ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第86話:忍者、何者ナンジャ?

 ※※※

 

 

 

「一先ず此処が一番安全そうでござるな」

 

 

 

 ──ゴマノハによって、比較的見通しがきく、安全な洞窟内にメグル達は身を寄せることが出来た。奥の様子をゴマノハが確かめに行く。上の方に吹き抜けがあるらしく、最悪そこから脱出することも出来るらしい。

 荷物の上には、道中でゴマノハが摘んでいた匂いの強い香草を敷き詰める。缶詰だろうが何だろうが人の匂いを嗅いだ野生ポケモンはその近くに食料があると本能的に直感する。だが、その匂いさえも上書きすれば問題ない。ゴマノハが調達してきた香草は、野生のポケモンが嫌がる臭気を発しており、これで近寄ってくることは無いのだという。

 

「近くに居れば人の匂いもたちまち消えるでござる。ただし、効果期限は1日が限度」

「見つけ次第取って来なきゃいけねーってわけだな」

「これで、多少は危機を回避できるが、それでもお構いなしに侵入してくるポケモンも居るかもしれないでござる。イレギュラーは付き物。そうなったらもう戦うか逃げるかでござるよ」

「その普通じゃないケースって?」

「野生ポケモン同士の争いに巻き込まれた場合でござるな。アレはもう両方共興奮状態だから、香草も意味を成さないでござる」

「ああ……大変だったんだな」

 

 相も変わらず段ボール箱を被っているゴマノハ。そんな彼女を見ながら、ノオトはこの「次」の段階の事を考えていた。

 此処からはメガストーン探し。島は外周部の岸壁、その中に森、中央に岩山が聳え立っているというもの。目的地は、森を超えた先にある洞窟だ。

 

(組分けどうするッスかねー……ゴマノハさん、最初っからメグルさんと二人組はハードル高そうだし……うん、消去法でこれしかねーッスね)

 

 実は一番引率役が板に付いているノオトであった。事実、一見しっかりしているように見えてアウトドア方面の経験が薄いメグルと、抜けている上に興味のあるものを見つけるとあっちこっちへ行ってしまうアルカと一緒に旅をしていると、おのずと年少者の彼がフォローに回る場面は少なくないのである。

 

(やれやれ、仕方ない人達ッス……やっぱ皆、オレっちが居ないとダメダメッスね!)

 

 尚、年上のお姉さんが見えた瞬間、一転して自分がフォローされる側に回ることを彼は忘れているし、それが他の面子の欠点を押しのけるレベルであることに気付いていない。人間、自分の欠点にはなかなか気付かないものである。

 

「えーとメグルさん。一先ずツーマンセル交代でメガストーン探さねーッスか?」

「ツーマンセル交代? ああ、二人組って事か」

「そうッス。そして交代する都合上、それぞれメガストーンを目的する人間は分けた方が良いッス。と言うのも、メガストーンは、対応するポケモンと共鳴する性質を持つッスから」

「初めて知ったぞそんなの……」

「それじゃあ、ボクもメガストーンを見つけられる可能性があるってことだよね。ヘラクロスもメガシンカするって聞いた事がある」

「そうッスよ! ヘラクロスのメガシンカ! オレっちもすっかり忘れてたッス! 事例が少ないから……半ば都市伝説なんスけどね」

 

(俺もちょっと忘れてた……だけど強いんだよなアレ)

 

 メグルも今しがた思い出したが──あの最強カブトムシもメガシンカを習得するのである。

 

(最強の攻撃力を手に入れるメガヘラは強力な部類のメガシンカだ。ただ……環境が悪かったんだ、圧倒的に)

 

 実際使われていなかったわけではなく、ツワモノの中にはメガヘラクロスを使いこなす者も居たことをメグルは思い返す。

 しかし、当時は威力120の一致技を先制で撃てる赤い鳥で飛行弱点のポケモンは概ね駆逐されており、更にメガガルーラによって物理対策が敷かれていた。

 だが──それを込みにしても、要塞のような防御力、そして一般ポケモンで頂点に立つ攻撃力は見逃せない。

 

