龍よ、龍よ! 其の一
断言します、其の五十くらいまでは覚悟しておいてください(死んだ目)
覚悟はいいか? 俺はできてる
十月末、秋の来訪も半ばに冬の気配を感じ始めるとある日曜日、先駆けの一番槍は波濤と化して現れた。
『ユニークシナリオEX「来たれ英傑、我が宿命は幾星霜を越えて」、決戦フェーズに移行します』
『クリア条件1:ユニークモンスター「天覇のジークヴルム」の撃破』
『クリア条件2: 「赤竜ドゥーレッドハウル」「緑竜ブロッケントリード」「白竜ブライレイニェゴ」「黒竜ノワルリンド」「青竜エルドランザ」の討伐』
突如として新大陸に到達したプレイヤー全員に表示されるウィンドウ。それはプレイヤーが消すよりも先にオートで閉じられ……そしてそれこそが号令であったかの如く、奴らは現れた。
「ヂヂヂヂヂヂヂ!!!」
「な、なんだ!?」
「蟻? いや、白いからシロアリ?」
「いや、違うぞ……ドラゴンだ! ちっさいドラゴンが、大量に……っ!?」
六の脚に、腹部と頭部が胸部と比べて異様に大きい、まさしく「蟻」を思わせる大量の小竜が気味の悪い鳴き声を重ね合わせながら前線拠点へと攻め込む。
大自然の緑とは明らかにミスマッチな白い津波は途切れる事がなく、プレイヤー達は突然の襲撃に戸惑いつつも武器を構えて迎撃を始める。
そんな時であった。
『成る程、確かに良い場所です……少々拓けているのは気に食わないですが……えぇ、私達の住処とするには丁度良い』
低く、されど高い。そんな矛盾した感想を抱かせる奇妙な声が響く。
獣の唸り声のような低音をバックに、女性的な高音で紡がれる言葉は前線拠点を端的に評価し、そして声の主が姿を現わすのと同時に続きを紡ぐ。
『えぇ、あとは蔓延る蛆を潰すだけ……ふふふふ、さぁ行くのです愛しい我が子達、蛆の巣ごと全てを蹂躙なさい!!』
それを竜と呼ぶには、あまりにも異形であった。成る程確かに蟻を思わせる小竜の「母」であると言うならば、共通点を見出せる。
だが、小竜以上の肥大化を見せる巨大な腹部にドラゴンの上半身を歪にくっつけたかのような姿はドラゴン体型というよりも、どちらかといえばケンタウロスなどの人と馬の合体した姿のように見える。
そしてなによりも目立つ腹部。十数もの脚に支えられたその背部には玉ねぎを彷彿とさせるシルエットの奇妙な突起がいくつか存在し、そこから無尽蔵に小竜が粘液を纏って這い出しては津波へと加わっていた。
「白竜ブライレイニェゴ……!」
誰ともなしに呟かれたその名は、果たして正解であった。
瞬間的に大量の子供を生み出す純白の「群竜」が高らかに吠える。それは竜災大戦、その嚆矢のようで。
「本体は一先ず後回しだ! まずは小竜を潰せぇっ!!」
それは不特定多数に向けられた言葉ではなかったのかもしれない。しかしその言葉を聞いた幾人かが道理を感じ取り、その流れが全体へと波及する。
無論全員が完璧に意思統一されるわけではないものの、殆どのプレイヤーが小竜の数減らしを始める。
「一番槍は貰ったぁ!!」
無論、我こそが英雄たらんとブライレイニェゴ本体へと急襲を仕掛ける者もいた。だがその一撃は白竜の背中から這い出し跳躍した小竜の一体にインターセプトされ、次の瞬間には大量の小竜に群がられその姿が消えた。
「ひぃい! スプラッタかよ!!」
「範囲攻撃ぶちかますぞ!」
どこのクランかは知らない、しかし魔法職を多数抱えているのだろう一団が一斉に魔法を放つ。
この際多少のFFは仕方ないと割り切っているのだろう広範囲を叩く攻撃が着弾し、幾人かのプレイヤーと多数の小竜が宙を舞う。
「よし! 一体一体はそんな強くない! 削れるぞ!!」
「よしじゃないわよ! タンクを後ろから撃つとか正気!?」
道理を無視すれば無理が出る。巻き添えを食らいかけた、あるいは食らったプレイヤーが加害者達に抗議の声をあげる。
ギスギスとした雰囲気によって混沌の様相を呈してきた戦場にその時、よく通った声が響く。
「強制ではない! しかしこちらの指示に従う意思があるなら聞いてほしい!!」
声の発信源は黄金の剣を携え、五本の浮遊剣を従えた女。その背後に幾人かのプレイヤーを従えた女剣聖……サイガ-100が再び声を戦場に通す。
