ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「おいどーした?」
「なんかあったんスか?」
「……この子だよ、この子! サンドウィッチが欲しそうにこっちを見てて」
「カヌヌ……」
「……半分、食べる?」
「カヌヌ……」
そう言うと、ナカヌチャンは千切ったサンドウィッチを受け取り、両の手で食べ始めるのだった。
それを見ていたノオトは「珍しいッスね……」と呟く。
カヌチャン系統。鋼ポケモンの素材でハンマーを造り、獲物を叩きのめして捕らえる。知性も力も兼ね揃えたポケモンである。
ナカヌチャンは、その進化の二段階目に当たるポケモンだ。
サイゴクでは数が少ないものの、地下遺跡の近くにはドーミラーといった鋼ポケモンがよく湧くので、彼らを素材にしてハンマーを作っているのだという。
親離れすると、鋼タイプのいる場所を求めてふらり、と1匹で流離うらしい。
「珍しいポケモンッスけど、自分が鋼ポケモン連れてる時は要注意ッスよ。最悪そいつハンマーの素材になるッスから」
「やっべーな……とんだ
「ふぃるふぃー……」
またとんでもないヤツが来たな、と言わんばかりにニンフィアがナカヌチャンを見て眉を顰めた。
このお姫様は自分が一番とんでもないヤツだという自覚が聊か欠けているようである。
「でも珍しいのはそれだけじゃねーんス。このナカヌチャン、ハンマー持ってねえッスね。こいつら、絶対に自分のハンマーを手放したりしないんスよ」
「あっ本当だ」
それを聞くと、ナカヌチャンは名前は”泣かぬちゃん”なのに、今にも泣いてしまいそうであった。
「……ねえ君。一緒にハンマー探そうよ」
「カヌヌ……?」
「ボクね、小さい頃……よくいじめられてたからさ。君みたいな辛い目をしている子を見ると、放っておけないんだ」
「カヌヌ……」
「何かしてあげようと思うのはお節介かもだけど……ね」
「カヌヌ! カヌヌ!」
嬉しそうにナカヌチャンは飛び跳ねる。
そして、遺跡の奥の方を指差すのだった。
※※※
「ふるるるー♪」
先頭を歩くのはアブソル。
未来予知によって、どの道を進むのが正しいか分かる彼女を先行させれば、道に迷うことは無い。
それに加えて、ナカヌチャンの持っていたハンマーが何処に在るかも探し出すことが出来るようだった。
そして、岩の扉で閉ざされた部屋にメグル達は辿り着く。
「何だこりゃ、押しても開かねえぞ!?」
「カヌヌ……」
ナカヌチャンが前に出て扉を押す。すると、ぎぃぎぃ、と重い音を立てて扉は動く。
ハンマーを振り回すだけあって、とんでもない力を小さな体に秘めているようだ。
「すっげーな……」
「こんなナカヌチャンでも勝てねえ相手って何なんスかね?」
「どういうこと?」
「鋼・フェアリーってタイプ自体が強いから、天敵なんて早々居ねーだろうし。弱点、地面と炎だけだぞ」
メガクチートとザシアンが暴れていた時代を知る者としては、このタイプのポケモンの強さはよく知っている。
そもそもフェアリーが苦手なタイプを鋼で打ち消せてしまっているのだから。
「オマケに本来トントンのはずの鋼タイプも、ナカヌチャンの前では素材になっちまうッス」
「一体何がこの先に……」
「カヌヌ……」
「あっ、扉が開いた!」
扉は開き切り、そこにあったのは砂に満ちた大部屋であった。
部屋の壁には穴が幾つも開いていた。
「……ガルルルル」
アブソルは低い声で唸った。
未来予知で直感したのだろう。この先に何かが居るらしい。
現に、砂に満ちた床の中央がこんもりと盛り上がっており、穴が開いている。
「なあ、何だアレ。絶対何が居るだろ」
「……ポケモンの巣だよね」
「カヌヌヌ……」
怯えたようにナカヌチャンはアルカの後ろに隠れた。
「……大丈夫だよ。ボク達が守ってあげるから!」
ざっ、とアルカが砂場に足を踏み入れた──その時だった。
「キィィィィィーッ!!」
