龍よ、龍よ! 其の二十
『ふははははは! 見事! おぉ、見事!! なんたる輝き! 我が目を灼かんばかりの炎熱よ! 我が目を眩まさんばかりの宝輝よ!! 良いぞ、英傑とはただ一つの炎にして諸人を惹きつけ導く者! 貴様の火を嚆矢に、動き出した英傑たらんとする者たちの姿こそが何よりの証明!! ふははは、ふはははははははは!!』
笑う。空高くより蟻の如く蠢くプレイヤー達を睥睨し、嘲笑うことも出来るだろうにジークヴルムは負の感情の一切を廃した純粋な喜びを大笑いで表現する。
『おお……人よ、英傑よ。汝らの道はいずれ彼奴等の再来により苦難で彩られよう。ならば示さねばならない、同じ「色」を討つならばよし、我を討たんとするならば、なおよし!! 受けて立とう! さぁ、どうする!!』
「では遠慮なく胸をお借りします!!」
再び秋津茜がノワルリンドの背より跳躍し、ジークヴルムへと飛び移る。魔力による攻撃……すなわちドラゴン最大の攻撃とでもいうべきブレスを封じられているとしても、ノワルリンドの巨体を使った物理攻撃であれば有効かどうかはさておき、無効化されることはない。
『秋津茜ェ! やれ!!』
「はいっ! えーと、喉のちょっと右側の……」
『ほう、我が逆鱗を穿つ算段か……だが、決死の我に生半可な刃が通ると思うでないぞ!!』
ジークヴルムの逆鱗。神代の叡智を結集した黄金の龍王を構築するに辺り、構造上の問題で唯一他の鱗と比べて耐久の低いただ一点。
平常のジークヴルムであれば、そこを穿った時点で呪いを与える部位も、今のジークヴルムにとっては「多少弱い場所」程度でしかない。
だが、それはあくまでも人が攻撃手としての尺度によるものだ。今この場において、秋津茜は文字通り竜の牙と爪を持っていると言っていい。
「ここです!!」
『死ねぇぇぇぇ!!』
『ぬぅお!?』
秋津茜はあくまでも観測手、過去の経験から逆鱗の位置をノワルリンドへと知らせることこそが本命。そして、人にばかり目を向けてノワルリンドへの注意が散漫になりがちであるからこそ、地上で生まれた二度の爆発による一瞬の隙を突いて黒竜の牙が黄金の喉元へと突き立てられた。
『ぐ、ぬぅぅぅ! 小癪!!』
『ぐぁあっ!?』
しかし僅かに逆鱗を穿った牙もジークヴルムの振りほどきによってその顎ごと引き剥がされ、握りしめたジークヴルムの拳がノワルリンドの頬を打ち据えた。
『驕るか! その程度で我に楯突こうなどと!!』
『なんとでも言うがいい、最後に屍を晒すは貴様だジークヴルム!!』
至近距離から放たれた漆黒のブレスを、一本欠けた五本の角の内左右一本ずつを輝かせ、全身を光に包み込む。
雲散霧消した黒い息吹を舌打ちでもしそうな眼差しで睨みつけたノワルリンドは再びジークヴルムへと飛びかかる。
「うぅ……魔法無効は、やりづらいです……!!」
かろうじてジークヴルムの背にしがみついた秋津茜は、魔法職としての強みを潰す発光状態に泣き言を漏らす。
ジークヴルムの魔法無効化能力「輝ける龍王」は言うなれば凄まじい濃度の絵具のようなものと言える。
龍王として完全な制御下に置かれたマナ粒子はジークヴルムの制御下にない外的なマナ干渉を塗り潰すかのように無効化する。
だがこの形態には二つの弱点が存在する。
一つはスキル無効化の結界たる「狂騒領域」との併用が不可能であるために、スキルによる攻撃は効くと言うこと。ジークヴルムはクターニッドとは原理こそ違うが同様の制約を課せられているのだ。
そしてもう一つ。外的魔力干渉、すなわち魔法の悉くを無効化する光輝の姿は、魔法的プロセスを経た「物質的干渉」に対して弱いという弱点を持つ。
そしてそれは、とあるカテゴリに属する装備群がデフォルトで備えているものでもある───!!