「遠い先の話って思ってたけど。そっか……キーストーンとメガストーンを手に入れれば、ボクも……!」

「実際()()()ッスよ。キーストーンはメガストーンよりも稀少ッスから……この島で見つかれば万々歳ッスね」

「他のキャプテンはキーストーンをどうやって手に入れたんだろうな?」

「先祖代々受け継いでるのが一番多いッスね……ウチの場合は、姉貴が先代のものを受け取ったんス」

「じゃあ、お前の分は──」

「無いッスよ……おやしろにあるキーストーンは一個だけッス」

「お前……不憫なヤツだなぁ……」

「最初に姉貴と話し合って決めたんスよ。バトルして勝った方がキーストーンを手に入れるって。そしてボロ負けして、うぐっ、ひぐっ」

 

 ノオトの涙腺が秒で決壊した。喜怒哀楽が相も変わらず忙しい少年である。つまるところ、ノオトがメガシンカを手に入れられていないのは、姉との競争に負けたからに他ならなかった。

 

【特性:ライトメンタル】

 

「泣いちゃった!!」

「本当に面倒くせーヤツだなコイツ!」

「っと、このように、メガストーンがあってもキーストーンが無けりゃ意味がねえッス。だから最優先はメグルさん。キーストーン持ってるんスから」

「切り替え速……情緒がムラっけかよオマエ」

 

 ケロっと泣き止んだノオトはメグルとアルカの二人を指差した。

 

「先ずはメグルさんとアルカさん! 一番メガストーンを見つけられる可能性が高い組み合わせにメガストーンを探してもらうッス!」

 

 メグルは既にキーストーンとメガシンカが出来るポケモンを連れている。そして、アルカは石や鉱石の事情に詳しい。

 すぐにメガシンカが出来るのはメグルの為、彼の強化を最優先としたいのだろう。

 

「そしてオレっちとゴマノハさん。ゴマノハさんの戦闘力もさっきの見たらアテにして良いと思うんで」

「成程なあ、完璧な組み分けだ」

「うん……ただ一つを除いて、ね」

「え? 何がッスか? 完璧すぎて自分でも鼻高々なんスけど?」

 

 メグルとアルカは──ノオトの肩を掴む。

 そして、ゴマノハが困惑しているのを他所に、彼を物陰に連れていった。

 

「ちょっと、何スか! 流れぶっちぎって!」

「……お前、邪な事考えてるんじゃねーだろうな?」

 

 メグルの問に、ノオトは気色ばんだ。

 

「何言ってるんスか、あの人あんたらと二人っきりだとハードル高過ぎちゃうッスよ。オレっちで慣らした方が良いッス」

「慣らすって何だ? いやらしい意味でか?」

「違うッスけど!?」

 

 今回ばかりは下心の無い本心である。だが、今までのノオトの態度を振り返ると、メグルもアルカも首を横に振らざるを得なかった。

 

「華々しい実績があるからね……」

「ああ……輝かしい実績がな」

「全く身に覚えがねえッスね! あんたら酷いッスよ!」

 

 ──抗えねぇんスよ……カワイ子ちゃんには……どんなに修行しても、こればっかりは……!

 

 ──ひとめ見た時から、貴女にオレっちのハートはゲット・ワイルドされちまって……今夜はノオトに、しときませんか? あっ、ルカリオ!! 痛い!! 千切れる!! 耳千切れちゃうッス!!

 

 ──全裸のお姉さんがオアシスで手招きしてるッス!! ウッヒョー!!

 

 以上。華々しい実績の数々である。他にも余罪あり。その度にルカリオによって阻止されている。そしてそのルカリオが勝手にボールから飛び出し、ものすごく怖い目でノオトを睨んでいた。

 

「……くわんぬ」

 

 ルカリオは、ノオトの行動に怪しさを感じると目が鋭くなる。ノオトが非紳士的行為に走った場合、たとえ相棒であっても連行する覚悟で居るのだ。

 

「相棒までオレっちを信用してくれない!」

「オメーの所為だよ、全部自業自得!! 自分で撒いた種!! 種が多すぎて種マシンガン撃てるレベル!!」

「くっ、せめてやどりぎの種と呼んでほしいッス……」

「やどりぎだと余計に気持ちわりーんだよ!!」

「大丈夫なの? セクハラされたかどうか、ゴマノハちゃんに聞くからね?」

「少しは信じて欲しいんスけど!?」

「ダメだなこりゃ」

「今回は潔白なんスよ、本当ッス!」

 

