龍よ、龍よ! 其の四十五
し、四捨五入すれば五十話いける
◆
まぁつまり要するに、だ。脳みそがテンション上げすぎてエンストしかけてる。
「首根っこ掴まれた猫みたいになってる……」
「頭使いすぎた……」
ぶっちゃけあのまま落下死するものとばかり思っていたのだが、再び戦術機獣と合体したルストによってキャッチされた俺はルストの喩え通り吊るされた猫のような格好で地面へと降り立ったのだった。
「戦える?」
「ぶっちゃけ辛い……」
流石に切った張ったもやり過ぎれば俺とて疲れる。正直言ってもう一回さっきと同じことをやるのは無理だ、サンドバッグ相手ならまぁなんとかなったかもしれないが……ジークヴルムは今、傍迷惑な時限爆弾と化している。
求められるのは無差別レーザーを避ける機動力だろう、今の俺だと下手に過剰伝達など使えば確実に地面のシミになるだろう。
「契約者、投棄された武器及び特異結晶体を回収しました」
「いいね……あんがとよ」
「……とりあえず、私は参戦してくる」
「壊すなよー」
飛び去って行った朱雀もといルストを見送りつつ、さてどうしたものかと考える。
何か出来ることがあるんじゃないか? 何も武器ブンブン振り回すだけが戦いじゃあねぇ、ぶっちゃけアホほどプレイヤーがいるのだから俺いてもいなくても変わらないんじゃとは思うがそれはそれ、これはこれ。
「………………………ふへっ」
「やっと見つけたと思ったら想像を絶する邪悪な笑い声出してるですわ……」
「いやいや、ちょーっと忘れてたことを思い出しただけだから。だが……いけるか? マジで何が起きるかわからない、流石に悪化することはないと思うが……ん?」
何してんだあの黒トカゲ、特攻? いや、なんか背中から分離して………げ、物理障壁とか使えるのかよあの野郎。
「やってから後悔する方が辛酸苦汁も多少は飲めるもんになるか……」
ようし、やったろーじゃねーか。もう剣で奴の身体を突く事は難しいが、それでも奴の虚を突く事は出来る、筈。
「サイナ、エムル、ウチのメンツに伝言を頼む。内容は───」
……
…
よし、自動的に犯人が割れる事になるがいつかはやろうとしてたんだ、今か後かの違いだろう。
あとは座標まで行くだけだが……おっ、良いところで会ったなアラバくぅん……いや根に持ってるわけじゃないけど以前君に気を取られて人間水切りさせられた過去が忘れられなくてねぇ……すこぉーし手伝ってもらえるかぁい……?
やばい、ディプスロウイルスが……くっ、撲滅! 撲滅!
◇
『───あぁ、白状しよう。してやるとも、我は……いいや、俺は奴に憧れていたさ。至高の龍王、輝ける不滅の黄金、天の覇者たるその姿は俺にとってまさしく究極の到達点だった』
ぽつりと大型犬サイズにまで縮んだノワルリンドが独白する。
『俺が俺を確立したその時から、俺は奴のようになりたかった……』
自身の機能に特化するがために異形と化す傾向の高い色竜の中でも、ノワルリンドが比較的真っ当なドラゴンの形状をしていた理由こそがそれなのだと、黒竜は言葉を続ける。
『だが、力をつけ……俺という存在がいるのだと奴に戦いを挑んで……気づいた』
「何に、ですか?」
『奴はもう、終わっている』
それは妙な話だ、と秋津茜は走りながらも首をかしげる。何をもってして「終わっている」と評したのか。
『奴が生きて来た中で何かがあって、それが「完結」して……その後が今なのだ。奴にとっては今この瞬間すらもがおまけに過ぎんのだ』
かつてこの世界に降り立った者達がいた。それは彼らの生存を賭けた戦いの中で生み出され……そして、負けた。
それは死や戦闘不能という形による敗北ではない。それは己の存在理由の根本を守ることができなかったのだ。全てが終わった時、「人間」の姿はなく……その後継として用意された「人間っぽいもの」だけが遺され……そこでジークヴルムの戦いはどれだけの始源を焼いたところで敗北という結末を迎えたのだ。
神代の敗残兵、それこそが天覇のジークヴルム……否、対始源焼却生体ユニット「ジークヴルム」の正体だ。
これが人間的な情緒を持つものであったのならば、過去を引きずり後悔もしただろう。だがジークヴルムは兵器としての在り方を是とするもの。後悔するよりも先に終末を受け入れてしまった。
『己が憧れてきたものの正体が、腑抜けた抜け殻と知った失望が分かるか? 積み上げた研鑽を、無感情に鼻で笑われた怒りが分かるか!?』
