龍よ、龍よ! 其の三十一
あの、今年中に……あの、大丈夫ですか俺?(自問自答)
◆
「ちなみにだけど、割とノリで付いて来てるんだけどジークヴルム相手に勝算とかあるの?」
「まぁな……個人的なツテっつーか……まぁ、有識者から話を聞いてあってな」
「ほう?」
ヴァッシュの名前は出さないが、情報の共有は必要だろう。まぁこの情報は極論無くてもどうにかなるんだが……
「ジークヴルムは炉心……コアみたいなのを中核として魔力を殺す魔力? みたいなもので全身が出来た人造のドラゴンだ。だからつまるところ倒せないタイプの敵だ」
「……それが明らかになればジークヴルムを倒そうとする者は激減する、だから黙っていたのか?」
「ちげーよ話はまだ終わってない。有識者曰くジークヴルムを活動停止させる方法は二つ、一つは活動できなくなるまで魔力を使わせる……要するにガス欠。で、もう一つが「捨て身の」ジークヴルムの逆鱗を穿つこと」
「捨て身……要するに、最終形態的な?」
「多分な、そしてジークヴルムをその気にさせる方法はただ一つ」
そしてその答えは最初から……ああそうだ、この前線拠点にジークヴルムが現れたその瞬間から既に黄金の重力圏として展開されていた。
「ロールプレイだ、英雄的な行動で奴のテンションを上げること……それがこのユニークの攻略法だ」
「それは、また……」
簡単なようで難しい、だが決して不可能ではない。そして、この条件を知った上で現状を鑑みると妙に怪しい動きをしている奴が見えて来るというもの。
「どうか、なされましたか?」
「いいや? 何でもないですとも」
聖盾輝士団は筋金入りのロールプレイヤー達だ。そしてEXシナリオの最中であっても聖女ちゃんを守るために動かない連中がEXシナリオに関われば……少なくともジョゼットという「最大防御」が戦闘に参加するだけでもB.I.G.がマイナス判定になることはないだろう。
AI側がそれを判断して動いた? そんなこと出来るのか? いや、出来そうなんだよなぁ……
薄々は感づいているのか、ジョゼットは何も言わない。ロールプレイを続ける以上、聖女ちゃんから離れるつもりもないのだろう。
聖女ちゃんは戦場の最中にあって静かな微笑みをたたえながら、その細い腕を伸ばして指でジークヴルムを指し示す。
「私は、龍王に問いたいことがあって来ましたが……かの黒竜に問いたいことが出来てしまいました。ジョゼット、その間私をジークヴルムから守ってくださいますか?」
「ご命令とあらば」
「では、そのように。サンラク様も、ヤシロバード様も……サイナ様も、よろしいですか?」
「元より奴を張り倒しに行くんだ、やる事に変わりはない」
「ノリで付いて来たけど、ウチの指針もジークヴルム狙いだからね……ごほん、承りました聖女様」
「任務遂行内容に変更はありません」
重要NPCからの確認に、それぞれがそれぞれの答えを返す。
即興のパーティではあるが、野良パなんざオンゲじゃ当たり前の要素だ。同じ方向さえ見ているのならなんとでもなるというもの。
「よっしゃ、カチコ」
「あ、お待ちをサンラク様」
「ミッ!?」
ここで勢い殺します? ここはもう狂った戦士のように奇声をあげながら突撃する場面では? んなクソシーンは全カットだよ馬鹿。
「いえ、以前私の願いを叶えてくださったお礼がまだでしたから……戦いに身を投じる貴方に一助を、と」
「と、いいますと?」
「その傷は夜の帝王が強き想いと共に刻んだもの……私如きの祈りが打ち勝つはずもありませんが……それでも、僅かなひと時だけその荒ぶる牙の残影を鎮めることは出来ますから」
ぴと、と俺の胴に走る刺青のような傷跡のような荒々しい刻傷に聖女ちゃんの指が触れる。後方でジョゼットが般若のような顔をしてるのでマジ勘弁してほしいというか今から命乞いコマンドを構築する必要が出て来たというか、知ってか知らずか聖女ちゃんは真剣な顔で俺の刻傷を凝視する。