「まずは小竜の数減らしを! 最悪の場合、調査船や主要施設を破壊されるとEXシナリオそのものが失敗する可能性がある!! 魔法職は一旦攻撃を中止! 「黒剣」と「天ぷら騎士団」の所に集まってタイミングを合わせて欲しい!!」
プレイヤー達は現在烏合の衆としか言いようがない。強制されることを嫌うプレイヤーもいれば、何らかの指示を求めるプレイヤーもまた存在する。
恐らくこの場に現れる前に何らかの話し合いがあったのだろう。黒地に剣の意匠の旗と白地に海老天のデザインが描かれた旗が高らかに掲げられる。
「クランリーダーも可能であれば来て欲しい! 総力戦だ、他の色竜が来る前に纏まりを作りたい!!」
その言葉に大多数のプレイヤー達が動きを変える。
タンクや物理系戦闘職のプレイヤー達が前へと進み、逆に広範囲の攻撃が可能な魔法職などは背後へと下がる。
それでも決して少なくない数のプレイヤーが独断で動いてはいるものの、混沌の戦場に僅かながら統制の光が見えた。
その時だった。
破城槌としてそのまま使えそうな大木が吹き飛び、純白の小竜やブライレイニェゴとは比べ物にならないほどの「緑」の大質量が吠え猛りながら姿を現した。
『トットリなる虫はどこだぁぁぁあ!!!』
「え、は? 俺!? っつーかブロッケントリード!?」
突然の個人指名に気の抜けた叫びが上がる中、木々を粉砕しながら現れた巨躯が中天の陽光に照らされる。
それはまるで亀のような、あるいは山そのものが動いているかのような、ブライレイニェゴと比較しても二倍近い巨体である。
特に目を惹くのは鈍重な見た目とは裏腹に、タコやイカの触手のように蠢く数十、否数百はあるだろう茨のような触手だろう。
腹部や脚部から生えたそれらは巨体の意思に従って地面に突き立てられると、見るからに何か吸い上げていますと言わんばかりのエフェクトを発する。
そして、
『ふんっっっ!!!』
茨触手が吸い上げたエフェクトが右前脚へと収束、まるで前脚が内側から爆ぜたかのような亀裂模様が緑白色に発光し、持ち上げられた前脚が大地を叩き据える。
「ちょ、」
「待っ」
「んなぁ!?」
「何したんだトットリィ!!」
「知らねぇーっっ!!」
爆震。まさにそう形容するしかない超絶の揺れが打撃点を中心に広範囲を揺らす。樹海から飛び出してすぐの攻撃であった為、その至近にプレイヤーがいなかったのは幸か不幸か。
大地を緑色のエフェクトが駆け抜け、その範囲にいた全てのプレイヤー及び小竜が文字通りに吹き飛ぶ。
目測でおよそ半径五十メートルの円内にいた全ての存在が円中心に近い程加算されるダメージと共に吹き飛ぶ姿を目撃したプレイヤー達は、この時初めて「全ての色竜が集結する」という意味を理解したと言えるだろう。
「いや、無理ゲーでしょこれ……」
恐らく大多数のプレイヤーが脳裏に思い浮かべた言葉を、シャングリラ・フロンティアのシステムは嘲笑う。
───この程度で混沌とは片腹痛い。そう言わんばかりに。
『臭う、臭うぞ……子狂いの白々しい臭いがなぁ……!!』
『……老害がァ、私達の平穏を邪魔するつもりか……我が子達よ、彼奴を殺すのです!!』
敵同士が味方同士であると誰が保証したのか、子竜の群れが標的を緑竜ブロッケントリードへと変更し、緑竜もまた己以外の竜へと敵意を剥き出しに重厚な一歩を踏み出す。
「混沌過ぎる……だが、チャンスだ! 戦線を構築する! クランリーダーは集まってくれ!!」
ユニークシナリオEX「来たれ英傑、我が宿命は幾星霜を越えて」は歪んだ形で決戦の火蓋を切った。
先駆けとして現れた「白」と「緑」が激突する中、開拓者達は動き出す。
未だ現れぬ「赤」「黒」……そして「金」が、さらなる混沌を齎すであろう確信を皆一様に抱いて。
色竜は「ドラゴン」と表記こそされますがその姿形は一般的ドラゴンのそれとはかけ離れている奴がほとんどです。むしろノワルリンドやエルドランザがドラゴンっぽい見た目してるのが珍しいのです
というのも「ドラゴン」というのはあくまでもカテゴリ名であってその本質はキノコですからね、別にトカゲってわけじゃないのです(一応広義のドラゴンっぽい部分もある)
作者の語彙力が彼等の姿形を描写しきれないので多分そのうちインベントリアに簡単な体格の描写イラストを上げます。そのうち