龍よ、龍よ! 其の三十六
コッコロちゃんの為にグリム鬼周回する勇気と時間を俺にくれ、あと琴くれ(前時代的背水風マグナマン心の叫び)
新大陸に到達したプレイヤーは実力の多少こそあれど、皆一様に高いレベルを持つ。
狂気じみた素材周回の果てに辿り着きし現時点で全プレイヤー中、最も高いレベル145。
抑圧された首輪をつけながら想像を絶する強敵との戦いを繰り返した事で至った次点、レベル139。
運営のみが知る「レベルランキング」が先程、変動した。
「急ぎましょう……!」
「あぁそうだね、私としてもヴォーパル魂の張り所を逃すのは惜しい……いやホント、もっと頑張らないとなぁ……」
積み重ね研ぎ澄ました廃人行軍の結晶、ここ最近を協力者たる兎の特訓に費やしたが故に加算された経験値を抱えながら、竜災の最中にあってあえて「離脱」していた騎士。
訪れていた場所は開拓者の姿なき森人族の里、ようやっと気兼ねなくレベル上限の解放を成し遂げたサイガ-0……現在、レベル141。
「……あの」
「はいはい、武器の修ひいっ!?」
「……あ、違います。これ、そういう装備……です」
新大陸調査船の出口付近に待機し、大規模戦闘の中で損耗した武器の修理に来るプレイヤーを待っていた生産職のプレイヤーがサイガ-0の声に振り返り……悲鳴をあげる。
その理由に心当たりのあるサイガ-0は、思わずと言った様子で戦闘態勢に入った鍛治師のプレイヤーへ自身の無害をアピールする。
「サ、サイガ……あんた、【黒剣】の?」
「あ……いえ、今は【旅狼】に。黒剣の方は……姉です」
「そ、そうか……え? それ改宗じゃなくて?」
「はい、双理の鎧という、防具……です」
それまでの聖騎士然とした姿はどこへやら、レベルキャップの解放と同時に何らかの条件を満たしたのか姿を変えた双貌の鎧改め「双理の鎧」は、まるで鎧の姿をした肉の塊のような異形の姿と化していた。
材質そのものは硬く、鎧としての役割に支障はない。だがその表面は明らかに死した素材ではありえない脈を打ち、かつてはまだ兜としての形状を保っていた頭部は、今や肉肉しい「眼球」と「口腔」すらをも備えていた。
「………ホントに防具?」
「……脱げますから」
「ねちょねちょしてる……」
「流石に、システム側から感触は……軽減、されてますので」
でなければ如何に有用と言えど流石のサイガ-0も装備などしない。感触的には人肌程のぬるさの湿布を顔に貼り付けているような感触の兜を脱ぐと、兜の「貌」は眠るように目を閉じ、動かなくなる。
ここまでやってようやく納得したのか、若干距離を取りつつも生産職のプレイヤーは警戒を解いた。
「お聞きしたいことが……今、状況はどうなって…いますか?」
「え? えーと……」
「ふむ、件の彼が派手に暴れているようだよ。それと慈愛の聖女イリステラが前線に出た、とも聞いている……まぁ、今最も重要なのはジークヴルムが五体の分身を作り出したという点だろう」
「あ……ライブラリの、」
生産職のプレイヤーに変わり、年季と叡智の積み重ねで深みを増した老年男性の声がサイガ-0へと投げかけられる。
「君達は……うむ、非常に興味深いな、本当に。その鎧について後日インタビューしても?」
「あ……ええと、はい」
「是非ともサンラク君にも付き合ってもらいたいものだがね……あぁ、彼ならなにやら面白い仕掛け武器を携えて最前線にいるそうだね」
「!!」
キョージュからすれば話題を盛り上げるための情報の一つに過ぎないそれは、サイガ-0にとっては数百の情報に勝る最重要であった。
「失礼します……行かなくては、ならないので」
「そうか……ふむ、まぁ長話できるような状況でもなし、仕方あるまい」
現実でも特定学問の権威であるらしい見た目詐欺の少女に軽く頭を下げ、マントに擬態したディアレを背負ったサイガ-0は迷いなき足取りで走り出す。
どれだけ切れ味鋭くなったところで、振るわなければ意味がないのだから。
◇◇
サンラクがジークヴルムと激突し、ペンシルゴンがディープスローターと相対する中、もう一人の初期メンバー……オイカッツォはと言えば。
「裏返るったってさぁ……そんな物理的に裏返るとは思わないでしょ!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよケッツォ! あのホワイト、レッドの死体を喰ってからヤバくなってる!!」
ジークヴルムの輝きで霞んでいたが、絶体絶命に追い詰められたブライレイニェゴの狂乱の最前線でオイカッツォは苦々しげに呻く。
ポーションによって体力が回復しているのを確かめつつ、見つめる先には白竜ブライレイニェゴ。だがその姿は前線拠点に現れた直後とは全く別物と言っていい、醜い姿へと変貌していた。
