ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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序章:鳴神の如く落ちる
第1話:ポケモン廃人、知らん地方に転移した。


 ポケモン廃人。

 それは、ポケモン対戦や色違いに命を懸けるがあまり、ゲーム時間の殆どを自転車でぐるぐるすることに命を懸けている人種の事を指す。

 大学生のメグルもその一人であった。

 今日も今日とて彼は自室のベッドに寝ころび、死んだ目で厳選作業を行っているのであった。

 

「……白いなあ」

 

 目指すは色違いのルギア。

 特に思い入れがよくあるわけではないが、対戦でよく使うポケモンは皆色違いにしたいという自己満足的な理由であった。

 このルギアが手に入るダイマックス巣穴での色違いの確率は(「ひかるおまもり」を持っていれば)1/100。

 普通の色違いに比べれば大分良心的な確率とはいえ、相当な数のレイドを周回するハメになる。

 おまけに、既に彼は5匹もの伝説のポケモンの色違い厳選に成功しており、その総作業時間の膨大さは想像に難くないものであった。

 

「……青いなあ」

 

 

 

(……すか? 聞こえ、ますか?)

 

 

 

「……いやそういうの良いから。この無限レイド編から解放してくんねーかな誰か」

 

 

(助けて……助けてください……)

 

 

 

「助けてほしーのはこっちなんだわ!! 早く色ルギアをよこせ!!」

 

 そう言いかけてメグルは口を噤んだ。

 部屋に木霊するのは聞き覚えのない声であった。

 とうとうポケモンのしすぎで頭がおかしくなったのだろう、と結論付けて再びレイド周回に戻る。

 どうせこの場には自分しかいないのだ。咎める者など誰も居ない。

 

(この世界を……助けて──)

 

「無理に決まってんだろ、こちとら引き籠りだぞ──ま、ポケモンの世界なら無双できるかもだけどな、ハハハッ」

 

 突如聞こえてきた声に臆することなく返事するメグル。

 完全にゲームにのめり込んでいた。

 そして、そう豪語出来る程に彼はポケモンというゲームを長年やり込んでいた。

 廃人歴、10年。

 厳選したポケモン、数知れず。ポケモンのタイプも、それぞれ覚える技も、能力の伸びやすさを示す「種族値」も既に全て暗記している。

 こうして、今まで専ら対戦を極めてきた彼だが、とうとう伝説の色違い厳選にまで手を出してしまった。

 ポケモンというゲームの沼は深い。マリアナ海溝程である。

 そしてメグルはまごう事なきポケモン廃人であった。

 

(……そうですか。それなら、いけますね?)

 

「……ったく、邪魔すんなっての──え」

 

 悪態をついてゲーム画面を見直し、言葉を失った。

 そこに現れたのは、ポケモン剣盾には登場しないはずのポケモンたち。

 大きな目玉に、アルファベットを崩したような姿のシンボルポケモン・アンノーンであった。

 それも1体や2体ではない。

 画面中を覆い尽くす勢いでそれは増殖していく。

 

「待て、待て待て、バグった!? バグったのか!?」

 

 思わず電源を切ろうとする。

 しかし、幾ら電源ボタンを押してもニンテンドーSwitchの画面は黒くならない。

 

 

 

「ぴぴぴ……」

 

「ぴぴぴ……」

 

「ぴぴぴ……」

 

 

 

 電子音が周囲から響き渡る。

 誰も居ないはずの部屋の壁に、ゲーム画面に映っているべったりと黒いシンボルたちがへばりついていた。

 本来、そこにいるはずのない「異物」達。

 本来、現実には存在しないはずの「ポケモン」達。

 それを目の当たりにして鳥肌が立つ。

 アンノーン達は不気味にこちらを見つめるだけだ。

 

「何で……? ポケモンが……アンノーンが……!?」

 

 

 

「ぴぴぴ……」

 

「ぴぴぴ……」

 

「ぴぴぴ……」

 

 

 

 

 有り得ない。ポケモンは架空の生物だ。

 そんな彼の常識など取るに足らないと言わんばかりに、アンノーン達は鳴き続ける。

 その目は真っ赤に染まっており、不気味さを際立たせていた。

 

「おい、やめろ……! 何だお前ら……!」

 

 

「ぴぴぴ……」

 

「ぴぴぴ……」

 

「ぴぴぴ……」

 

