ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第85話:最早コウノトリではなくフコウノトリ

 ※※※

 

 

 

「うーわぁ、想像していた3倍くらい物々しい島だな……」

 

 

 

 ──外界と隔絶したかのような岸壁によって四方が囲まれた流島。

 流刑地の異名は伊達ではない。檻無き監獄と呼ばれるどころか、島の形をした処刑場とまで呼ばれたという。

 その理由は、岸壁の中に閉じ込められた凶暴な野生ポケモンによって、丸腰の囚人は3日も持たずに命を落としたからとされている。

 

「と言っても、一週間分の食料はあるんだな」

「うっかり変なモノを食べられて腹を壊されても困るからな。基本、我ら忍者以外は食料を支給することにしている」

「え? 我ら以外って?」

「……拙者達クワゾメの忍者は、完全自給自足でござるよ……」

 

 ゴマノハが死んだような目で答えた。

 

「ええ!? 何を食うんだよ!?」

 

 船の隅っこでずっと体育座りを決め込んでいる彼女は、指を折って数え始める。

 

「えーと、確か最初は木の実を食べていたでござるが、それだけだと腹が減って仕方なく、最初は魚ポケモンを、その次は鳥ポケモンを自力で捕えて……可愛かったけど……刀で頸動脈を、グサッと……」

 

 数えていくうちに、どんどん彼女の碧眼が曇っていく。余程思い出したくないことだったのだろう。

 

「分かった分かった! もう良い! 辛い思い出を話すな!」

「忍者の修行って過酷なんだねぇ……」

 

(だとしたらこの子、忍者に大分向いてないメンタルしてると思うんだけど大丈夫かなあ……)

 

「安心しろ、今回は全員分の食料を用意してある」

「えっ」

 

 ゴマノハは驚いたように振り向いた。

 船を操縦している忍者は「何故わざわざ貴方を此処に連れてきているか、分からないわけではあるまい?」と彼女に問いかけた。

 

「……そうでござるけどぉ」

「何だ良かった良かった! じゃあ一緒に飯食えるッスね、ゴマノハちゃん!」

「善処するでござる……」

 

(もしかして、食料の方が訳アリってオチはねぇよな……いや、単純にこの人たちがゴマノハちゃんの対人恐怖症を改善したいだけか?)

 

 推測を語ってしまうと空気を悪くしてしまうので胸の中に留めるメグル。善意のものであると信じたい。

 

(もし、好意的な解釈をするとすれば、この子に対して随分と過保護なんだなあ、おやしろの人は)

 

「慣れない人と一緒にあの島に閉じ込められるだけでも鬱いでござる……病む……」

 

 根っからのド陰キャ忍者は更に落ち込みを加速させてしまうのだった。

 

「申し訳ない。彼女は我らと一緒の時は此処まで酷くはなかったのだ」

「大丈夫なんですかアレ?」

「あまり侮ってくれるな。これでも彼女は、我らの希望なのだから」

「希望……? キャプテン以上に、ですか?」

「……まあそうだな」

 

 忍者は微妙に言葉を濁しながら、ゴマノハの方を見やった。メグルからすると船先で震えている姿は、とても希望と呼ばれるような忍者には見えない。

 

(まあ、忍者としての姿を見たこと無いから当然っちゃ当然だけどさ)

 

「さてメグル殿とノオト殿の二人に課せられた修行、それは流島にあるメガストーンを探す事である。一先ず一週間後、または有事の時に迎えを寄越す」

「おやしろに何かあった時、ってことッスね」

「うむ。そして貴女は、その引率。二人が死なないように見張っておくこと」

「……承知でござる」

「ボクは、二人のサポートだね! 石探しなら任せておいてよ!」

「あーそれとお二方。今回はあんまりオレっちの事、アテにしない方が良いッスよ」

「え? 何でさ」

 

 ノオトは、モンスターボールを1つだけ取り出すと──言った。

 

「……キャプテンがこの修行をする時、ポケモンは1匹しか連れていけねーんス。メガシンカさせたいポケモンを重点的に鍛えるためッス」

「あ、ああ……そういうこと……」

「因みにお二人は真似しない方が良いッスよ。死にたくなければ」

「ノオトってやっぱ強いんだな……俺達よりも遥かに」

「うっ、うう、イヤだぁ……イヤでござる……近付いて来たでござる、流島ァ……」

「だ、大丈夫だよ、ゴマノハちゃん。怖くないよ? ボク達が居るから」

 