『げろろろろろ! 力! 力! チカラァァァ!!』
「爬虫類じゃなくて両生類だったとは……」
蟻のような異様に肥大化した腹部を持つ竜、ブライレイニェゴ。だが死に瀕してその腹部が突如として上下に「裂けた」のだ。
それはさながら巨大な口のような開きっぷりであり、誰もがあの巨大な顎で攻撃するものだと思っていた。
だが違った。いや、「捕食する」という点においては間違ってはいなかった、だがブライレイニェゴが咀嚼したのは他でもない、自分自身であったのだから。
『表裏再誕』。そんな技名と共に例えるならがま口財布の外と内側を裏返したような、開ききったホッチキスを閉じるような。
明らかに生物学的に無理のある「裏返り」を経て、ブライレイニェゴの上半身が巨大な顎に喰われたのだ。
そうして、十数秒ほどの咀嚼を経て、口の「内側」から太い筋繊維によって形作られた前脚後脚をはみ出し地面を這い歩くおぞましい白色の肉塊が明確な殺意をもってプレイヤー達へと襲いかかった。
「ねーえナディ! 貴女達ブライレイニェゴと長く戦っているんでしょう!? 何か知らないの!!」
「妙な名で呼ぶな! 武の不足を晒すようで癪ではあるが、ああも追い詰められたブライレイニェゴを見るのは初めてだ、参考になるような事は言えん!」
「あらそう……だそうよケッツォ」
「名前定着させんなー! ああもう、ジークヴルムの方に戦力が傾き過ぎてる! 純粋に物量で負けてるよこれ!」
そう、変貌したブライレイニェゴは小竜の生産能力を失ったわけではない。むしろその逆、アナウンスによって撃破が確定した事で「そういうものなのだろう」と放置されていた赤竜ドゥーレッドハウルの亡骸。
ごく僅かな……それこそ、決戦フェーズ以前に「色竜の弱点が判明するまで戦った者」しか知らないドラゴン達の生命を司る根本。「核」の無傷なままに放置されていた赤竜の亡骸を貪り喰らったブライレイニェゴは、シナリオ上の撃破ではない、文字通り赤竜ドゥーレッドハウルの命を奪うと同時にその性質をも奪い取っていた。
「赤竜の噴射炎の能力を持った小竜……やっぱ人類以外に火を持たせちゃダメだね! よーく分かった!!」
チリチリと紙一重のタイミングで顔の横を焼く炎に顔を顰めながらオイカッツォはエフェクトを纏わせた拳を振り抜く。
吹き飛んだ人型小竜がエフェクトに消えたのを確認しつつ、インベントリアに溜め込んでいた「破壊用」武器が底をついている事に思わず舌を打つ。
「アージェン、そっちは?」
「とっくに品切れ、船に戻って補充して来たけどそっちもネ。マネーがないってこんなに大変なのね」
「しれっとブルジョワアピールやめなよ……サンラク辺りが聞いたらキレるよ?」
「殴り合いになるなら大歓迎! でもまずは今からどうするのかを考えないと……」
ジークヴルムを含めたドラゴンの中でも唯一の物量を力とするブライレイニェゴと戦えば、それだけ武器を振るう回数も増える。
そして基本的に雑魚敵との連戦を続ける白竜の戦場は不人気だ。ブライレイニェゴ来襲から今に至るまで戦い続ける者もいるにはいるが、ドゥーレッドハウルが撃破されてなお浮いた人員が殆どジークヴルムへと流れたのも戦況の逆転に拍車をかけていた。
「ペンシルゴンめ……どうするのさこれ、程よく苦戦どころか防衛線が食いちぎられそうなんだけど……?」
だが、オイカッツォはある一点において失念していることがあった。
始まりから今に至るまで、戦い続けた者がいるとして。
その者が必ずしも手の内の全てを使い切っているとは限らないのだと。
◇◇◇
「……使い切るなら、今かしら?」
かつての姿からは想像もつかない程の荒々しい立ち姿の女がポツリと呟く。
その女、名をAnimaliaという。
かつてはシャンフロでも随一のデバッファーとしてその名を轟かせていたのは過去の話。今の彼女はそう、
「ブライレイニェゴ、あなたは自然を、動物を破壊するもの……であれば、この拳で打ち砕くのみ!!」
何をどう拗らせたのか、自前でデバフして自前で殴り倒す前衛呪術師(拳)と化していた。
長かった、番外編書くの面倒だからいっそ本編に出しちまえとプロットに組み込んだのが大体竜よ、竜よ! を書き始めた頃だったから……あまりに遠すぎた。一応この人、もう少し先で出番ありますからね
あとはゴールデンクオンだ……
・双理の鎧
レベルキャップを解放したことで条件を達成し、新たな姿に変貌した双貌の鎧。
レベルキャップを解放するという事が世界観的にどういう事なのか、がミソ。すでに描写はしてるんだなこれが
サイガ-0はまだ知らないが、兜を外した状態で十分くらい放置してると装備してないのに瞬きしたりする。
え? 神魔の剣君? 無論彼も進化してますよ