「───己が証明を隠すことを許さぬ夜襲の狼王、どうか今ひとときだけ、かの戦士に鎧を纏う赦しを……【────】」
その時、聖女ちゃんがなんと言ったのかは至近距離にいる俺ですら聞き取ることが出来なかった。だが何が起きたのかは分かる。
「うお、」
俺に触れる聖女ちゃんの指先から、何やら光が俺の身体を這い出す。視覚的にアレな絵面だが触手的なネチョい感じはなく、光が収まるとそこには鎖に花が絡まったような不可思議な紋様がリュカオーンの刻傷の上を覆うように広がっていた。
「今ひととき、この竜災が終わるまでの僅かな時間ではありますが、この傷が齎す影響を封じてあります。ですが同時に、この傷による加護もまた封じざるを得ませんでしたが……」
「いいや、いいや、エクセレントだ。すごく素晴らしい、お布施はどこに支払えばいい?」
誰だよさっきまで得体の知れない強キャラ扱いしてたやつは? 俺が殴ってやる。だがあいにくタイムマシンは持ち合わせていないのでこの拳は下ろすとしよう。
刻傷の一時無効化だと? 控えめに言って悲願だぞそれは。なんか見た目がフローラルな感じになったことでより倒錯的というか控えめに言って変態のそれなのだが最早地肌がどうなっていようが今この瞬間の俺には何の痛痒ももたらさない。
「なんだ、この、ただ防具を砕く必要なく着込めるだけなのに、このゲームクリアした感じは……!!」
なんだかよくわからないけどテンション上がって来た! これは俺も一張羅を引っ張り出すしかないよなぁ!?
幾度とない遭遇、幾度とない敗北、そして勝利。俺が「黄金の天秤」商会に大量の蠍素材を卸す事が出来たのは何も独力というわけではないのだ。
蠍はマブダチだがその中でも特に仲のいい……具体的に言うとどっちも好戦的だから見つけ次第ぶっ倒しに行っていた同胞喰らいの蠍。ジークヴルム、奴がユニークモンスターというただ一つの黄金であるならばこれは月の光を受けて輝く類い稀な黄金。
その素材をふんだんに用い、いつか着る日が来ることを夢見てインベントリアで眠り続けていた防具───!!
「うわ、なんかすごいギラッギラしてる」
「これぞ金晶独蠍の素材から作られし「金晶戦衣」シリーズ!」
ビィラック曰く「何故か」やけにすんなりと依頼を受けてくれたキャッツェリアの宝石匠による鉱物を布と織る秘奥によって作られた黄金の布を基本とした、こう色々と悪いこと考えまくった素材をふんだんに用いた黒と金の……まぁ、服です。
いやだって仕方ないじゃん! ビィラックの奴に「極論硬さとかいらないんで兎にも角にも動きやすくしてね!」って言ったら勝手にキレだしてマジでただの長袖とジーンズみたいな防具作ったんだぞあいつ!!
いや、要所要所にプロテクター的な装甲があったりはするけども! 全体的なシルエットは完全に「ちょっと肌寒くなった休日の過ごし方」とかそんな感じだぞ!!
「服にしか見えないんだけど……」
「言っとくけど装備VIT下手な重鎧よりも高いからな」
「なんの素材を使っているんだ?」
「金晶独蠍のレア素材とレア鉱石諸々、使った素材を売っぱらうだけで二億くらい行くんじゃね?」
「におく」
「っはぁー……これがそんなに……」
流石にこれを使い潰す覚悟が決まらなかったので箪笥の奥にしまい込んでいたが……刻傷に怯えなくていいなら晴れ着として使うってもんさ。
「とりあえず瑠璃天の星外套を付けとけばなんかこう、戦士っぽくない?」
「……頑張れば見えなくも?」
「まぁ、顔がそれだし一般人には見えないだろう」
「よーっし、じゃあ改めてカチコミかましてこーぜ!!」
ぐぽーん、と八つの目を模した鉄仮面を輝かせ、いざ尋常に殴り込みで候。
……これ露出魔から不審者に変わっただけでは?
聖女ちゃんはしれっとやったけど何をしたかは次で分かります