龍よ、龍よ! 其の十四
バイトで忙しくて……ポラリス楽しい
◇
実のところを言えば、オイカッツォやアージェンアウルはブライレイニェゴとの戦闘に参加していた。
とはいえその位置はサンラク達とは真逆、ブライレイニェゴを中央に据えて円形に展開された包囲網に於いてサンラク達が東側とすればオイカッツォ達は西側で奮戦していたのだった。
「なんか向こう側から激しく心当たりのある情報が流れてくる……」
手当たり次第に小竜を斬り伏せていく女、竜を象ったどう見てもロボにしか見えない鎧、それに張り付いた兎……情報通りなら女体化したサンラクと【昇滝】を装着したサンラクの二人になっている計算になるのだが。
「サンラク×2……悪夢だ」
高速でステップを刻みながら近づいてくる増殖した二人の変態を思い浮かべ思わず呻いたオイカッツォであったが、流石にシャンフロの運営も変態をコピペするようなことはするまいと気を取り直して近づいて来た人型小竜を殴り飛ばす。
「……一応これ、パーティ単位でユニークっぽいの見つけたから俺の手柄ということにもなる……のかな?」
視線の先、そこには巨大な身体と比較して尚巨大な剣……確か「激情剣モラルタ」なる剣を振るう女巨人と、アージェンアウルが明らかに険悪な雰囲気で口論している光景を再確認し、ため息をつく。
「そこで仲良くしようとかじゃなくて我を通す辺り、流石の全米一と言うべきか……」
だが、アージェンアウルと女巨人は苛烈な舌戦を繰り広げながらも、双方共に獅子奮迅の闘争を繰り広げ続けていた。
「だーかぁーらぁー! 戦うのは私なの! 武器を砕いたとしてもそのスピリッツはこの拳に! 受け継がれているの!!」
「馬鹿を言うな! 自ら武器を砕くなど、正気の沙汰とは思えん! 武器とは使い手と共にあるもの、それを貴様は……!!」
要するに、武器を相棒と定義する巨人族からすればつい先程連続で武器を破壊しまくって自身を強化したアージェンアウルのそれは彼女にとっては「凶行」に見えたらしい。
オイカッツォとしては「程々に社会一般常識から逸脱しない程度であれば武器を振り回そうが砕こうが結局はDPS次第」だとは思うが、それを言えば矛先は自分に向くことは確実。オイカッツォはタンクではないので傍観を選択するのだった。
「お二人さん! どうも向こうで派手に暴れてる奴らがいるらしいよ! ブライレイニェゴの注意が手薄になった!!」
「む、フィオネか……? いや、あの子だけでブライレイニェゴの注意を引くなど……」
「あらビッグレディ? そこで観客したいならチケット売った方がいいかしら?」
挑発にまんまと乗った女巨人がアージェンアウルを追って走って行くのを見送りながら、オイカッツォはため息をつく。
シルヴィア・ゴールドバーグはメディアやファンにも愛想の良いアイドル気質を持っているが、その本質は闘争心の塊だ。
明確な格下にはそれなりに優しくなるが、同格に近しい相手には途端に容赦がなくなる。尤も、オイカッツォもまさかシルヴィアがプレイヤーとではなくNPCを相手にああなるとは思ってもいなかったのだが。
「……ここで油売ってても仕方ないし、行くか」
「あーっ! 見つけたですわっ! えーと、受けの人!」
「ちょっと待て!」
壮絶に失礼な発言をぶつけられたが、サンラクにしては声が高いしペンシルゴンにしては悪意が足りない。では何者なのかと振り返れば、そこには巨大な突撃槍を構え、大量の小竜を撥ね飛ばしながらこちらへと突っ込んでくる特殊強化装甲【昇滝】の……
「ちょあああああ!!?」
横に跳ぶ!? 間に合わない、貫───
「確認:該当する次世代原始人類ですか?」