 確かに今回は潔白であった。珍しくノオトはゴマノハに対して全く何も反応を示していない。

 しかし、結局ツーマンセルは、メグルとノオト──そして、アルカとゴマノハの組み合わせに決まったのであった。人間、そう簡単に失った信用を取り返せるものではないのである。

 

「というわけで、しばらくの間よろしくね、ゴマノハちゃんっ!」

「は、はいでござる……」

「やっぱりミカンの箱被ってねえとダメなんだな……」

 

(帰った時空気が地獄になって無きゃいいけど……まあ、これも荒療治と思うしかないッスねえ)

 

 コンビ結成する女子2人を見ながら──ノオトは首を傾げた。

 

(本当にヘンなんスよ。ゴマノハさんのことキライとかそういうのじゃなくって……胸のドキドキを感じねーんスよね)

 

 初めてゴマノハに出会った時からそうだった。好みの年上の女性に出会った時に感じる特有のリビドーを、彼女には感じないのだ。

 尚、これはゴマノハの性別を疑っている訳ではない。ノオトも素人ではないので、たとえどんなに可愛らしい姿でも、骨格や匂いで男か女かを見分ける術は身に着けている。ある種の変態性が為せる技、もとい業であったが。

 

 

 

(……何でなんスかねえ……?)

 

 

 

 それでいて、彼は何故かゴマノハの事を気にかけてしまうのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──メガストーンがよく埋まっているのは、森を抜けた先だ。

 メグルはオドシシに乗ろうとしたが、ノオトがジャラランガを持ち込んでいないので、歩を合わせることが出来ない。

 かと言ってオドシシはタンデムするには小さい。仕方がないので、徒歩で森を抜けることにするのだった。

 

「ライドポケモンが居ない弊害って、こういう所で出て来るんだな……」

「でも、どっちみちライドポケモンはやめといた方が良いッスよ。この森、足元に変なポケモンが居たりするって姉貴から聞いたッス」

「変なって?」

 

 ぷつん

 

「そりゃあ……変なポケモンっしょ」

 

 ぷつん

 

 二人は足元を見た。

 明らかに何かを踏んづけている。

 よく見ると──それは粘り気のある糸のようなものだった。

 次の瞬間、メグルとノオトに勢いよく糸が絡まっていく。

 すんでのところで跳びあがって躱したノオトだったが、反応が遅れた(追いついたところでノオトのように跳躍出来るわけもないのだが)メグルの身体にはぐるぐると糸が絡まっていき、木の上へと吊るし上げられてしまうのだった。

 

「とまあこんな感じにッス」

「何これ!? 何!? 蜘蛛の糸ォ!?」

 

 

 

「ぎちぎちぎち……ッ!!」

 

 

 

 木の上からぶら下がってくるのは、巨大な蜘蛛のようなポケモンだった。

 胴体は糸巻きのようになっており、長い手足には蜘蛛の糸が幾何学模様を描いて広げられている。

 

「げぇっ!! 何だコイツ!! 怖ッ!!」

「ワナイダーッス。糸で罠を張って、獲物を捕らえる蜘蛛のポケモンッスよ」

 

【ワナイダー トラップポケモン タイプ:虫】

 

 この蜘蛛のポケモンは獲物が引っ掛かるであろう位置に予め糸を仕掛けておき、掛かったことが分かった瞬間、すぐさま獲物を捕らえるべく簀巻きにするのである。しかも糸は細く、透明。目視できるものではない。

 

「助けてほしーッスか? 足元不注意の常連さん」

「こ、こんにゃろ……!」

 

 尚、ノオトも後少しのところで引っ掛かっていたので人の事は言えないのであるが。

 

「オメー、さっきのこと根に持ってるだろ絶対に!!」

「はいはい、心配しなくても、もう助けてるッスよ。此処でワナイダーの餌になってもらっても困るんで」

 

 メグルの身体に巻き付いた糸が叩き斬られる。

 ルカリオが手刀で糸を断ったのだ。そのままメグルは地面に落っこちそうになるが、それをルカリオが受け止める。

 だが、それを見逃すワナイダーではない。次々に仲間を引き連れてルカリオに飛び掛かる。

 

「サイコキネシスッ!!」

 

 だが、その場にワナイダーが静止。そのまま木の幹に叩きつけられていき──皆、散り散りに逃げていく。その間にルカリオはメグルに絡まった糸を解いていくのだった。

 