(何で一回島に来た事のあるヤツが初めて来るヤツに慰められてんだ……いや、一回来て恐ろしさを味わってるからだろうけど)

 

「流島は本当にいいところだぞ、野生ポケモン、野生の木の実、野生の自然その他諸々、何でもある」

 

 忍者の言葉に、ゴマノハは更に落ち込んでしまった。

 

「そういやノオトは流島行ったことないのか?」

「これが初めてッスよ。前は姉貴が修行に出てて、その間オレっちはおやしろ守ってたんで」

「成程ね」

「だからオレっちも此処で修行すれば、漸く姉貴に追いつけるかもしれねーッス!!」

 

 とすん、と掌に拳を打ち付けるノオト。メガシンカを何としてでも手に入れたいのだろう。

 

「……そうこう言ってるうちに砂浜が見えてきましたよ!」

「ああ。今からワクワクしてくるってもんだよな! どんなポケモンが居るのやら」

「遠足じゃねーんスよ、お宅ら」

「はははっ、期待と希望に満ちているのも今のうちでござるよ……」

 

 ゴマノハが死んだ目で言った。

 

 

 

「……今に、この島の恐ろしさを思い知ることになるでござるよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──砂浜から船を見送ると、全員は一旦荷物を下ろす。

 

「それで、キャンプをどっかに張るんだろ? どうするんだ?」

「先ずは周囲の安全を確保するところから始めるでござる。敵は野生ポケモン。ならば、それが寄り付かない場所を探せば良い」

「……どんな格好で喋ってんのオマエ」

「こうすればギリギリ話せるでござるよ」

 

 ゴマノハは、段ボール箱を被ることでギリギリまともに喋れていた。これでは不便どころではない。

 

「ああ……自分でも情けないのは分かっているでござるよ……でも、せめて顔を隠すものがないと、拙者は人とまともに喋れないのでござる」

「難儀だなぁ……」

「ま、無理する必要はねーッスよ。いきなり決まった事みたいなもんッスから」

「かたじけない、ノオト殿ォ……うう……」

 

(アレは陽キャの気遣いが胸に刺さって自己嫌悪ってところだな)

 

 だんだん、同じ陰キャのメグルにはゴマノハの思考回路が分かるようになっていた。

 

「んじゃあテントをオレっちとゴマノハさんで張っておくんで、あんたらは荷物番を頼むッス」

「珍しい。ノオトが女の子にデレデレしてないなんて」

「明日は槍が降るかもな」

「そこォ!! 茶化すなッス!!」

「しっかしねえ、荷物番に二人も要るのかね? 突っ立ってるだけだろ」

「姉貴が言ってたんス。自分が3人に増えて荷物の番をしてほしかった、ってね。んで、ポケモンを沢山使えるあんたらに任せた方が防衛は楽っしょ」

 

 この口ぶりから、何度か食料を野生のポケモンに奪われかけたのだろう。

 荷物を一か所に固め、そこでメグルとアルカは突っ立つ。そして、テントを張り慣れているゴマノハとノオトが設営に入る。

 

「テントはどの辺に張るッスか?」

「ええと……この辺でござるかなあ。まあ、テントを張ったところですぐ壊される未来が見えるでござるが……」

「なんか姉貴がそんな事言ってたような……」

「でも一先ずの拠点は必要でござるな」

「本当に顔隠したら普通に喋れるんだ……」

「顔見知りってのもあるんだろ、あの二人は」

 

 そして、空から鳥ポケモンが来る可能性に備え、メグルはバサギリを、そしてアルカはゴローニャを出すのだった。

 

(ま、此処までして防げないなら、何をしても防げねえだろ)

 

 

 

 めきゃ

 

 

 

 何かが潰れるような音が聞こえてくる。

 見ると、設営している最中のテントが、骨組み諸共押し潰されていた──岩に。圧倒的質量、そして重量。そこに落下速度と高度も加わる。効果は抜群だ。

 

「なっ──!?」

「えっ……!?」

「──頭上注意!! 気を付けるでござるよッ!!」

「……まともにテントも張らせてくれねーんスかぁ!?」

 

 そうこうしているうちに2つ目、3つ目の岩が落ちてきて、テントどころか荷物の近くにまで降りかかる。

 メグルとアルカはすぐさまその場を離れ、空を見上げるのだった。鳥のようなポケモンが遠巻きに2、3匹と見える。

 

「ッ……あれって」

 