「……朱雀、手荒に使うけど大丈夫?」
『オ構イナク』
『ぬぅうう!!?』
空を駆け抜ける一筋の「赤」。いいや違う、それは始源の怪の如き骨の髄までを赤に染めたようなものではなく、それはまさしく美しい緋色の翼。
火葬の刃、かつては夜の権化が如き狼を縫い止める為に用いられたそれは、今ここに艶やかな翼持つ機人の腕に在ってその本来の機能を果たす。
突然の奇襲に仰け反ったジークヴルムから飛び降りた秋津茜はなんとかノワルリンドの背へと戻り、奇襲者へと視線を向ける。
「ロ、ロボ?」
「……秋津茜、援軍に来た」
「え、あ、ルストさん!?」
轟々と、腰部より広げられた鋼の緋翼より熱波を伴う推進を放って宙を舞う赤い機人。翼を伴った人型はキーワードだけ見れば鳥人族のようにも思えるが、鳥人族は翼と腕が一体化した形状であるのに対してこちらは翼と腕が別個のものとして存在している。
少々翼の位置こそ低いが、どちらかと言えばそれは「天使」に近いものであるといえよう。
『なんだあの羽虫は!』
「あ、えっと、同じクランの……あ、はい、お友達です!」
『ふン……』
「……ノワルリンド、私達は貴方を勝たせる為にここにいる。ジークヴルムに勝つ為にここにいる……私達の首領から伝言」
『何?』
「……曰く、「ヘイノワリン! 命を全部賭けてジークヴルムに勝つつもりなら、地上でジークヴルムと戦えYO!」……とのこと」
「………」
『………』
「…………こほん。私が考えて言ったわけではなく、あくまでも伝言」
なんとも言えない沈黙に居心地悪そうに弁明しつつも、戦術機鳥との連結を果たしたルストは改めてジークヴルムへと刃を、アラドヴァルのそれとは異なる神代の叡智に由来する灼熱の焼却対 魔刃を突きつける。
「……圏外で踏ん反り返るタイプの敵は嫌われる」
『遠き日の具足か……くくく、ならばとうする?』
「……自慢ではないけれど、今の私は……訂正」
地上で星のような瞬き、気づいたのは狙われたジークヴルムのみ。下から上
「私達は、かなり強い」
『狙撃か!!』
「……制限時間内のバトルなんて毎朝やってる、叩き落としてあげる」
遡ること五分前。
「はいそれじゃあ共同所有者諸君! クラン共用アイテム承認を問う!」
「なにその仰々しさ……承認」
「え、この状態異常どうやって治んの……? 承認」
三つのウィンドウが同様の処理を行い、鋼の鳥とそれに対応する装甲、そしていくつかの武器がクラン共用のアイテムとして征海船ブリュバスに備え付けられたクラン用アイテムボックスに登録される。
そしてその場でルストがクラン用アイテムボックスを操作し、現実空間へとその姿を顕す。
「おおぉ……びゅーてふぉー……」
「大事に使えよ?」
「装備使いクッソ荒いサンラク君が言うと言葉の重みが違いますなぁ!!」
「もしかしてサンラク、二酸化炭素の代わりにヘリウムとか吐き出してない?」
「このネタ前にもやりましたよね?(裏声)」
「ふ、ふふ……」
モルドお前…………
「いや、大丈夫。大丈夫……それより、これ無線通信とかできないかな?」
「無線?」
否、ルストの無敗伝説は一人の手によるものではない。アシスト性能高すぎるが故に野良で組んでも無双する奴がいるからこそ、誇張無しに彼女は無敗を誇っていたのだ。
「あー……どうだろう、仮に無線があったとしてもリアクターが一個だから他の機体は起動しないし……」
そんな風にオイカッツォがモルドの希望を実現することの困難さを伝えようとしていると、
「成る程、つまりインテリジェンス通信ですね」
自称知性の塊がやってきた。戦線がプレイヤー達の猛攻によって維持されているためか、サンラクたちの元へとやってきたサイナはカシャカシャとどう言う仕組みか頭機殻だけを折り畳みしまい込むように格納すると、その人に近くしかして人ならざる顔を露わにする。
「現在【昇滝】は当機からのエネルギー供給によって稼動状態にあります。故に当機を介する必要はありますが【艶羽】装着者との遠距離通信は可能です」
一同、しばし沈黙。
「ふんっ」
「ぐべぇ」
ゆっくりと四つん這いで逃げ出そうとしたサンラクの背中をペンシルゴンが踏みつける。
「可愛い子じゃーん? 当然、紹介してくれるんだよねぇ……?」
「やめぇー、くそがー、はなせぇー」
二十話経過現在、未だジークヴルム氏滞空中
今年中に終わるかなぁ……(弱音)
ジークヴルムの魔法無効化は「魔法の弾丸や魔法で作られた弾丸」は無効化するけど「元から用意した弾丸を魔法でぶっ飛ばしたもの」は無効化できない
少なくとも推進力は物理法則ですから