龍よ、龍よ! 其の四十三
フィンブル逃亡兵、凸二つでええじゃないか。どうせ時代は片面ヴァルナ鰹剣豪なんたからよォーッ!!
───我が黒の半身を謳う
───夢見る先は深淵源、傲慢故に孤高たる黒き神
───玉座は唯一つ、理もまた唯一つ。即ち我が右の半身は黒の理
それは神代よりもなお太古、始まりの世界に在りし神を説く言葉。
その言葉に反応するようにドス黒く染まったサイガ-0の右半身、その背中から物質ならざる力の奔流が翼の形を作って噴出する。
だが、忘れてはならない。
始源に於いて、神は二柱いる。
であれば、次に語るは……
◇
「───我が白の半身を謳う」
砕け散る黄金の龍角を視界に収めながら、異形の騎士は言葉を紡ぐ。
「夢見る先は至高天、強欲故に暴君たる白き神」
悪魔の如き相を見せる右とは真逆、その左半身はある種の神々しさすら見せる白に染まる。
「全なる唯一つ、理もまた唯一つ。即ち我が左の半身は白の理」
右に黒、左に白。
それは誤ち、神骸の配置は右に白、左に黒であるはず。だがそれは間違いではあってもミスではない。今はまだ矮小なる人の身に始源の力は身に余るもの。
奇しくも、「人が扱えるようにデチューンされた超常の力」という神代の思想に極めて近いそれは、新たな姿を得た神魔の剣。
「我が身の左右、二律背反の双理はされど唯一つの我が身が担う」
地に刺した大剣より放たれる力は始源の波動。
正中線で分かたれた左右の黒と白、始源の翼がサイガ-0を包み込むように大剣へと吸い込まれていく。
「我が右方はエレボスの理、我が左方はアイテールの理。双理反転、双つ神と我が身を以て太極を顕す」
大いなる大地。
そこから莫大な「力」を吸い上げた大剣。
白と黒に分かれ輝きを放つ大剣へと逆位相の力が流れ込む。それは根源に限りなく近い力の太極図、莫大量の「白」と「黒」を逆の色で搔き回し、渦とする。
「始源よ顕現れよ、我が身は太極の境界点。遠き現世に理を示す者」
その剣の名は「太極の剣」、無機物であるはずの刃がまるで成長するように展開され、巨大な円を創り出す。
吸い上げ、注ぎ込まれ、渦を巻く力が円の中で圧縮される。
黄金の龍王はその光景を余すことなく目の当たりにして……そして、回避をやめた。
『我が名はジークヴルム。対始源焼却生体ユニット、偉大なるジーク・リンドヴルムの最高傑作! 故に……故に! それから逃げる事は断じて無いっっ!!』
ジークヴルムの口腔に光が灯る。真っ向から立ち向かい、打ち砕くという神代より続く龍王の覚悟を真正面から受け止めて、サイガ-0は僅かに気圧され……
その背を押すように大量の強化魔法が叩きつけられる。僅かに視線を向ければ、そこには恐らく土壇場で近くにいた支援職をありったけかき集めてきたのだろう様子の姉と、ぜぇぜぇと息を切らしながらも仕事を果たした支援職達の姿。
遠く空を見ても、もうあの人の姿はない。レコードを勝ち取った蒼炎と、黒雷と、濃紺の光も既に夜明けの空からは消えてしまっている。
けど、それでも、もはや退くだけの恐怖はどこにもなかった。
その魔法は三つの発動条件を満たすことでその力を解放する。
一つ、短縮及び省略不可の完全詠唱。
二つ、剣と鎧の装備者に別枠で追加される「太極ゲージ」が50:50であること。
三つ、発動者の「侵蝕律」が100以上であること。
これらの条件を満たして初めて、その魔法は使用が解禁される。
そして、それら全てを満たした今……白と黒、二つの摂理を説く二重螺旋が光輝となる。
「我が身を喰い違え、双理の神話……【ゼンド・アヴェスター】!!」
『ブレス・オブ・ベイン!!』
片や魔を滅する渾身の吐息、片や刃円の中心に拳を叩き込む動作を経て放たれる神話。
力と力の激突。始源を焼く黄金の息吹へと、白と黒の螺旋波動が真正面から鍔迫り合う。
───もしも、これがかつてのサイガ-0であったのならば、拮抗は黄金の勝利で終わっていた。
───もしも、ジークヴルムの角が万全の状態であったなら、龍王の息吹は始源の遺産を焼却していただろう。
だがそれは、過去に基づいた仮説に過ぎなかった。
現にジークヴルムの角は弩砲の射手と、黄金の仇討人……そして遥かな昔に旅する兎によって現在四本を喪失している。エネルギーの発生器を失った事でブレスの威力は減衰し、反対に異形の騎士は語られし神話の波動を人の力で更に強めている。