甲高い警戒音が周囲に響き渡り、反響する。
そして、巣穴から、そして遺跡の奥の巣から次々に何かが飛び出して来る。
全身が銀色の装甲に覆われ、赤い目を持つ蟻のようなポケモンであった。
全長は30cm程と小さいが、それが何匹も現れる様は恐怖である。
「アイアントッ……!?」
メグルは目を丸くしてその名を呼んだ。
ぶるぶると震えたナカヌチャンは、強くアルカの脚を握り締める。
どうやら虫の姿をした彼らが怖いらしい。
【アイアント てつありポケモン タイプ:虫/鋼】
「ああ成程……納得ッスね。大体わかったッス」
「何がだ!?」
「サイゴクのアイアントは砂漠に生息してるんス。鋼の身体は日光を反射するッスから。そして、巣となるのは……熱された鋼の身体を冷却できる遺跡の奥!!」
巣になりそうな場所を見つけると、彼らはすぐに集団でテラフォーミングしに掛かる。
遺跡の奥は、一週間もかからないうちにアイアントの巣と化すのだという。
「奴らの食性は、動物、植物に生えた菌類、そして鉱石! 生息場所によって様々ッスけど……」
「じゃあ、ナカヌチャンのハンマーは……!」
「残念ながらもう……喰われてるッスね……むしろ、本体が無事だったことがラッキーかと」
「てかむしろ、あいつら下手したらボク達が弁当食べてる時に出て来てたってこと!?」
「巣の開発がされたのは割と最近みたいッスね。あの岩扉に穴が開いてたらアウトだったッス」
「カヌヌ!?」
部屋の隅でいじけてしまうナカヌチャン。
だが、アイアント達はメグル達を侵入者と認めると、容赦なく飛び掛かってくる。
すぐさまメグルのアブソルが彼らを振り払うべく、影の剣を多数生み出し、彼らを砂場に突き刺して動きを止める。
しかし如何せん数が多すぎる。巣穴から無尽蔵にアイアントが出てくるのだ。
「まっずい、アブソルのキャパを超えるぞ、このままじゃ……!」
「ハンマーは諦めて此処から逃げるしかねーッス!」
「カヌヌ……」
巣穴から飛び出したアイアント達の群れが金属音のような音を立てて追いかけて来る。
岩扉をそのまま走り抜け、そしてナカヌチャンは最後に岩扉を思いっきり閉める。
だがしかし、間もなく岩扉をガリガリと削るような音が聞こえてきた。
そして岩扉に穴が開き、崩れ落ちて、そこから「キィィィィーッ!!」と甲高い音が聞こえてくる。
「
「一回巣から出たら何かは持ち帰らねえと気が済まないんしょ! 前回はナカヌチャンのハンマー、今回は
「ッ……二人とも、下がってて!!」
アルカがボールを投げた。
そこで現れたのは、モトトカゲ。
この中では数少ない、炎技が使えるポケモンだ。
しかし──彼が覚えている技を知っているノオトはぎょっとする。
「待つッス、アルカさん! こんな所でオーバーヒートなんて使った日には、全員酸欠で死ッスよ!」
「ヤケになったのか!?」
「違う! ……強制的に吹き飛ばす!」
飛び掛かって来たアイアント達に向かって、モトトカゲが尻尾を振り上げ、そして振り払う。
「──ドラゴンテール!!」
野球のバットのようにアイアント達は岩扉の方へと次々に弾き返されていった。
ドラゴンテールは、相手を強制的に吹き飛ばし、戦闘から離脱させる技だ。
「成程考えたッスね! 時間が稼げた!」
「対野生ポケモンならこれほど頼もしい技もねーな!」
「急いで外に! あいつらまだ追いかけて来るよ!」
彼らは石段を駆けあがり、そして元の大部屋に戻ってくる。
そのまま遺跡から飛び出すと、もう既に日は傾きかけていた。
だが、それでもまだ甲高い音が聞こえてくる。
アイアント達が群れ固まって、メグル達を狙い、鋭い大顎をカチカチと鳴らしながら飛び掛かろうとした──
「──出て来ちゃったね。これだけ広いならもう関係ない!」
「アギャァス」
「特大級、お見舞いしちゃおう!!」
モトトカゲが一気に胸を膨らませ、そして特大の炎を彼らに見舞う。