「そーですわっ! 比較的マトモだけど分類的には頭おかしい人ですわ!」
「嘘でしょ……サンラクミームに汚染されきってる……」
【昇滝】。オイカッツォは使用したことはないが、サンラクが絶賛していた【青龍】に対応する強化装甲……頭の中に記憶していた情報を引き出していたオイカッツォであったが、ふと違和感に気づく。
「あれ? なんでリアクター無いのに使えてんの?」
ウェザエモンを撃破したことで手に入れた四種類の強化装甲はリアクターを装備して起動した戦術機獣を「電源」として利用する、つまり逆に言えば青龍無しで起動するはずがない。そもそもリアクターは今オイカッツォが所有しているのだ。
だが、目の前の【昇滝】は明らかに電源が入った状態だ。まさかあの野郎、遂にリアクターの独自生産に成功したのでは……と背に戦慄の寒気を走らせていたオイカッツォであったが、ここで先程の疑問がもう一度脳裏を駆け抜けた。
聞こえてきた情報が本当に正確であったとしたなら、サンラクが二人いる計算になるのでは。
冗談交じりに考えていたが、仮に真面目にそんな情報が飛んできた理由を考えたのなら。
単純に、条件を満たす人物が「もう一人」いた、というだけの話なのでは?
「───登録完了:契約者からのオーダーに従い、対象を連行します」
「なんて?」
というか、中身はサンラクではない。仮に奴がクターニッドの聖杯の効果で女体化していたとしても、声の質が違う。
「ご安心を、力学的観点を考慮し最速かつ最安定の極めてインテリジェンス的な方法にて連行いたします」
「……いや待ってこれ米俵担ぐ奴!」
「舌を噛まないようご注意ください」
「ちょ、待っぎゅ!?」
「ケ、ケーィッツォ!?」
だから本名っぽく叫ぶのをやめろ、そんな言葉すら舌を噛んだオイカッツォには言うことができないのだった……
◆
おおよそ人類が趣味とする大概は100から0にする趣味か0を100にする趣味の二つに分けられる。要するに消費か蓄積だ、その点この手の無双ゲーは敵を削りきる消費とスコアの蓄積の両方を同時に満たすことができるエキサイティングなカテゴリだ。
即ち、今この瞬間俺の満足度とテンションはうなぎ登りということだ。
「図が高ぇんだよ! 足詰めて這いつくばれ!!」
軽々と振り回され、しかし斬撃の衝撃は見た目相応の別離れなく死を憶ふが巨人小竜の足を薙ぎ払い、転んだところをアラドヴァル・リビルドが熱と斬撃の二段重ねで仕留める。
また一体、俺が死をもたらした事でR.I.P.と別離れなく死を憶ふが条件達成による強化を付与し、さらに暴れ回る……
「おいおいコンボが途切れるだろうが! 追加出せよ! なぁ!!」
『おのれェエ……!!』
もはやデフォルト小竜は敵ではない、人型小竜も一撃でこそ倒せないが別離れなく死を憶ふで吹き飛ばせる、巨人型はアラドヴァルを脳天にぶっ刺せば大体ワンパンだ。アラドヴァルが特に効くのか、それとも単純に頭が弱点なのか……まぁいいや、効率が良いなら特に気にする必要もあるまい。
「凄いな貴様! アラドヴァルもそうだが、その剣もさぞや名のある剣なのだろう!!」
「リア充剣カルクナールさ……」
「リアジュウ剣「カルクナール」……」
「いや、本当の銘は別離れなく死を憶ふだぞ」
「なにっ! 騙したな!?」
「人は誰しも間違えるもの、そうだろ? ごめんな」
「む……謝罪はする勇気も受け入れる勇気も大切だと姉さんが言っていた」
「そうだね、いきなり拉致られた俺に対してごめんなさいすべきだよね」
「フッ……」
「「インテリジェンスが足りてない」」
ああすまんなオイカッツォ、今ブライレイニェゴの対応で忙しいから壮絶な顔芸されても反応できねーわ。