ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「ケェェェレェェェェスゥゥゥー」
ノイズ混じりの音声を響かせると、ヨイノマガンが翼を羽ばたかせるだけで周囲には砂嵐が巻き起こり、竜巻が巻き起こった。そのあまりの激しさに、メグルの身体も徐々に後退していっている。踏ん張らなければ、吹き飛ばされてしまう勢いだ。
【ヨイノマガンの──】
「ッ……マズい、まさかこれって初っ端から……オオワザか!?」
「オオワザ? まだまだ、そよ風でござる」
砂嵐が幾つも立ち上がり、ヘイラッシャの巨体に隠れていなければ吹き飛ばされてしまいそうになってしまう。
付き添いのノオトも、思わずジャラランガを繰り出し、自分の身体を支えて貰っている始末だ。
【──ふうとん・つむじ!!】
竜巻がヘイラッシャを巻き込んでカチ上げ、砂漠に叩きつける。喰らったダメージはそこそこといったところだが、攻撃が終わっても尚周囲には激しい砂嵐が吹きすさび続けている。
【砂嵐が吹き始めた!】
「──ふっ、いつになくやる気でござるな、ヨイノマガン」
「攻撃後に砂嵐を巻き起こす技か!? 無茶苦茶だ!!」
「ラ、ラッシャーセー……!」
恐ろしい風圧。これでは、ヨイノマガンに近付くどころではない。
それどころか、砂嵐のダメージは徐々に徐々にヘイラッシャの身体を巻き込んでいく。
砂嵐状態では岩・鋼・地面タイプ以外のポケモンはダメージを受け続けるのだ。
そして、気候を簡単に変更できる術を持つ時点で、やはりヌシは一味も二味も違うと思わせる。
(技で天候変えられるってことは、一生砂嵐のままってことだろ……!? 冗談じゃねえ! 此処だけ第五世代か!?)
※第五世代(BW)までは、一度天候が変わるとずっとそのままだったが、第六世代(XY)以降は5ターンで天候が終わるようになった。
「試しに撃ってみるか……シャリタツ!! ”みずのはどう”!!」
ヘイラッシャの口が開き、そこからシャリタツがヌシール目掛けてみずのはどうを放つ。
だが、すぐさま弾道を見切ったヨイノマガンは体全部でそれを受け止めてしまう。
【効果は抜群だ!!】
しかし、効果抜群の攻撃を受けたにも拘わらず、ヨイノマガンにダメージが通っている様子は見られない。
そればかりか、水を受けて濡れた場所が砂を纏う事で徐々に乾いていくのが見える。
岩タイプは、砂嵐が吹いているとき、特防が1.5倍されるのだ。そこに、元々高いであろうヨイノマガンの耐久力が合わされば、効果抜群の攻撃を受けてもびくともしなくなってしまうのである。
(分かっちゃいたけど、タイプが更に強くなったバンギラスみてーなもんじゃねえか……!! あいつは4倍弱点があるから許されてるんだぞ!?)
「ケェェェレェェェェスゥゥゥーッッッ!!」
まだ、こちらは一度しか攻撃を喰らっていないにも関わらず、既にメグルは相手との実力差を痛感させられていた。
これが、かつてサイゴクの災厄を祓い、そしてヒメマボロシとヒコマヤカシを倒したと言われる旧家二社のヌシの力。
まだ片鱗でありながら、その力は旅のトレーナーにはあまりにも高い壁として在り続けている。
「砂の中で……何処まで戦える?」
「ッ……こうなりゃ正面突撃だ、アクアブレイク!!」
水を纏ったヘイラッシャがヨイノマガン目掛けて飛び出す。
幸い、巨体故に速度はそこまで速くはないのだろうか。それを避けることもせずに、ヨイノマガンはヘイラッシャの攻撃を受け止めた──
「よしっ、物理耐久は据え置きだーッ!!」
(……いや、通ってねえッスよ、メグルさん……!)
ノオトは驚愕した。
ヘイラッシャの動きが、ヨイノマガンにぶつかる前に止まってしまっている。
メグルも、全く手応えが無い事に遅れて気付いた。”サイコキネシス”。念動力で押さえつけられてしまっているのだ。
「しまった、元がシンボラーだからか……ッ!!」
「特性・よいのみょうじょう。エスパータイプを持たないヨイノマガンだが、エスパー技も引けを取らないでござるよ」
ヨイノマガンの”魔眼”が光り輝き、サイコパワーを放ち続けている。
【よいのみょうじょう:エスパー技の威力が1.5倍になる。】
(──これでキリさん、一切指示出してねーッスからね……キャプテンと組んだヨイノマガンがどれほどのものか……考えたくもねーッス……!)
