワナイダーを踏み越えて現れる。更に、ぎょろりとした玉のような目玉の蝶が羽ばたき、やってくる。

 

「げぇっ、モルフォン!? んでもってアリアドスかよ!?」

「両方共サイゴクには居ねえポケモン──やっぱりおやしろの人間じゃねえッスね! マジモンの敵ッスよ、コイツぁ!!」

「──余所見をしていると足を掬われるぞ」

 

 分身を解いたドクグモは──メグル達の背後に回り込んでいた。

 

「──これで一度、貴様等は死んだぞ」

「ッ……!!」

 

 すぐさま振り返り、再びメグル達は構え直す。

 正体不明の忍者・ドクグモに加え、アリアドスとモルフォンによってメグル達は囲まれてしまう。

 

(モルフォンはH70A65B60C90D75S90……正直、物理面が貧弱、殴れば勝てるポケモンのはず……だけど、あの鱗粉、吸ったらヤバそうだ……!)

 

【モルフォン どくがポケモン タイプ:虫/毒】

 

 メグルはワナイダー達が昏倒した理由を察した。モルフォンの翅から今も振り撒かれている鱗粉だ。それを吸い込んだことで、毒状態となったのである。モルフォンの分類は毒蛾ポケモン。鱗粉を吸う事は敗北を意味する。

 そしてメグルはちらりと派手な色をした毒蜘蛛に目をやった。単眼からは不気味な殺意が滲み出ており、毒針は常にこちらの喉笛を狙っている。

 

(H70A90B70C60D70S40……アリアドスなんて大して強いポケモンじゃねえはずなのに……! 何だこの圧は……!)

 

【アリアドス あしながポケモン タイプ:虫/毒】

 

 決してステータスは優秀なポケモンではない。ないはずなのに。ポケモン2匹が常にトレーナーを狙っているという事実がメグル達を強張らせる。

 

「──さてメガストーンとやら……テング団に売りつければ、多額の報酬が手に入るのだったな。先に、商売に邪魔な貴様らを始末するとしよう」

「それ、冗談キツいどころじゃねーッスよ」

 

 ノオトの顔が真剣そのものに変わる。姉を傷つけたテング団を、彼は内心相当憎んでいるのだ。

 

「……奴らの所為で、どれだけの人が泣いてんのか分かってんスかテメェは!!」

「ファ! ファ! ファ! 知れたこと。拙者は報酬が手に入ればそれで良い」

「テンメェ──」

「熱くなるなノオト!」

 

 メグルは叫ぶ。相手はノオトがイッコンのキャプテンであることを知っている。故に、どうすれば彼を怒らせることが出来るかを考える事が出来たのだ。

 

「──怒って勝てるような相手じゃねえぞ! 自分の姉ちゃんの二の舞になんな!」

「ッ……わ、わり──ふぅー、冷静に行くッス」

「モルフォンを頼む。アリアドスは俺が処理する!」

「分かったッスよ! 毒はルカリオには効かねえッスから」

「つー訳で”がんせきアックス”だバサギリ!!」

 

 地面を蹴ったバサギリが遠心力で斧を振り回し、アリアドス目掛けてぶん回す。

 しかし、気が付けば毒蜘蛛の姿は消えており、斧は深々と木の幹に突き刺さっているのだった。 

 

「”どくのいと”!!」

 

 そしてバサギリの身体に紫色の糸が纏わりつき、地面に引き倒されてしまう。そのまま糸から毒が流れ込んでいき、バサギリが苦しく呻いた。

 ”どくのいと”は相手を毒状態にする上に素早さを下げる技だ。そして、この技を習得できるのは現状、アリアドスのみである。

 

(アリアドスの専用技……ッ!!)