「これはナカヌチャンの分!! オーバーヒートだっ!!」
轟!! と爆炎が燃え盛り、アイアント達の身体を焼き尽くす。
鉄蟻たちは次々に瀕死のダメージを受けて、小さくなって逃げだしていくのだった。
しかし、結局ナカヌチャンのハンマーは見つからず仕舞い。
「カヌヌ……」
「いーや、これから見つければ良いんだよ!」
そう言ったアルカは、くるりと向き直る。しょんぼりとして、目に大粒の涙を溜めているナカヌチャンに目線を合わせるためにしゃがんだ。
「……ボクと一緒に来ない? ナカヌチャン」
「カヌヌ?」
「これから行くところは町だからさ。きっと、ハンマーの材料もある!」
「カヌ!」
「ボクが手伝ってあげるよ! だから泣かないで!」
彼女は空のモンスターボールを取り出し、ナカヌチャンに突きつけた。
ナカヌチャンも、泣きそうな顔ではあったが頷くと、拳をモンスターボールのスイッチに近付ける。
音を立てて、ナカヌチャンは中へと吸い込まれていった。
「これで5匹目の手持ち、かな」
「ナカヌチャンのハンマーの素材か。でも他の鋼ポケモンの素材じゃなきゃいけねーんだろ?」
「それだけじゃなく、鉄屑でも行けるッスよ。ま、彼女が納得のいくようなハンマーが出来るかはまた別問題ッスけど」
「職人気質なんだなあ」
「良い感じに空も暮れてきたし、早くクワゾメタウンに行こう、皆っ!」
何時になくやる気のアルカは拳を突き上げてモトトカゲに乗り込む。
それに置いて行かれないように、メグルとノオトもそれぞれのライドポケモンに乗り込むのだった。
「やれやれ、やることが一個増えちまったな」
「でも、レディの泣き顔は見てられねーッスから」
「そうだな」
「さあさあ、気合入れていくぞーっ!」
「あっ、気を付けてアルカさん! 暗いから足元見えづらくなってるッスよ!」
モトトカゲを飛ばすアルカ。
一人で先行する彼女だったが──モトトカゲの足が何かを踏みつけた。
「えっ」
「ちょっ、アルカさん!! それ、カバルドンの鼻──」
「カババカババ!! ぷしゅっぷしゅっ!!」
がばぁ、と音を立ててカバルドンが砂から飛び出して来る。
デジャヴとはまさにこの事を言うのだろう。寝起きを起こされたので、より気が立っているようであった。
周囲には当然のように仲間も砂に埋もれており、敵を察知したのか次々に追いかけて来る。
「ごめんなさいでしたァァァーッ!!」
「何であんたらは足元見ねえんだ、マジで許せねえッスゥゥゥーッ!!」
「結局こうなるのかよーッッッ!!」
※※※
──ガラル地方、カンムリ雪原。
一面が雪に覆われた銀世界。
登頂トンネルの険しい山道を超えた先には、かつて豊穣の王が居を構えていたという巨大な城・カンムリ神殿が聳え立っている。
だが、ユイの目的地は神殿へ続く道の登頂トンネルにあった。
凍えそうな身体を何とか奮い立たせ、彼女はトンネルから出た先の崖に辿り着く。
そこには、大きな口を開けた巣穴が彼女を待ち構えていた。そこからはガラル粒子──ポケモンを巨大化させるという特殊な粒子──が勢いよく溢れ出している。
(──マリゴルドは恐らく、サーカスでの個体を違法な手段で捕まえたのじゃろう。ヤツは密猟の元締めもやっちょったからな。それをオヌシは、
「この数週間、此処に辿り着くために、他の巣穴で修行を重ねた……!」
ユイの手首には、白いリストバンドが巻かれている。
それを大事そうに摩ると、意を決して中に飛び込んだのだった。巣穴に飛び込むのは初めてではない。
重力に身を任せ、洞穴に着地すると──見上げる程の巨体がすぐさま見えた。
「出たわね、雷獣の片割れ……!」
洞窟の中は雪が積もっていた。
そこに現れたのは──半分が魚、そして上半分が稲光を放つ鳥のような異質なポケモンだった。
(電気タイプのガラル化石ポケモン……その中でも、何故か現代に野生として巣穴に居を構える個体……それを太古の雷獣と呼ぶ!)
