龍よ、龍よ! 其の四十八
今年中に終わるか? いけるか?
託された願いがあった。
届かぬメッセージがあった。
遠く、遠く。ある科学者の元でかつて存在した、三つのパーツによって構成された龍喚びの笛が起動する。
『Wake up, BC-Beacon.』
まず第一に中央パーツ、第三型半永久稼働「純科学製」動力機構が眠り続けていたその身にエネルギーを巡らせる。
『Checking………』
次に握りパーツ、人間の手から情報を読み取る識別認証ユニットが己を握る者の情報を読み取り……0.1秒にも満たない一瞬でその者に「資格」がないことを看破。
されど、新たに追加されていた識別コードを参照し……承認する。
『OK. 「Legacy mode」 Call……accept.』
そして最後に銃口パーツ、厳密には中央機関で生成された特殊周波数を適用した原子操作機構が幾星霜のかつて以来の役割を果たす。
『Please Wait.』
大気中の粒子を利用した人為的な光の屈折現象……即ち、神代の「虹」が今ここに、第二のB……深き海の底の底、かのルルイアスよりも尚深い場所で大いなる水をかき回しながら眠っていた調律神の獣を喚び覚ます。
───それは、誰かの物語ではない。
───それは、世界の変遷でもない。
───それは、開拓者が為すべき使命。遠く神代、世界を救った者達が遺した大いなる遺産。
その在り様は神代を示す者達達に近く、されど「示すもの」が異なるが故にその区分に属さぬもの。
鯨の乙女は、喜びと共に。
◇
『決着!!』
『装骨天守スカルアヅチvs一夜城サソリスノマタ……勝者、一夜城サソリスノマタ!!』
『これにより、装骨天守スカルアヅチの所有権が一定期間譲渡されます』
それは敗北の通告、自分に纏わりついていた最後のPKを斬り捨てた天首領はぽりぽりと頭を掻きながらため息をつく。
「ありゃ、負けちまったか……」
反ノワルリンド派最大の切り札たるスカルアヅチの陥落。もはやここから笑みリア達が巻き返すことができる可能性はほとんどないだろう。
実際はノワルリンドの縮小化、プレイヤーとの融合など勝ちの目はあるにはある。だがそれを知っているかどうかはまた別の問題だ。
「どうするよ盟主殿?」
「そう………ですね、これはもう流石にお手上げとしか」
「だろうなぁ……いやー、流石にメタられすぎたな! こりゃ参った参った」
ケラケラと敗北宣言をしつつも、天首領は問いかけるような、挑発するような目で笑みリアを見つめる。
「時に盟主殿、風の噂ではジークヴルムが前線拠点を巻き込んで盛大に自爆しようとしてるらしいが?」
「それは………許せませんね」
勘違いしてはいけない、笑みリアの原動力は……かつてこの地に作った今思えば貧相な建物を破壊された生産職達の原動力の根本は、ノワルリンドだから憎んでいるのではなく。かつてモンスターをけしかけて拠点を破壊した者であるからこそ憎悪を向けていたのだ。
敵の敵だからジークヴルムが標的ではなかっただけ、であれば今この状況で狙うはただ一体。
「わがままばかりで、方針すら変えてしまって申し訳ありません……でも、ジークヴルムの自爆を放置することはできません。行きましょう!!」
応、とノワルリンドに振るうために温存していた武器を、魔力を、情熱を滾らせた一団がジークヴルムへと駆けていく。
タイムリミットは、あと四分。
◇◇
風水導師……言ってしまえば単なる生産職であったはずの家具職人は、最上位職業の高みに至ったことで戦うだけの力を得ていた。
自身が設置したオブジェクトで他でもない自身を高める……餡ジュが三桁の大台に乗った京極にすら匹敵する力で持ちこたえることが出来たのも、そこがスカルアヅチの天守閣……即ち、餡ジュ謹製の家具が大量に設置されていたからに他ならない。
そして「後」の事を考えるが故に安易な破壊を選べなかった京極は、今に至るまでの大苦戦を強いられたのだった。
だが、それももう決着した。
剣道として見れば邪道も邪道、壁を利用した「空中奇襲」による一刀両断。