 メグルはゴーグルを掛ける。遠巻きだがハッキリと、シルエットが分かった。コウノトリのような容貌のポケモンが羽ばたいている。

 

「何だあのポケモン!? コウノトリ……!?」

「鳥ポケモンってことは、こんな事出来るヤツは1匹しかいない! ()()()()()です! ヒャッキにも生息しているポケモンですよ!」

 

 アルカが叫ぶ間に、今度は4つ目の岩が砂浜の上に落とされた。明らかにこちらを狙って落とされたものだ。

 

「ストォォォーック!!」

「ストォォォーック!!」

 

【オトシドリ おとしものポケモン タイプ:悪/飛行】

 

「──此処からじゃ、遠すぎて攻撃が当たらないでござる……!」

「敵の数は4匹、今ので全部の岩を落としたのか……?」

「オトシドリはモノを落とすことを面白がってやるんですよ……あいつら悪タイプにしては珍しく、性根っから悪タイプなんです!」

「それはそれで悪タイプの意義がよく分からねえけどな!!」

「んで? 当然物を落とす行為は狩りにも使えるわけで、オレっち達の食料を狙ってるんしょ、アレ!」

 

 しびれを切らしたのか、オトシドリ達は鳴き声を上げて急降下してくる。

 その際に岩を周囲に浮かび上がらせながら、メグル達に目掛けて投げ付ける。

 

【オトシドリの がんせきふうじ!!】

 

「受け止めて!」

 

 アルカの掛け声で飛び出したゴローニャが岩を拳で撃ち砕き、更に巨体で岩を受け止める。

 だが、砕けた岩がバラバラになって彼らに降りかかった。

 

「──メテノ、殻を破って、パワージェムで狙撃するでござるッ!! 撃ち方始め!!」

 

 それもゴマノハが繰り出していたメテノから放たれるレーザービームで更に細かく砕け散る。

 後に残るのは、襲ってくるオトシドリだけだ。近くで見ていただけに感嘆するノオト。さっきまでいじけていたゴマノハとは別人のようだった。

 

「あの遠距離から、岩を撃ち抜いた──やっぱクワゾメの忍者は一味違うッスね!」

「よーし──オトシドリを撃ち落としちゃって! ロックブラスト!!」

「バサギリ、がんせきアックスだ!!」

 

 ゴローニャの岩のような皮膚がひび割れ、そこから岩が幾つも浮かび上がり、オトシドリ1匹に突き刺さる。更に、バサギリが飛びあがり、岩の斧を脳天に叩きつける。

 バランスを崩したそれは、ぐるぐると回転すると墜落するのだった。よりによって、アルカの近くに。

 

「スッ、ストォォォーッ……!」

「あ、あぶなぁ!? これで捕まっちゃって!」

 

 アルカはハイパーボールを構え、投げ付けた。起き上がろうとしていたオトシドリだったが、すぐに中へと吸い込まれていき、何度か揺れた後──ボールが弾け飛び、壊れる。

 

「んなぁっ!?」

「気を付けるッスよ! こいつら、全ッ然ボールに入らねーッスから!」

「捕獲率が低いのか……!」

 

 ポケモンには種類毎に捕まえやすさ、つまり捕獲率が明確に定められている。例えば、ネズミポケモンのコラッタはボールを投げるだけで捕まえられるほど捕まえやすいが、伝説のポケモンとなると状態異常にしてHPを1にしてもなかなか捕まらない……と言った具合に。

 そうこうしているうちに、残る3匹も翼を広げてアルカ目掛けて飛翔してくる。仲間を捕えているからだろう。しかし、そうやって一方向に突っ込んで来るのが仇となる。ゴマノハがすぐさまメテノと共に割って入る。恐ろしい瞬歩であった。メグルは彼女がやってきたことに、遅れて気付いた程であった。邪魔だったからか、既に段ボールは捨てられていた。

 

(速ッ……!?)

 

「メテノ、マジカルシャインでまとめて叩き落とすでござる!!」

「しゃらんしゃららん」

 

 くるくると回転したメテノは、眩い光を放ち、オトシドリ達にまとめて大ダメージを与えてみせる。

 

(メテノ……こりゃまた懐かしいポケモンだな! 剣盾に居なかったから忘れかけてたが、変わった特性を持ってるんだったな)

 

 メテノの特性は”リミットシールド”。普段は甲殻に包まれているが、ダメージをある程度与えると装甲が砕けてエネルギー体が露出するのである。そのため、普段は鈍重で攻撃力も低い。

 

(あれだけの速度で動けたのは”からをやぶる”を使って疑似的にリミットシールドを発動させたから、ってところか。ゴマノハちゃんとメテノ、思ってた以上にやり手だな……正直ナメててスマン!)