 その目が光ると共に──ベッドに突如虚空が開く。

 

 

 一瞬でメグルの身体は重力を失い、落下したのだった。

 

 

 

 

「なんでええええええええええええ!?」

 

 

 

 

 叫びながら落ちていく。

 ベッドから投げ出された体は床へと吸い込まれていき、やがて意識を失ってしまった。

 

 

 ※※※

 

 

 

「……何が助けてくれだバカヤロー! 助けてほしいのは俺の方だーッ!!」

 

 

 

 首と背中の痛みで起き上がり、しばらくしてメグルは森の中に自分が投げ捨てられていたことを理解した。

 此処が何処かも分からない。

 しかし、茂みの近くを通ると時折、ゲームでは散々見慣れたポケモンが飛び出して来るのだった。

 

(ナゾノクサ……コラッタ……ニドラン……間違いねぇ、俺はポケモンの居る世界に飛ばされたのか……)

 

 尤も、今の彼は生身でステゴロ。

 今周りをうろちょろしているポケモンたちがどれほどゲームと同じ力を持っているのかは分からないが、もしもメグルの想像通りだった場合、この小さなポケモンたちにすら歯が立たない。

 彼らは人知を超えた能力、そして技を持つ。周囲に開いている穴ぼこなんて、ポケモンが開けたに違いない。

 

(人生で一番の命の危機かもしれん……)

 

 小さいからと言って侮るなかれ。コラッタの前歯は木々を削り倒し、ニドランは毒のトゲを持ち、ナゾノクサのばら撒く粉塵を吸えば昏倒してしまうだろう。

 ポケモンは怖い生き物です! とは、誰が言っただろうか。

 そうでなくても、大型のポケモンに襲われれば命を落とすことは確実である。

 従って、メグルに残された道はとにかく人の居る場所へ歩くことであった。

 尤も、地図も道しるべもアテも何も無いのであるが。

 当然、アルセウスフォン(似たような境遇のポケモンLEGENDSアルセウスの主人公がゲーム序盤に貰ったチートアイテム)など無い。

 本当に何も無いのか、とズボンをまさぐったが、出てきたのは透明な羽根だった。

 

(これは流石に激レアアイテムか……!?)

 

 と思って振ったり、投げたり、ふーふーしてみたり、地面に刺してみたが、何も起こらなかった。

 

「ゴミじゃねーかよ!!」

 

 と投げ捨てるのは簡単だったが、今この場ではどんなものがいつ役に立つか分からない。結局ズボンに刺したままにしておくのだった。

 

(夢なら本当に醒めてほしい……厳選したい……部屋が恋しい……俺には新作のポケモンをやるって使命があるのに……)

 

 しかし、幸い運は彼に味方した。

 しばらく歩いていると、木造の建築物が見えてきた。

 明らかに人造物で、人の手が入っているものだ。

 思わず駆け寄った。そして、立ち止まる。

 建築物の前には──何かが2つ、向き合うようにして鎮座していた。

 それは巨大な石像だった。高さ2メートルはあるだろう。その大きさも目を見張るものがあるが、メグルが驚いたのはそのデザインであった。神聖な獣を模したであろうそれは、どこか見覚えのある姿であった。

 

「ライコウ?」

 

 それは紛れもなく伝説のポケモンであるライコウの特徴を備えていた。稲光の如き鋭い眼光。口元からのぞかせる鋭く長い牙。猛虎の如き威風堂々とした佇まい。まさしくメグルがゲームやアニメで幾度となく目にして来たそれそのものであった。

 

「……よくできてるなあ」

「──此処は立ち入り禁止よ」

 

 ふいに後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには見知らぬ少女が立っていた。

 

「君は……」

「私はユイ。キャプテン……代理なんだからっ!」

 

 ユイと名乗った彼女は、金色の髪を腰まで伸ばしている。メグルよりも頭一つ分ほど背が低く、華奢で小柄であった。しかし、その仕草は何処か大人びており、責任感を宿した目をしていた。彼女はメグルの方を見て呆れたように言った。

 

「神聖なおやしろに足を踏み入れるとは良い度胸ね。それとも、此処が何処かご存じで無い?」

「……いや、存じてない」

 

 存じているわけがない。メグルはふと後ろを振り向いた。自分がアテにしていた木造の建築物の正体がその「おやしろ」なのだろう。

 なるほど確かにライコウの像2つは、やしろを守るようにして立っていた。

 