かつて、旧家二社と御三家三社がぶつかり合った時、御三家三社はヌシ3匹で何とかヨイノマガンの侵攻を食い止めたとされている。
そして手空きになったアケノヤイバが大暴れし、御三家三社の戦線は危うく崩壊するところであったとも言われている。
戦術ノウハウが確立されていなかった当時だからこそ、御三家が防戦一方になったという見方もあるが、それでも尚彼らが苦戦した理由は明白である。ヨイノマガンの巨体による圧倒的質量差。そして、砂嵐をいつでも起こすことが出来る専用技にある。総じて、ヨイノマガンは戦いを自分を有利なように進める事が出来る事に優れている。
【ふうとん・つむじ タイプ:岩 威力80 命中100 羽ばたく羽根で竜巻を起こす。使った後に砂嵐を起こす。】
(多分、キャプテン抜きのタイマンなら、今でもサイゴクのヌシ全部の中でも最強かもしれねーッスよ……ヨイノマガンは)
サイコキネシスの前に倒れるヘイラッシャを見ながら、ノオトは歯噛みした。
試練ゆえに、彼に貼られたシールを3枚剥がせばクリアとなるのは間違いなくおやしろ側の温情である。
旅のトレーナーに、ヨイノマガンを倒せる者など存在しない。
(くそっ、こんな所で躓いてられるか!!)
メグルの脳裏に──傷だらけの背中が過った。
(ここを突破出来ないようじゃ、テング団を倒すのは夢のまた夢だ!!)
「……しかしそちらの偽竜の怪。聞いてはいたが、なかなかにタフでござるな。だがしかし、鍛え方が足りんでござる」
「まだいける!! ”アクアブレイク”!!」
「その巨体、落とすのは少々苦労しそうでござるな──」
ヨイノマガンが翼を大きく広げ、羽ばたかせる。
そして大きく空に飛びあがった。
「──故に。最大級の一撃を以て砂の中に葬ろう、偽竜の怪ッ!!」
魔眼に妖しい光が集まっていく。
それと共に、巨体にエネルギーが迸り、紫電が走る。大きく咆哮を上げたヨイノマガンはそのまま、空から特大のビームを撃ち下ろす──
「なっ!? そんな所からの攻撃、避けられるわけが──」
【ヨイノマガンの──たそがれのざんこう!!】
砂漠が大きく抉れ、砂が飛び散った。
爆心地の中央には目を回したヘイラッシャが力無く横たわっていた。
※※※
「はぁー……おにーさん今頃、試練やってるんだろうなあ」
町の裏の鉄屑置き場で、ハンマーを作るナカヌチャン。
しかし、なかなか元々持っていたものに近しいものは作れないらしい。悔しそうに「カヌヌ……」と泣いている。
「やっぱり鉄屑だけじゃ良いハンマーは作れないんだね……一体、以前はどんな素材を使ってたんだろう」
それを聞いたナカヌチャンは、棒切れを取り出し、地面にカリカリと落書きを始めた。そこには──やたらと上手に描かれたキリキザンの顔が描かれていた。
「わぁー、うまいうまい! ナカヌチャン、絵ェ描くの上手なんだね!」
「カヌヌ♪」
「見て見て! ボクも絵を描くのが好きでね──はいこれナカヌチャン。似てるでしょう?」
「……カヌ」
そう言って地面に描かれたのはダークマターだった。
あまりにもヘタクソ過ぎて原形を留めていないことに流石に自分でも気づいたのか、アルカは落ち込んだ。ナカヌチャンが泣きそうな顔で見つめてくる。
「ごめん……二度と絵ェ描くの好きとか言わないから、そんな顔しないで」
「……カヌヌ」
「それにしても、何でいきなりキリキザンの絵を?」
「カヌヌ」
キリキザンの顔に✕マークが刻まれた。アルカの脳裏に浮かぶのは、図鑑の説明であった。
【ナカヌチャン ハンマーポケモン タイプ:フェアリー/鋼】
【稀少なポケモン。鋼タイプのポケモンを背後から襲い、ハンマーの素材となる部分を狩り取る。】
(もしかしなくても犠牲者の顔だコレェェェーッ!?)
そしてその横には──同じく、上手に描かれたルカリオの顔が描かれていた。そしてそこにも✕が刻まれる。
(殺ったの!? 殺っちゃったの!? 絶対ノオトのルカリオに会わせちゃダメだ!!)
更にその横には──ハッサムの顔が描かれた。そこにも✕が刻まれる。
(間一髪ぅぅぅーっ!! おにーさんのバサギリがバサギリで良かった!!)
