龍よ、龍よ! 其の二十八
時間は少し巻き戻る。
◆
「もしかして聖女様、虫に刺されやすいタイプだったりします?」
「はい……?」
そうでないとするなら、白竜とジョゼットの間に何らかの共通点があるとしか思えない。こう、聖女ちゃんにオートで誘引される的な……
「くそッ、なんか妙に狙われてる気がする!!」
俺が、ではない。聖女ちゃんが、だ。クエスト補正か? それとも刻傷のとばっちり? 現に小竜共は明らかに聖女ちゃんを集中狙いしている節がある。
場所が場所なので包囲されるような事はないが、それにしたって五メートル進む頃には十体くらい襲いかかってくるのだ。クソエンカかよ。
「サイナ、最優先は聖女ちゃ……様の安全、それを加味した上で撃滅しろ」
「了解:現時点で使用可能な武装を使用し、対象を警護します」
時間経過によるものなのか、プレイヤーによって大量に倒され続けたからなのか、ブライレイニェゴが生み出し続ける小竜はいつしか蟻型の殆どが淘汰され、今や主戦力は初期のそれと比べても明らかに動きが洗練された人型小竜だ。
操作に慣れないプレイヤーがやったらめったらに動いているような挙動ではあるが、パリィまでやってくるんだからタチが悪い。
「聖女ちゃ様! 歩みを止めずに前へ! この程度余裕っすわ余裕!!」
「肯定:当機の現時点におけるスペックにおいて、護衛対象に何らかの干渉が及ぶ可能性は5%未満です」
「それは頼もしい事ですね、鋼の龍鎧も凄まじいですが……サンラク様、そちらの剣は……?」
「これ? これは……はいそこ見えてんだよオラァ!!」
ブン、と紅い軌跡が宙に描かれ、軌跡に沿ったラインが攻撃エフェクトと化して夜の空気を切り裂いて飛ぶ。
シューティングゲーでもやっているのかと思いたくもなるが、見事命中した「攻撃」が背後へと回り込もうとしていた人型小竜の首に深い一撃を刻み込んだ。
「銘を「境光の宝剣」、とあるモンスターの素材で作られた……今は夜光刃モードだな」
個人的に刀って武器を積極的には使わないんだよなぁ。幕末みたいな一撃決着がザラのゲームなら気にならないんだが、こういう何度も攻撃しなけりゃならないゲームだとこの片刃って構造が絶妙になー……峰打ちを狙わない限り、攻撃する度に刃の向きを変えなきゃいけないし。
小太刀とかならまだしも、両手で持てるサイズとなると傑剣への憧刃みたいな両刃の剣の方がガンガン取り回せる。
無論、片刃の剣にも利点は多いが俺のステータスだと活かしきれないってのも、刀を敬遠してるわけではないが積極的に求めてもいなかった理由の一つだ。
「ふむふむ。で、どんな能力があるんだ? 今さっき斬撃を飛ばしてたのは見たが」
「基本的にこいつは二つの形態があって、互いに月光と日光をどれだけ浴びせたかで能力が変動する……って、質問したの聖女ちゃんじゃなくてお前かよイムロン」
その男、鍛冶師だが同時に勇者でもある。そもそも聖槌の勇者であるからして戦闘力を兼ね備えた生産職と言っていい。なので後方で装備面から支援するのではなく前線に出張っていてもそう違和感はないが……
「分かってる、私と張り合おうっていうヴォーパルバニーの鍛冶師の作品でしょう? ふふふ……」
速攻でロールプレイ崩れてるのはもはや様式美か何かなんだろうか。
「あー……うん、そだね。あぁ、そういや勇輝の晶剣使ってみたけどいい感じだった、ちっとSTRの参照がキツかったけどそこらへんは対応できるし」
「それはどうも、で? それだけじゃないんでしょう?」
「そうだな……むっ、巨人型……!!」
てめぇらもこっちに来るのか、巨体故に被弾率も高く周囲のプレイヤーが削ってくれているとはいえ今の俺が一撃で倒すのはホネか。
赤い片刃の姿をした境光の宝剣を振り抜く度に斬撃が飛ぶ。だが敵は巨人型だけではない、イムロンも流れで戦っているとはいえ人型小竜の相手もしなければならない。
そして……
「げっ、折れた!!」
パキン、と水晶らしい音を立ててあっさりと境光の宝剣が半ばからへし折れる。とりあえず対応していた人型小竜を蹴り倒してバックステップ、それを見ていたイムロンが怪訝そうにつぶやく。
