龍よ、龍よ! 其の三十七
今私の手元にはPS4がある、聡明な読者諸君なら言わずとも理解できるだろう……GE3まであと少しやね
Animaliaのジョブは現在、メインを呪術師系列最上位職業「陰陽大師」に設定し、サブで新たに選択した修行僧系列上位職業「武僧兵」に就いている。
本来であれば。最上位職業を選択できずメインジョブとして設定した時よりも様々な制約を負うサブジョブに前衛職を置いたところで劇的な強化を見込む事は出来ない。現に一部例外(鍛冶師である事が重要であるイムロンなど)を除いて、ジョブ設定は「メイン戦闘職」が主流である。
だが、それはあくまでも回復職や生産職に限った話である。ことこれが「強化支援職」「弱体支援職」の場合、このセオリーは逆転するケースがある。
生半可なステータスでは中途半端な強さにしかならないが、最上位職業として研鑽を積み続けたのであれば。
「───【飢餓庭園】、【虚脱窒息】」
広範囲に作用するスタミナ奪取デバフとSTRデバフにより、無傷でありながら満身創痍であるかのような動きにまで落ちぶれた小竜達が周囲のプレイヤー達によって瞬く間に討伐されていく。
「【旱魃なる裸身】、【貧者の城壁】、「丹田呼吸」……コォォォォ」
もはや完全後衛職だった頃の面影はなく。最上級のデバッファーとして範囲攻撃で敵を弱体化しつつ、本来の威力以上の効果を出す事ができるようになった拳で敵を殴り伏せ、呼吸スキルによってMPを回復する。
攻撃のついでとしての弱体化ではなく、弱体化のついでとしての攻撃。その差は十数人以上のプレイヤーが共闘する際にこそ際立つ。
「自然環境は動物達の生きる場所! それを崩すモンスターは看過できない! 悪いけど、あんたにはここで沈んでもらうわ!!」
『オロカ!愚か! ここ、この私に、抗オうなどとぉぉぉ!!』
ぐば、と肉塊の大口が開かれ、そこから何か長いものが飛び出す。舌? 否、仮にその役割を兼ねているとしても、それはもっと悍ましい代物だ。
「舌の先に……上半身!?」
『キェェ!!』
「ぐぅう……! 【縫い立ち並ぶ楔】!!」
レベルダウンビルドにより前衛を張れる程に強化されたVITでかろうじて即死は免れるも、蛇のような姿と化したブライレイニェゴの上半身に撥ねられたアニマリアは、苦悶の呻きを零しつつも杖を振るって拘束効果を持つデバフを放つ。
アニマリアの代名詞とも言える【鷲掴む冥府の腕】はまだ使えない。実質的に体力のほぼ全損を代償とするこの魔法は「当たらなければどうということはない」を当たり前のようにこなせるだけの機動力を持たないアニマリアでは戦闘不能に等しいデメリットなのだから。
『グゲゴ!?』
ブライレイニェゴの真上に生成された光の杭が追撃に伸ばされた舌? を地面へと縫い止める。
【鷲掴む冥府の腕】とは異なり発動者のMPと対象のSTRで判定を行うこの呪術は、小型の小竜ならともかくブライレイニェゴ本体が相手では劇的な効果は見込めない。良くて数秒の拘束が出来る程度だ。
『ゲボロロロロ!!』
「う……一々SEが汚い……」
大口がさらに大きく開かれ、赤竜の特徴を持った小竜が追加で生産される。スキルによるMPリジェネでは間に合わない、残りわずかとなったポーションで急速にMPを回復させつつ何度目かもわからないデバフを撒きながらもアニマリアは考える。
(決定打が、足りない……)
あの何か非常に見覚えのある名前の、真っ赤な怪物が放った水晶の爆打のような何もかもを叩き壊すような火力がないのだ。
それはジークヴルムに人員を持っていかれているのもあるが、既に半日以上続いている大規模戦闘でありとあらゆる資源が尽きかけているのも原因の一つだ。
(追い詰めては、いる。ただ攻勢を仕掛けるだけの余力がない、ブライレイニェゴは戦力比が有利になれば一気に覆す事ができる)
幸いにも、戦い続けた果てに疲労で動けなくなったところを小竜によって倒されるのはB.I.G.的にはプラス判定らしいのが救いといえば救いだが、だとしても誰も彼もが徹夜で戦っているわけではない。
