ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第五章:砂都に沈む宵の明星
第78話:スタンド使いは居ないが鍛治は居る


「──のーどがぁぁぁ、かわいたぁぁぁ……」

 

 

 

 ──ポケモンにとっても過酷な自然、人にとっては試される地、サイゴク地方。

 イッコンタウンから、危険なサイゴク山脈を大きく迂回して町を幾つも経由して辿り着いた場所は辺り一面砂、砂、砂であった。

 クワゾメタウン周辺は、広大な砂漠地帯となっており、乾いた場所が続く。

 おまけにクワゾメタウンに着いても、町の近くに更に”大砂丘”と呼ばれるエリアがあるという、生粋の砂地である。

 ライドポケモンで進めば数時間程度で抜けられるが、その数時間が地獄なのだ。

 太陽が激しく照り付け、周囲には水一つない。これがなかなかに精神に来るものがある。

 此処で倒れれば死ねるという確信が、踏破者たちにプレッシャーを与え続ける。

 それに加えて、砂嵐。これがなかなかに痛い。

 メグル達は皆ゴーグルをつけていたものの、口の中は既に砂塗れ。これもなかなかに不快極まりないのである。

 

「あっ、メグルさん見るッスよ! アレを!」

 

 既にへろっへろのジャラランガに乗っていたノオトが突如、何も無い方を指差した。

 その目はぐるぐると虚ろで焦点が合っていない。

 

「全裸のおねーさんが、オアシスで手招きしてるッス!! 行かねーとッス!! ウッヒョー!!」

「ねえ見て、おにーさん!! オムナイトの群れが盆踊りしてる!! 行かないと!! ウッヒョー!!」

 

 アルカも目を回しながら言っている。二人共正気ではない。

 メグルは肩をすくめた。いよいよダメそうであった。

 

「……重症だなこりゃ」

「アタマオカシー」

「お姉さーん!! 今夜はノオトに、しときませんかァァァーッス!!」

「オムナイト、可愛いねえ、オムナイト」

「頼むぞシャリタツ」

「スシー」

 

 シャリタツに指示するのは”みずのはどう”。強めのお薬である。

 頭に冷たい水がぶっかけられ、冷却されたからか二人の視界からは幻が消えたようであった。もう少しで脳みそがゆだっていたところである。

 

「あ、ああああ!! 何てことするんスか、メグルさん!! 折角の全裸のおねーさんが……!!」

「オムナイトの群れが!! オムナイトが群れが!! 居なくなっちゃったぁ……」

「良かったなお前ら感謝しろ、俺のおかげでナックラーの巣に飛び込まないで済んだんだからな」

 

 メグルは親指を地面に向かって指差す。

 そこにはありじごくポケモン・ナックラーが嬉しそうな顔ですり鉢状の巣の奥から顔をひょっこり出しているのだった。

 

「全裸のおねーさんは……ナックラーだった……!?」

「ンなわきゃねーだろ、正気を保て!」

「正気を保ったところで、下手したらボク達ああですよ」

 

 アルカは砂に埋まったケンタロスの骨を指差した。

 ころころころ、と目の付いたタンブルウィードが無情にも転がっていく。ころがりぐさポケモンのアノクサだ。

 

「……そうならないように頑張ろうってんだよ」

「ふぃるふぃー……」

 

 んべ、と舌を出しながらニンフィアが死にそうな顔で鳴く。

 メグルが乗っているオドシシも、そろそろ限界そうであった。

 

「大体ボク達何でまだクワゾメタウンに着いてないのさ」

「本当ならもうとっくに着いてるんスけどねえ」

「──俺達は何らかのスタンド攻撃を受けているんだ」

 

 メグルは大真面目な顔で言った。

 

「スタンド……」

「……攻撃……? って何ッスか……?」

「この事態を引き起こした、新手のポケモンが居るに違いねえってことさ。ちゃーんと思い出すんだ。思い出せ──」

 

 ──メグルは回想する。

 このような事態に至った原因を。

 あれは、今から数時間前のこと。大砂漠を歩き出して20分程経ったときのことだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「クワゾメと言えば忍者! 忍者と言えばくノ一のお姉さん! いやー、楽しみッスねぇ!」