ストライクがハッサムに進化していたらきっとハンマーの素材になっていたところである。
つまるところ、以前に使っていたハンマーは彼らの素材が使われていたことが明らかになった、もとい明らかになってしまった。知りたくなかったこんな事実。
背中に負ぶわせているカブトが「ぴぎぎぎぃ……」と明らかに怯えたような声を出して震えた。
「カヌヌ」
「ごめんね……そいつらは多分すぐには調達できないかな……」
「カヌヌ……」
「何なら調達した日には、ボクがおにーさんとノオトと一緒に居られなくなるからね……」
落ち込んでしまったナカヌチャンを宥めながら、アルカは溜息を吐く。
「うん……何事もそう上手くいかないよね」
「……カヌ」
「でも、諦めなければ必ずツキは回ってくる! 一緒に探そう!」
「カヌゥ……」
(……おにーさんと会ったのも、今思えばツキが回ってきた、ってヤツだったのかな)
ナカヌチャンの手を引き、彼女は次の鉄屑置き場へ歩を進める。
※※※
「やったやったあった! 見つかった! 宝の山!」
探せばやがて見つかるものである。モトトカゲで移動を続けて早2時間程。
町から離れた郊外の場所に、車等のスクラップが纏められた場所に彼女達は辿り着いたのだった。
既に置き場そのものが放棄されているのか人の気が無い。何故か”持ち出し自由”という立て看板さえ掛けられている。
「ねえ、ナカヌチャン言ったでしょ! 諦めなきゃいつかツキは回ってくるんだよ! 此処のものを使わせて貰おう!」
「カヌヌヌヌ!」
喜んだナカヌチャンがスクラップの山に飛び込もうとしたその時だった。
鉄屑の山が崩れ落ち、そこから乗用車のスクラップが一人でに動き出す。
「えっ……」
「カヌ!?」
だが、誰も乗っていない車が勝手に動き出すはずがない。すぐさまアルカの視線は車のフロントにべったりと貼り付いている鋼のポケモンに向くのだった。
「ブロロロロロロロロ……ッ!!」
「な、なにっ、ポケモンなのアレ!?」
図鑑でスキャンすると、すぐさま全貌が明らかになる。
エンジンの姿をしたポケモン・ブロロローム、そしてタイヤにはその進化前のブロロンがくっついている。
【ブロロン たんきとうポケモン タイプ:鋼/毒】
【ブロロローム たきとうポケモン タイプ:鋼/毒】
岩の車に寄生し、自らが動力となって動かす習性を持つブロロローム。
しかし、勿論寄生する先は岩の車でなければいけないという決まりはない。
このように、人間が廃棄したスクラップを取り込んでしまえば、勝手に動く乗用車の完成である。
「車輪に小さいのが居る……放棄されたのは、町から離れている上に野生ポケモンの溜まり場になってたからーッ!?」
「カヌヌヌ!?」
只より高い物はない。やはり旨い話など無いのである。すぐさまナカヌチャンをボールに戻そうとするが、崩れてきた瓦礫が彼女を押しのけてしまい、ボールビームが外れてしまう。
そうこうしているうちに、縄張りを侵されたブロロロームは怒り狂いながらアルカ目掛けて突撃してくる。
「カヌヌ!! カヌヌ!!」
「くそっ、先にこいつをどうにかしないと──ゴローニャ……じゃ、ナカヌチャンが巻き込まれちゃうから──モトトカゲ、お願い!」
「アギャァス!!」
相手は鋼・毒タイプ。そのため、ゴローニャの放つ全体攻撃は効果抜群で突き刺さる。しかし、地面技は往々にして全体技が多い。
まだ近くに居るナカヌチャンもダメージを受けてしまう。それを避けるため、アルカはモトトカゲのオーバーヒートに全てを賭すことにした。
浮袋を大きく膨らませたモトトカゲが、迫るブロロロームの頭目掛けて特大の炎を吹きかけた。
すぐさま爆音が鳴り響き、車が爆ぜて横転した。
「やったっ! 直撃だ!」
ブロロロロームは目を回してその場に倒れ込んだ。
同時に、それが寄生していた廃車も沈黙する。
しかし車体によって炎から守られていた、後輪のブロロンたちが車から外れて動き出す。2匹だ。
「いっ、まだ居るの──ッ!?」
オーバーヒートの反動でモトトカゲはすぐに次弾を撃つことは出来ない。
遅れを取っている間に、ブロロンたちは恐ろしく速い動きでナカヌチャンの方へ向かう。
逃げようとする彼女だったが、瓦礫に身体が挟まっているのか抜け出せないようだった。
(狙いはナカヌチャン──!? 鋼タイプの天敵だから──!?)
このままではナカヌチャンを助けられない。
最悪の予感が彼女に過る。
(ダメだ……! 折角仲間になって貰ったのにボクが不甲斐ないばっかりに、あの子を傷つけるなんてダメだ!)