故にこそノワルリンドはジークヴルムを憎んでいた。
腑抜けた心根で龍王と讃えられるなど笑止千万、大きな憧れを抱いていたからこそ、反転した負の感情はノワルリンドに「お前なんかよりも俺の方が龍王としてまだマシだ」と叫ばせたのだ。
『だが……ああも惨めな姿を見せられては、もはや直視すら堪えられん』
自分自身の力で傷つき、声高らかにこれから自分が死ぬことを語り、もう一つの選択肢として自分を殺すことを求める。
ノワルリンドは嘆く、あまりにも哀れではないかと。天を覇するとまで謳われた龍が、己を殺してくれと自分で首を絞めながら嘆願しているのだ。
『ならばせめて介錯してやるのがせめてもの慈悲だ、だが……フン、奴は己の紛い物などに殺されても嬉しくはなかろうよ』
自重気味に笑う黒竜に、秋津茜は返す言葉を見つけられないでいた。
サンラクであれば、気の利いた言葉でも返すことができたかもしれない。だが秋津茜にはそんなスキルはない、であれば……心からの言葉で、己の想いを語るしかないのだ。
「ちょっと前に……私、サンラクさんに聞いてみたことがあったんです」
上を見て走り続ける秋津茜にとって、常に前を向き続けるサンラクは無論リスペクトすべき人物の一人であり……尽きせぬ疑問を抱く相手でもあった。
「何故そんなに頑張れるんですか? 目標もなく頑張れるんですか? ……って」
……
…………
………………
「いやいきなりンなこと言われてもな……ていうか向こう見ずって意味だろそれ……」
「あ、えと、そういうわけじゃないんです!」
「だろうな、そういうヨゴレメンタルはお前にゃ期待してないよ……そうだな、俺にだって目指すべきもの……憧れはあるさ」
「え……誰なんですか?」
サンラクほどの動きを実現できる者が目指す憧れとはなんなのか。プロゲーマー? アスリート? もしやフィクションのキャラクター?
だが、サンラクから返ってきた答えはそれらとは全く異なるものだった。
「未来の自分」
「え……?」
「ゲームってのはな、どれだけユニークだの何だのがあったとしても究極的には絶対に平等なんだよ」
古くはボタンとコントローラーを操作するゲームも、フルダイブVRも。幼稚園児だろうが老人だろうがボタンを押せば雑魚敵を一撃で倒すパンチを繰り出せる。男だろうが女だろうが、レベルを上げて装備を鍛えれば世界を滅ぼす大魔王を倒すことができる。
「ゲーム的に再現可能なモーションは、プレイヤーが実現可能なモーションってことだ」
流石にTASは無理だけどなー、と断りを入れつつもサンラクはなお続ける。
「今できないことが未来永劫できないってこともないだろ。現に俺はリュカオーンの影にリベンジしたし、非常に不本意だがこの刻傷が示す通り勝った……過去の俺が出来なくても未来の俺は出来たんだ」
「だから……未来の自分、ですか?」
「そういうこと。できないから諦めるのか? 違うね、やめたいから諦めるんだ。何事もモチベーションさ、それが残ってるうちは俺は何だって出来る……頑張った先の未来にはいつだって憧れの自分がいるんだよ」
とはいえ人間は常に現在に生きる生命体、と自分で自分のセリフに赤面(見えない)しつつもサンラクはこう締めくくった。
「今の自分にできるのは、せめて過去の自分に誇れるようにいることくらいだろ?」
………………
…………
……
「……きっと、憧れ方に正しい答えはないんです。人それぞれの走り方があって、目指すものがあって……けれど、抱いた想いと、真っ直ぐ駆けてきた道のりは絶対に間違いなんかじゃないんです!」
動機がなんであれ、駆け抜けた道はきっと誇れるはず。それはかつて、ノワルリンドと出会ったばかりの頃に言い放った言葉で。
そして、何故秋津茜がノワルリンドに肩入れするのか……その言葉もまた、あの日と変わりなく。でも少しだけ付け加えて。
「私は……諦めずに頑張ってる人を放っておけないんです。だから……ジークヴルムさんに勝ちましょう、貴方と私で!」
人生はリセットできない、だからバッドエンドを迎えたとしてもそのまま続けるしかない
どれだけのドラマがあったとしても、今そこにいる人々はかつて守りたかった人々とは違うんです。なんか内臓多いし
サンラクはゲームクリアした直後とかだと台詞が臭くなる。それを自覚して勝手に赤面する
そしてそれをこっそり目撃していたヒロインちゃんがすごい顔をする