「下劣なキャプテンだなぁ」

「ほんっとに何というか……ん? そう言えば前から気になってたんだけど、ノオトって何でボクを見てもデレデレしないの? ボクもノオトからしたらお姉さんじゃん」

「腐った魚の匂いを思い出すんで無理ッス」

「ヘラクロス、インファイト、ルカリオ、てっていこうせん」

「待って! 何でルカリオまでアルカさんの言う事聞いてるんスか!! 死んじゃう!! 死んじゃうから!! らめええええ!!」

 

 ──最初こそ平和に仲良く和気藹々と砂漠を進んでいた一行。

 しかし、楽しい楽しい大砂漠の行進は、一瞬で地獄の徒競走と化したのだった。

 全ての始まりは足元不注意からであった。

 

「……ん? 何か踏んだような気がする」

「め、メグルさん、それ、カバルドンの鼻──」

 

 

 

「カババカババッ!! ぷしゅっぷしゅっ!!」

 

 

 

【カバルドン じゅうりょうポケモン タイプ:地面】

 

「えっ──ほぎゃあああああああ!?」

 

 砂に埋まっていた巨大なカバのポケモン・カバルドンが突如大口を開けて飛び出し、メグル達に襲い掛かる。

 1匹だけならまだよかった。2匹、3匹、4匹と続け様に砂から飛び出して来たのである。

 咆哮したカバ達は、メグルを敵と認めると、大口を開けて追いかけてきたのである。

 砂を泳ぐカバルドンの速度は陸地のそれとは比べ物にならない。

 すぐさまライドギアを握り締め、彼らはその場から抜け出すことにした。

 とてもではないが真っ向から戦って勝てる数ではない。まだ砂漠も序盤も序盤、此処でポケモンを消耗させている場合ではないのである。

 しかし、クワゾメまでの順路は人もよく通る。このような場所に、カバルドンのような巨大なポケモンが固まって生息していること自体がイレギュラーだ。

 

「何でこんな所にカバルドンが居るんスかーッ!? 生息地からは外れてるはず──!?」

「ごめんなさいでしたァァァーッ!!」

「怒らないでぇぇぇーっ!!」

 

 疾走するライドポケモン達。

 しかしまたしてもメグルのオドシシが何かを蹴っ飛ばす。

 砂場に落っこちたのは──ヒラヒナ。

 フリルの付いた雛のようなポケモンだ。

 

「ぴっ……ぴっ……ぴぎいいいいいいいいいいいいいーッ!!」

 

 過失だったとはいえ、危害を加えられたことで、ヒラヒナが泣き叫ぶ。

 その瞬間、周囲から恐ろしい足音を立ててダチョウのようなポケモン──クエスパトラが何匹も現れ、メグル達をさらに追いかける。

 

「くえすぱっ!!」

「くえっくえっ」

「くしゃとりゃ!!」

 

【クエスパトラ ダチョウポケモン タイプ:エスパー】

 

「バカバカバカバカーッ!! 追手を更に増やしてどうするのーッ!!」

「犬も歩けば棒に当たる、鹿も走ればヒラヒナに当たるーッ!!」

「オメーの足元不注意の所為だろうが、ふざけんじゃねェッスよクソがーッ!!」

 

 こうして、延々と追いかけられたメグル達は気付けば、完全に進行方向を外れており、気付けば此処が砂漠の何処だったかもわからない状態となっていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「参ったッスね……元のルートに戻るまで追加で2時間」

「ライドポケモン達の疲労を加味すると、仕方ないよね……」

「全く、誰の所為でこうなっちまったんだろなあ──許せねえぜ全く」

「アルカさん」

「うん」

 

 ノオトとアルカがメグルを思いっきり蹴っ飛ばす。

 物凄い勢いで回転しながら、彼は砂漠の上に倒れ込むのだった。

 

「蹴ったね! 蹴ったね! 親父にも蹴られたことないのに!」

「偉そうに言ってるけど、全部オメーの所為じゃねェッスかァ!! カバルドンもクエスパトラもオメーの身から出たエンカウントなんスよ!! ちったぁ反省しろォ!!」

「なんでいっつも足元見ないんだよ!! こないだもアブソル轢きかけて修羅場ってたじゃんかさあ!!」

「ごめんなさいいいい!!」

 