幕末として見れば王道も王道、逆になぜ出来ないのかとまで言われる基礎。
三次元的な機動へのアシストが豊富なシャンフロであれば、幕末以上の効果を出すことができる。
「……さて、と。とりあえず……どれ操作すればいいんだろ」
頭の上にクエスチョンマークを浮かばせながらも、ウィンドウを操作していた京極は二分ほど時間を使ってようやくスカルアヅチの強化付与選択画面に到達する。
「わー凄い、流石は城郭サイズの建造物と言うべきか……サソリスノマタとか能力一個しかないのに」
尤も、その唯一つの能力が厄介なのだが……と苦笑しつつも京極は目に付いたバフのことごとくを対ジークヴルムに設定して解き放つ。
「ま、九十六人抜きできたし満足かな」
・敵対対象:天覇のジークヴルム
・強化対象:敵対対象と戦闘状態にあるプレイヤー及びNPC
・強化内容
十五秒ごとにHP、MPを回復
全ステータスの強化
ダメージボーナス
リキャストタイム20%軽減
魔法発動コスト10%軽減
攻撃スキルの威力上昇
攻撃魔法の威力上昇
タイムリミットは、あと三分。
◇◇◇
「……視認されると物理障壁、定期的に無差別レーザーと全方位衝撃波、どうすればいい?」
『回答:有効打は重要ではない、視線を奪うことができれば上等……との事です』
「……そうだね、でもどうせなら何かスコアは出しておきたい」
艶やかな炎の羽を広げた機人が空高くよりジークヴルムを見下ろしながら呟く。己の半身たるモルドからの提案を受けつつも、残り少ない時間で何か出来ないものかと視線を巡らせる。
「……角、」
『精査:こちらからも確認しました。残る二本の内、一本は……』
「ううん、違う。そっちよりも……」
現在のジークヴルムが持つ厄介な物理障壁……その特性を考えたならば、狙うは角ではない。
「朱雀、ラスト一発……全力全開」
『了解、「荒羽々焚」及ビ「焼却対魔刃」ヲ展開』
タイムリミットは、あと二分。
◇◇◇◇
秋津茜はその光景を見ていた。
誰も彼もが残存するリソースを絞り出しながらジークヴルムへと向かっていく。
光が舞い、黄金が身を振るう度に決して少なくない数のプレイヤーが散っていき、それがどうしたとそれ以上の数が死を恐れる事なく前へ前へと突き進む。
『見てくださいノワルリンドさん、凄いです……』
(……ふん、だが決めるのは俺達、そうであろう)
『そうですね、任されたんですから!!』
まだ、まだ………まだ、秋津茜が動くその瞬間は来ない。緊張と、高揚と、待望を胸に秋津茜は待つ。
タイムリミットまで、あと───
その瞬間、世界が揺れた。
◆
その瞬間、海が爆ぜた。
液体なれど大質量、莫大な海水があり得ざる動きで天高く跳ね上がられる。
クォォォォォォォォオオオオオオオン……!!!!
それは本来の星の海を渡る力こそ失われど、水の海を浮かび上がる事くらいは容易い反引力推進器から発せられる……幾星霜の果てに響く喜びの汽笛。
人よ、人よ、初めまして。そして久し振り。
大量の水は、重力に従い元あった場所へと滝のように落ちていく。だがそれは空へと昇るかのように……されど翼を失ったが故に、海面に浮上という所で止まった鋼の巨体を世界へと曝け出す。
その姿はまさしく動く大陸、幾星霜のかつて、人類を背負って星の海を旅した「世界を背負う魚」。
鯨を模したフォルムの先端に人間大と比べるのも馬鹿馬鹿しい規模の「一角」を備えたその船の名は。
『おはよう! おはようございます! 私は勇魚!! やっと会えた!!』
喜びの声、勇魚と名乗る女性の声はそうして神の獣の名を告げる。
『恒星間航行級アーコロジーシップ「リヴァイアサン」! 現時刻をもって次世代新人類とコンタクトを取るべく浮上します!!』
三神の宗教、その一柱たる調律神の神獣と定義される「宇宙船」の名を。
未亡人系AI勇魚ちゃん、数千年近くROMってたけどようやく発言を許された模様
あとその内ワールドクエスト表記を全部ワールドストーリーに変更するかもです、ご了承ください