龍よ、龍よ! 其の二十六
神秘の剣。
ただひたすらに剣を極めた剣士の至る最高位たる「剣聖」とは異なる道を歩んだ剣士の極み。
己が剣に魔法を宿し、剣魔一体の技を振るう魔法剣士がその果てに名乗る名こそが「神秘の剣」である。
と、ここまでは世界観的な設定。ゲーム的説明をするならば、神秘の剣は「プレイヤーの魔法を切り替える魔剣使い」とでも言うべき職業だ。
シャンフロにおける「魔剣」とは剣そのものに魔法が記憶され、使い手が握った時点で記憶された魔法を行使できるようになる剣をそう定義する。
しかし神秘の剣は「儀霊剣」という特殊な触媒剣を用い、プレイヤー自身の意思で魔法を切り替える事で戦う剣士だ。
剣を触媒にする関係上、発動する魔法に制限がかかる事と「賢者」のような魔法特化の職業と比較すればさすがに見劣りするという点を除けば、あらゆる属性を使い熟し変幻自在のバトルスタイルをも可能とする。
剣と魔法の両立、器用貧乏と片付けるには強すぎる性能。しかし「神秘の剣」は何故か不遇とされている。それは何故か、
「剣一本で何が悪い! 【隼の刃】!!」
そう、同系統の最上位職業にして圧倒的人気を誇る「剣聖」の存在こそが「神秘の剣」を不遇とさせる元凶に他ならない。
実のところを言えば、「神秘の剣」が「剣聖」に劣っていると言う事実は存在しない。あくまでも剣そのもののスペックに依存する剣聖は、その派手なアクションに惑わされがちだが「従剣劇」と本数に対応した特殊魔法以外に魔法を行使することはない。
それに対して神秘の剣は「儀霊剣」の制限こそあるがその多様性は習得した魔法の数に比例して増していく。
だが、そう。実際にはそうであったとしても、だ。
実際に「神秘の剣」以上に派手に戦う「剣聖」が存在する事で、その事実が霞んでいるのだ。
手数の少なさを「剣の数を増やせばいいだろう」と極めて単純な理屈で解決し、実際は「勇者」職業の補正で習得している魔法を自在に行使し、そして何より幾本もの魔剣名剣が宙を舞う光景は、「要するに賢者が杖の代わりに剣を持った感じだよね?」と片付けられる神秘の剣よりも圧倒的に華があるのだ。
実際に剣聖になればサイガ-100の構築が廃人と呼ばれるような積み重ねの末であると理解もできるが、それを目指す者からすればどちらを選ぶのかは言うまでもなく。
要するに、「神秘の剣」は「剣聖」と比較して地味、という身も蓋もなさすぎる風評被害によって志望者の人口を剣聖よりも大きく落としているのであった。
「物理遠距離持ちは上半身を狙え! 特に角だ!! ただ無理はしなくていい、兎に角当てていこう!!」
放たれた矢が雨、とは言わずとも相応の数でジークヴルムを襲う中、その下半身へと肉薄した近距離職達が各々の武器を叩きつける。
「硬……!!」
「打撃は!?」
「鉄でも殴ってる気分だ、これ効いてるか!?」
『ぬぅん!!』
身体を捻って振るわれた黄金の尾がプレイヤー達を薙ぎ払い、耐久の低い者の中にはそれだけで砕けた者もいる。
『どうした、その程度か!』
『グルルォォアアア!!』
「タイミングを合わせろ! ………今だ! 魔法を叩き込め!!」
弾き飛ばされたノワルリンドと弾き飛ばしたジークヴルムの距離が離れた瞬間、タイミングを見計らって練り上げられていた魔法の数々がジークヴルムへと降り注ぐ。
流石のジークヴルムも無傷で受け止めることはできぬと判断したのか、龍の角に雷光の如きエフェクトを帯びる。
『良い、良いぞ! ならば我が試練、超えて見せるがいい! 【狂騒領域】!!』
「スキル封じだ! 魔法をメインに戦え!! えーと、ここは火力重視で……よしこれだ! 【宿儀更新】!」
カローシスUQはインベントリから取り出したそれ、分厚い辞書のような本を取り出すと、その内の一ページを破り捨てて剣へと貼り付ける。
火種など無いにもかかわらず、青白い炎に包まれた断章の一枚は煙と、炎と、僅かな灰すらもが剣へと吸い込まれ、剣身に刻まれた文字の色を青から紫へと変化させる。
