キースイッチ詳解~Keygeek M1を例にして~
はじめに
みなさん、メカニカルキーボードのスイッチは交換していますか?
メカニカルキーボードでは、スイッチが交換可能である場合も多く、スイッチを交換することで、押し心地の調整をすることができます。
メカニカルキーボードにおいて、スイッチを交換しながら追い求める打鍵感・打鍵音に調整することは、キーボード趣味の楽しみ方の一つともいえます。
私はスイッチを交換して楽しむことを比較的よく行う方で、家にはお試しで買ってみたスイッチ、過去使っていたスイッチがたくさんあるような状態です。
ここで、現在販売されているスイッチを見ると、本当に多種多様で、どうやって選んだらよいのか、と思う方もいらっしゃると思います。
概論的な説明については、過去記事にしたことがあるのでそちらを参照していただくとして、今回は一つのスイッチについて掘り下げてみてみようと思います。
ちなみに、過去に結構気合を入れて書いたスイッチに関する記事はこちらです。
今回の記事により、スイッチのスペックの何を見ればよいか、分解されている写真の何を見ればよいか、というヒントとなれば望外の喜びです。
なお、磁気スイッチは、対応するキーボードを持っていないため、メカニカルキーボード用のスイッチに関する話となります。共通する部分もあるため、ある程度は参考になると思いますが、この点はご了承ください。
今回取り上げるスイッチの詳細
名前
"Keygeek M1"というスイッチです。いわゆるMX互換スイッチです。
一応、Keygeekが製造している、ということになっているはずです。
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見た目
ダークグレーの下側(ボトムハウジング)に、グレーのマーブル調の上側(トップハウジング)、さらに、ライトブルーのステムというちょっと面白い見た目のスイッチです。
結構かわいいですよね。
スペック
上記販売ページに記載されているスペックを転記します。
Switch Type: Linear
Manufacturer: Keygeek
Mold: New stem mold
Stem material: L4 Strengthened POM (7 Spheres stem tip)
Top Housing: L4 Strengthened POM
Bottom Housing: N2 (Nylon with 20% fiberglass added)
Operating Force: 45±5g
Bottom-out Force: 53±5g
Pre-travel: 2.0mm±0.2
Total Travel: 3.6mm±0.2
Spring: 18mm single-stage spring Japanese wire
Factory Lubed: Yes!
上記のスペックで、重要なのは以下の点です:
(スイッチのタイプ)リニア
(オペレーティングフォース)45±5 g
(ボトムアウトフォース)53±5 g
(スプリング)18 mm
つまり、スイッチがリニア/タクタイル/クリッキー/サイレントリニア/サイレントタクタイルのいずれであるか、スイッチがONになるのに必要な力はどれくらいか(オペレーティングフォース)、スイッチを底まで押し切るのに必要な力はどれくらいか(ボトムアウトフォース)、バネの長さはどれくらいか、という点です。
このスイッチについてみると、ボトムアウトフォースが標準(60 g)より若干軽めで、スプリングの長さ、および、オペレーティングフォースとボトムアウトフォースとの差から、押し始めから押し終わりまでの荷重の変化がやや緩やかめであることがわかります。
とはいえ、これらのスペックのみでは得られない情報がたくさんあります。
打鍵音はもちろん、押したときの軸ブレの少なさについても実物を押してみないとわからず、また、タクタイルタイプの場合にはどのような引っ掛かり具合かがわかりません。
以下では、キースイッチを詳細に観察し、上記についてのヒントを得ていこうと思います。ただし、打鍵音については、まともな録音環境がないので、文字のみでお楽しみください。
また、今回のスイッチはリニアタイプなのでタクタイルタイプに関する詳細な説明は別の記事に譲ります。
キースイッチ詳細に観察してみる
キースイッチは、キースイッチオープナーと呼ばれる器具で分解できます。
キースイッチは、通常4つのパーツに分解できます。
トップハウジングおよびボトムハウジングが嵌合しており、トップハウジングとボトムハウジングの間にステムがスライド可能に保持され、ステムとボトムハウジングの間にステムを押し上げるようにスプリングが配置されている、という形です。
各パーツについて詳細に見ていきます。