 

「糸を斬れバサギリ! ”がんせきアックス”!!」

「無駄よ無駄! 毒になれば自滅あるのみ! 強靭な糸はポケモンの関節を的確に縛り、動けぬようにする! 鍛え上げ、磨き上げた技の成せる技よ!」

「ッ……!」

 

 バサギリは動けない。その間にも、毒が流れ込んでいき、悲鳴を上げていく。あの勇ましいバサギリが苦しみ悶えている光景を見ていたたまれなくなったメグルは、ボールを取り出し、バサギリを引っ込めるのだった。

 

「も、戻れッ……! そんでお前の出番だ、アブソル!」

「ふーるる!」

 

 アブソルならば、たとえ縛られても影の剣で糸を切り裂くことが出来る。

 しかし、何故か彼女は身震いしている。みらいよちによって一体何を見たのかは分からないが、良からぬ結果が出たようだった。

 

「何となくだけど、こいつが強敵なのは分かる!! ……アブソル、ギガオーライズだ!!」

 

 だがポケモンの定石の一つは、今相手に押し付ける事が出来る最大限の火力を上から押し付けること。今のメグルに出来る全力は、アブソルによる突破であったし、アブソルならばそれが出来ると踏んでいた。

 しかし、往々にして希望的観測とは打ち砕かれるものである、と相場が決まっているのである。

 鎧を身に纏い、完全にそれを自らのモノとしたアブソルは、影の剣を次々に地面へと沈め、更に自らも影の中へ潜る事でアリアドスの不意を突こうとする。

 だが次の瞬間、アリアドスが取った行動は──メグル目掛けて高速で飛び掛かることだった。

 

「んなっ!?」

「ふるっ!?」

 

 アブソルはアリアドスに剣を向けたまま、動きを止めてしまう。メグルの喉には、鋭い毒の針が伸びていた。

 

「ふん、トレーナーよりもポケモンの方が幾らか賢いな。目の前の敵を倒す事ばかり考える隙だらけの攻撃は、敵前で城門を開ける行為に等しい!」

「ッ……」

「動いたら刺す。分かるなアブソル──貴様の負けだ」

「ルッ……」

 

 彼女は後ずさる。動揺のあまり、未来視すらも使えなくなってしまったため、何処まで忍者が本気かも分からない。そもそも、アブソルが主人を危険に晒す選択肢を取るはずもない。

 だが、その瞬間アリアドスの口から毒の糸が放たれ、彼女の首に絡みつく。そして、万力のような力で影の中から引きずり出され、転がされる。

 そして、メグルの身体もぐるぐるに糸に巻かれて地面に転がされてしまうのだった。

 

「アブソルッ!!」

「ふるる……!」

 

 苦しそうに呻くアブソル。毒はすぐに回り、抵抗する気力が奪われている。あろうことかアリアドス1匹に手持ち2匹と自身を完封されてしまったことにメグルは衝撃を受けていた。

 

(これかアリアドスの強さだってのかよ……!? いや、それ以上にこの忍者……只者じゃない!)

 

「──あちらはどうかな?」

「か、身体が動かねえッス……!!」

「……勝負あったか」

 

 ルカリオは昏倒して倒れ伏せ、ノオトは立ったまま手足が痙攣して動かないようだった。

 モルフォンが振り撒いた鱗粉を吸ってしまったからである。この毒蛾は、翅の羽ばたきを調整することで風向きを操り、ノオトとルカリオに鱗粉を吸わせたのだ。

 

「ファ! ファ! ファ! 毒になれば自滅、眠れば無抵抗! 今に伝わる忍の技、味わってくれたか小童共?」

「こ、このやろ……!」

「拙者はこれにて失礼する。じっくりと、メガストーンを探させて貰おうぞ! ファ! ファ! ファ!」

 

(……このセリフ、どっかで聞いたことあるような……いやまさか。()()()がこんな所に居るわけ……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ただいま……」

 

 

 

 動けるようになったノオトがメグルの糸を引きちぎり、何とかその場は脱した。そして、方位磁針に従って何とかメグル達は日が暮れる前に洞窟に戻ることが出来た。

 ゴマノハは相変わらず段ボールの箱を被ったままだったが、見た所アルカとは普通に話せるようになるまで打ち解けているようだった。やはり、同性同士だと気が合うらしい。

 