「俺、森の中に落ちてきて……えーと……」

 

 必死に記憶を手繰り寄せる。

 しかしいくら思い出そうとしても、そこから先は霞がかかったようにぼんやりとしていた。

 

「悪いけど、何にも覚えてないんだ。どうして自分が此処に来たのかも分かんなくてさ」

「……はぁ、ダメそうね」

 

 ユイは心配そうな顔を浮かべる。

 

「とにかく付いてきて。私たちの町で話は聞くんだから──」

「俺はこれからどうなるんだ?」

「檻の中? 抵抗しても良いけど」

「ええ……勘弁してください! 俺まだ前科持ちにはなりたくないんです!」

「あっははは、冗談だってば! あんた、ウソ吐いてなさそうだし。なんか吐けなさそーな顔してるし。どうせ旅行客か何かで、道に迷ったんでしょ? 困ったことがあったときはお互い様だから!」

「た、助かる……ポケモンも居ないから困ってたんだ」

「ポケモンが、居ない? あんた、ポケモン無しで此処まで来たの!?」

 

 驚いた様子で彼女は目を見開く。

 道中は弱いポケモンしかいない上に襲ってこなかったので何とかなったが、よく考えたら此処まで無事で来れたのが奇跡のようなものなのだろう。

 

「あんたのポケモンは!? 迷ったの!? 探してあげなきゃ!」

「ま、待って。そもそもポケモンを持ってないんだ。いきなり気付いたら、この森に居て──」

「そんな事ある!? 死にに来たの!?」

「違う! 死にに来たなら、こんな人が来そうな所にわざわざ来ないだろ!」

「あんたねー……まさか──」

 

 彼女が言いかけた時だった。木々がざわめきたち、何かに怯えるかのように、ポケモンたちが飛んで跳ねては茂みへ消えていく。

 先程まで静かだったやしろの森は怯えるように騒ぎ立て始めた。二人は警戒するように周囲を見回す。

 突如、足元が暗くなった。

 

「……えっ?」

 

 2人が驚いて上を見上げると、そこには巨大な影があった。

 鳥だ。 

 それも、とても嘴が長い鳥だ。

 そして肌が大きく粟立つ。

 大きく広げられた翼は威風の証。

 何かを穿つために捻じれた嘴は不気味さと歪さを際立たせている。

 

「オニドリル……だよな……!?」

 

 メグルは呆然と呟いた。

 悠然とした振る舞い。

 しかし、そこからはある種の余裕、そして殺気を感じさせた。

 出会っても何もしてこなかった此処までの野生ポケモンたちとは違う。明らかな敵意すら感じさせる。

 そもそも野生ポケモンに限らず野生動物とは出くわしたら襲ってくるのが普通だ。

 ゲームでも草むらを歩いていたらポケモンが飛び出してきて戦闘になるのである。

 にも拘わらず、あのコラッタやニドラン、ナゾノクサが逃げるばかりだった意味を漸くメグルは思い知ったのである。

 野生ポケモンたちは、このオニドリルに怯えていたのだ。

 

「パラララララララ!!」

 

 あの独特の鳴き声を響かせながら、オニドリルは翼をはためかせる。

 その風圧だけでメグルの身体は吹き飛びそうになった。

 もしも本気で羽ばたけば、このやしろ諸共壊されてしまいそうな勢いだ。

 

「パラララララララ!!」

 

 威嚇するようにオニドリルは再び羽根を広げる。

 

「なあキャプテン代理さんよォ!? コイツ、この森のヌシとかそういう系のヤツなのか!?」

「違う! こいつはヌシ様じゃない! そもそもオニドリルなんて、この辺りに生息してないもの!!」

「じゃあ誰かが持ち込んだのか!?」

「知ったこっちゃない! でも目の前のこいつは、明らかに敵意を向けてる……この”おやしろさま”に……森のポケモンたちに! ”おやしろさま”の敵は、私の敵なんだから!!」

 

 鬼気迫る表情で彼女は赤い上蓋で閉じられたボールを握り締める。

 モンスターボール。メグルも見慣れた、縮小したポケモンを持ち歩くための道具だ。

 そして、ユイは慣れた手付きでそれを眼前に投げ入れる。

 

「あんたに恨みはないけど、この森を荒らすなら……痛い目見てもらうよ!」

 