「バッチラララーッッッ!!」
【パッチルドン かせきポケモン タイプ:電気/氷】
恐ろしい覇気を放つ異様なキメラポケモン。
既に巨大化していることもあり、プレッシャーは半端なものではない。
ガラル粒子を纏ったポケモンは十数メートル程に巨大化──即ちダイマックスする。
ユイが持つダイマックスバンドは、それを意図的にトレーナーの手で引き起こすことが出来るだけで、野生のポケモンも条件が揃えばダイマックス出来る。
(それにしても、何て個体なの……!? 既に雪が降ってる……とんでもない冷気を放ってるんだから……!)
【パッチルドンの ゆきげしき! 雪が降り続いている!】
「──ロトム! 頼むわ!」
「キュイイインオン!」
ユイが繰り出したのは電子レンジに憑りついたプラズマポケモン・ロトム。
炎と電気を併せ持つ、このポケモンならば、パッチルドンの技を全て半減させることが出来るのだ。
ユイは巨大なポケモンを相手にするのは初めてのことではない。既に恐れなど無かった。
「ロトム、オーバーヒートで焼き尽くして!!」
炎がパッチルドンを襲う。
並みのダイマックスポケモンでも深手を負うレベルのダメージを与える大技だ。
しかし──パッチルドンはそれを受けても尚、全く怯まず、そのままユイ達に向かって特大の電撃を放つ。
【パッチルドンの ダイサンダー!!】
この一週間、ユイはダイマックス技は何度も見てきた上に喰らって来た。
しかし、これまで受けてきたものとは威力も破壊力も桁違い。
半減であるにも関わらずロトムの身体は簡単に吹き飛ばされてしまい、そして地面は抉れる程の特大の雷撃。
あまりの鮮烈さに目が痛くなるほどだ。
この洞穴では、こちらがダイマックス出来るようになるまでに時間が掛かる。
(あたしは、こんな所で負けてられない……こいつに勝たなきゃ、どんな顔して帰ればいいのよ!)
「ロトム、”わるだくみ”で特攻を──」
「バッチララララーッッッ!!」
パッチルドンの嘴が光り輝く。
そして、雪の中で滑るようにロトムに向かって嘴を突き立てた。
【パッチルドンの──でんげきくちばし!!】
直後、稲妻が落ちたようであった。
電気が拡散し、衝撃波でユイの身体も吹き飛ばされてしまう。
直撃を受けたロトムは地面に埋め込まれ、目を回してしまっていた。
(ま、まずい、このままじゃ勝てない……ッ! やっぱりあたしじゃ、ダメなの──!?)
ダイマックスに必要なエネルギーが溜まる前にこのままでは全滅。
歯噛みをしてロトムをボールに戻す。
しかし、雷獣は次の標的をユイに定めたのか、再び嘴に電気を充填し始めた。
(速い!! 速過ぎる!? コイツの特性……ゆきかき……!?)
巨体が雪崩れ込むようにしてユイに嘴を突き立てた。
思わず目を瞑る。やはり父に出来ない事は自分にも出来なかったのか、と悔やんだその時だった。
「──きょじゅうざんッ!!」
巨体が──巣穴の奥に吹き飛ばされ、倒れ込むのが見えた。
綺麗な金属音がその場に響き渡る。
思わず聞き惚れてしまうほどだった。
目を開けると、そこに佇んでいたのは全身を鎧に包んだ狼のようなポケモン。
そして、赤い探検服に身を包んだ少女だった。
「だ、誰……!?」
「……1人でダイマックスポケモンに挑んでる無鉄砲な女の子がいるって聞いてたけど、本当だったなんてね」
「ウルォォォード!!」
もう一度ユイは、狼のようなポケモンを見やる。
その姿に覚えがあった。
ガラルの救国の王と呼ばれているポケモンの片割れ、言わば伝説のポケモンだ。
(何でこんな所に……有り得ない……!?)
倒れ込んだパッチルドンに向かい、ユウリと名乗った少女のダイマックスバンドからエネルギーが溢れ、彼女の握るボールが巨大化していく。
それを投げ付けると──巨大なパッチルドンの身体は吸い込まれていくのだった。
あまりにも危なげのない立ち振る舞い。そして悠然とした姿に、ユイは目を見開き、唖然としてしまうのだった。
明らかにこの少女と、自分の間では実力に”差”が存在する、と。
「わたしはユウリ。寒いし、カレーでも一緒に食べない?」
「ガ、ガラルの……チャンピオン……!?」
【ザシアン つわものポケモン タイプ:フェアリー/鋼】
【ユウリ ガラル地方チャンピオン】