 メグルは悔やむ。

 注意一瞬怪我一生。

 幸い誰も被害は受けなかったが、カバルドンの群れには流石に恐怖を感じた。

 鈍重なイメージがあるポケモンだったが、巨大な哺乳類が敵意を向けて迫ってくるだけで死を感じるものなのである。

 

「ふぃるふぃーあ……」

 

 ギロリ、とニンフィアもメグルを睨む。

 忠臣・オドシシも首を横に振った。

 手持ち達は皆、今回ばかりはメグルの味方を出来ないらしい。

 

「まあ良いじゃねえか。悪いポケモンもテング団も居なかったんだ」

「味方に獅子身中の虫ポケモンが居るんスよね」

「もうこの人だけ砂漠に首から下埋めて帰ろーよ、イッコンタウンに」

「やめろよ謝るから!! 俺が悪かった!! 何処からともなくスコップを取り出すんじゃねえ!!」

「悪かったと思うならちょっとは役に立つッスよ」

「せめて何処かで休めりゃ良いんだがな……これじゃあ水を飲んだって熱中症待ったなしだぜ……ん?」

 

 メグルは顔を上げた。

 砂漠に埋もれた遺跡が見える。

 しかもそれは大口を開けており、地下に繋がっているように見えた。

 

「しめた! あそこで休もうぜ!」

「アルカさん、今のメグルさんの貢献度は?」

「90点ってところかな。1000点中の90点だけど」

「お前ら俺を虐めてそんなに楽しいか!?」

「マイナスがデカすぎるんスよ、あまりにも!」

「待てよ──遺跡!? 遺跡ナンデ!?」

 

 暑さに頭がやられていたアルカが、にわかに奮い立つ。

 

「1000点中1000点!! おにーさん大好きですっ!!」

「オメーが好きなのは俺じゃなくて遺跡だろ……」

 

 目を輝かせた彼女は、早速遺跡の入り口に突撃。

 メグル達も、後に続くのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──砂漠は夜になったら急激に冷え込む。そして、砂漠のポケモンは昼行性が多い。

 暗くはなるが、この辺りは夜も空が澄んでいるので星明りで明るく、山道に比べれば安全だ。

 そのため、予定より大幅に遅れこそするものの、安全にクワゾメタウンに向かう事が出来るという寸法だ。

 ポケモンを皆ボールの中に戻し、遺跡の影に隠れてメグル達は直射日光を避け、塩分タブレットを齧る。

 地下遺跡の一室・大部屋は冷えており、気持ちがいい。

 

「にしても、はっきりと形が残ってるんだね。これって一体何の建物なんだろう……要塞、とか?」

「カンが良いッスね。流石石商人。石造りだから物持ちが良いんス。砂に埋まってるから、知ってる人はなかなか居ねーんスけど」

「はえー、砂と一緒に朽ちてしまいそうなモンなんだけどな」

「そこが彼らの技術力なんスよ」

 

 ノオトは遠い目で語った。

 

「……1200年ほど前。この辺りは平原で……集落がぽつぽつと散在し、そこで戦争があったらしいッス」

 

 当時は群雄割拠。

 小さなおやしろが、それぞれヌシポケモンを立てて争い合っていたという。

 だが、続く小競り合いと戦乱により、人々は触れてはいけないものに触れてしまうことになる。

 

「その時、人々はうっかりとあるポケモンを起こしてしまったらしいんス」

「とあるポケモン?」

「それが──今の”ひぐれのおやしろ”のヌシポケモン・ヨイノマガンッスよ」

「宵の……魔眼……!?」

 

 ヨイノマガンはとても強大な力を持っていたという。 

 その身体から無尽蔵に砂を噴き出すことが出来、此処から一帯を砂漠地帯に変え、更に砂の中に埋めてしまったらしい。

 結果、クワゾメ周辺は大きな砂漠と化してしまった、というのが事の顛末らしい。

 その後、すながくれ忍軍が立ち上げた”ひぐれのおやしろ”がヨイノマガンに忠誠を誓ったことで、制御を握ることに成功。

 紆余曲折はあったらしいが、何とかヨイノマガンは今に至るまで、サイゴクの民の味方となっている。

 

「待て待て待て、一帯を砂漠地帯に!?」

「そんな伝説があるポケモンッスからね……ハッキリ言って、話が通じるようには見えないッスね、あのポケモンは」

「そんなヤツ、本当に人類の味方なのか!?」

「500年前の災厄は勿論、200年前のヒメマボロシ・ヒコマヤカシの襲来の際にも、うちのヌシ様と共闘して鎮めてるッス」

「げっ、あいつらと真っ向から戦って倒したのか!?」

 