 ぽんっ!! 音を立ててボールが弾けた。

 そこから現れた「モンスター」に一言。

 指示はそれだけでいい。

 トレーナーとポケモンの慣れた連携であった。

 

 

「レアコイル、撃ち貫け!! 10万ボルトなんだから!!」

 

 

 

【レアコイルの 10万ボルト!!】

 

 ──雷光直下。

 

 

 オニドリルの頭から激しい稲光が幾重にも重なって落ちる。

 

 

 下手人は磁石に目玉が付いたモンスターが3つ連なったポケモン・レアコイル。

 一瞬で周囲は真っ白になり、メグルは腕で目を覆った。

 目は眩んでよく見えないが、バチバチバチ、と何かが焼き切れる音が聞こえてくる。

 

(特攻)120ってこえー……ッ!」

 

 頼もしさよりも先に恐ろしさが先行する。レアコイルのC──もとい特殊攻撃力の高さはメグルもよく知っているが、それを目の当たりにする日など来るとは思っていなかった。

 アレを喰らった時のことなど考えたくない。黒焦げでは済まないだろう。

 

(オマケに飛行タイプに電気タイプは効果抜群……流石に確1だな──)

 

 オニドリルは先ず助からない。

 同情さえ禁じ得なかった。

 恐る恐るメグルは目を開ける。

 

 

 

 

 ──いない。

 

 

 

 オニドリルの姿が見当たらない。

 さっ、とメグルの顔から血の気が引いた。

 逃げた? 違う。

 彼は思わず頭上に目をやった。

 いない。

 しかし、わざわざやってきたのに尻尾を巻いて逃げるようには見えない。

 そもそも、先程の10万ボルトは確かにオニドリルに直撃したのだ。そこまではメグルの目にも確かに見えたのだ。

 

「ッ……ウソでしょ!? 何処!?」

「どうなってんだよ……!!」

 

 ふと地面に目を向ける。

 そこには、先程までは無かった大穴が開いている。

 

 

 

「地中か──ッ!?」

 

 

 

 

 地面が音を立てて砕けた。

 激しく回転しながら、それは突如勢いよく飛び出す。

 すぐに何かは分かった。

 オニドリルだ。

 文字通りドリルのように地中を突き進み、戻って来たのである。

 そしてその勢いのまま、レアコイルをカチ上げて──吹き飛ばした。

 

 

 

 【──効果は抜群だ!!】

 

 

 

 

 レアコイルは木に叩きつけられ、そのまま地面に転がる。

 鋼タイプと電気タイプを併せ持つレアコイルにとって、地面タイプの技は致命傷に等しい。

 しかし、レアコイルは非常に”頑丈”なポケモンだ。どんな攻撃を受けても、一撃は必ず耐える。

 

「今のは”穴を掘る”……ッ!? ──まだいける!! レアコイル!!」

 

(”穴を掘る”……ッ!?)

 

 さぁっ、とメグルの顔から血の気が引いた。

 確かにオニドリルというポケモンは、地面タイプの技を幾つか覚える。

 しかし、流石に元が飛行タイプだからか”あなをほる”は覚えないのだ。

 地中に一度潜行し、時間をかけて相手を地中から攻撃する技である以上、元々が地中に適応したポケモンで無ければ習得出来ないのは当然である。

 つまり、あのオニドリルはユイにとっても、ましてやメグルにとっても未知の存在であった。

 

「おい!! あいつは、俺達の知ってるオニドリルとは違うんじゃないか!?」

「今更それを知ったところで何? 私は此処を守るキャプテン! 引き下がる理由にはならない!」

「いや、そうじゃなくて──」

「そもそも、空を飛んでるポケモンに電気が効かない道理なんて無い!! もう1回当てれば落ちる!! レアコイル──10万、ボルトッ!!」

 

 弱弱しく3つのユニットが発電のために回転する。

 そして──再び雷撃がオニドリルを捉えた。

 

 

 

 

【レアコイル の 10万ボルト!!】

 

 

 

 

 二撃目は驚くほどにあっさりと、オニドリルの身体へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 そして。

 オニドリルは悠然とその場に立っていた。

 バチッ、バチッ、と身体に纏った電気はアース線のように脚から地面へと流れていく。

 

 

 

【効果がないようだ……】

 

 

 

 今度こそハッキリした。

 オニドリルは電撃を受けても立っていた。平然とした顔で。

 