 

 目がくらんだ上に効果抜群の攻撃を受けたからか、次々にオトシドリ達は逃げていくのだった。ゴローニャに相も変わらずのしかかられている仲間を見捨てる辺り、性根から悪タイプのオトシドリであったが、アルカの近くで繰り広げられている光景を見ると見捨てる気持ちが理解出来なくもないメグルであった。

 

「ええい! ええい! いい加減捕まれーッ! あっ、ボールに入った! やった!」

「……ゴローニャ、役に立ってて良かったぁ」

 

 こうして、オトシドリ達は1匹を捕獲、残り3匹に痛打を与えて逃がし、その代わりにテントが全損という結果に終わった。

 

「……前に来たときは、あんなポケモン居なかったのにぃ……テントがぁ……」

「あいつら渡り鳥ッスからね。別ン所から飛んできたんしょ」

「まさか拠点を構えることすら出来ないなんて……参ったね」

「それだけじゃないでござるよ。あいつらきっと、食料狙ってこっちに来たんでござる」

「だよなぁ……まさかそれで、かえって狙われやすくなってるのか俺達!?」

 

 こくり、とゴマノハは頷く。このサバイバル訓練に於いて食料が支給されることは決して有情でも何でもないことを表していた。彼らの嗅覚は鋭い。食料を大量に抱えているメグル達は、真っ先に狙われることになる。だが、無人島で食料を失う事は最悪死に直結する。

 

「これが流島のサバイバル訓練の本質……ッ! トレーナーたちは食料を当然買い込んで向かうでござるが、幾度となく襲ってくる野生ポケモンに音を上げて、早々に島から逃げ出すでござる」

「1回や2回じゃねえ、これが何回も繰り返されるのか……それを1人でやってのけるキャプテンってヤベーな……」

「島という閉鎖環境。スマホロトムも圏外。ま、素人にはキツいッスね」

「バカ言うな! こんな所で音を上げていたら、ヌシになんて勝てるわけねーぜ! 何のために今までサイゴクで旅してきたのか分からねえよ!」

 

 そう言って、メグルは荷物の入ったバッグを担ぐ。

 この島に居るオトシドリがあれだけとは到底思えない。じっとしていることは死を意味する。固定の拠点を持たずに、あるいは安全な洞窟に身を隠すしかない。最も、安全な洞窟というものがこの島にあるかは微妙だが。

 

「オトシドリは沿岸部か山間部に生息するポケモン。彼らの投石の脅威を避けるなら、森の中か洞窟の中しかないですね」

「さ、差し出がましいと思うでござるが……以前来た時に、比較的安全なスポットを記録していたでござる。そこを巡ってみるでござるよ」

「流石忍者! 抜け目がねーぜ! 頼りになる!」

「ぴえっ!?」

 

 ゴマノハの顔が硬直した。

 そして──それで、自分が顔に何もつけていなかったことに気付いたのだろう。顔が徐々に赤くなっていく。

 

「さっきのバトルもすごかったもんね、びっくりしちゃった!」

「ほ、ほほ、ほ、褒められても何も出ないでござるよっ!」

 

 顔は勿論、耳、そして首元まで赤くなっていく。そして、段ボールをさっき自分で捨ててしまったので、手で顔を隠し蹲ってしまうのだった。

 

「本当に照れ屋さんなんだね。可愛いけど」

「かわいいとかぁ、いうなぁ……拙者はこれでも忍者でござるよぉ……」

「でもさっきはカッコ良かったぜ。助かったよ、ゴマノハちゃん」

「カッコいいは……許すでござるけどぉ……」

 

 あうー、と唸りながら、そのまま丸くなってしまうゴマノハ。完全に打ち解けるにはまだまだ時間が掛かりそうだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──オトシドリが飛び去った後。

 メグル達の姿を見下ろす影が木の上に立っていた。

 

 

 

「ファ! ファ! ファ! ……クワゾメの忍者とやらの実力、どれ程のものか……見せて貰おうぞ」

 

 

 

 メグル達も、ましてやゴマノハも知る由は無かった。

 この島に潜む脅威が、野生ポケモンだけではないということを。

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