ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第80話:砂の都・クワゾメタウン

 ──クワゾメタウンは、砂漠に囲まれた海辺の町。

 周囲は砂を防ぐ為にコンクリートの建物が立ち並んでおり、テントも張られた出店も見られるなど、何処かエキゾチックな雰囲気の街だ。

 そして、海辺故に観光客も多いのか、忍者のコスプレをした人々も普通に街を歩いている。

 

「此処が本場の忍者のタウンでござるか! リアルな忍者、この目でウォッチングしたいでござるな!」

「探して見つかるなら、それはリアルな忍者とは言えないんじゃないかな、同胞……」

 

 さて。既にとっぷりと日も暮れていた。

 一日中カバルドン達に追いかけ回されたメグル達は、町に着く頃には死んだような顔になっていた。

 町に辿り着いても、もう何も感じなくなっていたのである。

 

「早く……風呂に……」

「砂が……マズいッス……」

「目が痛い……」

 

 各々はポケモン達を引っ込め、ふらふらとおぼつかない足取りでポケモンセンターに向かう。

 やっと休める。そう思った時だった。

 

「──イッコンタウンのキャプテン・ノオト殿が来訪された。丁重に持て成して差し上げろ」

「ハッ!!」

 

 突然、目の前に砂嵐が吹き荒れた。

 この辺りでは珍しい事ではない。

 しかし、砂嵐の渦の中に、黒ずくめ装束の男たちが居る事にメグルは気付いた。

 

「な、何だ何だ何だ!? テング団か!?」

「何事!?」

「あー……こいつらは」

「──我々と来て貰いましょう。皆様方」

 

 慌てふためくメグルとアルカ。そして何処か諦めたような顔のノオト。

 すぐさま彼らは米俵のように抱きかかえられてしまう。

 間もなく砂嵐が止む。

 その時にはもう、ポケモンセンターの前からは誰も居なくなっていた。

 そして、一時始終を目撃していた外国人観光客二人はぱちくり、と目を瞬かせる。

 

「……すごいデザートストームだったでござるな……ニンジャの仕業でござるか?」

「砂嵐起こせる忍者は忍者じゃなくて、バンギラスかカバルドンなんだよ同胞」

「しかし、此処のリージョン=ニンジャはすながくれ忍軍と聞いたでござる。砂嵐くらい起こせるのでは?」

「同胞、それはバンギラスじゃなくてガブリアスだよ……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……着きました」

「着きました、って……此処は!?」

「”さじんの屋敷”。我ら”ひぐれのおやしろ”が来客をもてなすための場所でござる」

 

 メグル達の前には、立派な木造建築の建物が聳え立っていた。

 小高い丘の上に建築されたそれは、周囲が石垣に囲まれている。

 クワゾメタウンの中でも浮いているその建物は、一見すると豪華な旅館のようだったが、どうやら本当に廃業した旅館を改築したものらしい。

 

「おやしろは大砂丘の中にあるからな……来賓をもてなす場所が必要だったのだ」

 

 つまるところ、VIP客専用の旅館のようなものらしい。

 

「何でボク達拉致られたの……!?」

「多分、キャプテンのオレっちが居るからッスね」

「お前何かやらかしたのかよ!」

「ンな訳ねーっしょ、来客って言ったじゃねーッスか。軽い挨拶ッスよこれは」

「左様。イッコンからキャプテンが態々参ったのだ。丁重に迎えるのが礼儀。今夜は此処で休んでいくと良い」

 

 忍者の男は恭しくノオトに礼をした。

 

「えーと、俺達も持て成して貰って良いんですか?」

「ボクに至ってはただの付き添いだけど……」

「キャプテン・キリは、メグル殿とアルカ殿に興味を強く抱いている。これまで何度もテング団と交戦し、更にヌシ級のポケモンを捕獲し、デイドリーム事変では解決に大きく寄与した功績等々」

「箇条書きにするとヤバいな……自分のやって来たことが」

 

