龍よ、龍よ! 其の三十三
今日はもう更新はないだろうと思わせてからの不意打ち更新。流石に明日は許せプリーズ
ここで一つ、魔法について解説したいと思う。
シャングリラ・フロンティアにおいて魔法というものは多く存在するが、その中でもある種の究極系として存在する魔法群がある。
実現杖ザ・デザイアーのような裏技ではない、特定分野に属する魔法を極めた者のみが習得可能なその魔法を……「門魔法」と言う。
魔法名に「門」を含む魔法は幾つか存在するが、それらとは明確に異なるその魔法は驚く程に短い詠唱と「開門」のキーワードをトリガーとして発動される。
実のところを言えば、ジョゼットはタンクはタンクでもSF-Zooのタンク衆のような物理的な防御力を売りとした壁職ではない。
その本質は魔法による防御で前線を張るマギ・タンクとでも言うべき役割なのだ。
そして慈愛の聖女イリステラを守る盾として、時に巡礼の旅を襲う魔物から、時に不届きなNPCから聖女を守るために研鑽し続けた防御魔法はサービス開始から一年経ったある日、遂にその究極系に至ったのだ。
◆
「───我が血潮は熱く燃える。」
たったそれだけ、驚く程に短い詠唱だが、発現した現象は劇的であった。
「うおっ」
思わず声が出る。まるで轍のように二筋の、炎によって出来たラインがジョゼットの左右から真っ直ぐジークヴルムとの間をつなぐように走る。
ただの炎じゃない、ただの一秒も同じ形をとどめていられない熱量の揺らめきが揺らぎながらも形を得て立ち上がる。
それはどこか見覚えのある兜をかぶっているように見える、それはどこか見覚えのある丸い盾を持っているように見える。具体的にはいつだったか装備を新調した時に鏡で見た気がする。
「開門」
陽炎の戦士達が剣を、槍を、盾を掲げて炎に溶ける。炎の勢いが最高潮に達し、津波の如く噴き上がった炎の回廊から幾百もの火炎で出来た武器が道を塞ぐように飛び出す。
それは槍衾、それは剣の群れ、それは並び立つ盾。それは正しく……敵の行く手を阻むべく開かれた熱き戦士達の門。
『───「灼滅息吹」!!』
「───【熱血門】!!」
朱色の息吹と、紅蓮の門が激突する。炎の封鎖網が吹き散らされ砕かれる程に、炎の中から新たな武器が飛び出し破壊のエネルギーへと喰らい付く。
右手を前へ突き出し、全力で踏ん張るジョゼットの頬を汗が伝うのが見えた。ゲームといえどそこはシャンフロ、魔法発動してハイおしまいとはいかないようだ。
「いけそう?」
「無論!」
ロールプレイによる凛々しい声ではないジョゼットの「地」の声、だが返ってきた答えは揺るぎなく。
「ユニークモンスターなにするものぞ……すぅぅ………」
大きく息を吸い込むジョゼット、僅かな間を経て裂帛の気合と共にジョゼットが一歩前へと踏み出した!!
「聖女ちゃんサイコーー!!」
「掛け声それで良いのか!?」
本人的には良いらしい。
炎の勢いがジークヴルムのブレスを上回る。先にその勢いを弱めたジークヴルムとは真逆、まさに一気呵成とばかりに膨れ上がった炎が指向性をもって爆ぜ迸る。
「この魔法は……カウンター魔法なのよ!!」
『クハ、ぐぁあ!!』
大地を削るが如く焼き払い、渦巻き疾る炎はまさしく盾を構えて前へ突貫するシールドチャージのようで。それを前にしてなお、逃げるでもなく笑みすら浮かべて受け止めた黄金の巨体が勢いに負けて僅かに浮き上がり……これまでずっと揺るぎなかったジークヴルムの身体が初めてぶっ飛ばされた。
「凄い……」
「ど、どうだ……うぅ、だるぅい……」
ぐしゃあ、と力なく潰れるようにへたり込んだジョゼット。だが成し遂げた事を考えればノーリスクってわけでもないのだろう。その証拠にジョゼットの体力ゲージは僅か数ミリを残して削れきっているのが分かる。
「ご、ごめーん……流石に、きっついわ……しばらくこれ回復しないから、休む……」
デメリットか? ちょっと前の俺が陥ったクソだる状態と似たようなデメリットを抱えている可能性は高い。だが、ジークヴルムをぶっ飛ばしたという極大のインパクトは、プレイヤー達の迷いを吹っ切るだけの力があった。
「グッジョブ! こりゃあ俺も活躍しなきゃあ立つ瀬がないか?」
「がんばえー」
「雑だなオイ……まぁいいや、サイナ! エムルを見つけて連れてきてくれ、こっからは総力戦だ……血の一滴まで使い切ってジークヴルムに一泡吹かせてやろうぜ!」
「了解:行動開始」
ヤシロバードの方もそろそろ我慢の限界だろう、とびっきりの英雄譚を見せてやろうぜ!!