「武器破損……いや、グリップだけ残ってる? まさか……」
「あ? そのまさかだよ……再展開!!」
境光の宝剣は通常の武器とは少々異なる耐久減少が適用されている。
基本的にこの剣はどれだけ雑に使おうが、刀身がへし折れようが耐久値が減少することはない。では傑剣への憧刃のように耐久が減らない無敵武器なのかといえばそうではない。
「まさか、耐久値をゲージのように使用して……!?」
「ご明察!!」
僅かに残っていた折れた刀身が砕け散り、まるで氷柱が形成されるプロセスを倍速にしているかのように新たな真紅の刃が形作られていく。
「さらに今の境光の宝剣は、月光を浴びせる事で……耐久値を回復する!!」
そんな劇的な回復量ではないし、あくまでもついでの要素と言ったところだが………ビィラックめ、またしてもクソピーキーなものを作りやがったな。
「ジャイアントキリングだオラァァ!!」
展開した刃は大元の耐久値とは別の耐久値を持っており、それを消費する事で固有のアクションを実行する。今の場合は飛翔斬撃だな。今日の……いやもう昨日か、昨日ここに来る前にラビッツで日光を浴びせておいたからそれなりの威力を出せるようにはなっているが、天日干しと天月干しが必須とか完全に屋外限定じゃねーかこれ!!
それはそれとして巨人型撃破ァ!!
「まぁそんな感じ! 朝日が出たらこっちの、ケツの方から新しく刃が出てくるぜ!!」
「パラメータの、特殊仕様……NPC限定? いいえ違う、このゲームは基本的にプレイヤーもNPCもほぼ同じ条件下で動いている。発想力の、敗北……っ!!」
サーバーと繋がってるNPCに発想もへったくれもない気がするのだが、イムロン的にはよく分からないが敗北なのだろう。あとすいません、せめて戦ってくれ。
「あぁ、そういえばビィラック……これ作ったやつからお前に伝言あったわ」
「……聞きます」
「えーと……「わちの親父はこれより凄い」、です」
「………ソデスカ」
あ、本当に武器が気になっただけ? 手伝ってはくれない? ソデスカ。
ふらふらと去っていったイムロンを見送りつつ、再び手が足りなくなったので慌ただしく剣を振り回す。
「あ」
「どうかなさいましたか?」
「あーいや、ちと忘れ物を拾っていけるな、と……」
場所的に出したまんまで放置してたブリュバスを回収に行けるか? ちょっと寄り道にはなるが、ルートから大きく外れてもいないし……
ちら、と振り向けば構わないといった様子の聖女ちゃん。ではご厚意に甘えるとしよう。
「あったあった」
クルーザーサイズとはいえ地上に船が鎮座してると目立つなー、今はクラン共用のインベントリボックスに何も入っていないから回収できる……ん?
「……『プレイヤーが搭乗中のため収納できません』……だと?」
あ゛ん? おうおう人様の船に勝手に乗り込むたぁふてぇ野郎だ、所有権があるから荒らしたりなんかは出来ないだろうが……これは一言かましてやらないと……あっやべっ、聖女ちゃんに小竜が襲いかかってる!!
「やぁ、やぁ。久し振りだね……「μ鯖」のサンラク」
ヒュン、と空を切る一筋。聖女ちゃんに飛びかからんとしていた他よりもVITが高そうな人型小竜の眉間へと正確にゴツい矢が突き刺さり、矢に込められた運動エネルギーに抗いきれなかった人型小竜の頭が結構ヤバい感じに曲がりながら後ろへと吹っ飛ばされた。
「その呼び方……」
見上げた先、ブリュバスの甲板に立つ一人の男。西洋ファンタジーなシャンフロ世界じゃ微妙に浮いた雰囲気を漂わせるカウボーイハットを始めとした西は西でも西部劇を思わせる軽装の弓使い。
俺はその男を知らない、だが俺の所属名を知っており、そんな服を着たやつを一人知っている。
「一応「あの島」じゃ会ったことがあるんだけど覚えてるかな? バイバアルから話は聞いてない? どうも、γ鯖で活動してた「アトバード」です。今は「ヤシロバード」だけどね」
「社、バード……? あっ、ご就任おめでとうございます?」
「どうもどうも」
俺の船に勝手に乗り込んでいた不届き者の正体は、かつてあの島にいたサバイバアルや俺と同じ鯖癌プレイヤーだった……
おや ? イムロン の ようす が …… ?