「いちいち引っ掛かってたら命が幾つあっても足りないッス」

「だけどあの糸は見えなくても仕方ないだろ。地表は注意深く観察してたが……」

「そうッスね。実際オレっちも掛かるまで分からなかったッス」

「オメーも引っ掛かってんじゃねえか!」

「オレっちは引っ掛かっても抜け出したんでセーフッスよセーフ!! それより、アレを見るッス」

 

 ノオトが木の洞に指を差した。そして、指を上に向けると──よくみると幹にぽっかりと穴が開いている。

 

「……アレはオーロットッスね。根を踏んだらアウトッスよ」

「ひえぇ……」

「だから、あの辺りは避けていくのが無難ッス」

「迂回していくのが正解か……」

「そう言う事ッスよ。さあ、オレっちに付いてくるッス!」

 

 

 

 ぷつん

 

 

 

 ノオトは足元を見た。糸が切れたような気がする、と察した瞬間、彼目掛けて幾重もの太い糸が飛んでくる。だが、さっきも引っ掛かった罠に引っ掛かる彼ではない。すぐさま跳躍してそれを躱してみせるのだった。

 しかし空中では逃げ場がない。すぐさま、木の上からもう2匹ワナイダーが現れ、彼を捕縛してしまうのだった。相手もまた、さっきと同じ手には引っ掛からなかったのである。

 

「げぇぇぇーっ!! 隙を生じない二段構えェェェーッ!?」

「しゃーねーなぁ、助けてやるか? どうするバサギリ」

「……グラッシュ」

「気乗りしねーってよ」

「畜生!! 命が幾つあっても足りないって言った矢先にオレっちとしたことがーッ!!」

 

 結果。バサギリとルカリオが共同でワナイダーを叩きのめし、無事にノオトは救出されたのだった。

 しかし、足元の何処にワナイダーの罠があるか全く分からない状況。幸いなのはワナイダー自体は罠頼りで然程強いポケモンではないことだろう。

 

「……くそっ、とんでもねえ森ッス……!!」

「なあ、お前の姉ちゃん一人で此処に籠ってたんだよな? ワナイダーに捕まった時、どうしたんだ?」

「……さあ、全く分かんねーッス」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──結局あの後3回くらいワナイダーの罠に引っ掛かった。

 そして、森を抜ける頃には既に二人共疲労困憊となっていた。幾ら何でも巣が多すぎである。

 

「おい……俺達ゃ一体いつになったらワナイダー地獄から解放されるんだ?」

「森を抜けるまでじゃねーッスかね……」

「でも森を抜けたら今度はオトシドリ地獄だろ? 冗談じゃねーぜ全く……!」

「まあでももうじき森も終わるッスよ。これでメガストーンもゲットッス」

「くわんぬ……」

「グラッシュ……」

 

 そして精神的に参っているのは、主人を何回も助けているルカリオとバサギリも同じであった。

 

「……オイ見ろよ、俺いい加減目が慣れてワナイダーの糸が見えてきたぜ」

「あー本当ッス。まーたあんなところに罠が仕掛けられてるッスね」

「でもよ、見ろよ。肝心のワナイダー共はあんなところで寝てるぜ」

 

 メグルが指を差す。成程確かに木にもたれかかったり、地面に臥せたりとワナイダー達は皆寝ているのが見える。……そこで二人は異変に気付いた。ワナイダーの特性は不眠。寝ているはずがないのである。

 

「……オイ、気を付けろ。こいつらやったヤツが潜んでる」

「多分毒ッス。毒で弱ってるんスよこいつら」

「──ほう、すっとぼけた小童と思っていたが、なかなかに勘が鋭い」

「誰だ!?」

「オイこら姿を現しやがれ!! この島に居るのはオレっち達だけだって聞いたッスよ!!」

「ファ! ファ! ファ! ──小童共が、なかなかに威勢がいいではないか!!」

 

 奇妙な笑い声が響いたかと思うと──これまた奇妙な風貌の男達が何人も木々の上に現れる。だが、それらは皆同じ姿と背格好をしている。

 皆共通して、濃紺の忍装束に身を包んでおり、クワゾメのそれとは明らかに色が違う。そして、男には怒り顔の面が付けられており、表情は伺い知れない。

 

 

 

「こいつも、忍者か……!」

「──如何にも。拙者は()()()()。主君の命に従い、流島のメガストーンを根こそぎ奪いに来たッ!!」

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