PS5「財務的に成功」も販売台数は失速。値上げが隠した現実
PS5の現状を台数ベースの数字で振り返ると、「世界に誇る、日本の2大ゲーミングプラットフォーム」の一翼であるにしても、なかなか厳しい状況というのが分かる。だが、SIE側はその現実を認めたくないようだ。
「PS5は財務的に成功した」── 2025年9月の東京ゲームショウにて「プレイステーションストアがもたらしたもの」というテーマで基調講演したSIEの西野秀明CEOはPSストアの歴史などに触れ、こう語った。
アナリストとして長年、ゲーム業界をウォッチしてきた筆者にとって、この「財務的に成功」という言葉は非常に違和感を抱かせるものだった。それはなぜか。
講演内容を聞くと、この言葉はどうやら売上高や利益が過去最高になったことを指しているようだが、これは過去より増えて当然だ。過去のプレイステーションシリーズの価格を考えるとわかりやすいだろう。
初代PS・PS2は3万9980円(ともに税別)、PS3は4万9980円、PS4は3万9980円で発売し、その後大幅に値下げしている。
これに対してSIEは2024年9月、「昨今の世界的な経済情勢の変動などの厳しい外部環境」を理由に、PS5シリーズの価格改定を実施した。通常版PS5の国内希望小売価格を発売時から比較して約2万5000円値上げするなどの内容だった。
この時を含め、国内外で複数回値上げしているPS5の売り上げが増えるのは当然といえる。PS5の販売数量はPS4よりも少ないといっても300万台程度。2025年11月に日本国内向けに価格を抑えた日本語専用モデル(5万5000円)を発売したものの、途中で499ドルから599ドル、5万4978円から7万9980円と「値上げ」した効果は非常に大きい。
となるとビジネス的にはどうだったのかとなる。前述のように累計台数ではPS4を下回っており、とても成功したとは言えない。
東京ゲームショウでの西野CEOの講演は、プレイステーションストアの話が中心でもあったし、現状のゲームビジネスの利益がアイテム課金などのアドオン収益からきているとのことだった。
利益が出ているから成功、というのはCEOの発言としては理解するのだが、根幹であるゲーム機ビジネスは、今世代においては上手くいかなかったように思える。
半導体・在庫・市場...ソニーを追い詰める「3つの限界」
PS5の状況が厳しいものであると指摘してきたが、そうであればこそ次世代機とされるPS6(仮)では技術的な進歩でよりよい製品を出すべきではないのか、との意見もある。なぜ戦略転換が必要なのか。そこには半導体を巡る市場の構造的な3つの“限界”がある。
1)半導体性能向上の終えん
まず最初の限界が「半導体性能向上の終えん」という点だ。かつて、PSシリーズは世代が変わるたびに圧倒的な性能向上を実現してきた。
PSからPS2に変わったときは「200倍~300倍程度の性能向上」とされていたが、PS4からPS5の演算性能の向上は「6~7倍程度」(ともに筆者推定)にとどまっているようである。
これでは「ムーアの法則」(半導体集積回路の集積率は18カ月で2倍になるという法則)はすでに使えなくなり、微細化の限界に到達しているためで、次世代機は現行のPS5の倍を目指すことすら難しくなっていると言えるだろう。スペック上の伸び代がなくなりつつあるため、筆者は次世代機のスペックも「PS5 Pro」をわずかに超える程度になるとみている。
また、SwitchとSwitch2の成功で、性能と販売には因果性が無いことが明らかになってしまった。もはや高性能を追及することに象徴的な意味はあっても、ビジネス的な意味はない。
2)任天堂が明らかにした「莫大な在庫投資」リスク
PS歴代機の高性能化に伴い、コスト面でも限界が近づいている。Switch2は最初の4か月で1000万台を超える販売を達成している。仮に製造コストを400ドル、為替レート150円として1000万台用意するためには、単純計算で6000億円の在庫投資が必要となる。
任天堂が長期の品切れを起こさず1000万台超えをした事実は、同社が6000億円(筆者試算)を超える非常に高い在庫投資リスクをとったことを意味する。
PS6(仮)はこれを上回る水準にしないとならないわけで、仮に600ドルで1200万台を用意するとなると、1兆円を優に超えてしまう。いくら資金力があるソニーグループとはいえ、売れるか不透明な事業に1兆円の先行投資にはさすがに二の足を踏むのではないか。
これまでSIEは「ドラゴンクエスト」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズなどの一定数の売上が見込めるヒットシリーズ(いわゆる時間と費用をかけた「AAA」コンテンツ)を高性能機に対応して開発してもらうことで他社と差別化を図ってきたが、要となる半導体の高性能化に限界が見えたことで、各社の性能差が小さくなり、従来の戦略を採ることが厳しくなっている。
3)ゲーム市場で「ゲーミングPCと競合する」デメリット
3つ目の限界として、ゲーム市場が広がっていることも考慮する必要がある。ゲーム市場は広がっており、かつてソニーグループ会長の吉田氏が述べていたような、ニッチマーケットではなくなりつつある。老若男女問わず、幅広い層にアプローチする必要がある。
しかも据え置きゲーム機市場では、同じAAAが発売されるようになった結果、ゲーミングPC市場との競合が激しくなっている。ゲーミングPCの高性能を意識しすぎるあまり、据え置きゲーム機は巨大化しているが、それによってゲーミングPCとの性能やサイズの差が小さくなり、コスト面でユーザーに選ばれにくくなっている。
その一方で、いつでもどこでも持ち運べ、携帯ゲーム機としても機能するSwitchシリーズは、パソコンとの差別化に成功している。
PS6(仮)はこうした3つの限界が、単なるハードウェアの性能向上では乗り越えられない壁となっている。だからこそ、戦略の根本的な転換が必要となっている。
「コンソール戦争」再燃で市場拡大へ
特に、スイッチ2という強力な成功者の登場で、比較的戦い易いマイクロソフトだけを考えた経営戦略を採っていたSIEだが、今後は高性能なゲーミングPCとスイッチ2というライバルと戦うことになるだろう。
こう聞くと、ソニーグループのゲーム機ビジネスの将来が危ういと思われるかもしれないが、競合の激化は話題が続出したことでコンソール戦争が盛り上がったPS3、Wii、Xbox360時代同様に、市場の成長を加速させるはずだ。
2030年代には、よりマス(一般)向けの市場に変わると見ているゲーム機市場でSIEがどのようなプレゼンスを発揮するだろうか。