「ナカヌチャンッ……!!」
瓦礫に足を取られながら、アルカがボールを向けようとしたその時だった。
「──スカタンク、”かえんほうしゃ”でござる!!」
炎が、ブロロンたちを焼き払う。
すぐさま火の粉を散らしたように単気筒のポケモンはタイヤを放棄して逃げていくのだった。
だが、その背後から更に別のブロロンが飛び掛かってくる。
「──危ないッ!! 後ろ!!」
「ブロロンの扱いは慣れているでござる。スカタンク”ふいうち”でクリーンせよ!!」
巨体に見合わない動きでスカンクのポケモンが一瞬で残るブロロンたちも撥ね飛ばし、瓦礫の山に叩きつける。
そして、黒いマフラー、そして毒々しい忍者コスチュームに身を包んだ青年がナカヌチャンから瓦礫を退けて抱き上げる。
「カヌヌ……!?」
「良かった、無事でござるなッ……と、どわぁ!?」
がらがら、と音を立てて瓦礫の山が崩れる。
騒ぎによって目が覚めてしまったのか、明らかに凶暴な顔をしたネズミのようなポケモンが現れるのだった。
「ギッチュチュチューッ!!」
【ラッタ ネズミポケモン タイプ:ノーマル】
無数のラッタの後ろには、一際巨大で、腹がでっぷりと大きく肥え太った個体がナカヌチャンを睨み付けている。この辺りの瓦礫の山をシメているボスといったところか。侵入者であるアルカ、そして忍者服の少年を目掛けて飛び掛かってくる。
「ッ……モトトカゲ、”ドラゴンテール”で弾き飛ばして!!」
「──かするだけで毒る技もある故、気を付けるでござるよ」
忍者服の少年は更にボールを投げる。
そこから現れたのは、岩の車に寄生したブロロロームだった。
(こ、この人もブロロロームを!?)
「ユーに恨みはないが、止むを得まい──降りかかる火の粉は払わせてもらう! ブロロローム、ホイールスピンでござる!!」
飛び掛かってきて前歯を突き立てようとしてきたボスのラッタを、ブロロロームが回転する車輪で押し潰し、挟み込む。そして、群れに目掛けて思いっきり投げ飛ばす。そして彼らが固まったところに二人は畳みかける。
「モトトカゲ、りゅうのはどうでトドメだ!」
「──スカタンク、ヘドロばくだんでフィニッシュでござる!!」
──ヘドロの塊、そしてドラゴンエネルギーが同時に襲い掛かり、爆発が巻き起こる。
ラッタ達は散り散りに逃げていき、一際大きなボスも、そのまま瓦礫の山に再び潜り込んでいく。
そこで野生ポケモン達のラッシュは止まったのだった。
「もう大丈夫でござる。そこのユー、怪我はないでござるか?」
「あ、ありがとうございます……!」
アルカは、野生ポケモンを片付けた忍者の青年を見て、思わず──眉を顰めそうになった。それほどに奇妙奇天烈な恰好をしていた。
何処をどう見ても、おやしろの忍者には見えない。クオリティは高いがコスプレの範疇は出ないものである。そもそも忍者の服にしてはあまりにも派手過ぎる。紫と緑の毒々しい迷彩に、黒いマフラー。目立つにも程がある。
(でも、あの洗練されたポケモンへの指示、鍛え上げられたポケモン、この人、それなりにツワモノだ……絶対におやしろの忍者じゃないけど!)
「──我はシュウメイ。今は只の観光客でござるよ」
(君のような只の観光客が居るか!!)
と激しく言いたくなったが、ナカヌチャンを助けて貰った手前、何も言えないアルカであった。
ヨイノマガン みょうじょうポケモン タイプ:岩/飛行
特性:よいのみょうじょう(エスパータイプの技の威力を1.5倍する。)
シンボラーの突然変異と言われているが定かではない。サイゴクのシンボラーの身体は砂に近い物質で構成されており、それが巨大化した個体がヨイノマガンと呼ばれているが、近年はヨイノマガンこそが親機のような存在で、サイゴクのシンボラーはそれに付随する分身のようなものではないかと言われるようになった。かつてサイゴクの厄災を祓った事、そして引き起こす災害クラスの砂嵐に加え、砂があれば破壊された部位を簡単に再生できる不死性から、アケノヤイバに並ぶ、サイゴクの伝説のポケモンと言われている。
【TOPIC:突然変異ポケモン】
アケノヤイバのように、あるポケモンの特異な個体を指す。そして、通常個体は変異個体に進化することはなく、別種として扱われる。他の地方で見られる事例としては、メレシーとディアンシーの関係が有名。ディアンシーはメレシー達の女王的存在だが、メレシーがディアンシーに進化することは無い。同様に、アブソルがアケノヤイバに進化することは無く、シンボラーがヨイノマガンに進化することもない。