(ウチのタンク衆もそろそろ装備が限界、修理はできるけど……今彼らに抜けられると戦線が崩壊しかねない)
既に戦力比の天秤が傾きつつある中で(どちらが劣勢かは言わずもがな)大量の小竜をこの場に留めているのはSF-Zooのタンク達の貢献があるからに他ならない。
「高機動モード(脚、腰装備を外して若干速くなった状態)」で戦場を駆け、羊飼いか何かというレベルで小竜を引きつけていく五人のプレイヤーがいなければ、もっと酷いレベルで小竜達が拡散していた事だろう。
「園長ーっ! そろそろつれぇっス!!」
「ていうか巨人型の圧力がやばーい!」
「上も脱ぐ?」
「それ捕まったら即死するだろー!」
「はいヘイトパーっス!」
小竜の一体を締め上げながら、アニマリアは決断を迫られる。プレイヤー全体の指揮官ではないにしても、彼女はSF-Zooの園長なのだ。指示する権利と責任を持つ者であるからして。
その時だった。
「やぁ、やぁ、アニマリアちゃん? P-BASをご利用する気はないかい?」
「なにそれ?」
「ペンシルゴン・バトルアシストサービス、さっきちょっとした交渉が終わってねー……イイ火力が手に入って、さ? 今ならお安くしとくよ?」
「どうもぉ……イイ火力でぇす……」
にへぇ、とペンシルゴンの陰から現れた少女をアニマリアは知っている。金を要求するとはいえ、本来はリアル換算でも長い時間がかかる大陸間移動を可能とするプレイヤーだ。なにせ自分も利用した事があるのだから。
「ディープスローターだっけ? スローターだなんて気にくわない名前だけれど……転移以外に攻撃魔法でも何か持ってたの?」
「何も殴るだけが攻撃じゃないのさぁ……ふふふ、彼が全部曝け出したなら、私も隠し通してる場合じゃないからねぇ……」
ひゅるん、と虚空から取り出される一本の長杖。
それは欲望に寄り添うもの、使い手の尽きせぬ欲を実現させるモノ。
「実現杖ザ・デザイア〜」
「実現杖……ってまさかそれ、空振り事件の……!!」
「うへへへ、【魔女の教会】に人気のないところに連れ込まれたりしちゃうかもねぇ……」
プレイヤーによって紡がれてきたシャンフロの歴史においても一等闇が深いとされる「実現杖空振り事件」。その犯人と消えた現物が目の前にいるという事実に目を丸くするアニマリアであったが、成る程自信を持つだけの根拠はあるらしいとひとまず納得して思考を切り替える。
「上等、何分必要?」
「五……いや、三分は欲しいかなぁ。あぁそうだ、これは関係ない話だけどサンラク君はエルドランザ……の皮を被ったレイドモンスター? 相手に余裕で時間稼ぎしてくれたよぉ……」
「それを聞いちゃあ黙ってられないね」
「おやカッツォ君」
「カッツォ! なんて勇気ある名前なんだ!!」
「え、何が……?」
それっぽく登場したはいいが、何故かよくわからない理由で尊敬の眼差しを向けられたオイカッツォは素のリアクションで首を傾げるが、何故かアージェンアウルまでもが目を逸らしていた。
「まぁいいや……三分足止めすればいいんでしょ? それで倒せるわけ?」
「倒せるかどうかは保証できないけど、大ダメージは保証するよぉ……」
「ならば我が剣に誓って彼奴の動きを封じてみせよう、実現杖のディープスローターよ」
「よろしくお願いするねぇ……」
一瞬、何か一瞬だけ違和感がアニマリアの脳裏をよぎったが、巨人族まで戦ってくれるというのであるならば決着の時はここしかないと声を張り上げる。
「SF-Zoo各員! 三分時間を稼ぐわよ! 後先考えずぶっ放しなさい!!」
「園長! アレやってもいいですかぁ!?」
「許可する!!」
クラン【SF-Zoo】の真価を、今。
あれれ〜? 初めてプレイヤー達が遭遇したはずの巨人族となんで仲がいいんだろうね〜?
カッツォの意味は……ね?
現アニマリアは言うなれば「壁を砕く拳」ではなく「壁を砕けるくらい柔らかくしてから砕く拳」というスタイル