トップハウジング
トップハウジングの素材は、"L4 Strengthened POM"とあります。
具体的にはどのような素材かは不明ですが、POM(ポリアセタールまたはポリオキシメチレンと呼ばれます)をベースとした素材でしょう。
素材としては若干硬めであるといえます。トップハウジングの素材は、主に戻りの音に影響するといえます。硬めの素材の場合、やや高い音が鳴ることが想定されます。
ここで、トップハウジングをひっくり返すと、ステムが戻るときにその肩が衝突する位置が見えます。
さて、このスイッチについては、後述するステムの先端の形状が着目されがちですが、実はトップハウジングにも特殊な加工が施されています。
よく見ると、ステムとの衝突する部分に、細かな凹凸があることがわかります。
このような凹凸は、Keygeek Y2というスイッチのトップハウジングにも施されていたものです。
参照動画:
このスイッチについてそのような加工が施されていることについては、ほとんど触れている人がいませんが、この加工は、打鍵音の点でかなり効果があることは申し添えておきます。
余談ですが、通常のスイッチでも、この位置に粘度が高い潤滑剤を塗布するとステムの戻り音が抑えられる、という効果があります。
ボトムハウジング
ボトムハウジングの素材は、"N2 (Nylon with 20% fiberglass added)"とあります。
書いてある通り、ナイロンに対してグラスファイバーが混合されて強化がなされている、ということで、これもまたやや硬めの素材であるといえます。
ちなみに素材が硬くなると、打鍵音が高くなり、底打ちしたときの感触がやや硬くなる傾向にあると考えています。
詳細については、下記記事の記載を参照してください。
なお、ボトムハウジングには、一対の電極から構成される接点があります。「リーフ」と呼ばれる場合も多いです。
リーフは、ステムの脚部分と接触しており、ステムが押し下げられると電極同士が接触し、ONになる、という構造になっています。
ステムが押し下げられる際には、リーフとステムがこすり合わされるため、ステムと接触する部分には潤滑剤が塗布されていることも多いです。
このリーフ潤滑剤の塗布状態についてみると、白いグリス系の潤滑剤が塗布されていることがわかります。
Keygeek製のスイッチの場合、この部分はやや厚めに潤滑剤が塗布されている場合が多いです。この部分から音がすることがあるのですが、Keygeek製のスイッチの場合は、ほとんどない印象です。
また、製造時にどちらの部品に対して潤滑剤を塗布しているかは不明ですが、ステムとボトムハウジングの摺動部分においても、潤滑剤が付着しています。
このスイッチの場合、ステムとの摺動部分における潤滑剤はさらさらしているオイル系で、その量もあまり多くない印象があります。後述しますが、確かにやや摺動感を感じる場合があります。
ステム
ステムの素材は、"L4 Strengthened POM"とあります。
ステムは、底打ち時にボトムハウジングと、戻り時にトップハウジングと衝突しますので、ステムの素材は、打鍵音に影響する要素の一つといえます。
POMはやや硬めの素材であり、ボトムハウジング・トップハウジングもやや硬めの素材ですので、素材だけを見れば、高音寄りの打鍵音が想像されます。
このスイッチにおいて、ステムについて特筆すべき点は、その先端の形状です。今まで、ステムの先端は平らであるか、球状に丸まった構造であるかのいずれかでした。
このスイッチでは、ステムの先端が、7つの小さな半球状の形状が取り付けられたような構造をしています。
上の方で紹介したY2というスイッチでは、実はステムの先端にワッフル状の構造が形成されています。
詳細はこちらから。
このスイッチのステムの先端の形状は、そのような先端形状による打鍵感・打鍵音のコントロールの一環であるといえます。
先端形状が平らである場合には、高めの音が歯切れよく鳴る傾向にあり、先端形状が丸い場合には、低めの音が鳴る傾向にあると考えられます(詳細は先ほどの記事を参照してください。)。
ちなみに、この後に販売されているスイッチにも、このスイッチと同様の先端の形状のものがあります。試してみたいなあとは思っています。
スプリング
18 mmの長さのスプリングが搭載されています。
やや長めのスプリングといえます。20 mm以上になってくると、かなり長めのスプリングだな、という印象です。
なお、スプリングが長くなると、押し始めるのに必要な力が大きくなり、押しはじめから押し終わりまでの荷重変化が少なくなる、という特性になります。逆にスプリングが短くなると、押し始めの力が小さくて済む、ということになります。
スプリングが長くなると、押し始めが重くなりやすく、押し間違いの防止に役立つといえます。