「あっ、おにーさん聞いてくださいっ! ボク、ゴマノハさんから忍者の話とか色々聞かせてもらってたんですよ!」

「せ、拙者は代わりに今までの旅の話を……あれ? お二方、顔色が優れないでござる」

「……チッ」

 

 ノオトは機嫌が悪そうにふい、と顔を逸らす。代わりにメグルが事情を説明することにした。

 

 

 

「森の中で正体不明の忍者に会った!?」

「そいつにやられて……動けるようになった頃には日が暮れてきて……今日は収穫ナシ、ッス」

 

 

 

 一番驚いていたのはゴマノハだった。自分達以外の忍者が居ないと思っていたから猶更なのだろう。

 まともに戦うことすら出来ずに敗れたことを悔やんでいるのか、ノオトは洞窟の壁に拳を叩きつける。

 

「クソッ!! こんなんじゃ、姉貴に勝つのなんて夢のまた夢だ!!」

「ノオト殿……」

「モルフォンなんかに負けるなんて……!」

「んな事言ったら俺はアリアドスだ。ハッキリ言ってあの忍者、キャプテンクラスの手練れだぜ」

「キャプテンクラスって! サイゴクのキャプテンが強いの、おにーさんなら分かるでしょ!? それって、他所の地方の四天王クラスなんですよ!?」

 

(もし俺の推測が正しければ……その通りだ。あの人は四天王級の実力者だ)

 

 アルカの言う通りかもしれない、とメグルは断じる。

 顔は隠れていたが、口調、そしてあの手持ち。彼の中では一人、思い当たる人物がゲームに存在する。

 だが、何故彼が自分たちと敵対するのか、そもそも此処に居るのかが見当もつかない。

 

(だとすると、此処で憶測とはいえ正体を言ってしまって良いのか? それってとんでもなく無粋なんじゃねえか? ……少なくとも、あの忍者が俺達の敵であることは間違いないけど)

 

 メグルは唸る。

 正体の候補を知っていると、それを言ってしまいたくなる衝動に駆られるのだった。それをあえて胸の中に押し込め、メグルは思索を巡らせる。

 

 

 

(アリアドス、モルフォン、忍者……んでもってあの笑い声……やっぱり一人しか思い浮かばない)

 

 

 

 ”彼”はメグルにとって、初代ポケットモンスター赤・緑では、セキチクシティの毒使いジムリーダーとして、2作目の金銀ではポケモンリーグ四天王として、ゲームの中で戦った相手だ。状態異常を駆使する戦い方は非常に厄介で、力押しだけがポケモンバトルではないことをプレイヤーに学ばせる良いボスだった、と思い返す。

 そんな彼は己の技に誇りを持っており、決して金欲しさにテング団に協力するような外道のはずがない……とメグルは信じている(ゲーム版とは大きく異なる経歴の漫画・ポケットモンスターSPECIAL版の事は考えないものとする)。

 

(ま、俺が出来るのは……取り合えず空気を読んで、あの芝居に付き合ってやるってところだな。何なら、次に会った時は勝ってやるつもりの気概で行かなきゃ)

 

「クソッ!! あんなヤツに好き放題された自分が許せねえッス!! 明日リベンジしに行くッスよ!」

「──あの忍者ならきっと、殺そうと思えば俺達を殺せただろ」

「……何が言いてーんスか!?」

「なんで簀巻きで転がして終わりにした? そもそも森の中で待ち受けてる意味が分からねえ」

「それは……そうッスけど」

「おちょくってんだぜ、アレは俺達を。だから、このままじゃ俺達は勝てない」

 

 故に、メグルは提案する。

 今のまま勝てないならば、レベルアップすれば良い。自分も、ポケモン達も。

 

(ギガオーライズに頼りっきりの俺の戦術も改善しなきゃいけねーし……やることは一つだろ)

 