 黒装束の忍び達に連れられ、メグル達は建物の中に入るが、内装は案外綺麗で新しい。

 それを出迎えたのは──和服に身を包んだ、金髪碧眼の少女だった。

 帰って来た忍びを見て安堵の溜息を吐いたのも束の間、一緒に入って来たメグル達を見るなり彼女は柱の陰に隠れてしまう。

 

「ぴゃぁっ!! 初めて来る人ーッ!?」

「あっ、逃げちゃった」

「……全く。今日は客の前では逃げないと言っていたであろう」

「ごめんなひゃい、恥ずかしくって……やっぱり無理でござるーッ!!」

 

 柱の影から甲高い声が聞こえてくる。それに対し、忍達は呆れたように問いかける。

 

「……キャプテンのお帰りは何時になる」

「し、しばらく待つでござる! 今、所用で帰ってきてないでござるよ! 身体を綺麗にして待ってもらうでござるよ!」

 

 ぴゅーん、と音が聞こえてくる勢いで少女は逃げていってしまう。

 その様を見て、忍達は呆れたように言った。

 

「……相変わらずだな……全く」

「あの子は?」

「ゴマノハちゃんって言うんス。確かお手伝いさんとかじゃなかったッスかね? オレっちも何度か会った事があるんスけど、すっごい人見知りで恥ずかしがり屋で人の顔をまともに見られないんスよ」

「ふぅん、恥ずかしがり屋、か。難儀だなあ」

「最近は克服しようと、こうして客人を自ら持て成そうとしているのだが……やはり、初対面の人間には人見知りを発揮してしまうのだ」

「キャプテンが来るまで、ゆっくり風呂に入っていてほしい。砂漠は疲れたでござろう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──長旅、ご苦労でござったな。ノオト殿、メグル殿、アルカ殿」

 

 

 

 風呂を済ませた後、浴衣に着替えさせてもらった3人は、大広間に通される。

 そして、対面で正座するのは、全身を忍び装束に包み、頭部をゴーグルと仮面で覆った人物であった。

 

(部屋の中なのに仮面とゴーグル付けてる……)

 

「……この人がキリさん。クワゾメタウンのキャプテンにして”すながくれ忍軍”の頭領ッス」

「左様。仮面をつける無礼、許して頂きたい。取れない理由があるのでござる」

 

(だとしても怖いんだが……)

 

 メグルは緊張して目が泳いでしまった。

 その中央に立つキリの威迫は、口調こそ物腰柔らかいものであるが、とてつもないものだ。

 

 

 

【”ひぐれのおやしろ”キャプテン・キリ】

 

 

 

「皆殿に来て貰った理由はただ一つ。テング団の討伐の為、今一度旧家二社の繋がりを確認しておきたいからでござる。そのため、こうして情報を整理する機会は必要でござる」

「情報を整理、ね。あらかた”よあけのおやしろ”からそちらに情報は共有されたはずッスけど? アルカさんの境遇とか」

「と言う事らしいが……如何だろうか? 異世界人・メグル」

「いっ!?」

 

 手始めに、キリはメグルが異世界から来た人間であることを明かす。

 これは、未だにノオトにもヒメノにも話していなかったことだ。

 しかし──予想に反し、ノオトはあまり驚く様子を見せなかった。

 

「その件については、既にこっちもキリさんからリークしてたんで。今更隠す事じゃねーッスよ、メグルさん」

「お前も知ってたのか!?」

「デイドリームの事件が終わった後くらいにッスね。でも、特段驚かなかったッスよ」

「な、何でさ、ボクも結構驚いたんだよ……!?」

「メグルさんって、サイゴクの人間にしては自然慣れしてねーところがあったッスからね。こっちの事もあまり知らないし。外から来たってのは何となく分かってたんス」

 

 あまり気にしていないようにノオトは言った。

 隠していたわけではないが、言う機会が無かったのだ。

 デイドリームの事件もあり、クワゾメに着く間もごたごたしていたからである。

 

「でも、直接あんたの口から聞きたいッスね」

「責める意図はない。拙者もメグル殿と同じ立場だったなら、そうしただろう」

「分かりましたけど……どっから情報が漏れたんだ……!?」

「我々は常に密偵を各所に送っている。隠し事が出来ると思わないことでござる」

「じゃあずっと俺達を監視してたのか……ッ!?」

「我々ひぐれのおやしろは、情報戦に於いて、常に二手三手先を行く」

「忍者、怖……」

 