また、長めのスプリングだと、戻りも速くなるといえます。
余談ですが、タクタイルタイプのスイッチだと、戻るときにも引っ掛かりが生じるため、これを解消するためか、長めのスプリングが搭載されている場合も多いです。
ところで、スプリングについては、交換も可能です。
色とかは気に入っているんだけど、ちょっと重すぎる、ちょっと軽すぎる、というような場合には、スプリングを交換するのも手です。
個人的にはこのスイッチは若干重めに感じますが、許容範囲内なのでそのまま使っています。
打鍵音・打鍵感
打鍵音としては、底打ちはステムの先端が丸いものと、平らなものの中間程度の音がするように感じます。
ステムの先端の形状が丸い場合には、低い音が鳴りやすいといえる一方、若干バウンドするのか、若干遅れて高音成分も少し鳴るような印象もあります。言ってしまえば、やや「軽い音」になるようにも感じています。
対して、平らな場合には、素材によって音の高低は変わるものの、歯切れよく音が鳴る印象があります。
つまり、このスイッチでは、やや低めの音が歯切れよく鳴る、という印象を受けました。
音の高低自体は中間的で、音量自体は若干控えめに感じます。
また、戻りの音は、かなり抑えられており、低音寄りであるように思います。
トップハウジングに凹凸が設けられているという点を指摘しましたが、Y2と同様に、この構造の効果の大きさがよくわかります。
周波数的には、どのキーボードにつけてもそれなりの音を鳴らしてくれる印象がありますが、特徴的な音が鳴るというわけではなく、ある種「普通の音」が鳴る印象です。戻りの音も小さめですので、比較的万人受けしやすいのではないかと思います。
底打ちと戻りを含めて、いわゆる「コトコト」と「カタカタ」の中間くらいのオノマトペで表現されるような音であると思います。
ステムのタイトさについては、かなりタイトめな印象があります。
押しているときはステムとハウジングとの摺動感を少し感じますが、あまり気にならない程度です。
斜めから押した際に引っかかるというほどではなく、タイトさと押しやすさが比較的両立されているとは思います。
とはいえ、タイトなスイッチにありがちな押し始めの重さ、摺動時の重さというのは少しあります。タイトさを優先したいけど、さすがに押しにくいのはちょっと、という方にはおすすめできます。
また、底打ちした際の衝撃は、通常程度で、気になる点は特にありません。
総じて、見た目とステムの奇抜さからはあまり想像できない、思ったより「ちょうどいいスイッチ」であると感じています。
音が生じる根源となる衝突する部分に微細な加工を施すというアプローチは、原理からして確かに効果的であるといえる一方、今までこのような試みはほとんどなされていなかったといえます。
今後も、どのような打鍵音へのアプローチがなされるか、注視していきたいと思います。
まとめ
Keygeek M1をベースに、キースイッチについて深堀りしてみました。
深掘りしてみた後で言うことではないですが、いくらスペックを見たところで、結局触ってみないとよくわからない、ということは強調しておきます。
また、どのキーボードに取り付けるかによって、印象はかなり変わりますので、結局のところ、いくつかお試しで購入してみて、良いと思ったら必要な数だけ購入する、というプロセスをお勧めします。
これが本当にいいから全人類これを買え、ということを私から言うつもりはなく、好みの世界なので、好きに選んでいただくのがよいのかなと思っています。
困ったら、どの種類のスイッチ(リニア/タクタイル/静音等)かを決め、販売日時が新しく(具体的には2023年以降くらい)、激安でないもの(具体的には約50円/個以上)を選択すれば、そこまで大外れしないとは思います。
最近のスイッチはよくできているものが多いので、迷ったら色で選んでもいい、というくらいです。
キースイッチは思ったより気軽に交換できます。
みなさんも広くて深いキースイッチ沼を覗いてみませんか?
おわりに
この記事は、キーケットスタッフ Advent Calendar 2025の記事でした。
キーボードマーケット トーキョー(キーケット)というイベントのスタッフによるアドベントカレンダーです。他の方の記事もとても魅力的ですので、ぜひ見てみてください。
また、キーケット2026は、2026年3月28日(土)に東京都立産業貿易センター浜松町館で開催されますので、ぜひ予定に入れておいてください!
ちなみに運営スタッフも募集中です。よかったらスタッフ参加にご応募いただければ嬉しいです。
私の方からは、キースイッチのサンプルをたくさんご用意してお待ちしています。


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