この記事は音MAD Advent Calendar 2025に参加しています。
遅刻ごめん
こんにちは、Ostrichです。
この記事は懐かしの作者さんにスポットをあて、その思い出を振り返ろうというものです。
今回取り上げたいのはこの方。
抹茶味(まっちゃみ)さんです。
抹茶味さんは2009〜2012年にかけて、エア本・修造を中心に活動されていた音MAD作者で、おそらく最近の作者には「Luv the MatSUoka??」のイメージが強い…というか、それしか分からない、という世代も多くなっているのでしょうか。
後述しますが、一度聞いただけでは気付かないほど緻密に原曲をなぞった音作りの凄さは、公開から相当の年数の経った今もなお、語り継がれるのに相応しく、リアルDJイベントでの採用率の高さも頷けます。
さて近年、作者自身による「音MAD史」の構築が様々な人によって進められつつあります。
今年も「音MAD博士」の一件は記憶に新しく、また昨年から話題となっている『紙の音MAD』など、そうした積極的な動きが散見されるところです。
しかし、そうした潮流を遠巻きに眺めながら、自分は少し危機感を抱いていました。
それは
「音MADLIVE.XXX以前、2011〜2015年辺りの流れが『語り』の空白地帯になってしまわないか」
…というものです。
こと2011〜12年頃は、淫夢の勢力が急拡大し、この後にいわゆる「エアコースト」によってエア本が焼け野原となることで、かつて御三家と呼ばれていた兄貴・エア本・修造の勢力図が徐々に変化していくという、音MAD史上でも重要な時期と考えます。
そうした重要度と反比例して、その前後に活動していた重要な作者・作品についての言説は不十分で、その時代を生きた作者によって、記述を蓄積していく必要があるのではないか…そんな思いからこの記事を書いているわけです。
さて、抹茶味さんのキャリア開始時期はこの時期をわずかに遡るのですが、この2011〜12年前後の彼は動画、音声とも高いカリスマ性を備えた作者として、非エア本民からも注目される存在でした。
直接的にリスペクト作品を作られている灰色マテリアルさんのほか、音声の作風をみるにおそらく、今なお現役の作者では絶望さん、マカロニさんさん辺りが、キャリア当初から強く抹茶味さんの影響を受けられているのでは…と勝手に想像しています(かく言う自分も、彼に憧れた作者の一人です)。
では、ここからは「どういったところが当時、カリスマ性をもって受け入れられたか」について、具体的な作品に即しながら考えていきたいと思います。
●選曲の独自性
当時の晒しイベントで投稿される作品の原曲は、jubeat、リフレクの流行も相まってまさに「音ゲー全盛期」と呼べるものだったように思われます(もちろんカービィなどのゲーム音楽系も依然、強い時代でしたが)。
そうした時代において抹茶味さんは、J-COREを中心としたハードコア系楽曲や、イオシス・ビートまりお以外の東方アレンジ(特にハーコー、ガバ)という渋く、カッコいい曲を発掘し、積極的に動画化されていました。
とりわけ特筆すべきはt+pazolite楽曲への注目で、ジト目マニアさんの「Magical お茶漬け Tour2009」と併せ、後発作者への影響は計り知れないものがあります(意外にも、投稿動画を順に見ていくとREDALiCEやsun3の東方アレンジの方が目立つのですが)。
その他、DRAGONLADYも一大ブームより前、初出となるレの半年後くらいには既に上げていたはず(2010/05/03投稿)。
また、イオシスの東方アレンジでも、他の作者が手をつけていないクセのある曲を使っていた印象が強く、選曲面における独自性からも異彩を放っていたと思います。
●音圧
これは抹茶味さんを語る際、今でもこの表現を使う作者が多いのではないでしょうか。
メインのトラックの低音域をカットし、中〜高音付近のゲインをYOU WA SHOCKで上げる。それでいて原曲やベースのトラックで、低音域もカバーする「ドンシャリ効いた」音作り……「音圧が高い」という概念を、抹茶味さんの動画から学んだ作者は多いはずです。
爆音ダディー動画や深すぎるリバーブの動画に「音圧がすごい」とコメントされてるのを見るにつけ、「俺の思ってる音圧の概念と違う!」と心の中で呟いていたのも、自分だけではないはず、と思っています。
中〜後期の動画は総じて音圧が絶妙なので、一つだけ例を挙げろと言われると難しいところですが、個人的にはこの一作を是非推したいところ。
まず冒頭の石川のドアノックの音が凄い。
結構大胆に低音域を削ってるはずなのにスカスカ感がなく、それでいて叩きつけるようなカッコいい音色に仕上がっています。
また原曲の特徴でもあるノイズ音を、ディストーションを効かせた「パーン」で再現したり、1:23〜辺りの「功徳の実証がgggggg...」の音の使い方も素晴らしい、誇り高い一作です。
●スタイリッシュな動画
これに関しては抹茶味さんより少し前から同様に、エア本におけるカリスマ的存在だった新ドナPの影響が強く認められるのは言うまでもないでしょう。
音声面での、いわゆる「韃靼戦法」の多用も同氏のリスペクトの範疇と言えますが、動画面においてもコロラマ変換・シンメトリーなど、新ドナPの手法を受け継ぐ箇所が随所に見られます。シンプルながら独特で、あっこの人しかない!と思うような「型」が、抹茶味さんという存在をより強く、印象づけていました。
この辺の違いは合作を見るとよく分かるかもしれません。
6:36〜
●音選びの巧さ
漠然とした表現ですが、「原曲の音色に沿った素材の音を的確に選び出し、使うことのできるセンス」との言い方が適切かも?