「──修行だ! 此処には修行しに来たんだ! あの忍者に負けねえように……ポケモンと己を鍛え上げる!」

「ッ……そんな悠長な事してる場合じゃねえッスよ! あの忍者がメガストーンを総取りしたら……テング団に……」

「メガストーンなんて早々見つかりっこないよ。どっちみち」

「急がば回れ……で、ござるよ、ノオト殿」

 

 段ボール箱を被ったまま、ゴマノハはノオトに向き直って言った。

 

「クソッ……! こんな所で手をこまねいている場合じゃねーのに……ッス」

「とにかく、飯食おうぜ飯」

 

 メグルは香草を退けて、バッグを取り出した。そこから缶詰をノオトに渡す。

 

「腹減ってるからイライラするんだよ。先ずは明日に向けて腹ごしらえしようぜ」

「……メグルさん」

「そーだねっ。あんまり落ち込み過ぎないっ!」

 

(……オレっち、やっぱりこの二人に大分救われてる気がするッスね)

 

 かたかた、とルカリオのボールが揺れる。

 それが不甲斐なくてすまない、と言っているように思えて──ノオトは首を横に振って指でボールをなぞる。

 

「……バーカ。今更何言ってんスか。オレっちとルカリオの仲なのに……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「今日のおかずは、缶詰のお肉だよっ! 焼き鳥だって!」

「はぁー、本当ならあったかい飯と一緒に頂きたいんだけどなあ」

 

 下手に火を使って調理をすると、匂いで野生ポケモンが寄ってくる。この島での食事・調理は、普段の野宿以上に危険なのだ。

 

「ゴマノハちゃんも、こっち来たら?」

「あひぃ!? せ、拙者は……拙者が皆と一緒に食卓を囲むなど、おこがましいでござる。夜風に当たってくるでござるーっ!」

 

 逃げてしまうゴマノハ。

 やはり4人で食事をするのは、まだまだ彼女にとってハードルが高いようだった。

 

「……大丈夫なんかねえ、あの子」

「あんまいぐいぐい行っても引かれちゃうんだよね……仲良くなりたいんだけどなあ。んー! たれが美味しい! 幾らでもいけるよコレ」

「そう言えば、水ってどれくらい溜まったんスかね?」

「十二分だよっ! 昼間の間に、ゴマノハちゃんに教えて貰った!」

 

 そう言ってアルカはポリバケツに貯まった水をノオトに見せる。

 海水を蒸留して飲み水を作ったのだ。事前に用意できる分の水だけでは、どうしても限界がある。

 「水ポケモンに用意してもらえればいいじゃん」とメグルは最初のうちこそ一瞬考えたが、彼らの放つ水も飲めるものかと言えば疑問が残る。

 自然調達が出来ない故に飲み水は最重要の貴重品。無駄遣いは出来ない。

 

「……不安要素は残るが……この調子なら乗り切れそうだな、一週間」

「後はゴマノハちゃんと仲良くなれるか、だね」

「メガストーンの事も忘れて貰っちゃ困るッスよ──」

 

 インスタントのご飯に水を入れてふやかしただけのそれを空腹の胃に詰め込む。

 正直食えたものではなかったが、彼らと一緒なら不思議とスプーンが進んだ。

 後はこの場にゴマノハが居れば、と全員が思っていたその時。息を切らせて、彼女が戻ってくる。

 

「あっ、帰って来た」

「どうしたんスか? 気が変わったとか?」

「皆殿!! 此処から逃げるでござるよ!!」

 

 血相を変えたゴマノハがメグル達に詰め寄る。ただ事ではない、と全員は身構えた。

 

 

 

「──月が……月がいきなり、赤くなったでござる!! ”赤い月”でござる!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……ほう。これが音に聞く、赤い月……!」

 

 

 

 ドクグモの瞳には──どくん、どくん、と鼓動を鳴らす赤い月が映っていた。

 その背後には凶暴化したポケモン達が迫っており、今にも彼の命を狙うべく牙を、そして爪を研いでいる。

 それを迎え撃つべく、彼はボールに手を掛けるのだった。

 

 

 

「……さて。この島に居るという”魔物”は……こ奴らの事では無さそうだな?」

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