龍よ、龍よ! 其の四
かけつけ一杯、おかわり二杯。不定期だから仕方ない
「はいヨシ来たぁ! んでもってサンラク君ドベ決定!」
今ここに全ての色竜が集い、天覇のジークヴルムもまた現れた。
新大陸調査船の甲板で歓声を上げたペンシルゴンはインベントリアを操作すると、野球ボールサイズのガラス球を取り出してすぐさまそれを真上へと投げる。
ガラス球はアーサー・ペンシルゴンのSTRとTECを参照して上へ上へと飛んでいき……加速上昇の限界高度に到達した瞬間、パンと弾けて空中に緑色の炎を吐き出す。
【旅狼】に向けたものではない、これは協力者達へと向けたメッセージである。
即ち、
「待ち人来たれりってね、さぁさぁ黄金墜としを始めよう───!!」
「ペンシルゴン!」
「やぁカッツォ君! さぁ楽しいパーティーの時間だよ! ほらほらパレードの列に並んで!」
「うーわいい顔してるわ……じゃなくて、どうもさっきの結界はロールプレイに判定を強いるタイプの可能性が高い!」
「いいじゃんいいじゃん! 悪も突き抜ければダークヒーローさ!!」
「あっやばい! 魔王モード入っちゃってるよこいつ! サンラクはどこだよ! このままじゃこいつ盛大に自爆しかねないんですけどー!?」
喜悦と、待望と、高揚と、その他諸々の喜びの感情を全て一つの笑顔に収束させたかのような笑みを浮かべ、アーサー・ペンシルゴンは突き進む。
いつしかゼニス・ゲバラと超農民が合流し、その総数がおよそ三倍に膨れ上がる。
「ひゃーすげー、なんか楽しくなって来たねぇゼニちゃん!」
「まぁ否定はしねーけどさ……やっぱこれ魔王側だよな!? 一応合法的に商売してーんだけど!」
「魔王印の新鮮野菜! ゼニちゃんあれやろーぜ! ほら、「私が作りました」ってやつ! 俺アヘ顔ダブルピースするわ!!」
「お前自分のアヘ顔スクショ流通に乗せるんか……」
「いいね、そーゆーの嫌いじゃないぜべいべー!」
新大陸調査船から出た五十人規模の一団が進む、進む、進む。目的地は装骨魔城スカルアヅチ、反黒竜派の拠点と言うべき……言うなれば、敵の本拠地である。
「あっはっは! どけどけー!」
「うおっ!? なんだァ?!」
物量とは、生物が最も簡単に作ることができる暴力の名前である。結束しているわけでもないプレイヤーなど重武装の騎士四十二名、無言の気迫の前には障害物にすらならない。
「よっしゃたのもー!!」
テンションが最高潮一歩手前まで上がったペンシルゴンが扉を蹴り開け、その姿に中にいた作戦会議中のプレイヤー達が皆一様に何事かと振り返る。
訂正、サイガ-100だけは顔に手を当てて天井を仰いでいた。
「貴女は……」
「やぁどうもこんばんは笑みリアちゃぁん……お噂はかねがね、一生産職が城まで建てるんだから凄いよねぇ……!」
尋常ならざる様子に、ノワルリンド出現の報を受け今まさに動き出さんとしていた笑みリアは警戒の色を出しながら眉をひそめる。
「何の用ですか? 私達はこれから色竜の撃破の為に……」
「クラン【旅狼】はクリア条件が1、天覇のジークヴルムの撃破を狙うよ。それも黒竜ノワルリンドを生存させた状態で……ね」
その瞬間、いっそ鮮やかとも言える程一瞬で笑みリアの纏う気配が変わった。警戒から敵意へ、ただの一言が笑みリアの認識上の【旅狼】を敵対存在へとカテゴライズした。
とはいえ、シャングリラ・フロンティアはかつてのPK問題からレッドネーム・ペナルティが重く設定されている。
如何に敵対プレイヤーであろうと、システム上の処理が通常通りである以上はこの場でペンシルゴンを害するメリットはほぼ無いと……