 アルカはつくづく、旧家二社は敵に回すものではないと感じる。

 よあけのおやしろとは、別のベクトルで彼らからも恐ろしさを感じた。

 彼らの前では隠し事は出来ない、と判断したメグルは、つらつらとこれまでの経緯を話す。

 それを黙って聞いていたキリは頷き、「凡そ我々の掴んでいる情報と相違無いな」と納得したようだった。

 

「こうして聞くと、メグルさんの経歴ってマジで謎ッスね……アンノーンは何でメグルさんを連れてきたんっしょ?」

「俺が聞きてえよ」

「御三家三社はいち早くこの事を知っていた。というのも、メグル殿を保護したのは”なるかみのおやしろ”でござる」

 

 そして、御三家三社はこの事を旧家二社と共有しなかった。

 その件についてノオトは苦々しく思っていた。

 思い当たる節があるので、彼らを責める事はしないが、このままでは共闘は難しいと感じる。

 

「……やっぱり御三家三社は、オレっち達旧家二社に不信感を抱いているんスね」

「無理もないでござろう。直近のヒメノ殿の強硬的態度を見れば……それに、御三家三社と旧家二社の戦争と対立の歴史、知らないわけではあるまい。拙者でも同じことをするだろう」

「……面目ねぇッス。姉貴が暴走したのはオレっちの責任でもあるッスから」

「しかし、おやしろの間で仲間割れをしている場合ではない。ヒメノ殿が大人しくなった今だからこそ、協定を正式に5つのおやしろで結びたいのでござる」

 

(5つのおやしろの協定……ッ!!)

 

 メグルは息を呑む。

 これまで、明確な争いこそないものの水面下では腹の探り合いを続けていたおやしろが結託しようとしている。

 その先陣を、最も情報戦を得意とする”ひぐれのおやしろ”が切ろうとしていることに驚きを感じていた。

 

「いや本当にその節は姉貴がご迷惑をおかけしたッス!!」

「あ、謝るのは無しでござるよ、ノオト殿。拙者、確かにヒメノ殿には恐ろしく迷惑を掛けられているでござるが」

「迷惑掛かってんじゃねーか」

「それはそれとして、お二人を信じているのもまた事実でござる。これは……本心でござる」

 

 しかし、とキリはメグルの方を見やる。

 

「我々は汚れ仕事も得意とする”ひぐれのおやしろ”。簡単に御三家三社から信用を得られるとは思っていないでござる」

「そうなのか……? 俺、キリさんの態度を見るに、そんな事はないと思うんですけど……」

「先代とキリさんは良心的ッスからね。先々代の時代は、マジで御三家三社からは嫌われてたみたいッスよ。まあ、うちも大概嫌われ者だったッスけど」

「うむ……薄汚れた先々代の汚名、簡単に晴らせるとは思わんでござる」

「一体何をやったらそんなに嫌われるんですか……!?」

「──暗殺でござる」

 

 ぽつり、とキリは言った。

 その場に緊張が走った。

 

「暗殺、策謀。その時代の”ひぐれのおやしろ”は、邪魔なものや都合の悪いものを手段問わずに消してきた」

「暗殺って……」

「開発計画の責任者、時の為政者がその犠牲になったとされている。このような態勢では、時代遅れと他のおやしろに非難されても無理はない」

「証拠は残らなかったッスけど、むしろ残さないやり方が嫌われたッスね……」

「故に、先代からそのような前時代的やり方からの脱却を図ったのだ。忍びとは影より民やポケモンを守るため、耐え忍ぶ者……と定義したのでござる」

 

 とはいえ、未だに前時代的なイメージは払拭出来ていない。

 先程のメグルの情報が全て筒抜けだったことを考えれば当然と言えば当然なのであるが。

 

(なんつーか……忍者ってスパイだし、忍者の価値観アップデートなんて簡単に出来ねーだろうし、したらそれはきっと忍者じゃねーんだろうな……)

 

