神は賽を振らず、筆持ちて世を彩る
というわけで不定期前にもう一発
「…………」
その女は、ただ一人しかいない部屋の中で携帯端末に表示された「結果」を睨みつけ……
「っ!」
怒りのままに携帯端末を床へと叩きつける。しかしながら耐衝撃に秀でたデザインと、女の膂力の無さ故に携帯端末にはヒビすら入ることなく、画面に変わることのない結果を映し続ける。
「……違う、違う、シナリオが違う」
ジークヴルムの撃破、これは予想できていた。
色竜の終結は予想外ではあったがまだ受け入れられた。
だが、だが、
「ノワルリンドの友好値が完全にプラス判定…………人類の、味方になってる」
これだけは受け入れがたい。女の……シャングリラ・フロンティアという世界を創り上げた女の「シナリオ」に於いて、ノワルリンドはジークヴルムに斃される若しくはジークヴルムを打倒し新たな「王」として君臨する筈だった。
だがこれはなんだ? 黒竜の性能上、大型犬サイズになることは分かるがパラメータが完全に敵対とは真逆の数値となっている。
「………こいつか」
自分には劣るがまぁまぁ優秀な女が作った「ブラックリスト」には無い名前だ、だが繋がりはある。
携帯端末を操作し、サーバーに接続。とあるプレイヤーの情報をグレーよりのブラックな領域まで調べ上げながら女は厳しい眼差しを緩めない。
これだから有象無象をあの世界に踏み込ませるのは嫌だったのだ、どうしてくれよう、いっそデータごと抹消して………そこまで考えて女は黒い感情を一瞬で表情から消し去ると、時代遅れな見た目のPCを起動して何か調べ始める。
「………うん、うん。うふ、うふふふふ……嗚呼やっぱり、やっぱりおじい様は凄いわ。うふふふふ……!!」
良いだろう、と女は笑みを浮かべる。「シナリオ」に在るならば神罰を下す必要はない、考えてみればあの日語られた物語に無い展開だったからこそ少しばかり取り乱しただけだ。
「あの馬鹿女じゃあるまいし……」
自分は怒りに身を任せてデータを消すようなことはしない、と少し前まで本気で考えていた思考を素知らぬ顔で忘却しながら女は携帯端末を操作する。
「彼女もまた「ツクヨ丸」足り得るのかしら? まぁいいわ、そんなことよりも……」
ジークヴルムが撃破されたことでシャングリラ・フロンティアは次のステージに到達した。女からすればここからが本番であり、たった二年でここまで到達した事に不満がないわけでもないが許容範囲ではある……筈だった。
「やっぱりコイツがネック……」
その出現が確認されたのは夏頃。だがそこからだったの三ヶ月で三つのユニークシナリオEXをクリアした事実は異常でしかない。
「……対策が必要、ね」
ただ高難易度で動きを止めるのは愚策だろう、今やオルケストラを除く六つのユニークシナリオEXを発生させたそのプレイヤーは下手に拘束させるよりも「寄り道」させるべきだろう。
「仇討人……ヴァイスアッシュ・シナリオ……バハムート・ダンジョン……」
PCに接続された携帯端末のARコンソールを細く白い指が高速で操作する。目まぐるしく切り替わるデータから情報が抽出され、シャングリラ・フロンティアの創造神手ずからの「寄り道」が作り上げられていく。
「あぁ、ジークヴルムを倒したならビィラック関連で寄り道させるのも良いかしら? 必要素材を大陸の西端にして……いえ、駄目ね。ゴルドゥニーネとかち合う可能性は少なくしたい。だとすれば……いえ、逆なのかしら? むしろあえてユニークモンスターに関わらせれば………うん、名案ね」
幸か不幸か、このプレイヤーは征服人形とのコンタクトも達成している。であればリヴァイアサンの難易度を弄って時間を稼ぎつつ……
「ふふ、ふふふふふ………いいわ、どうせなら徹底的にやってやりましょう。オルケストラ、プレイヤー名「サンラク」の過去ログを参照しつつ現時点をもって監視観測、「オーケストラプログラム」の精度を上げて」
音声認証、送った言葉に対してモニター上に表示される簡素な了承の返事に女はますます笑みを深める。
「どうせなら他のレイドモンスターも改造しちゃおうかしら。森人族やレアモンスター込みとはいえたった三人で大赤依が倒されたのはなんだか癪だし」
あのゲーム病の馬鹿はバランスバランスと慎重すぎる。レイドモンスターは先史文明を破壊し尽くした災害なのだ、初見で撃破されるような事があってはならない。仮にそうなるとしてももっと犠牲が支払われるべきなのだ。
「バレると面倒だし、プログラムを隠蔽して……そうね、とりあえず体力は1.5倍にしてAIはもっと攻撃的に……」
もはや先程までのプレイヤーの事など忘れた。女……継久理 創世の脳はゲームをより「シャングリラ・フロンティア」に忠実にすることしか考えていない。
「おじい様、おじい様…貴方の、私の、私達の「世界」をもっともっと素晴らしいものにするから。ふふふ、あははははは……!!」
まだ誰も知らない、神が握った筆は世界そのものをより凶悪に書き換えていく……
胃薬・スタンバイ