「魔法撃てっ! 【連鎖爆泡】!!」
神秘の剣が扱う「儀霊剣」は杖であり、剣である。元となる剣に対して特殊な触媒を用いた「儀式」を施す事で魔法発動の触媒、厳密には「魔剣の器」とする事で唯一つの刃に数多の魔法を載せることが出来る。
それ故に、先程までの斬れ味鋭い飛ぶ斬撃ではなく、破壊力を秘めた泡を鋒から噴出させながらカローシスUQは指示を飛ばす。
「リーダー! 使えないのはスキルだけですよね? 別に物理完全無効ってわけじゃないでしょう!」
「火刈鳥さん! 引き続き殴るならジークヴルムを挟む形で!」
「はいはーい!」
ジークヴルムは巨大である。それ即ち的が大きいと言うことであり、当てるに易く防ぐに易いということだ。
時間が経つほどにジークヴルムとノワルリンドとの激突が行われる戦場に集うプレイヤーは増えていく。自然、ノワルリンドを敵視する生産職連合とでも言うべき勢力に属する者も増えてくる。だがペンシルゴンの暗躍により結束したトップクラン連盟が大多数を指揮するが故に嫌がらせ以上の攻撃を行使することができない。
『「個」の輝きも良いが、「群」の輝きもまた良し!』
「ダメだ、全く効いてる気配がねぇ!!」
「マッダイさんは!?」
「おう! 支援職総出でバフくっつけてる! あと二十秒くれ!!」
「お願いしますマッダイさん! こう、ズゴーン! と!」
「ずごーん、ね? うふふ、任せてちょうだいな」
「あれ? 不発?」
「馬鹿! そのバフは複数付与出来ねーだろ!!」
「あ、そっか……」
ゲームだから、レイドだから、集団で戦っているから。真っ直ぐにジークヴルムを見据える者がいれば、隣にいる者に話しかける者もいる。
水晶を操作してスクリーンショットを撮影する者もいれば、それを見て苦々しげな顔を隠さない者もいる。
『おお、まさしく星々の輝き……我に大いなる海の記憶はない、しかしてかつてかの者達が抱いた情熱とは、かくの如しか……!!』
ジークヴルムの注意を引き付ける者がいる、縦横無尽に駆け回る者がいる、後方で杖を掲げる者がいる、満を持してといった様子で巨大な鈍の大剣を担いだ者がいる。
そして、黒き竜と共に戦う者がいる。
『───来るがいい、その輝きの悉くを見せつけよ。英傑の光輝こそが我を貫くと知れ!!』
黄金は吠える、その声音を歓喜に染めて。
かつての時代、極まった文明をもってしても始源には勝てなかった。黄金の盟友は「そうなるしかなかった」とため息混じりにジークヴルムへと告げた滅亡の原因。ジークヴルムはそうは思わない。
神代の人々が滅びた理由、それは一兵卒すらをも精鋭へと変えうる程の技術が生み出した弊害……「英傑」と讃えられるべき存在の欠落こそが原因であると黄金の龍王は考えている。
それはジークヴルムがもっとずっと小さく、幼かった頃に聞かされた英雄譚への「憧れ」が未だその身魂に刻み込まれているからか?
それとも、神代において始源の勢力に対する最大のカウンター……唯一つの「個体」として戦い続けたからこその結論か。
ジークヴルムは今も考えていた。そしてそれは、そう遠くないうちに結論が出るであろう。
正義とは、主義主張である。悪とは異なる定義によって成立した別の正義である。
全ての人々が意識を統一することなど不可能。であればその女がたとえ己ただ一人だけが意見を変えなかったとしても、自分だけは「奴」に刃を向けるのだと決意することもまた正義なのだ。
そして彼女は一人ではなく、多くの賛同者を束ねる大棟梁。
「……やりましょう。その為にこの城は在るんですから」
この瞬間、憎悪と復讐と……それら全てを支える情熱によって生み出された城が、あまねく戦士に加護をもたらした。
・敵対対象:黒竜ノワルリンド
・強化対象:敵対対象と戦闘状態にあるプレイヤー及びNPC
・強化内容
十五秒ごとにHP、MPを回復
全ステータスの強化
ダメージボーナス
リキャストタイム20%軽減
神秘の剣は魔法触媒用意したりするので地味な手間が多いのも不人気の原因