「まさか……本当に、効いてないの!?」

 

 ユイはおずおずとモンスターボールに手を伸ばす。

 

「じゃあ、あのオニドリル、何タイプだっていうの──ッ!?」

 

 

 

 

「パラララララララララッ!!」

 

 

 

 

 翼を広げたオニドリルが威嚇しながら空中へ飛びあがる。

 そして、その目が赤く輝き──

 

 

 

【──オニドリルの 地震!!】

 

 

 

 

 ──急降下。

 地面は一気に砕け、衝撃波となって襲い掛かる。

 まるで津波の如き勢いで、土砂がメグルを、ユイを、レアコイルを飲み込む──

 

「これがポケモン──ッ!? こんなの、災害か何かじゃないか……!!」

「っ──!!」

 

 ユイは飛び出し、レアコイルに覆いかぶさる。

 しかし、最早間に合わない。

 この場に居る全員が、そしてやしろそのものが、土砂に喰われようとしたその時だった。

 

 

 

 

「──ビッシャァァァーンッ!!」

 

 

 

 ──雷鳴が啼いたようだった。

 

 

 土砂は押し寄せてこなかった。

 比喩ではなく、本当に1枚の静止画のように、先程まで蠢いていたそれらは停止していた。

 

 

 

 

「──ギュリリリィィィーンッ!!」

 

 

 

 雷鳴の如き咆哮に、メグルは思わず振り向く。

 やしろの屋根に──黒い体毛に黄金の鬣を携えた獣型のポケモンが佇んでいた。

 その姿はメグルの記憶のどのポケモンにも合致しない。

 大きさは中型犬ほどだ。しかし、石像として飾られている伝説のポケモンにも負けない程に威風堂々とした立ち振る舞いをしていた。

 

「ヌシ様……!!」

 

 メグルは否が応でもそのポケモンを「ヌシ様」と認めざるをえなかった。

 ”なるかみのやしろ”。

 その主に相応しい威容である。

 

 

 

【??? の じんつうりき!!】

 

 

 

 次の瞬間、空中に一時停止していた土砂が一気にオニドリルへと跳ね返される。

 想定外の反撃を受けたオニドリルは、悲鳴を上げると──戦況悪し、と判断して何処かへ飛び去って行くのだった。

 そして、ヌシもまた──忌敵を追撃することなく、そのまま見つめているのだった。

 

「……レアコイルごめん、ゆっくり休んで……」

 

 突っ走りがちなだけで、根は真っ当な善人なのだろう。ユイは労わりの言葉を投げかけながら傷ついたレアコイルをモンスターボールに戻す。

 戦闘は終わった。危機が去ったことを察知した途端、全身の力が抜けてしまった。

 あのヌシポケモンの介入が無ければ、どうなっていたのだろうか想像したくもなかった。

 メグルはへたり込み、現れたオニドリルのことを、そしてヌシのことを考えていた。

 

(……俺も見た事の無いポケモンが今、2匹も現れた……そのうちの1匹は、現地人のこの子も知らない姿のオニドリルだし……)

 

 やしろの屋根に佇む見た事のないヌシポケモン。

 そして、襲撃してきた明らかに姿の違うオニドリル。

 この地は、メグルが今までゲームやアニメで目にしてきた世界とは違うという確信を持ちつつあった。

 

 

 

(もしかして、もしかしなくても俺、知らない地方に飛ばされたのか──!?)

 

 

 

 

「大変!! 何でこんなになるまで──!?」

 

 ユイの明らかに取り乱した声でメグルは我に返る。

 見ると、屋根の上に先程まで佇んでいたヌシは──ぱたり、と力尽きたように倒れていた。

 その黒い体躯には、嵐に巻き込まれたかのように無数の擦り傷が付いていた。

 先程の戦闘で負ったものではない。そのまま体を引きずって戦っていたのだろう。

 本気で蒼褪めた彼女の顔を見るに、危ない状態であることには違いない。

 

 

 

「ヌシ様がボロボロなの!! ポケモンセンターに運ぶから手伝って!!」

 

 

 

 

 

 ──「ポケモン廃人、知らん地方に転移した。」




【オニドリル(???のすがた)】
きめんちょうポケモン タイプ:???タイプ
『捻じれた嘴で勢いよく地中を掘り進み、トンネルを作る。二つに別れたトサカは、鬼の如し威容を放つ。』

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