「あぁそうだ、対ジークヴルム同盟のメンバーを紹介するよ……んふふふ、【黒剣】のサイガ-100ちゃんと【午後十時軍】のカローシスUQ君です」
「……ははは、いや申し訳ない。午後十時軍はこっちが先約でね」
「黙っていたことは、謝罪する」
成る程、といやに冷静な頭で笑みリアは考える。どうやら自分の知らぬ内に対抗勢力は静かにその大きさを増していたらしい。
だが、実のところを言えば笑みリアはこうなることを半分予想してもいた。
元よりプレイヤー全ての意思統一を自分ができるとは思っていない。それに笑みリアにとってのゴールはあくまでもノワルリンドの討伐、極論を言えばノワルリンドを倒した後ならジークヴルムを倒す方向性にシフトしてもいいくらいだ。
だがノワルリンドの生存を掲げられた以上、彼らとの共闘は不可能となった。
どうやら反応を見る限りでは天ぷら騎士団や他のクランは【旅狼】の同盟とやらには含まれていないらしい。
(味方トップクランの数はそこまで重要ではない、プレイヤー側の大多数は無所属か中堅クラン。となればあとはどれだけの支持を集められるか……)
状況は不利と言っていいだろう。何せ相手はあのアーサー・ペンシルゴンだ、このゲームで初めてユニークモンスターを撃破したプレイヤーであり、その為にPKクラン「阿修羅会」を囮に使い潰したプレイヤー。
所詮笑みリアを突き動かすものは個人的な怨恨でしかなく、それはペンシルゴンのように周囲のプレイヤーをも巻き込むだけの火力を持たない。
「………」
状況は劣勢、このままでは大勢が対しに流れるのも時間の問題……その時だった。
「わっ」
「何だ?」
スカルアヅチが揺れた。
まるで何かがぶつかったかのように……そんなことを考えていると、笑みリア達のいるエントランスに笑みリアのリアルフレンドでもあるプレイヤーが非常に気まずそうな顔で入ってきた。
彼女は鎧騎士達の隙間を縫うようにして笑みリアの前へと立つと、逡巡しながらも口を開く。
「いや邪魔だな君達! よいしょっと、あー……笑みリアちゃん?」
「何か起きましたか?」
「あー……そのぉ……落ち着いて聞いてね?」
三秒ほど沈黙。
「その、ジークヴルムにジャイアントスイングされて吹っ飛ばされたノワルリンドがスカルアヅチに激突しまして……その、天守閣が半壊したっぽいね」
プレイヤー「笑みリア」はシャンフロユーザー達の間ではちょっとした有名人である。
それはほぼプレイヤー達の力だけで城を建てたという偉業に基づくものであり……もう一つ、
ノワルリンドを倒す為に要塞を作った女としての偉業に基づくものでもある。
そしてこの瞬間、「またか」という氷のように冷えた思考が葛藤の全てを塗りつぶす。
「……上等です」
「お?」
「構いません、何百人がジークヴルムを狙おうと、それより先にノワルリンドを倒せばいいだけのこと……ええ、えぇ。その為のスカルアヅチ、その為のこれまでなんですから……」
ただ静かに、ペンシルゴンが言えた義理ではないが結構な煽りを受けたにも関わらず、あまりに静かな声音で笑みリアは呟く。
「構いません、えぇ構いませんとも。上等です、えぇ、えぇ」
表情筋は笑みの形を作っている、にも関わらずその目はあまりに無機質で。それは心の底から楽しげなペンシルゴンとは水と油、S極とN極、決して混ざることのない全く真逆の性質を帯びて。
「ノワルリンドが生きて明日の朝日を見ることはないと、宣言させてもらいましょう」
「ジークヴルムは月と共に沈むのさ」
ただそれだけを告げて、狼の首魁と骨城の主人は決定的に決別した。
Q.笑みリアさん無理ゲーでは?
A.スカルアヅチがあるのでどっこいどっこい