 ヒメマボロシとヒコマヤカシは、メグルからすれば、1体ずつ、手持ち総出、しかも有利な条件が揃って漸くトントンだったような相手だ。

 それが2体がかりで襲ってくる光景など想像したくもない。

 

「くぅーっ、早く会ってみたいような、会ってみたくないような」

「おにーさんいつになくワクワクしてるね……」

「今の話を聞いて”会ってみたい”って、なかなか剛の者ッスね……」

「だってよ、次の試練からはヌシとの一騎打ちなんだろ? 自分のパーティがどれだけ通用するかと思うと、楽しみでさ」

「言っておくけど、倒そうだなんて思わねーことッスよ。後半の試練はヌシを倒すのではなく、ヌシとの戦いの中でお題を達成することッスから」

「……よくよく考えたらそんなバケモノみたいなポケモン、倒せる気がしねーわ」

 

 メグルは思い出す。

 手持ちのポケモンがアケノヤイバに全くと言って良い程歯が立たなかったことを。

 

「だけど、ヌシに勝てないようじゃ、タマズサに勝てるわけがないからな」

 

 メグルは思い出す。

 テング団三羽烏の筆頭・タマズサと、彼の使っていたアーマーガアの事を。

 彼の破滅的な威力を誇るオオワザの前では、メグル達は太刀打ちが出来なかった。

 デイドリームGSフェスで、キーストーンや特性パッチを入手したものの、それだけではまだ決定打足り得ない。

 

(今の俺じゃ……あいつらからアルカを守ることが出来ない)

 

 メグルはちらり、とアルカの顔を見やる。

 彼女はヒャッキの民。テング団の故郷出身だ。

 それ故に、テング団との因縁も浅からぬものだ。

 特に三羽烏の一角であるアルネは彼女の妹だし、イヌハギはアルカを良く思っておらず以前も危害を加えている。

 

(俺が……アルカを守ってやらねーと……)

 

「どうしたんですか、おにーさん。ボクの顔に何か付いてますか?」

「あー、いや! 何でもないッ!」

 

 メグルは思わず目を逸らした。

 知らないうちに、アルカの顔を見つめていたらしい。

 

「へーえ……ふぅーん」

 

 ノオトがニヤリ、と笑みを浮かべる。全てを察しているような顔だった。腹が立つ。

 

(どうしちまったんだ俺は……相手はアルカだぞ、アルカ)

 

「……わっかりやっすいッスねぇ、メグルさん」

「とにかくっ、飯食おうぜ飯! 夜になるまで此処で待たなきゃいけないんだからな」

「そーですね、ボクもお腹空きましたし」 

 

 そう言ってアルカは鞄から限定サンドウィッチ・ハイパーハムサンドを取り出すのだった。

 砂漠に来る前に訪れた町で買ったものである。遠いパルデアでも展開しているチェーン店で販売されているものだ。

 

「ふふっ、食べましょうおにーさんっ、腹が減っては戦は出来ぬ、ですっ!」

 

(本当に嬉しそうだな……飯の時間が)

 

「メグルさん、オレっち達も食うッスよ」

「分かってるよ。わりーな、俺の所為で飯が遅れちまって」

「もういいよ。これもまた、旅の醍醐味でしょ!」

 

 メグルとノオトも、サンドウィッチを取り出す。

 ポケモン達も呼び出して、ポケモンフーズを食べて貰うことにした。

 ここらで一時休憩だ。

 

「いっただきまーす!」

 

 そしてアルカが、お楽しみのサンドウィッチに噛り付こうとしたその時だった。

 

 

 

「……カヌヌ」

 

 

 

 それを、物欲しそうな目で見つめるポケモンがアルカの前に立っていた。

 全身ピンク色の人型のポケモンだ。小さな女の子のような姿をしている。

 

「……だ、誰キミ……?」

 

 アルカは思わず二度見して、スマホロトムをスキャンする。 

 見た事のないポケモンだった。

 

「え、えーと……何々」

 

 

 

【ナカヌチャン ハンマーポケモン タイプ:フェアリー/鋼】

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