◇
「うー……」
【熱血門】の副作用により行動不能状態になったジョゼットは小さく唸りながらも駆けていくサンラクを、飛んでいくノワルリンドを見送る。
「まぁ、収支はプラス、かな……」
秋津茜なるプレイヤー……少なくともジョゼットの観察眼がまごう事なき女の子である事を見抜いた少女からの混じりっ気のない感謝の言葉は、数十分ほどの消去不可能なデメリットを負うだけの価値があった。
「門」魔法はそうやすやすと扱えるものではない。【熱血門】であれば発動の代償として使い手の熱が奪われる、システム的に言えば発動の代償として消費したステータスが発動時間に比例して回復せず、さらには発動の供物として捧げた「経験値」の赤字をゼロにするまでレベルアップする事もない。
「どうにかしてレベリングの時間を作らなくちゃなー……」
と、その時だった。
「お疲れ様、ジョゼット」
「え、昇天した?」
ふわり、と横たわるジョゼットの顔が何か柔らかなものの上に載せられる。まさか、と恐る恐る見上げてみれば……そこには信じられないほど近くにあるイリステラの顔。
「貴女の決意を私は否定できない……熱き炎血の門を開いた代償を消すことはできないけれど、せめてこれくらいは、ね?」
「おっほ…………黒字も黒字ィ……」
ジョゼットは自身の婚期的なものが遠のいたのを自覚しつつ、これだから非実在性美少女は最高だぜと至福のひと時を過ごすのだった───
◆
「ようジークヴルム、ノッてるか?」
『ほう……狼傷の……否、その威風、成る程「本気」というわけか?』
「バカ言え、俺はいつだって本気さ。強いて言うなら全力だ」
俺は手を抜くことに手を抜かないし、散財するなら一桁になるまで削っていくのが好きなんだ。あの時の一太刀だってあわよくばてめーの顔面を真っ二つにするべく成分結晶を全てつぎ込んでたしな……空振ったけどな!!
「仕切り直しにしちゃあ随分と時間をかけて悪かったな、今ある全部でぶっ飛ばしてやるよ」
『ほう……その神代の武器で、か?』
「百足式8-0.5……誰が作ったのか、心当たりはあるんじゃねーか?」
あの常在戦場を文字通りに再現しやがったクソステことシグモニア前線渓谷、すり鉢ドーナツの形をした窪みの中で戦い続けていた二種の超巨大モンスターの片割れたるはトレイノル・センチピード。
何度も何度ももう片方の要塞蜘蛛と戦わせていたからか、俺は偶然にも奴ら双方の親玉の激突に居合わせることができた。
そしてこの、百足式8-0.5とかいうあまりに特徴的なネーミングのこの武器はトレイノル・センチピードの牝個体、電車程のサイズがある牡個体であるグスタフと比較してなお数倍はあろう超超巨大百足トレイノル・センチピード・ドーラの素材が用いられている!!
「直接手を出す無粋こそないが、背中は押してもらった……だったら、代理としてやる事やらなきゃ締まりがつかねぇ!!」
『ならばどうする?』
「俺は軽く叩かれただけでも死ぬけどよ。心に炎が残ってる限り、何度だって立ち上がる。お前を倒すまで不滅になるのさ、なぁ? 天覇のジークヴルム……死ぬ気でかかって来い、俺は最初からそのつもりだ!」
『ハハハ、クハハハハハハハハ!! よくぞその「名」をほざいた! ならば貴様の不滅とやら、我が全身全霊を以って燼滅してくれようぞ!! 見るがいい、天覇たる我が「龍王機関」を!!!』
奴の心にも火を点けろ、温存なんて馬鹿馬鹿しい……灰になるまで殴りあおうぜ!!
ちなみにあの百なのか千なのか7.5なのか分かりづらい甦機装を直視したビィラックはしばらく寝込んだ
恍惚で