 変えようと思っても変えられないものがあることをメグルは悟った。

 故に、今更そこにどうこうと突っ込むのはやめた。むしろ、この現代でまだしっかり忍者(もといスパイ活動)をやっている根性に感服したくらいである。

 

「拙者としては、メグル殿に御三家三社と旧家二社の架け橋になってもらいたいと考えているでござる」

「お、俺が!?」

「うむ。これまでメグル殿は各地のキャプテンと共闘し、テング団を退けて貰った実績がある。是非、共に──サイゴク五社同盟を繋いでもらいたい」

「……」

 

 到底、メグルには話が大きすぎて飲み込めなかった。

 本当にその役割が自分で良いのだろうか、と頭に過る。

 だが、二つに別たれていたおやしろが今、ひとつになろうとしている。

 この機を見過ごす手はメグルには無かった。

 

(テング団に勝つには、キャプテン格の人間が必ず必要だ。だけど相手は忍者、言わばスパイ。簡単に信じちまって良いのか……?)

 

 現にメグルは今までの動向が全て彼らに筒抜けだったことが明らかになった後のため。

 

「そしてアルカ殿にも、引き続きヒャッキ地方からの抜け人として、今後とも協力を願いたいでござるよ」

「それは大丈夫です。ボクも、テング団を止めたいので」

「では早速聞いておきたいのは……三羽烏の使うギガオーライズでござる」

「……ああ、それですね! ボクも持っていた資料を読み返してたんですけど……」

「前に言ってた昔話の一つか」

 

 既にメグル達とは共有した後だったそれをアルカはキリに差し出した。

 

「──ヒャッキ地方に伝わる伝説の妖怪のオーラ。そして、オーラに対応したポケモン。その2つが揃った時、ギガオーライズが出来るんです」

「この絵巻に描かれているのが……妖怪か」

「はい。ヒャッキ三大妖怪。テングの国、オニの国、そしてキュウビの国に眠ると言われる3つの妖怪です。それらはかつて、三種の神器によって力が封じられたとされています」

 

 アルカは読み上げていく。

 

 ──神器が一つ、剣。

 それに対応するは”ウガツキジン”。

 己の身体を鍛え上げ、剣の如き鋭さを手に入れた鬼獣。

 

 ──神器が一つ、勾玉。

 それに対応するは”ワカツミタマ”。

 魂を九つに別つことで、不死性を保ち続けている九尾の狐。

 

 ──神器が一つ、鏡。

 それに対応するは”マガツカガミ”。

 邪な心を映し出す邪悪な鏡を身に纏った、空の総大将。

 

「これらは別々の国に封じられていた神器……つまりオーライズに必要なオーパーツなんですけど、それをテング団が持っているってことは」

「他の国は既に攻め落とされた後、ということか」

「はい」

 

 それぞれの国は敵対関係で、アルカが知る限りは冷戦状態が続いていたのだという。

 しかし、彼女がテングの国から消えた後に戦況が動き出したようだった。

 

「きっと、キュウビの国を攻め落とした後に神器を探し出したんだと思います」

 

 ウガツキジンに対応する”剣”の行方だけが現状不明だが、このままではオニの国が攻め落とされるのも時間の問題だろう、とアルカは言う。

 なんせテングの国は他国と戦争をしている間に、サイゴクへ攻め込むだけの余裕を見せているからである。

 その上、元々テングの国がヒャッキで最も大きい国だったらしい。オニの国に勝ち目はない。

 

「正直実在性は怪しかったから、ボクも眉唾だったんですけど……多分見つけちゃったんでしょうね。そこで戦況が一気にテングの国に傾いた」

「……成程理解した。いずれにせよ我々はギガオーライズに警戒せねばならないか。しかし、同様の戦力を抱えているのは我々も同じ」

「お、俺ですか……」

「そうだ。錆びた刀は、よあけのおやしろが貴殿に託したもの。オージュエルを持つのも貴殿のみ。ならば、貴殿が相応に強くなるしかあるまい」

 

 故に、とキリは続けた。

 

 

 

「──明日。早速試練を執り行う。メグル殿、よろしいな?」

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