故に弱体化した龍王と、更新された最大のレコード……比べるまでもなかった。
「行、け……っ!!」
黄金が白と黒の螺旋に呑まれ掻き消される。
そして竜巻の如く渦を巻く神話の光が黄金の龍王、その頭部へと直撃、モノクロの爆発を起こしてジークヴルムの巨体を青天井に転倒させた。
「う、く……」
かつては必滅の誓約を負っていた鎧と剣は、今は異なる制約によってその力を喪失する。
くすんだ灰色へと姿を変えた異貌の兜が瞳を閉じ、立つことすらままならぬと膝をつく。
「0、戦えるか?」
「ゲージ、的に……今すぐは、」
「そうか……威力は高いが動けないのが難点だな、リュカオーン相手では実用性が低そうだ」
「姉さん…………」
どうも妹達がリュカオーンのEXシナリオを解放して以来、ますますシャンフロにおける物事を「リュカオーンに対して有効か否か」で考えつつある姉にサイガ-0は苦笑いを浮かべる。
どうもクリアした者から、それも身内から情報を受け取るのが気に入らないのか、最近の姉は妹が何かリュカオーンに関する情報を漏らすとむくれるようになったのでサイガ-0も黙っているが、いよいよこれは何かしらの手段で手助けしないといけないのではないだろうか。
ほんの僅かな弛緩。戦いはまだ終わってこそいないが、「自分ができる全てをやりきった」という達成感がサイガ-0から僅かに警戒を消した。
そして、周囲のプレイヤー達もまた大火力の命中にほんの少しだけ気が緩んだ。
そして、その一瞬の時間は……
龍王に覚悟を決めさせるには十分過ぎた。
『───あぁ、そうか。ここが我が死地であるか』
ぞわり、と。シャングリラ・フロンティアのリアリティをフルに用いた「悪寒」が決戦フェーズに参戦した全プレイヤーを襲う。
『始源をこそ組み伏せ、使役する……考えてもみれば、それこそが偉大なる神代の人々が最初に捨てた「頂」であったか………ならば喜ぶべき事、なのだろう』
凪のように静かな独白、しかし土煙の中から響く声はあらゆるプレイヤーに「黙って聞け」と強いているようで。
『おお親友よ、小さき朋友ヴァイスアッシュよ。やはり我が先に逝くようだ……だが、なればこそ我は最後の試練を課さねばならぬ』
土煙が晴れ、その姿が露わになった時……息を呑んだのは誰だったか。
『人よ、遍く広がりし一号の人よ、この神骸の世界を拓く二号の人よ。これこそがジークヴルムの課す最期の試練である』
もはや神々しいまでの黄金など見る影もない。「内側から」爆ぜた全身は無事な部位の方が少ない程に灼け爛れ、もはやその身体そのものが黄金の炎と化したかのような姿で、声だけが静かに紡がれる。
『これより放つは我が身を糧とし薪とする調和を討つモノ、我が死は避けられぬ定めなれど……止めねばこの地が滅ぶ』
太陽が二つ、否、太陽が如き龍王の全身が隆起し、全身から発せられる黄金の「力」がただ一点……ジークヴルムの眼前へと収束していく。
『もはや我の制御を離れし魔滅の炎……いいのか? 余波が貴様らを焼くぞ』
今はまだ人間サイズの光の球体が一瞬輝き……次の瞬間、そこから爆ぜるように放たれた幾本ものレーザーが無差別に放たれた。
運悪く直撃を受けたプレイヤーが蒸発し、地に着弾し発生した爆発の余波にNPCが吹き飛ばされる。
『ぬ? 貴様……』
と、平坦な感情を通していたジークヴルムの眼光が困惑に揺らぐ。
呟かれた「何故、」の言葉は……
何故か、自分から攻撃を受けに行ったノワルリンドへと向けられていた。
初期案では新必殺は【カリ・ユガ】にしようと思ったけどちょっと新しい設定が生えたので【ゼンド・アヴェスター】にした模様
【アヴェスター】ではないところもちょっと考えあってのこと、というかこれもうジークヴルムのキャラが何の影響受けたかバレバレだな?
効果内容としては
・発動者よりも侵蝕律が低い程ダメージ増、高いとダメージ減
・50ヒットする(2ヒット毎に威力乗算増加、つまり実質25段階強化)
・発動後、太極ゲージが0になり侵蝕律が上がる
太極ゲージは左右から中心へと伸びる「黒ゲージ」と「白ゲージ」があり、カルマ値的に良いことをすると白、悪いことをすると黒が増える
あとどちらかの「始源眷属」を殴っても増える、51:49じゃだめ、半々じゃないと使わせません。最速で貯める方法は見ず知らずの人を襲って半殺しにした後に治療してあげることを繰り返す