・sybt
Cntuone以来、専ら高音の綺麗なシンセとして使われていた柴田を、フォルマント補正ピッチシフトで草笛のような音色に仕上げ、新境地を拓いた一作。
上がった当時、柴田からこんな音が出せるのか!という驚きがあったのですが、原曲を聞き返して「なんであの音をここまで原曲に似せれるの!?」と更に衝撃を受けた記憶があります。
うろ覚えの余談ですが、この動画の制作動機に関しては
・そもそもこの曲の音MADの初出がネプリピさんのsyjm
・ちょっと年数を置いてヒーマニ(修造×bemani)合作でセルフリメイク
・それに感銘を受けて抹茶味さんが制作
…みたいな流れだったような、そうじゃなかったような。
ある程度認知されてる曲で、満を持してエア本で抹茶味さんが作った!みたいな興奮もあった気がします。
・Sir, rie.
まずツカミとして「てー」をキックとして使うところからキャッチーですし、そこから滑らかなピッチベンドで上下に暴れまくる柴田シンセが死ぬほどカッコいいんですよね…動画の白目も相まって悪魔的というか、一度聞いたら忘れられないパワーは抹茶味さんの動画でも随一。
そして原曲さながら、というかもう原曲そのもののような音色になっているのも、やはり「セーキョーシンブン」のどの部分を使うかを入念に吟味した結果だと思うのです。
くわえて、1:06〜の「スピーチー」がピッチベンドで限界まで高音になっていくところは画的に面白ポイントでもあるんですが、原曲と対照して聞いてみるとそこまで大きな音ではないことが分かります。
原曲の盛り上がりを、素材の似た音を使って誇張して表す…このあたり、何度も原曲を聴き込んでいるんだなというのが伝わってきます。
・Luv the MatSuoka??
冒頭でも触れた同作は、まさしくこの極致だと思います。
「原曲の声ネタや音階の移動と、イントネーションの近い台詞を選んで声ネタにしている」と表現すればよいでしょうか。
かつてJuggler's Hotnessについて語った時(参照)に似たようなことを書いたのですが、これは簡単なようでいて物凄く面倒な作業です。
何より素材を熟知していないとできませんし、脳内で組み上がっていてもいざ、実際に弄ってみたら全然合わない!ということも多々あります。
その上、ベースやドラムといった奥側に隠れている音も、原曲を解剖するかのように的確に、近いニュアンスの音を丁寧に配置していく…
干支が一周以上した今聞いても決して色褪せないのには、ちゃんと理由があるのだなあと改めて鳥肌が立ってしまいました。
●その他
トリビア集です。
・MAMI-MAMI 200には一時期、異常に精度の高いセリフ書き起こしコメントが付いていた
録画なのでちょっぴりラグがあるのが惜しい
・おそうじ戦舗の決定版、SibaSiba
「【合作】久本さん達の頭がカービィメドレーに合わせて爆発したようです」の新ドナPパート(23:04〜)に影響を受け、抹茶味さんが投稿(2010/03/20)。
以降「おそうじ戦舗」として定着していく、という流れが大百科に載ってない…というか、動画情報が消える仕様になったせいで意味不明になってるので誰か加筆しといてください
・Do Back Ohnの影響元は抹茶味さんのDo Back Parn
意外と知られてないんじゃないかという気がするので
●おわりに
最後に、引退前の抹茶味さんをわずかながらtwitterで見ていた時の思い出話を添えて筆をおこうと思います。
・引退について
時々「エアコーストのせいで抹茶味先生は引退を余儀なくされた」といった話を見かけたことがあったのですが、これについては正しくないでしょう。
正確には「エアコーストより前からフェードアウトしそうな雰囲気はあったが、最終的に大量削除が引退のトリガーとなった」と言うべきなのかなぁ…と。
他の人のことを知ったような口で言うのも気が引けるのですが、個人的にはエアコーストがなくとも遅かれ早かれ、引退されてたんじゃないのかなと思ってます。
・淫夢について
Kick-ass Kung-fu Cookie☆の作者でもあるため、当時を知らない人には意外かもしれませんが、淫夢については明確に「嫌い」と言っていたのが印象に残っています。
(パチュリー so クッキー☆はカービィ合作でammy兄貴が淫夢を使ったことへの意趣返し、ともとれるコメントをマイリスに残されています)
この辺り、彼も交流のあった非常食さん・えあぽんさん、あとネプリピさんといったエア本作者が淫夢に軸足を移されたのとは対照的だなぁ…と。
・その他
・がちれず、またはレスリングで一度作ってみたい、といった呟きをされていたのが今でも記憶に残っていて、もし実現していたらどんな感じになってたんだろうと想像したくなります。たぶんレは斜辺さんみたいな動画になってるのかなという気も。
後は作者の中でもかなり早い時期からインスタを使ってたこと、クリスマスの翌日、「売れ残り値引きケーキを買った」と報告する定期ツイートのことを時々思い出します。
雑駁な内容になってしまいましたが、当時を知る人間ならではの情報をできるだけ書き出してみました。
パッと思い出せるだけでも日本刀さん、かーざんさんをはじめ、動画でダイレクトに抹茶味さんの影響を表明する作者は多く、また個人的にはOshakasama Scramble!にも抹茶味さんの系譜を感じます。
去年のotogrooveで発表されたこの動画もとても驚きました。
引退されてから10年以上経ちますが、未だその魅力は再認識され、再生産され続けているのだなと、目頭が熱くなります。
10年先も陳腐化しない動画を作れるようになること。
おそらく一生たどりつくことはできない、憧れの境地。
だからこそ、あなたの後ろを永遠に、走らせて、頂いてます。